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人生は上々だ -人生、山あり谷あり、舞台あり-  作者: 志村けんじ


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漫才「初代仮面ライダー同窓会」


 そうしてネタ番組の収録当日。


 収録スタジオには華やかなセットが組まれ、観客席には100名以上の人が集まった。


 もう客入りの段階からの異様な盛り上がりを見せている。


 オレたちにとって、最高の見せ場が整った。


 ではお見せしよう。


 漫才「初代仮面ライダー同窓会」


「ハイ。どーもー。ソルティドッグです。よろしくお願いします」


 今日は珍しく、エイジの挨拶からだ。


「よろしくお願いします」


 さて、今日はオレたち『ソルティドッグ』の漫才が、この満員の客席をどれだけ笑わせて、そしてテレビの向こう側の視聴者たちを、どれだけオレたちの漫才の中に引き込めるかどうかだ。


 では、行ってみようか。



「なぁ、ハゼー。あんさ、久しぶりに、もしもシリーズやらね?」


 このもしもシリーズというのは、今後のオレたちの漫才で「一つのシリーズ」としての展開を目論んでいるからだ。


「ん、いいが。で、どんな?」


 実は久しぶりどころか、今日のこの本番での初お披露目!


 この漫才の題は、ズバリ「初代仮面ライダー同窓会」!


 では、長いフルバージョンでどうぞ!


「もしもシリーーズ! コント、もし初代仮面ライダーとショッカー戦闘員が、50年ぶりに会って、居酒屋で同窓会をしたら!」


 エイジがピンと右腕を上に伸ばして、題目の掛け声を上げる。


「というか、なんだよ!? 漫才じゃなくコントかよ!」


「大丈夫! どっちも全然似たようなもんだから!」


「まぁ、確かにオレたちにとって似たようなものか。それで、配役は?」


「そんなのはもちろん、オレが初代仮面ライダー、本郷猛役でー、ハゼがショッカー戦闘員!」


「そういう配役……って、おい!? 折角やるんならショッカー戦闘員じゃなく、 怪人やらしてくれよ! なんでわざわざ脇役にする必要がある!?」


「そんなの、だってあいつら全員仮面ライダーに倒されて、もう居ねーから!」


 そう真顔で言うエイジ。


「えーーっ!? そこまで、忠実にやる!?」


「そんなの当たり前だろー! そうじゃないと、やる意味ねーよ!」


「マジか!? で、細かい設定どうする?」


 そう言うと、エイジはオレに耳打ちする。


「なるほどー! よーし! ならこの舞台、受けて立とうじゃないか!」


 ここからコント風の漫才に入る。オレたちの軽妙な掛け合いにご注目あれ!


