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「幼馴染の恋愛模様」を開いていただきありがとうございます!
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では、「幼馴染の恋愛模様」をお楽しみください<(_ _)>
「好きだ。俺と付き合ってくれ!」
夕日が辺りを照らす学校の教室で、桐生峻は自らの思いを言葉に乗せて目の前の相手に伝えた。
この言葉を伝えるのに覚悟はあった。が、断られるとは微塵も思っていなかった。その心配は、この目の前の相手に限っては無駄なことだからだ。そしてもう一言、駄目押しだと言わんばかりに言葉を発した。
「お前とは十五年も一緒だったんだ。お前のこと全部分かっているつもりだ。だから、俺と付き合ってくれ」
十五年という歳月を共に過ごしたという自信が峻にはあった。他の奴らとは比べ物にならないほどの時間の積み重ねだ。その積み重ねさえあれば、これまで敗れ去った数多くの男たちの二の舞にはならないと確信していた。
「返事をしてくれないか?」
峻の問いかけに夕日に輝く金色の髪が揺れる。腰まであるその髪は、一本一本が絡まることなく清流の如く緩やかに流れていて、まるで黄金の川のようだ。
「返事? 返事は最初から決まっているわ」
峻に背を向けたまま、目の前の人物は静かに答えた。
「そうか、じゃあ――」
付き合おう。峻がそう言うとした瞬間だった。
「無理!」
「はっ?」
その時もし目の前に鏡があったなら、生涯で一番マヌケな顔をしていただろう。それほど、その人物が言っていることが理解できなかったからだ。
「だから無理! あたし、峻とは付き合えない。ごめんね!」
そう言うと共に、その人物は峻の方に振り返った。その顔にはイタズラっぽい笑顔が浮かんでいた。
この瞬間、峻は目の前のこの人物、愛沢奈亜が初めてフッた男として、彼女の歴史に不名誉すぎる名を刻んだ。
ピリリッ、ピリリッというアラーム音が聞こえ、峻はベッドから勢いよく体を起こす。アラーム音の発信元である携帯電話を手に取り、音を止める。ついでに時刻を見ると、液晶画面は午前七時を告げていた。いつもなら、このアラーム音で体を起こすことはない。忌々しく思いながら手だけで止めて二度寝をするのが峻の日課だ。実際の起床時間は約二十分後になる。
しかし、今日だけはこのアラーム音に峻は感謝した。彼の歴史の中でも最悪といえる悪夢から目を覚ましてくれたのだから。
(たく……なんで今さら……)
峻は頭を掻いた。あの時から約一年が経過したというのに、いまだ鮮明に映像として残っている。いっそ頭でも打って消えてくれないだろうかと思った。
今さら二度寝に挑戦する気にもなれずに、峻は手早く着替えを済ませた。まだ顔を洗ったり、朝飯を食べたりするため制服はカッターシャツまでしか着ない。紺色のブレザーは手に持ったまま、学校指定の鞄を肩に引っかけて階段を下りた。
洗面所に行く前に峻はリビングへと向かう。邪魔になる荷物を置くためだ。リビングに入ると、朝食をテーブルに運んでいた母親の恵美が驚いたように言ってきた。
「あら、早いじゃない。今日はなっちゃんに起こされずにすんだわね」
「……おはよ」
恵美の言葉をスルーして荷物を置くと、洗面所に向かった。
冷たい水で顔を洗っていると、玄関のドアが開く音が聞こえた。次いでよく通る澄んだ声が聞こえてきた。
「おはようございまーす!」
こんな朝早く、呼び鈴も押さずに玄関のドアを開けて入ってくる人物。そんな条件に該当するのは唯一人しかいない。いつもならまだ夢の中にいるはずの峻だったが、今日は苦虫を噛み潰したような顔で洗面所の鏡を見た。
いつまでも洗面所に突っ立っていてもしかたないので、覚悟を決めてリビングに向かう。開きっぱなしのリビングへのドアをくぐった瞬間だった。
「あー! ホントに起きてる!」
四人掛けテーブルの一角に座り、恵美より驚いた声を上げている女子の名前は愛沢奈亜。峻の幼馴染だ。モデル顔負けの容姿と綺麗に手入れをされたその金髪は、峻の夢に出てきた時と変わらない。変わったのは制服が高校の制服になったことと、まだ当時は開けていなかったピアスくらいか。
「うっさい。俺だってたまには早起きぐらいする」
「へぇー、そのセリフどの口が言うんだか」
奈亜の隣へ腰掛けながらぶっきらぼうに峻が言う。しかしそれに対して奈亜はいたずらっぽくニヤリと笑って言葉を返す。
「何度アラームが鳴っても起きてこないで、結局私に毎日起こされてるのはどこの誰?」
「……うっせ」
いくらかトーンを下げて峻が言う。どうやら図星だったようだ。
「うわぁ! ハムエッグ! おばさんのハムエッグよりおいしいの食べたことないよ!」
大きな瞳を輝かせて奈亜が言う。すでに頭が朝食のメニューに切り替わっていた。この切り替えの速さは奈亜のいいところでもあり、とっても悪いところでもあった。
「あら! なっちゃんは相変わらず嬉しいこと言ってくれるわね。でもなにも出ないわよ」
「そうだぞ。すぐ調子に乗ることくらい分かってるだろ」
「あんたは相変わらず憎まれ口しか出てこないわね」
笑顔から一転、睨みつけてくる恵美の視線に気づかないふりをしながら峻はハムエッグを口に運ぶ。そんな峻の態度を見て、恵美はため息をつきながら言った。
「もぉ、そんなんだからあんたは彼女のひとつもできないのよ! ねぇ、なっちゃんからも言ってくれない?」
恵美から話を振られた奈亜は一瞬ポカンとした顔をした後、慌てて答える。
「む、無理無理、峻に彼女なんてできるわけがないって! だって私がいないと朝も起きられないんだから!」
完全否定の奈亜に恵美は「そうよねぇ……」などと言いながら悩ましげな表情を浮かべていた。
(……寝起きが悪いのは関係ないだろ)
峻は二人の認識に釈然としないものを感じながら、残ったハムエッグを口に放り込んだ。