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幼馴染の恋愛模様  作者: こ~すけ
3章 幼馴染とテスト勉強
26/69

3.

 二階に上がった四人は、早速教科書とノートを開いて勉強を開始した。今日の勉強内容は数学だ。

 それぞれが自身のノートに向かって集中し、部屋の中は静寂に包まれていた――わけではなく。


「う―……うーん……」


 初っ端、一問目から奈亜が頭を抱えている。


「ねぇ、峻。ここ分かんない。教えて?」


 奈亜が教科書の問題を指で叩いて隣に座る峻に見せた。因みに峻たちは、大きな一つのテーブルに四人で座っていた。峻の左隣りに奈亜、真正面に董子、そしてその隣に脩一がいる。


「これはこの公式に入れると解ける」


「あ、ホントだ!」


「一番の基本形になるんだから、しっかりと覚えとけ」


 峻が教えると、奈亜は教科書の公式にピンクの蛍光ペンで線を引く。そしてその下に『覚える!』と書いた。


「ありがと! 分かんないところがあったらまた聞くけどいい?」


「いいよ。別に、いつものことだろ」


 峻と奈亜の会話を静観していた董子が、二人の会話が途切れたところで割って入った。


「二人はいつもこうやって勉強してるの?」


「そうだよー」


「俺が教えないと、こいつ確実に赤点取るからな」


 二人の返答に董子は「そうなんだぁ」と呟く。そして顔を上げると言った。


「じゃあ、今度からは二人の勉強会に私も加えてもらってもいいかな?」


「もちろん! 今度からじゃなくて今日からだよ」


 奈亜が笑顔で董子の提案を肯定する。奈亜にとっては嬉しい提案だったはずだ。しかし峻が少し顔を曇らせて言った。


「いいのか? 董子には董子のペースがあるんだし、実際それでいい点取ってるんだから無理に付き合わなくていいんだぞ?」


「無理なんてしてないよ? それに、私より成績のいい人がいるんだからメリットはあると思うけど?」


 董子がいたずらっぽく笑うと、峻は照れたように頬を掻いた。面と向かって頭がいいことを褒められたのは初めてだったからだ。


「ま、まぁ、三人よれば文殊の知恵って言うしな。それが四人ならもっといいかもな。な、脩一」


「え、俺もかよ?」


 峻の呼びかけに脩一が驚く。


「当たり前だろ。お前、歴史とか世界史得意なんだから手伝え。確かそっちは董子より上だったろ?」


「ま、まぁな。でも、他は藤宮さんの方が上だぞ」


 脩一がチラリと董子を見た。しかし自分に向けられている董子の無邪気な視線と目があった瞬間、視線を素早く峻の方に戻す。その顔は少し赤かった。


「だったら二人で教えあえばいいんじゃないか? 二人で弱点科目を補えばいい」


「ちょ! 峻、勝手なこと言うなって!」


 峻の提案を脩一が慌てて打ち消そうとする。


「いい案だと思うけど?」


「バカ野郎! お前は強引すぎんだよ! ……それに、藤宮さんはお前に教えてほしいんじゃないか?」


 脩一がまたチラリと董子を見た。その視線を浴びて董子は面食らったような顔をした後、


「え、えぇ? そ、そんなことないよ? 私はみんなで教えあえばいいと思うし!」


 手を顔の前で振りながら董子が答えた。


「だ、そうだぞ。脩一、俺の案は採用だな」


「な!? お、お前なぁ!」


 ニヤリと笑う峻に脩一はうまく言葉を返せずしどろもどろだ。そんな二人の様子を横から見ていた奈亜が口を挟む。


「なんか男子二人で董子を巡って争ってるみたいだねー」


 その呑気な一言に、残りの三人は三者三様の反応を示した。


「え、な、そんなことないですよ!?」


「わ、私を巡って? ありえないよー」


「……はぁ、どうやったらそんな発想が出てくるんだ?」


 あまり話したことがないからか、敬語の脩一。男子二人に視線を向けた後、恥ずかしそうに否定する董子。そして、ため息をつく峻の図だ。


「……誤解してるようだから言っておくが、別に俺たちの間に昼ドラ的な問題はないからな」


「……なぁんだ」


「つまらなそうな顔するなよ!」


「たくっ……」と続ける峻。そんな峻の耳に二つの含み笑いが届いた。


「ふふふ、やっぱり二人とも面白いね、兄妹みたいだよ」


「本当だよな。仲良いのは知ってたけど、実際に見ると予想以上だ」


 二人の言葉を聞いて、奈亜が嬉しそうな顔をした。そしてチラリと峻の方に視線を向けた後に、対面の二人に言った。


「でしょー? 私たち、なんて言っても幼馴染だしね。ね、峻?」


 大きな瞳で下から覗きこんでくる奈亜の視線を受けて峻は頭を掻いた。


「ま、付き合いだけは長いからな」


 そして口元に苦笑いを浮かべた後、


「ほら、そろそろ勉強しようぜ。まだ全然進んでないんだし」


 雑談が続きそうな雰囲気を落ち着かせた。その言葉に他の三人も頷くと、またそれぞれの教科書とノートに向かい合う。


「ん? ここは……」


 しかしすぐに脩一の手が止まった。答えに詰まったようだ。その様子を見た董子が脩一の教科書を覗き込む。


「どうしたの?」


「え、あ、あぁ、この問題が……」


 脩一が戸惑いながら教科書の問題を指でつつく。


「あ、この問題なら私分かるよ」


「ホント? 教えてくれないか?」


「いいよー。その代わり、歴史とかで分からないことがあったら教えてね?」


「え……?」


「ほら、さっき言ったでしょ? みんなで勉強すればいいって」


 董子の微笑みは相変わらず優しい。しかし男に対しては胸を射抜く強烈な一撃になる。脩一は今日、改めて射抜かれたようだ。茫然とした顔まま、「あぁ……」と小さく返すのがやっとだった。


「ねぇ、峻。ここ分かんない!」


 そんな微笑ましい二人の様子を眺めていた峻に奈亜が再び質問する。峻は奈亜の教科書に目を落とす。


「ここは、さっき言った公式を少しいじって当てはめるんだよ」


「ふーん……そういうことか。――くすっ」


「なにか可笑しいか?」


 忍び笑いを漏らした奈亜に峻が聞く。


「こうやって、みんなで勉強するのは楽しいなって。教えあうっていいなって思ったの」


 奈亜が董子と脩一の方を見ながら言った。峻もそれにつられて二人を見た後、


「確かにな。……ただし、そのセリフはお前が誰かに教えられるようになってから言え」


「あー、ひどい!」


「本当のことを言っただけだ」 


 頬を膨らます奈亜を半ば無視しながら、峻は自身の勉強に取りかかった。ノートに数式を書きながら、これからのしばらく続くはずのこの時間のことを考えた。そして、


(続けばいいな、この時間がずっと)


 峻は心の中でそう願うと、解いていた問題の答えを書いて、横で次の問題に頭を悩ませている奈亜のノートに視線を移した。


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