第一話 暗き夢
草木も眠りについた深夜三時。闇を煌々と照らす満月の光が、自室で眠っている少女の顔を照らしていた。毛布を抱き枕にして横になっている少女は夢を見ていた
***
薄暗い部屋の中で、一人の男が小さな乳飲み子の前に立っていた。うっすらと見える黒い着物に身を包んでいるその男は、哀しげな瞳で目の前に居る乳飲み子を見つめていた。
男は少し俯いた後、顔を上げると何かを唱える。唱え終わると、男の手のひらに鋭く尖った刃が現れた。彼は小さく「悠希君、ごめんね・・・」と呟くと、それを悠希に向けて放った。
ザクッ
――何かが切り裂かれる音が脳裏に響く――
体をびくりと震わせ、悠希が目を醒ました。横になったまま首だけを動かして窓の外を眺めると、空が明るくなり始めていた
ゆっくりと起き上がり、枕元に置いてある時計を手に取って見ると、午前四時を少し過ぎている
時計を元の位置に戻し、寝ぼけ眼の悠希は左右に揺れながら、さっき見ていた夢の事を思い返した
悠希
「あの夢・・・何回目だっけ・・・」
十二歳になった頃だったか、悠希はある夢を繰り返し繰り返し見るようになった。薄暗い部屋の中で誰かと会っていた夢、何かが切り裂かれる音が鮮明に思い出される。そして、生暖かい何かに触れた記憶・・・
悠希
「・・・もっかい寝よ」
考えるのを止めて、悠希は横になった。誰かに大切に抱き締められた感覚を感じながら、悠希はまた深い眠りに落ちていった