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幼馴染の恋愛模様  作者: こ~すけ
4章 幼馴染と熱い季節
33/69

1.

「暑いー……」


 照りつける太陽の下、奈亜が犬のように舌を出してのびている。


「夏が暑いのは当たり前だ。それにこんな日はピクニックだって言い出したのはお前だろ」


 その様子を見た峻が呆れて言った。すると公園に広げたピクニックシートの上に寝転がっていた奈亜が体を起こして峻を睨んだ。


「うるさいなぁ! 峻は揚げ足ばかり取るよねー。そういうのよくないと思うよ? もっと気をつけた方がいいよ」


「……待て。なんで俺が諭されてるんだ?」


「ホントのことを言っただけだし」


 言葉で言い合い、そして視線をぶつけて睨み合う二人。そんな二人の間に横から笑い声が割って入った。


「お前らは本当に相変わらずだなぁ」


 その声に反応し、二人同時に振り向くとそこには笑顔の海人が立っていた。その手にはジュースの缶が四つ握られている。


「そんなことないって! 私が進化してるのに峻が退化してるからそう見えるのよ!」


「ははは、まぁそう言うなって。ほら、奈亜の分だ」


「ありがとー! 海人さんも相変わらずカッコいいね」


 奈亜は笑顔でリンゴジュースを受け取る。そしてその缶を眺めながら口をとがらせて呟いた。


「あぁー……海人さんみたいな人が彼氏だったらなぁ」


「……お前、節操がなさすぎるぞ」


 峻は海人からコーヒーを受け取りながら奈亜を横目で睨む。コーヒーを手渡していた海人も苦笑いを浮かべていた。


「奈亜ちゃん、この人のこと評価しすぎ」


 その中で一人面白そうに笑っているのが海人の彼女である優希だ。顔にかかる髪を払いながら峻たち三人を見ていた。

 小学校からの付き合いである三人と違って優希だけは高校からの仲だ。だがその遅れはあまり意味はない。海人とは相性抜群の交際をしているし、峻とは同等の友達のような関係、そして奈亜は妹のように懐いている。


「そんなことないですよ。優希さんが羨ましいなぁ」


 頬を膨らませている奈亜に海人が少し照れながら言う。小学校からの付き合いとはいえ、女の子から褒められるのは苦手なようだ。


「そんなことより奈亜、この前の彼氏とはどうなったんだ?」


 話を変えようと海人が聞く。チラリと横目で峻を見ながら。


「別れたよー。……車のことを語られても分からなかった」


「また別れたのか……」


「もー、海人さんガッカリしないでよ!」


「……ガッカリっていうより、あきれてるんだよ、海人さんは」


 苦笑する海人の横から峻が口を挟む。ハァっという溜息つきだ。


「海人さん、もっと言ってやってください」


 峻が海人を見て言う。奈亜は、董子と勝負をしたテストを終えてから二人と付き合い、そしてどちらもすぐに別れていた。相変わらずである。


「まぁ、いいんじゃない? 人との出会いは一期一会って言うし。いつ素敵な人と出会えるか分からないもんね? 奈亜ちゃん」


 優希が笑いかけると、奈亜は目を輝かせながら頷く。


「そのとおり! 優希さんはよく分かってる」


 そんな奈亜を見て、うんざりしたような顔で峻が口を開いた。


「優希さん、こいつを調子に乗せないでください。ただでさえ、これから夏休みで大変だって言うのに……」


「あははは、ごめんごめん」


「そこで謝らないで下さいよー、優希さん」


 再び優希の明るい笑い声が公園に響く。夏休みを目前に控えた七月中旬の空はどこまでも青かった。峻はその空に輝く太陽を眩しそうに見上げる。なにもしなくても頬を伝う汗を拭うと、峻は隣に座る奈亜を見た。

 峻と董子が一緒に買い物に行ったのを尾行して以来、奈亜は髪を黒く染めたままだった。中学の頃から金色にしていた髪をずっと黒くしているのは峻にとって不思議だったが、自主的に目立つことを控えてくれたのかと思えば少し嬉しくもあった。


(すっかり奈亜の季節だな)


 海人と優希にからかわれて顔を赤くして反論する奈亜を見て峻は笑みを漏らす。いつもの幼馴染の顔だ。不意にその顔が峻の方を見た。その視線が峻を捉えると、奈亜は不満そうな表情になる。


「……なに見てんの?」


「見てちゃ悪いかよ」


「別に……そういうわけじゃないけど」


 突然の事で少し気圧されたものの、負けじと奈亜の目を見返す。すると奈亜はスッと目を逸らした。峻はそんな奈亜を見て頭を掻くと口を開いた。


「お前の季節だなって考えてたんだよ」


「え?」


 奈亜が視線を峻の方に戻してきた。


「厄介にもお前の誕生日がもうすぐだからな」


「今年もなにかしてくれるの!?」


「まぁ、なにか考えといてやるよ」


「ホント!? ありがとー! じゃあ、旅行なんていいな。三泊くらいで北海道とか行きたい! あ、でもそれだったら今から予約しないとね。よろしくー!」


「……明らかに予算オーバーだ」


「今から貯めたら?」


「絶対やだ!」


「なんでよー!」


 言い合う二人を傍目から海人と優希が見つめる。二人は顔を見合わせると互いに微笑んだ。


「やっぱりこの二人……」


「……お似合いよねー」


 海人は困ったように肩をすくめると、まだ言い合っている峻に声をかけた。


「おーい、峻」


「なんです?」


「明日もお前たち出かけるって言ってたよな? どこ行くんだ?」


 海人の問いに奈亜が代わりに答えた。


「明日は同級生の浅井君の試合を観戦しに行くの! 野球部なんだぁ」


「へぇ、この時期まで残っているってことは強いだね」


「うん! 明日は準々決勝だからあと三回勝てば甲子園!」


「それじゃあ、頑張って応援しないとな」


「うん! 全力で応援する!」


 そう言って奈亜が気合を入れる。『応援も力になる』というのが奈亜の考え方だった。


「絶対勝つ!」


「お前が宣言してどうする……」


 奈亜の宣言に峻が頭を抱えた。それに海人と優希は苦笑する。

 夏休みを目の前にした峻たちの日々がまた回り始めた。


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