 では。



「おぉーー! ひっさしぶりー! 元気だった?」


 本郷猛・エイジから声を掛ける。


「いやー、久しぶりー! お元気そうで。そちらこそ、元気でしたか?」


「もそれはもちろん。なんてったって、ほら。オレ、変身ベルトあるから!」


 と、エイジがオレに変身ベルトを見せる。


「おぉー、なるほどー。初めて間近で見た」


「えっ!? 初めて見たの?」


「だって、初めてじゃなきゃ、とうの前にこの世にはいませんから」


「いや。なんかごめん」


 エイジは頭を下げる。


「いえ。では、入りましょうか」


 オレたちは、見えない暖簾をくぐり、見えない引き戸を開けて、見えない居酒屋の中に入る。


「カウンター席でいいよな?」


「かまいません。それで問題ありません」


 そうオレが真面目に答えると。


「もぉー! そんな固くならないでくれよー。久しぶりの再会なんだから、いくら元ショッカー戦闘員だからって、今日はもっとサックバランでもいーんだからよー」


「だったら、席はカウンター席でもいい? いいよな」


 いきなりタメ語で話したショッカー戦闘員のオレに、本郷猛のエイジが戸惑う。


 エイジは口ではなく、首を小刻みに動かして頭を振り返事をする。


 オレたちは、見えないカウンター席の椅子に腰掛けると。


「オレ、生で。生でいいか?」


「じゃあ、オレも生で」


「すみません、オネーサン! 生2つお願いします!」


 オレは見えない女性定員に生ビールを注文する。


「いやー、それにしても、だいたい50年ぶりに会ったっていうのに、本郷さんは、ちっとも変わらないねー」


「あぁ。ほらオレ、ショッカーに改造されてっから。だから見た目、昔のまんま」


「それはなにより。しかしその節は、上司のしたこととはいえ、大変申し訳ない」


 今度はオレが深々と頭を下げる。


「いやー。もうそんなの気にすんなってー。さぁ、飲も飲も!」


「おお!」


「カンパーイ!」


 オレたちは見えないジョッキ軽く当てて、久しぶりの再会を祝う。


「でもよー。オレは改造されてっからわかっけど、ショッカー戦闘員さんも、そんなあんま変わんないよねー」


「実は、オレも少し改造されてて。だから」


 ここでオレはエイジに耳打ちする。


「えっ、マジで!? マジで改造されてんの!? で、てか、ショッカー戦闘員さんの名前はなんて?」


「あぁ、27号です。ショッカー戦闘員ナンバー27号」


「えーっ!? なにそれー!? もしかして、ドラゴンボールしと一緒ー!? で、本名は?」


「だから、名前が戦闘員ナンバー27号なんで、27号なんです」


「えーっ、なんか可哀想ー!? これが11号だったら、ジュウイチで呼びやすかったのにね」


「いや。その11号さんは、サソリ男さんと一緒に、あなたに倒されちゃいましたから」


「いや。なんかごめん」


 エイジは再びオレに頭を下げる。


「いや。昔のことなんで、そんな気にしないでも」


「でも、改造される前の名前があるでしょ。そのときの名前は?」


「それが、改造手術のときに前の記憶を消されて憶えてないんです」


「あれだ! あの改造審査のときの5万ボルトの電流が良くなかったんだ。あんなの絶対に死ぬってねー」


「幸いにも、それに耐えられたから、こうして生きているわけで」


「でも、それだと不便じゃね?」


 オレは見えないビールを喉に流し込む。


「ホントそう! だから戦闘員辞めてからはずっとある歌手の名前を名乗ってる」


「ある歌手?」


 エイジは首をひねる。


「ショッカー戦闘員を辞めてからは、西城秀樹と名乗ってる」


 オレはまごうことなきまっすぐな目でエイジの目を見る。


「ぷっ、ぶっ! そんな西城秀樹って!? ジョーダン、笑えるー!」


「そんな笑うな! ほら髪型なんか、そっくりじゃないか!」


「ぷぷ。髪型はね」


 この頃の西城秀樹さんはパーマを掛けていた。たぶん。


「でも本郷さん! こっちはあなたがお休みしている間に、第三の人生のために命がけでショッカーを辞めたんですからね!」


 この初代仮面ライダーの本郷猛が休んでいる間に、代わりとして2号ライダーが登場したわけだ。


「ごめんごめん。でも、辞めるとき大変じゃなかった? ひょっとしてみんなにボコられたとか?」


「いえ、そんな野蛮なのはありませんでしたけど、退職願いを出す代わりに、どうしてショッカーを辞めたいのかという理由を、400字詰め原稿用紙で50枚も書かされました」


「えっ、50枚!? その枚数だと、ちょっとした短編小説並みじゃね?」


「なので、それがコンテストに応募されて、最終選考にまで残りました」


「おっ。すげーじゃーん! で、結果は?」


「いやー、残念ながら、その賞を逃しまして。でも、その代わりに29号さんが大賞を受賞して、現在いまは小説家をしています」


「えっ、マジでー!? その人の現在いまの名前は?」


「内緒です。その29号さんの現在いまの名前を教えると、あとからご迷惑をお掛けするかもしれませんから。脱退組の絆です」


「えーーっ、脱退組って、なんかどっかのグループみたいでカッコイイ!」


「ってか、本郷さん、意外とミーハーですね」


「でもさー、改造手術されて、歳を取らないでいると、そこからバレたらマズイんしゃね?」


「そーなのよぉー、そーなのよー! そこんとこ! 改造手術して、歳をとるスピードが普通の人間と比べて、だいぶ遅くなった分、そのあとが大変だった! もぉー、聞いてくれよー?」


