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甘くて苦い  作者: 基地外
2/2

Girl's side

 昔から料理は得意なほうだった。特にお菓子作りはすごく楽しいと思う。

 だから、チョコレートトリュフとかショコラケーキとか、作るのはとても簡単なことだ。






 でも…作るのと渡すのとは、訳が違う。







 ,      +' ゜

   +。 .+ ゜

    '゜






 いつもよりカバンを大切に持って、朝もやに霞む校門を通る。

 今年こそは…今年こそは。

 昨日からずっと…いや、心の片隅ではもっと長い間思っていたこと。


 今日は、2月14日。甘い願いを男の子に贈る日だ。


 いつもは誰もいない朝の校舎も、今朝は目覚めが早い。

 そんな中…私はいそいで教室に向かう。


 どうか…彼がまだ来ていませんように…。




 まだ薄暗い教室のドアをカラッと開けば、夜のあいだに冷やされた空気が体を撫でてゆく。

 蛍光灯を点けても、教室には誰もいない。

 誰も…シュウくんも。


 窓際の列の、前から3番目。

 朝の日が、そこを眩しく照らしていた。


 私は窓際から目を逸らし、教壇近くの自分の席につく。

 そして…そのまま固まる。




 静かな教室に、心臓の鼓動だけがうるさかった。


(早く…早くしなきゃ…)


 体が言うことを聞いてくれない。ふるえが止まらない。


(いそがなきゃ…シュウくんが…)



 どうにかこうにか右手だけをガタガタ動かし、カバンの中から小さな包みを取り出した。

 うすいピンクの、紙の包み。



 いつのまにか、教室には2、3人が登校していた。


 まったく気付かなかった。

 もっと急げばよかった。


(どうしよう…)


 やるべき事は何か?簡単な事だ。少し後ろの机まで歩いて、ブツを入れて、そしらぬ顔で戻ればいい。



 よし、やろう。

 席から立ち上がった瞬間…ガラッとドアが開く音がした。


 シュウくんだった。



 あわてて両手を背中に隠した。

「お…おはよう、シュウくん」

 それはもう必死に平静を装った。

「おはよう、マユちゃん」

 静かな低音が、私に答える。

 濡れ羽色の癖っ毛に、真っ白な肌。一瞬上げた切れ長の瞳は、前髪に隠れてよく見えない。


 私の…大好きな人。



「き…今日は、みんな教室に来るのが遅いね」

「うん、玄関辺りに沢山いたね」

「………」

 私もシュウくんも、それきり押し黙ってしまった。


 わ…渡さなきゃ…。



 意を決して、シュウくんの顔を見上げた。

「あ、あのっ!シュウくん…」

「な、何?」


 どき、どき、どき。

 心臓が、苦しい。

 全身が熱くて、顔から火が出そう。


 真剣な瞳が、緊張の色で私を見つめてくる。

 血色の良くない唇が、少し震えている。

 真っ白な頬が、リンゴ色に染まる。黒い髪が、ふるふると揺れる。



 顔を逸らして…息を止めて………そしてシュウくんを見上げ、私は口を開いた。


「……こ、国語…わからない所があるんだけど、教えてくれる…?」



「あ……うん、いいよ。どこ?」

 シュウくんは微笑んで、私の席に向かった。






      。*゜

   。* '




 バレンタインなんて行事が、学校に関係あるわけない。時間はいつも通りに進んでゆく。

 黒板の前に立つ教師の講義をボンヤリと聞きながら、私はシュウくんの事を考えていた。




 2年前の事だった。


 あの時もボーッと授業を受けていた私は、うっかりして消しゴムを落としてしまった。

『はい』

 となりの席の人が拾って、渡してくれた。

『あ…ありがとう』

 その人は微笑み、席に戻った。



 偽りのない…驚くほど優しい笑顔を、私は生まれて初めて見た。


 シュウくんのあの微笑みは、私の一生の思い出だ。




 気が付けば、教師がチョークを手にとっていた。あわててペンを持つ。

 ノートに字を書こうとしたとき…後ろからカランと音がした。


 ふと後ろを振り向くと…一瞬だけ、シュウくんと目が合った気がした。




 ゜'x.

    ' x゜






 気が付いたら下校時刻だった。



 色とりどりのコートに身を包んで校庭を帰る人たちが、階段の窓から見えた。

 ふと振り替えれば、階段を通る人もまばらになっていた。







 私は…なんて力ない女なのだろう。




 毎年毎年…シュウくんに作ったチョコは、いつも私のお腹の中に入っていく。




 何のために作ったんだろう。



 慣れた手でチョコレートを混ぜ、1つのトリュフを作った。それが昨日。




 それがどうだ。


 1日立てば意気込みは吹っ飛び、まともに話すことすらできない。



 ふられるのが怖い。


 嫌われるのが怖い。



 成績優秀でまわりに優しい眉目秀麗のシュウくんが、私なんかに興味を持ってくれるわけがない。









「……………ぐす」




 気付けば涙が出てきていた。




 階段の踊り場に、ポタッと水滴がこぼれた。




 情けない。

 自分が腑甲斐ない。









 ……でも、そう思って泣いていたら、何だかスッキリしてきた。


 あるいは、開き直ってしまったのかもしれない。

 それならそれでいい。




 教室には、さっきシュウくんがいた。



 私は今から教室に戻ろう。

 シュウくんにチョコを渡して、赤いままの目で告白しよう。

 そして、サッパリとふられよう。




 でも、それでも構わない。


 胸につかえるモヤモヤした気持ちを吐き出し、スッキリとしてしまおう。

 それが、今の私がすべき事だ。










 私は貴男が、大好きです。

まだまだ出来の悪い話ですが…読んでくださってありがとうございます!!

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