漫才「新しい恋のはじまり」
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そこでなんだが、あのときエイジにめちゃめちゃにされた、あのやたらとウケが良かった漫才のネタを、新たなバージョンで披露したいと思う。
タイトルは「桃太郎」から変わり、ズバリ「新しい恋のはじまり」。それでは、どうぞ。
「はい。どうもー、ソルティドッグです。よろしくお願いします」
漫才のときは、この最初の挨拶はいつもオレからだ。これが決まったパターンだ。
「あんさー。最近やたらと寝つきが悪くて眠れねーんだよ。だからよく眠れるようになんか面白い話してくんねー」
そしてエイジのフリから漫才のネタが始まる。
「いや。普通そういうのは、寝るときにするもんだろ?」
「じゃあ、今夜寝るときに添い寝してくれよ? なんだったら、朝まででも構わないけど?」
エイジはオレの左肩に頭をのせてわざと甘えてくる。
「いや。それは無理!? 絶対無理!」
「だったら、いま面白い話してくれよー」
「わかった。えー、あるところにおじいさんとおばあさん……」
「あっ、わかった! ハイ! 花咲かじいさんの話だ!」
「違います。えー、あるところにおじい……」
「ハイ! こぶ取りじいさんの話だ! でも、こぶ取りじいさんって、最初に聞き方を間違えると、ただの太ったじいさんの話になるよな」
「確かにそうだが……。ってか違う!? その話でもない!」
「2回続けて不正解」と、エイジは観客たちに向かって「ピースサイン」をする。
「えー、昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んで……」
「ハイ! 桃太郎!」
「正解!」
エイジは観客たちに向かってダブルピースする。
「えーっ!? そんな誰でも知ってるような話ー! つまんねー!」
「じゃあ、花咲かじいさんかこぶ取りじいさんの話にするか?」
「そんな、桃太郎よりはメジャーじゃないけど、誰でも知ってるような話ならつまんねー! それなら最近知り合った彼女の話をしてくれよ。そっちの方が断然面白い!」
「はぁー!? お前、無理いうなよぉ!?」
いやらしく「ニヤリ」と笑ったエイジに対して、オレが叫ぶ。
「じゃあ、オレが代わりに、一旦お浚いしようか?」
「ちょっと待て、お前はどこまで知っている?」
「ん? どこまでとは? よかったら、どこまでか教えてくんね」
「だからー、この前はしながわ水族館に行って」
「行って? どんなデートだった?」
「だから、10時30分に待ち合わせして」
「待ち合わせした時間は10時30分の前。ハゼが待ち合わせ場所に行ったのは、10時20分ぐらい?」
「そうだよ」
「彼女、勘違いして、10時39分に来なかった?」
「来てない、大丈夫!」
これは最近の俗にいう「Z世代」の中には、例えば「10時10分前に集合」と言われると、「10分前の9時50分」ではなく、「10時10分の前」に待ち合わせ場所に来る者もいるということの揶揄だ。
「それなら良かった。それでそのあとはどうしたんだっけ?」
「だから品川駅で待ち合わせして、そこからしながわ水族館に行ってだな……」
「それで?」
「それで優雅に泳ぐきれいな魚ちゃんたちを見てだな」
「そこでキミの方がきれいだよって、言ったわけだ」
「そう。って、お前どこまで知ってる!?」
「いいから、いいから」
「そんな、いいからじゃない!? まさか筒抜け!? お前には筒抜けなのか!?」
エイジはいやらしく笑う。
「そうなんだな!? どこまで知ってる?」
「だからー、品川駅で待ち合わせして、しながわ水族館に行って、優雅に泳ぐきれいな魚ちゃんを見たんだろ?」
エイジは立て板に流れる水の様に、なんの引っ掛かりもなくオレが言ったことを話す。
「だから、その先は!?」
「その先?」エイジは首を傾げる。
「オレが、キミの方がきれいだよって、行った先は!?」
「お前、そんな恥ずかしいこと言ったの?」
「言ったよ。言いました! 悪いか?」
「いや。別に悪きゃないけど……」
エイジはいやらしく笑う。
「だから、お前は、どこまで知ってる?」
「待て! ちょっと待て」
オレはエイジの両肩を掴んで、ちょっと考える仕草をする。
「エイジくん、話を……。話を、元に戻そうじゃないか?」
「えーーっ、そんでですねーー」
エイジは、そのまま話の続きをはじめる。
「頼む! お願いだー!」
オレはエイジに向かって飛び込むようにダイビング土下座をして、両腕を突っ伏して必死に懇願する演技を見せる。
横目でちらりと客席の方を覗くと、観客たちはオレたちの掛け合いに爆笑の渦だ。
「よーし! なら取引をしようぜ!」
そこからエイジの無理難題な取引条件が次々と出されて、それをオレが断るというを繰り返しが3回ある。
そして最後にエイジが、オレの耳元で客席には聞こえないように、最後の条件を提示したところで。
「うんうん……。って、飲めるかーー!」
ここでこの「掛け合い漫才」は終了だ。
「はい。どうもありがとうございますー」
と、漫才が終わったあとは、二人合わせて礼をする。
この漫才の客席からの反応はというと、それはもう「馬鹿ウケ」で、前回同様に爆笑の渦だ。
但し、ここで忘れてはいけないのは、この「馬鹿ウケ」は、少なからずオレたちコンビのことを少なからず知っているからこそという可能性もあることも忘れてはならない。
とにかく、今日の舞台は、「とても気持ちがいい舞台」だった。




