箱根ドライブ
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そうしてオレたちは、そこから何度か深夜枠のテレビ番組に呼ばれるようになった。
すべてがネタ見せというわけではないので戸惑うことも多かったが、それでもいつものエイジとの舞台裏での掛け合いを思い出しながら、出来るだけフリートークにも全力を尽くした。それはエイジも同じである。
そしてもう一つ大事にしたのは、これまでオレたちを売り込んでくれたマネージャーたちや、このように呼んでくれた番組スタッフへの感謝の言葉である。
この人たちがオレたちを支えてくれて、そして見つけてくれて、初めてのテレビ出演に戸惑って右往左往していたオレたちを面白く編集してくれなければ、いまオレたちはテレビという舞台には立てていなかったと思う。
ただ忘れてならないのは、オレたちが一番好きなのは、やっぱり目の前の大勢の観客を笑わせたいということである。
これからゴールデンタイムでのネタ番組の出演が控えてる。
その前に、オレにはどうしてもやっておきたいことがあった。
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ネタ番組収録2週間前。
オレはエイジを箱根への日帰り旅行に誘った。
「なぁ、エイジ。こんなことをオレから言うのは恥ずかしいんだが、来週オレとふたりで箱根にドライブに行かないか」
「いいねー。せっかくなら彼女も誘って、ダブルデートで行こうぜ!」
エイジはオレのその誘いに、ノリノリでそう提案する。
「いや。悪い。どうしてもふたりだけでお願いしたい」
そう、頭を下げた。
「えーーっ。良いぜ。運転はもちろんハゼだよな」
「もちろんだ。運転は任せろ!」
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そして次の週。レンタカーを借りて、箱根へのドライブに向かった。
エイジとは、そんなに長い付き合いではないが、なんだかずっと前から知っているような気がする。
あのとき、箱根旅行では邪魔な存在だったエイジを、かけがえのない合い方だと思う日が来るなんて思っても見なかった。
オレには、あのときの箱根旅行で、一つだけ後悔していたことがある。
それは芦ノ湖から上がっていく、あのロープウェイに乗れなかったことだ。
そのことがずっと引っかかっていた。
だから、ゴールデンタイムのネタ番組で最高のパフォーマンスを出すためにも、どうしても乗れなかったロープウェイに乗りたかったのである。
こんなことを真面目に話すと、他人は馬鹿にするかもしれないがエイジはそうではなかった。
芦ノ湖の畔で、そのことを正直に話した。
「ハゼ、オレの方こそ、あんとき無理やり誘って悪かったな」
エイジが珍しく謝る。
「あんなもんは山道歩いてて、ちょっと石につまずいて転んだみたいなもんだ。あれが神様が置いた石ならいまのこれもまんざら悪くない」
本当にそう思えた。
「なぁ、ハゼー。お前がいてくれて良かった」
「こっちこそ。なぁ、エイジ。あのとき、誘ってくれてありがとう」
「あぁ、そうだな。ハゼー、その誘いに乗ってくれて、ありがとう」
「じゃあ、お互い様っていうとこだな」