 オレは更にハイテンションで語りだす。


「10年で2歳ぐらいしか歳を取らないから、その耽美たんびに、バレる前に職変えて、戸籍変えて。ホント何回やっても大変! 聞いてくれよー!」


「まぁ、一旦落ち着こうか」


 あまりのハイテンションになっているのを、エイジがオレの両肩を押さえてなだめる。


 だから、オレは。


「すみませーん! 生2つ! あと、焼き鳥と刺身の盛り合わせを一つずつお願いします! でね……」


 またオレが語りだす。


「29号さんなんて、そのために10年ごとにバレないように老けるための整形手術をしてるっていうんだからご苦労な話ですよ」


「そんなんだったらショッカーも改造手術するときに、イケメンの美容整形手術もしてくれればよかったーってのに! そしたらねー! こっちの人生もっと変わってたかも知れないってんだ!」


「まぁまぁ」


「そのショッカーを辞めた理由ってのは、好きだった同僚の女性にフラれたからなんです。ほら、居たでしょ。赤いレオタードに、黒い網タイツの女のコたち」


「あぁー! 居たねー! あのきれいなオネーサンたち」


「でね……。勇気出して告白したら、顔が無理って言われて。ふざけんな! あのブス!」


「まぁまぁ、落ち着いて、落ち着いて」


「すまない。ちょっとオレの方から話し過ぎた。で、本郷は、今までなにか困ったことあった?」


「いや。ほら、オレIQ600のチョーチョー天才だから。ちょっと誰かになにかアドバイスするだけで楽勝だった」


 この仮面ライダーの本郷猛は、初登場時から、IQ600という、今思えばもう無茶苦茶すぎる設定だった。


「でも一つだけ。この変身ベルトをメンテナンスしようとして、556注したら、そのあと風車が回り過ぎちゃって、変身しっぱなしになっちゃって、結局風車のところをガムテープで塞いで止めた」


「おいおいおい。そんな笑い話あるかよー。そーいえば、現在いまでもバイクには乗ってんの?」


「そりゃーもちろん! オレの生きがいだから。あっ、その節は、ススキ自動車さま。大変お世話になりました。今でも現役バリバリの鈴菌です」


 エイジは、客席に向かって、きれいなお辞儀をする。


 この鈴菌というのは、ススキの自動車・オートバイを好きな人を総じて、スズキの菌に侵されているという意味の揶揄だ。


 それなので仮面ライダーのバイクは、初代仮面ライダーの頃から、ずっとスズキ製なのは有名な話だ。


「でも、うちの上司たちもよー。みんな情けないったりゃありゃしない! オレたちだけ働かせて、自分は全然表に出てこないしよ」


「クモ男のやつなんて、あんま出番ないままやられるし、蝙蝠男こうもりおとこなんか、あんたに騙されたんだからよ。もぉー、思い出したら笑えるったりゃありゃしない」


「いや。なんかごめん」


「でも、あの蝙蝠男こうもりおとこのときの、あの音波で動くあのミジンコみたいな形の頭脳を持ったウイルスってなに!? あの当時に、すでにナノマシーンを開発してたのかよ!?」


