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幼馴染の恋愛模様  作者: こ~すけ
3章 幼馴染とテスト勉強
25/69

2.

(重い……)


 両手にしっかりと食い込むポリエチレン製の袋を峻は握り直す。袋一杯に押し込められた二リットルペットボトルがその存在を主張しているようだった。


「大丈夫? 桐生君。私も持とうか?」


 数歩前を歩く董子が心配そうな顔をしている。


「いや、大丈夫だ。これ重いし、持たせるわけにはいかないよ。それに勝負に負けた俺のせいだし」


「そうそう、負けた峻が悪いんだから董子は気にしなくていいよ」


 峻と董子の会話に割り込んで、奈亜がニヤリと笑う。峻の意見に同調して言っているように聞こえるが、峻はまったく嬉しくなかった。


(お前が言うな!)


 峻が内心で毒づく。それには理由があった。

 峻の状態を見ても分かる通り、峻は脩一との勝負に負けた。一般的に考えると、毎日部活で汗を流している脩一が勝つのは当然だろうと思うかもしれないが、実はそうではない。走力勝負において峻と脩一の実力は拮抗していた。今回も実にいい勝負だったといえるし、本当ならば峻が勝っていたかもしれない。結果的にその勝敗を分けたのは外的要因、簡単にいうと奈亜の乱入だった。


(……まぁ、わざとやってないだけマシか)


 最後の最後で敗れてしまった悔しさを思い出して、峻はため息をついた。気持ちが沈んだ分、両手の荷物が重くなった気がした。荷物の重さの分、確実に軽くなった財布の中身に峻はもう一度ため息をついた。

 それから数分、一行は峻の家に到着していた。


「ここが桐生君の家なんだ。すごいね」


 董子が峻の家を見上げて感動したように呟いた。オーソドックスな二階建て一軒家のなにがすごいのか峻には分からなかったが、とりあえず「ありがとう」と返しておいた。

 因みに峻の家に来るのが初めてなのは董子一人だ。脩一は何度か峻にどうしても間に合いそうにない課題を見せてもらったりするために訪れたことがあった。しかし家の中に入るのは脩一も今日がお初だ。


「さ、入って入って!」


 奈亜が先頭に立って董子と脩一を家に招く。峻は最後尾についた。初めての二人がなにかと気を遣わないようにするためだった。


「お邪魔します」


 二人は順にそう言うと、靴を脱ぐ。それに続いて峻も靴を脱ぎにかかった。その前にずっと持ち続けていた荷物を玄関にドサッと下ろした。荷重から解放された手のひらを労わるように数回グーパー運動を繰り返す。

その時、リビングにつながるドアから母の恵美が顔を覗かせた。奈亜の声が聞こえたからだろう。峻と奈亜以外に、董子と脩一がいることを認知した恵美が顔をほころばせた。


「いらっしゃい! 峻となっちゃんのお友達かしら?」


「あ、初めまして、浅田脩一といいます。二人の友人です」


 恵美の言葉に素早く反応した脩一が礼儀正しく自己紹介をした。こういったところはさすがに野球部で鍛えられているだけある。一方、反応が遅れた董子の方も姿勢を正して

慌てて自己紹介をした。


「あ、あの! わ、私は藤宮董子といいます。き、桐生君にはいつもお世話になってます」


 少々詰まりながら言い切った後に勢いよく頭を下げる董子。その姿を見て、恵美は微笑む。


「こちらこそ、いつも峻となっちゃんがお世話になっています。狭い家だけど、ゆっくりしていってね」


「は、はい! ありがとうございます!」


 それに董子が代表して答えた。そして、峻の方を振り返ると小声で「素敵なお母さんだね」と笑う。峻から言わせると、今の恵美は対お客用の笑顔を振りまいているだけにしか見えないが、肉親が悪い印象を持たれるよりマシかと納得することにした。


「みんな、勉強部屋は二階だよー!」


 先に二階に上がっていた奈亜が階段の踊り場まで降りてきて、董子と脩一に先を促す。


「二階に親父の書斎があるんだ。そこなら広いし、みんな入れる」


 俺が二人に説明すると、董子が少し不安そうに言った。


「桐生君のお父さんの部屋なんでしょ? なんか悪いよ」


「ははは、気を遣わなくていいって。建てる時に親父が気合を入れて作ったのはいいけど、結局ほとんど使わないから、今じゃ我が家の不良債権なんて言われてる部屋だから。あ、でも掃除はしといたから大丈夫だぞ」


「そ、そうなんだ。よかった。」


 董子が安心したように胸をなでおろした。


「二人とも、奈亜について上がっててくれ。俺も荷物を置いたらすぐに上がるからさ」


 峻は両手の袋を胸の高さまで掲げる。二人は頷いた後、奈亜に続いて二階に上がっていった。


「ちょっとちょっと!」


 二人が二階に消えたのを確認した後で、恵美が峻を手招きで呼び寄せた。


「なに?」


 峻が尋ねると、さっきの微笑みはどこへやら、ニヤニヤした笑みを浮かべて詮索するように恵美が言った。


「あの二人、あんたたち二人の彼氏と彼女? まー、二人とも男前だし可愛いし! あの脩一君って子はなっちゃんにぴったりね。それに比べて董子ちゃんはあんたには勿体ない子だわ! あんな子話しちゃ駄目よ!」


「……早とちりしすぎ。どっちも違うよ」


 峻は恵美のたくましい妄想をばっさりと切り捨てた。


「え、違うの? ……はぁ、やっぱりあんたは駄目ねぇ。少しは頑張りなさいな」


「いきなり息子を駄目扱いすんよ。母さんが勘違いしただけだろ」


「まぁ、いいわ。とにかくお客さんを待たせないように。早く二階にいきなさい。ジュースのコップとかは用意して持ってあがるから」


 引き止めたのはそっちだろっと言いたいところだったが、恵美が言うようにせっかく来た二人を待たせるのもよくないと思い、峻は荷物を置いて二階へと向かう。その背中に恵美の声が追いかけてきた。


「峻、アタックチャンスよ!」


「なにがだよ!」


 扉から上半身だけ出してガッツポーズをする恵美を見て、峻は堪えきれずにツッコんだ。


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