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幼馴染の恋愛模様  作者: こ~すけ
2章 幼馴染と親友
20/69

4.

「よし! これで完璧!」

 奈亜は自分の家の鏡の前でポーズを作った。染め直した黒髪を後ろで結んでポニーテールに、いつもしているピアスは外して、さらに眼鏡をつけた。眼鏡は昔、ネットで買った伊達眼鏡だ。注文に失敗して少々大きいのが難点だった。

 奈亜は壁の時計に目をやった。時刻は午前八時三十分だ。峻が出発するであろう時間にはもう少し猶予がある。

 奈亜は窓際に移動すると、峻の部屋の窓を見上げた。カーテンは閉まったままだ。

「峻、ちゃんと起きれているのかな」

 奈亜は呟いた後に、首を軽く振る。

「……ふん! なんで私がわざわざ心配なんて……」

 今日はいつもと事情が違うというのに、いつも通り峻の寝坊の心配をしてしまう自分に奈亜は悪態をついた。

「……とにかく、今日は徹底的にマークしてやるんだから!」

 一流のスポーツ選手のような物言いをして、奈亜はフンッと胸を張る。

 奈亜の作戦は実に単純なものだった。率直に言えば『尾行』だ。正直、尾行したからといってなにかが変わるわけでも、二人の会話をまともに聞くことができるわけでもない。しかし、『峻を怒らせない』ということを前提条件に考えた結果、今の奈亜にできる最大限の作戦がそれだったのだ。

 奈亜はそれからもう一度自分の装いを念入りにチェックした後、家を出た。峻はまだ出てきていないはずだ。

(峻、見てなさいよ!)

 峻の部屋を見上げて、奈亜はべーっと舌を出す。本当は見られていたらアウトなのだが、奈亜は気にしていない。

 そして奈亜は歩き出す。まずは駅に向かうことが第一だ。

(峻は私が尾行しそうとか思ってそうだからなー)

 奈亜は峻の思考を先読みする。尾行しそうなイメージがあることに自分自身で釈然としないものを感じたが、念には念を入れることにした。それが駅への先回りだった。

 これが結局、功を奏すことになった。

 あとからやってきた峻は、後方には気を配っているようだったが、すでに駅構内にいた奈亜にはまったく気づかなかったようだった。 

 そして峻と同じ電車に乗り、同じ駅で降りた。この時の尾行方法は、以前峻の部屋で少しだけ読んだ探偵ものの小説で出てきたテクニックを使ってみた。それが案外うまくいき、峻にバレることなく行動できた。

 それからの自分の行動は、完璧だったと奈亜は思っていた。

 確かに、峻が待ち時間を変更していたことに憤慨して、憂さ晴らしに小物店を覗きに行ったのはいいが、そこの品物を派手にひっくり返した時は肝を冷やしたこと。本屋で顔を隠すためにテキトーに選んだ雑誌を開いていたのはいいが、よく見るとプロレス雑誌で周りの人たちから逆に注目を浴びたことなどはあった。だが、そのどれも決定打には至っていないと思っていた。

 あれだけいつも一緒にいる峻ですらまったく気づいた様子はなかったのだ。ましてや数回挨拶を交わして程度の付き合いしかない董子に気づかれるはずがない。そう高を括っていた。しかしその思惑は見事に外れてしまった。



「こんにちは。少しお話しませんか? 愛沢奈亜さん」

 少し目を離した隙に、奈亜の目の前に藤宮董子はやってきた。女の奈亜から見ても可愛いと思ってしまう微笑みを浮かべて、しかしその目の奥に強い光を宿して。

 奈亜は思わず周囲を見渡す。とっさに峻の姿を探してしまう。だが、峻の姿はどこにもない。いや、たとえあったとしてもこの状況、峻が奈亜の味方をしてくれるとは限らない。奈亜は心の端でそう思ってしまう。

 奈亜にとってこんな状況に陥ったのは初めてだった。今までなら必ず峻は奈亜の味方だった。峻が味方としていてくれるだけで、奈亜は強くあれた。しかし今回はそうはいかない。峻が味方だという確信が奈亜にはなかった。

(そんなこと……そんなこと……)「ありえない……」

 途中まで心の中で思っていた言葉が口からこぼれ出た。自分に言い聞かせるつもりで唱えた言葉だったが、そのあまりの弱々しさに逆に不安が増してしまう。

「愛沢さん、大丈夫ですか?」

 その声を聞いて、奈亜はハッと顔を上げた。そこには心配そうな顔をする董子がいる。

「顔色、悪いですよ?」

「だ、大丈夫。心配いらないから」

 一言喋ってみると、不思議と気持ちが楽になった。奈亜は一度深呼吸をすると今まで無意識に逸らしていた視線を自分の意志で董子へと向けた。

「私は大丈夫。それで? 話ってなに?」

 強い気持ちを込めて董子に問いかけた。話の内容がどんなものだったとしても、負けるわけにはいかないと奈亜は心に決めた。

 二人の視線が空中で交錯する。無言でしばらく見つめ合った。

 やがて、董子が軽く息を吐いて口を開いた。その動作を見て奈亜が身構える。しかし、董子の口から出てきた言葉は、奈亜の予想を遥かに超えるものだった。

「あ、あの、愛沢さん! もしよければ、私とお友達になりませんか!?」

「……へ?」

 一瞬、その言葉の意味が理解できずに奈亜は固まってしまう。その間にフル回転で動く頭がその意味を導き出して体全体へと伝達していく。それが奈亜の全身に伝わった瞬間、奈亜は思わず声を上げてしまった。

「と、と、友達!?」

 その声は屋上に響き、周囲の注目を一身に浴びたが、そんなこと今の奈亜にはどうでもよかった。

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