「そう考えると、当時でショッカーの科学技術って、ホントに最先端を行き過ぎてたんだなぁー。すげーよ!」


 あの1971年当時に、設定とはいえ、よくそんなことを思いついたものだと感心する。


「そういえばさー、なんで途中から黒いマスク被るようになったの? あれは寒いから?」


「逆逆逆。全然、逆! あの目出し帽の黒いマスクは、激しく動いて汗かいて、それでメイクが落ちてカッコ悪いってことで、あのマスクを被るようになった」


 これは知ってる人は知ってる有名な話だ。


「えっ、マジで!? あれメイク!?」


「それよりも、本郷ー、もう昔の話だけど、友だちつくるときはよく考えた方がいいぞ」


「あぁー。早瀬のことか」


「まったく、いくらお前に嫉妬してて勝ちたいからって、それで改造人間、怪人サソリ男になるなんて、馬鹿としか思えねー!」


「まぁまぁ、落ちつけって」


「それによ。あの時の戦闘員たちも、ホント馬鹿! 砂の中に隠れたら、あな仮面ライダーにモグラたたきにされるのに決まってるじゃねーか!」


「なんかごめん」


「でもよー、向ケ丘遊園地で、人喰いサラセニアン人間が人を襲ったあとのお前は、ホント大人げなかった!」


「だってよ。いくら子どもが、これをあげるから、代わりにお姉ちゃんを助けてって言われても普通は、助けたあとにもらった飛行機のプラモデル返すだろーよ」


「だって、あのときはお姉さんが代わりのプラモデル買ってやるってケンジ君に言ってたから、それで返すのも悪いと思ったから」


「なに言ってんだよ。それでも返すのが大人だろーが!」


「それはもう、ごめん。あとで返しておくから」


「あとで返しておくって、お前50年後だぞ!? ケンジ君がが現在いま何歳だと思ってるよ? もう60歳ぐらいだぞ。もう、とっくに子どもじゃなくて、おじいちゃんだぞ!」


「じゃあ、そこは金銭で」


 エイジは「ニヤリ」と笑う。


「なんか、そうなるといやらしなぁー」


 ここからがオチまで一気に加速する。


「でもよぉー。さっきも言った、あのショッカーの5万ボルトの電流を流して生きていたら改造人間。そこからまた10万ボルトって、普通に考えなくても、あれ死ぬぜ」


「それでも、オレとお前は生きてたんだからよかったじゃねーか!」


 今考えると、当時の初代仮面ライダーの設定は本当に無茶苦茶だ。


「そういえばさ、オレが闘ってたときのショッカーの総統って、ジャイアンだったよな」


「あぁー。剛田武ごうだたけしさんのことね」


「そうそう。声はジャイアン」


「あの人、映画ドラえもんのときだと、すっげー仲間思いでいい人。なんかホントにかっこいいの」


「あぁーっ。それはオレもずっと思ってた! ジャイアン最高ー!」


剛田武ごうだたけし、ジャイアン最高ー!」


 オレたちはふたりで右拳を上に突き上げてジャイアンコール何回もする。


「ジャイアン最高ー! って、オレたち、今までなんの話してた?」


 そう言って、真顔でエイジの方を向き、しばしの沈黙。


「どーもー! ありがとうございましたー!」


 客席の反応は……。


「うぉーーっ!」


 観客の一人が雄たけびを上げた。それに呼応するように、観客たちから割れんばかりの拍手と笑い声!


 最高の舞台で、最高の舞台結果を出せた。本当に最高の舞台だった。



 こうして、オレたちのテレビでの本当の初舞台は終わった。


 今更ながらに、テレビに出演してみて思うのは、それが劇場の舞台でも、それがテレビの舞台でも、さほど感覚的には変わらなかったということだ。


 それでもこれからも、エイジとふたりで目の前にいるたくさんの観客たちを笑わせていきたいと思う。


               お笑いコンビ『ソルティドッグ』・土師洋一


これまでの全48話を読んでいただいた読者の皆様ありがとうございました。これでエイジとハゼのふたりの物語は終幕です。ふたりの今後にも「人生は上々だ」の幸あれ。


まだ全エピソードを読まれていない方は、是非とも全話読んでいただけたら嬉しいです。


作者 志村けんじ           

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