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人生は上々だ -人生、山あり谷あり、舞台あり-  作者: 志村けんじ


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二人羽織

「えー、では芸をしまーす」


 そう言ってエイジ(やつ)はスッと立ち上がり、明らかにサイズオーバーだった浴衣の帯を解くと、間髪入れずオレの後ろに覆い被さると、素早くオレの腕ごと帯を締める。


 そして明らかに声真似で。


「二人羽織りぃー!」


 あの青い猫型ロボットが白い半月状のポケットから秘密道具を出すような口調で言った。


「はぁ~!? 待て待て待て!? 聞いてないぞコラー!」


「し~っ、黙って。ここから、ここから」と、やつは背中から楽しそうに小声で耳打ちをする。


 みんなのワクワクとした期待に満ちた目が一斉にオレを向く。


 この「場の雰囲気」に、これを壊してはいけないと思ってしまった。


「さぁ、ここからが見せ場」背中から煽るやつの声が聞こえる。


 そうなるとオレが取る選択肢は一つしかない。


「さぁ~て、なにを食べましょうかね~」そう言葉が突いて出る。


 エイジ(やつ)は手探りで箸を探り当てると、右手に箸、左手に「もずく酢」の入った小鉢を手にすると、その「もずく酢」を箸で(はさ)んで、箸の先をゆ~っくりとオレの鼻先まで持ってくる。


「さっ、食べて」エイジ(やつ)が小声で呟く。


 オレはその「もずく酢」目掛けて何度も首を前に動かし、更に近づこうと口先を伸ばすのだが、エイジ(やつ)が箸で挟んでいる「もずく酢」は逃げるばかりで捕まらない。


 たったこれだけの情景ことなのに、これを見ているみんなからはすごく楽しそうな顔と笑い声が溢れている。


 この場には、なんとも言えぬ「高揚感」があった。


 と同時に、エイジ(やつ)に「してやられた」と思った瞬間でもあった。


 一つ目の「もずく酢」がやっとオレの口に入ると、そこから「品」を変えて、次々とやつが仕掛けてくる。それでも「この笑い」が収まることなく、気がつけば当たり前に面白い表情かおを作ってしまっているオレがいた。


「ヒヒヒヒ」とエイジ(やつ)がいやらしく笑う。


 そうして「あっっう」と、浴衣の首元からエイジ(エイジ)は顔を出す。表情かおは見えないが、さぞかし満足した顔のはずだ。みんなからは、歓声と拍手が上がる。


「ねぇ、面白かった? 面白かった?」


 もうわかりきっている答えをエイジ(やつ)が聞くと、みんなが一斉に「面白ーーい!」と声を会わせて言う。


「ねぇ~。もういい加減ふたりとも離れたら」


 彼女が決してやきもちではない口調で、冗談ぽく突っ込む。


「お前さぁー! もう離れろよ!」


 何故かそれに慌てるオレ。


「やだやだ。もう少しくっついていたいー」


 とわざと女言葉を使い、エイジ(やつ)が後ろからオレを抱きしめる。


 この明らかにウケを狙ったエイジ(やつ)のリアクションがまた更なるおおきな「笑い」を生み出すという、最早もはやエイジ(やつ)の独壇場である。


「ふたりの本格デビューはいつですか?」


 また彼女が冗談ぽく突っ込む。


 大のお笑い好きなことはわかってはいたが、これまで少し控えめなタイプだと思っていた彼女に、お酒の力も借りてはいるのだろうが、こんな一面があることに驚きだ。


「そうですねー。僕たちの希望としては、遅くとも年内には舞台に立ちたいと思います」


 結んでいた帯をほどき、オレの背中から抜け出たエイジ(やつ)は、まるでインタビューに答えるような口調でそう答えた。


「では、今後のデビューに向けての具体的なプランはありますか?」


 彼女もそれに合わせてインタビュアー役をそのまま演じる。


「じゃ、まずですねー。この旅行の後に、事務所に挨拶に行きたいと思います。それからですねー」


 立て板に水のように、エイジ(やつ)の口から次々と「嘘」が出る。


「よくもまぁー。そんな噓をべらべらと」


 当然、オレはこれらを否定するわけだが。


「えーっ。でも面白いし楽しいじゃん。もっと聞かせてよ。洋ちゃんも本当はこういうの好きなくせに!」


 と、今度はオレ個人に対して彼女からツッコミが入った。


 確かにこういうことは「嫌いではない」。むしろ「大好き」だ。


 それでも、その「面白いし楽しい」ってのはなんだよ!? エイジ(やつ)の方がオレより面白いっていうわけですか!


 こうなると、完全に男の嫉妬だ。ここで同じ男として負けるわけにはいかない。


「まぁ、これからこっちも、ちょーっとだけ暇になったりしたわけだから、そんなキミのくだらない話に付き合わなくもない。もし一人でなにか不安があるのなら、なんでも言ってくれたまえ」


 負けてたまるものかと、軽はずみにそんなことを言ってしまった。


「ホントに~? じゃあ、本当に甘えちゃおうかなぁー」なんともいやらしい目つきでエイジ(やつ)がそう返す。


 これは冗談の、あくまで「嘘」の中の話であったはずである。


 この旅行から帰って3日後に、事態は急展開を迎える。気がつくと、オレはやつと同じ舞台に立っていた。

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