表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

飛ばされた異世界はアホばかり―1/2

アリアンローズ応募用に執筆しました。


ツッコミ役は常に彼女1人です。頑張って応援しましょう。

 私の目前には2人の青年が戦っていた。

 2人が手に持つものは、現代で人に向ければ即補導されるような鋭い剣。そしてそれは明らかに相手を殺すための道具だった。

 片や光り輝き全ての魔を払うような美しき滑らかで、何であろうとも綺麗に斬れても不思議ではない聖剣。

 片や血の色が溶け出したかのような禍々し色に、至る所ギザギザな刃になっており、一度でも当たれば多大な損傷を招く事になる魔剣。

 そう、2人は勇者と魔王だった。

 しかし私はとても憤りを感じていた。このどうしようもない程の"バカ達"に!!


「あんたら、そこに並べーー!!!!」


 異世界だと言うのに、勇者と魔王の壮絶な戦い中だと言うのに、私の怒声が響き渡った。

 そしてこれから1人の女子高生だった私が結果的にこの世界は救うことになったのだ。



  * * *



 ――まだ、私が現代に居た頃。

 髪はカラスのように黒くて短くて、女らしさもあまり感じない髪型。身長やスタイルのどこをとってもまるで平凡。そんな私【河浦 美里(かわうら みさと)】の毎日は勉強勉強、また勉強とずっと繰り返す日々……。彼氏も居ない色褪せた青春時代。「(本当にこんな日々が意味あるのかなぁ)」とついつい考えてしまう高校2年目。

『将来のため』とは言っても、まだ将来なんて考えられない。勉強も自分でやりたいんじゃなくて、周りに流されてやっているようなものだった。

 今日は夏休みだと言うのにも関わらず、制服を着て昼から学校まで歩いている。

 そう残念ながら私は補習だ。

 このとても蒸し暑い中に自業自得とは言え、どうして昼間から勉強しないといけないのだろうか。

 私は熱と勉強に苛まれて沸々と怒りが湧いてきた。


「何で勉強なんてしないといけないわけ!!」


 ついむしゃくしゃして空に向かって私は叫んだ。

 それは私にとってただの愚痴であった。だけれども、その言葉は居ないと思っていた神様が本当は存在していて、そしてきっとその神様にその言葉が届いてしまったのだろう。

―パアアアアッ!!

 私が空高く叫んだ途端、私自身が光だした。

 今はまだ昼下がりで、辺りも明るいと言うのに、それ以上の光が私を包み込んでいく。


「えっ!? な、何!? 本当になんなのよっ!」


 急の出来事だったので、私は軽いパニックを起こしてしまった。もしかして神様が怒ったのかもしれない。

 必死で心の中でごめんなさいごめんなさい。と何度も祈った。

 でも、光は収まらず、次の瞬間――。


「あれ……? な、何!? ここはどこ!?」


 私は、何故か戦場に居た。



  * * *



「うおおおおっっ、くたばれぇぇ!!」


 私の目の前では、戦っている人たちが居た。

 その中でも一際目立つのは、白い剣士と黒い剣士。

 白い剣士は白と銀色の鎧に包まれた、正にナイト。太陽の光を金色で反射さる短い髪で、とても顔は整った顔立ち。この青年が男らしく優しく微笑んだら、あまり免疫のない私どころか恋愛百戦錬磨の女でも虜になってしまうんじゃないだろうか。

 そしてナイトが立派な剣を手に持ちながら相手に向かって走り抜ける。


「ふんっ、まだまだだな! "勇者"よ!!」


―ガキィィンッ!

 対して、"勇者"と呼ばれたナイトの剣を受け止めた黒い剣士は、禍々しい雰囲気のある上から下まで漆黒の衣装を身に纏い、頭から角が生えた悪魔だった。私と同じ髪色なはずなのに、この青年の髪は全てを吸い込む闇が溶け込んだような色に見え、背中まで伸びた髪。頭からはカールした羊のような、そしてとても頑丈そうな角が生えており、勇者と呼ばれた青年と同じぐらいに整った顔立ちだった。悪魔のような青年が、悪戯っぽく怪しく微笑んだだけで、私の心臓はそれだけで高鳴った。

 そして悪魔は血を溶かしたような、グロくておぞましい色を放つ剣を振り上げた。

 そうこの2人は、俗に言う勇者と魔王だった。

 突然の出来事で呆然と私は口を開けながら見守る。

 周辺ではこの青年達だけではなく、他にもたくさん戦っている者が居た。

 とても人間とは思えない巨大で緑色の皮膚をした化け物に立ち向かっていくのは、白馬に乗って白い鎧を着た騎士。羽の生えた口から牙が飛び出てる紫色の小さな悪魔には、上半身だけ鎧を包んだ軽装の弓騎士が弓を射る。

 いきなり突然にそんな戦場が目の前に現れた私は動ける訳も無く、その光景を呆然と見守っていたところ――。


『ダークボムブレス!!』


 魔王が手を掲げ何かの名称を言うと、魔王の手からはブラックホールのような黒くて、何かがとても圧縮されたような玉が出来上がった。

―ヒュッ、ズガガガガーーンッッ!!

