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幼馴染の恋愛模様  作者: こ~すけ
1章 幼馴染と日常
11/69

10.

 映画内容はよくあるものだった。

 主人公は売れないミュージシャンの男。九年前にスターになることを夢見て上京してきたものの、現実はそう甘くなく今では音楽活動よりバイトの方に時間を割いてしまっているような生活を送っていた。そんな彼がふとしたことがきっかけで高校の時三年間付き合っていた彼女と再会する。彼女とは高校卒業と同時に彼が上京する際、成功するまで連絡しないと約束して別れ、結局そのままになってしまっていたのだ。

 その彼女は今ではキャリアウーマンとして一流企業に勤めていて、主人公の男は話しかけるが取り付く島もなく拒絶されてしまう。

「昔のあなたには光があった。今のあなたには何もない」

 その彼女の厳しい一言で、彼は目を覚ます。そして言う。

「俺にあと一年チャンスをくれないか? 一年間必死で頑張る。きっと成功してみせる。そしてもし俺を認めてくれたらあの約束の場所に来てほしい」

 約束の場所とは二人が高校を卒業する前に二人でタイムカプセルを埋めた場所のことだ。十年経った時に二人で開けよう。そう約束して――。

 それから彼は一年間必死で頑張る。二人で過ごした三年間の思い出を糧にバイトをしながら音楽活動を精力的に行う。

 そして成功とはいかないまでも、なにもなかった道に僅かばかりの光が見えた時、十年後のその日を迎える。

 彼は十年経った約束の場所で彼女を待つ。

 そんな内容の話だった。

「ねぇ、峻」

 映画の回想に浸っていた峻に奈亜が話しかけてきた。

「なんだ?」

 峻が聞くと、奈亜は手元にあるアイスレモンティーをストローでかき混ぜながら言った。

「……二人は会えたのかな?」

「さぁな、俺にも分からない」

 峻がお手上げだよとばかりに答えた。この映画、もちろん原作の小説でも二人がどうなったかは明記されていない。映像としてもメインは二人の現在ではなくて、大部分が幸せだった高校時代の描写なのだ。主人公は頑張ったけども、結局宣言したような成功はできなかった。しかし微かだが希望が芽生えるところまでいった。あとは彼女の方の思いだけなのだが、それは描写されずに終了していた。

 だからこそ奈亜は聞いてきたのだ。二人は会えたのかと。

 因みに、二人はすでに映画館を出てレストランエリアの喫茶店に入っていた。峻が勤めている風な小ぢんまりとした店ではなく、どちらかというとファミリーレストランのような店だった。その証拠に料理等も豊富だった。

 昼時ということもあって客は多く、店員さんは忙しそうにメニューを取り回っていた。こういう光景を見ると、峻は少し申し訳なく思う。同じ喫茶店で働いていて、片や猫の手も借りたいほどの忙しさ、片や閑古鳥の鳴き声を聞きながらコーヒーを飲む呑気さである。そう思うのも無理なかった。

「ホントどうなったんだろうなぁ……あの二人」

 奈亜が呟く。またあのラストに思いを馳せているようだ。奈亜は映画が終わってからずっとこんな風だった。別に特に泣くことなく、かといってつまらなかったということもなく、ただボーっとラストについて考えているようだ。

「ねぇ、やっぱり会えたよね? あの二人」

 また奈亜が聞いてきた。これで四度目か五度目だ。

「分からないって言ってるだろ」

 峻も同じような答えを返す。明言を避けているのは意図的だった。別に深い意味はない。だが峻の直感が軽い答えを返すなと告げていた。

「お前はどう思うんだよ」

 逆に峻が聞く。少し卑怯だなと思いながら。

「私は……会えていてほしいな」

 奈亜が微笑みながら言った。その笑みを見て、峻も同じように優しく微笑んだ。

「じゃあ、会えてるさ。お前の予想、結構当たるし」

「そっかー……そうだよね!」

 まるで自分に言い聞かせるように奈亜は言う。何故、ここまで奈亜があの映画のラストに執着するのか分からないが、峻は笑顔が戻った奈亜を見て気づかれないようにホッと息を吐いた。

「結論出たか?」

 改めて峻が聞くと、奈亜は大きく頷きながら答えた。

「うん! 出たよ」

「そうか、よかったな」

 峻がそう言うと、奈亜はもう一度頷いた。そして、テーブルに備え付けてあるメニューに手を伸ばす。

「はー、なんかすっきりしたらお腹空いてきちゃった。お昼まだだしなんか食べてこーよ」

 そんな提案をしつつ、すでに目はメニューに釘付けだ。峻が反対してもたぶんテコでも動きそうにない。

(ホントに切り替えの早いやつだな)

 峻は内心で苦笑した。そしてなんにせよ、結論が出てよかったと思った。

「なんにするんだ?」

 そしてメニューを睨んで難しい顔をする奈亜に問いかける。

「うーん……この後の買い物のことを考えると選ぶのが難しいよー」

「たく、好きなもの食えよ。ここは奢ってやるから」

 今に財布を取り出して金勘定をしそうな奈亜に、峻が半分呆れながら言うと、奈亜はメニューからバッと顔を上げて峻を見た。その目は輝いている。

「いいの!?」

「今日は特別な」

 峻が笑いかけると、奈亜はとても幸せそうな顔になった。

「ありがとー! やっぱり峻は最高の幼馴染だよー!」

「いや、お前の幼馴染って俺しかいないだろ……」

 奈亜の発言に峻はガクッと肩を落とした。だが、いつも通りの奈亜だ。

「すいませーん!」

 奈亜が大きな声で店員を呼ぶ。手元のコールスイッチに気づいていないようだ。

「っておい! 俺まだ決めてないぞ」

「え? 峻、なにやってんのよ」

「お前がメニュー独占してただろうが!」

 呆れ顔の奈亜に峻は思わずツッコんだ。奥の方から店員がこっちに来るのが見える。

「早くしないと店員さん来ちゃうよ?」

「……うっさい」

 慌ててメニューをめくる峻を見ながら面白そうに奈亜が言う。

 テーブルの空になったレモンアイスティーのグラスの中で、氷がカランと音を立てた。

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