 魔王がその玉を投げると、投げた先で連続で黒い爆発が起こり、それが勇者に直撃した。

 その規模は大きく周囲をも巻き込んだ。

 当然私の所にも。


「えっ!? きゃあああああーーー!!」


 黒い爆発が私の目の前まで来て、私は必死に目を瞑った。

―スッ。

 私の体が何か抱きしめられるように感じた。

 まだ黒い霧に覆われていて周囲が確認できない。


「(わ、私助かった……?)」


 辺りの爆発が収まっても、私は無事で居た。そしてだんだんと霧が晴れていく。

 霧が収まり、辺りを見回して把握できるようになった。そして私を抱きかかえていたのは、先ほどの2人の勇者と魔王だった。


「魔王、貴様ぁっ! 女子(おなご)を巻き込むとはどう言う事だ!?」

「違う誤解だ!! 先ほどまで居なかっただろう!」


 私を抱きかかえながらも、2人の青年は喧嘩し始めた。2人の手には力が篭り、とても痛いんですけど……。

 2人のことを下から見上げると、まるで私を奪い合ってるかのようにも感じたが、実際はただ喧嘩しているだけだ。


「あ、あの……?」

「奇妙な服のお嬢さん、無事だったか? 後は僕に任せて!」

「大丈夫か面妖な服のご婦人? 後は私に任せるといい」

「き、奇妙? ……面妖っ!?」

「魔王なんかに任せられるか!!」

「貴様にこそ任せられるものか!!」


 私のことなんてお構いなしに「お前にこそ!」「貴様にこそ!」とギャーギャーとまた喧嘩し始めた勇者と魔王。

 最初はその姿に呆気に取られていたが、だんだんとムカムカとしてきた。

 それもそのはずだ。先ほどから「お前にこそ!」「貴様にこそ!」が何度もループしている。多分もう20回ぐらいはループした。


「いい加減にしろーー!!!」


 言い争っていた2人はビクッと体を震わせて、そして黙った。2人は黙った後にジーッと私を見つめてくる。

 2人とも顔がとても整っているのであんまり見つめられると恥ずかしくなった。

 でも、私が仲裁に入らないといつまでもループしそうなので、嫌々ながらも勇気を出して口を開いた。


「あの、お2人は勇者と魔王なんですか?」

「そうだとも!」「そのとおりだ!」


 私の返事に同時に答える勇者と魔王。とても強くてカッコ良くて、地位もあるんだろうけれど、頭の中が同レベルのふにゃふにゃコンニャクに見えてきたのは気のせいだろうか。


「え、えーと。お2人は何で戦ってるんですか?」

「「こいつが居るからだ!」」


―ビシッと、勇者と魔王がお互いを指差しながら同時に答えた。その姿は仲が良いのか悪いのか、もはや分からない。

 一般的なファンタジーの世界では、勇者と魔王は水と油と相場が決まっているけれど、この2人は似過ぎてて返って精神的な双子にしか見えない。

 例えるなら2つの巨大な磁石をS極同士で合わせたみたいに、全く同じだからこそ反発し合ってるみたいなそんな感じがする。

 勇者は魔王が居るから戦う。魔王は勇者が居るから戦う。それは十分に分かったが、しかしだからと言ってどうして戦う理由があるのだろうか。


「それで、どうして戦って……?」

「「こいつが居るからだ!」」

「は? えーっと、そうじゃなくて理由とか?」

「「こいつが居るからだ!」」

「だ、だからーー!」

「「こいつが居るからだ!」」


 また勇者と魔王がループをし始めた。

 動機となった理由を聞いているのだが、何度も何を聞いても「「こいつが居るからだ!」」と、しか答えてくれない。

 その間も私の抱きしめる力がどんどんと強くなるのでとても痛いが、それ以上に私は頭に来た。


「あんたら、そこに並べーー!!!!」


 そして冒頭に戻った。



  * * *



『はい、静かにして! そこ戦ってないで早くここに並びなさい!!』


 私は勇者が持っていた拡声器を奪うと、戦っている人達を止めて、中央に集まらせた。

 かなりの人数に私は圧倒されてしまうけれど、こんな無駄な戦い一刻も止める必要があった。

 どこの誰かも分からない半分子供の私相手に、何故か全員が従いながら綺麗に列を成して並んでいた。

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、拡声器を持って本題に入る事にした。


『なんで、戦争をしているか教えてもらえる?』

「「「魔王が居るからだ!!」」」「「「勇者が居るからだ!!」」」


 私が全員に向かってそう声を掛けると、ある意味予想していた言葉が返ってきた。

 そしてその後は何度も何度も「あいつが居るからだ!」「こいつが居るからだ!」とループが続いた。

 あまりのバカさ加減に拡声器を握っていた手がプルプルと震えた。


『静かにしろーーー!!! あんたらそこに座れ!! 違う、正座だ正座!!!』


 生まれて初めてかと思うぐらい大きな声でしゃべった。

 その音量でキーンと私の耳が痛くなった。それぐらいの大声だった。

 私の言葉を聴いた勇者軍と魔王軍は素直に従い、黙って正座をし始めた。1人の女子高生の前に、人間や魔物を含む大人達が正座なんて、とても圧巻な光景だろう。


『はい、勇者くん。お名前は?』

「ヴォルクヘイム・ウォームヘイトです!!」


 どこかの小学生低学年を思い出すかのように、元気よく手を挙げて名前を言う勇者ヴォルクヘイム――ヴォルくん。そして、何故か自慢げな顔をしている。

 ヴォルクヘイムは名乗った後、私を見続けていて何かを期待しているようだった。


『ヴォルくん、どうかしたの?』

「女王様! 自己紹介していいですか!?」

『じょ、女王様……?』

「僕はヴォルクヘイムです。そして僕は――」


 女王様と言う言葉にうろたえてると、私の返事も待たずにヴォルクヘイムは勝手に自己紹介しはじめた。

 そもそも自分に従って付いてきた者と、明らかに敵対している者に今更自己紹介をしてどうすると言うのだろう……。

 ヴォルクヘイムの自己紹介は本当にどうでも良い内容だった。

「カレーが大好きです! でもピーマンが嫌いです!」

 ってお前は、小学生か!

 ヴォルクヘイムの自己紹介が終わると、次はヴォルクヘイムの隣で正座をしている魔王が手を挙げた。


「女王! 私も自己紹介してもいいでしょうか?」

『だから女王って何よ!? んじゃお名前は?』

「シグラウル・ブラッドレイズと言う名で、好きな食べ物は――」

『あー、名前だけでいいから。名前だけで』

「なっ!? 勇者には自己紹介をさせて、私にはさせてくれないと!?」

「はははっ! 魔王如きでは自己紹介なんて要らないんだよ」

「ゆ、勇者っ! 貴様ぁぁ!!!」

『えええーーい、静かにしろーーー!!! 分かった。分かったから! 自己紹介して良いから!!』


 私がそう言うと、魔王シグラウル――シグくんのこれまたどうでも良いような自己紹介が始まる。本当にどうでも良い。

 自己紹介の一部を言うと……。

「モーニングコーヒーは、いつもコーヒー無しのクリーム入りで飲んでいて、苦味も無くて私のお勧めです!」

 ってそれはただの脱脂粉乳だろうがー!!!

 本当に呆れるようなシグラウルの自己紹介が永遠と続いた。

 どうやらこの2人は、相手より同等以上じゃないと許せないみたいだ。しかも味覚は小学生で頭はコンニャク。

 自己紹介だけでその知能が嫌に理解させられたので、ある意味自分を紹介できているのかもしれない。


『それで、何で戦争してるの? はい、ヴォルくんから』

「はいっ!! それは魔王が居るからだ!!」


 ヴォルクヘイムがそう宣言すると、勇者軍から「「「おおおおーーーっッ!!!」」」と歓声が響き、魔王軍からブーイングが響いた。

 だ・か・ら、そうじゃなくて……。


『ちがーーう!!! 理由よ!! り・ゆ・うっ!!』

「だから、魔王が居るから!」

『で、他に理由は!?』

「えっ、魔王が居るから?」

『魔王が居るからって何で戦争してるのよ!!』

「それは魔王が居るから……」

『だーかーらーー!!』


 だんだん頭痛がしてきて、思わず私は頭を抱えた。

 幾度と無くヴォルクヘイムに聞いても「魔王が居るから」としか答えない。

 単細胞なのか!? あんたの頭は単細胞なのか!?

 私がキッと睨みつけながら怒鳴ってしまったせいか、ヴォルクヘイムはしゅんと、落ち込んでしまった。

 そもそも、落ち込む程度のものだったら戦争なんてするなぁーー!!


『ぜぇはぁぜぇはぁ……。じゃ、じゃあ次、シグくん』

「はいっ!!」


 私が名前を呼ぶと、元気良く手を挙げてピシッとしながら立ち上がるシグラウル。

 デジャヴを感じるその姿に、私は嫌な予感しかしない。


「それは勇者が居るからだ!!」

「「「おおおおーーー!!」」」


 シグラウルがそう宣言すると魔王軍からは歓声が、そして勇者軍からはブーイングが響いた。


『だーかーらーっ!! 理由を、だっつってんだろうがぁあぁぁーー!!!!』


 こんなアホしかいないこの世界でやっていけるのだろうか不安になる私であった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