ワニワニパニック
そこからオレと彼女、鈴華とは茶飲み友だちならぬご飯友だちとなった。
なんてことはない。週に1・2回ほどふたりで一緒に食事をして会話を楽しむのだ。もちろん、それ以上の関係はない。
それはお互いの部屋を訪れてもだ。
鈴華はオレの2つ年下だが、こと恋愛経験ではオレよりも一つ二つ上だ。
だからなのか、オレを時々子ども扱いすることもある。
それでも自分がカッコつけずに、また背伸びする必要もないというのは楽なことだ。
初めは興味本位と偶然で始まった鈴華との関係も、今ではとても気兼ねなく話すことが出来る。
唯一の懸念事項があるとすれば、それは彼女が趣味で習っているのが「キックボクシング」ということだけだ。
もし万が一にも彼女を本気で怒らせてしまったら、そのときはどんな痛みを伴う制裁を受けることか。
「いや。そこはちがうなぁ……。そこはさ、ポン、ポン、ポン! じゃなく、ポン! ポン! ポーン! じゃないかなー」
「なにそのポン! ポン! ポーン! って。違うでしょ」
今オレと鈴華は、彼女の部屋で陸上競技の三段跳びのタイミングの話をしている。
オレは運動部出身の鈴華を説き伏せようとしているところだ。
「よーし、それじゃ、勝負をつけましょう!」
「勝負? どうやって?」
「実践あるのみ!」
鈴華がそう提案する。
「実践? 陸上競技場で?」
「まさかー」と、鈴華は子どもみたいに笑った。
鈴華が勝負に選んだのは、「ワニワニパニック」だ。このワニに嚙まれないように歯を押していくゲームを、1回ずつではなく、3回連続ランダムで押していこうというわけだ。
「これ、関係ある?」
「ある。じゃあ、洋ちゃんから」
鈴華は、今はオレのことを「洋ちゃん」と呼んでいる。
「えっ、鈴からじゃないの?」
オレも彼女のことを「鈴」と呼んでいる。
「ここは男からでしょー」
「よーし、いざ! ポン! ポン! ポーン!」
このゲームの敗者は……オレだ。まだ2巡目の1押し目で、簡単に勝負が決まってしまった。
こんなどうでもいいような遊びでも楽しい。
「じゃあ、ありがとう。ご馳走様」
そう言って部屋を出ようとしたとき、鈴華がオレの腕を掴む。
「ん? なに?」
振り向くと、鈴華がオレに抱きついてくる。こういうのはドラマや映画の中に出てくる、典型的なラブストーリーのパターンだ。
「ありがとう。もうわかってる」オレは鈴華を抱きしめ返して。
「でも、ごめん……。今日はパンツ変えてない」とわざと冗談を言って。
「もぉー」と彼女を笑わせた。
「じゃー、また」
「うん。また」
いやぁー。ナニブンにもプライベートなことなんで、これ以上の情事はお話しできません。この先を期待していたみなさん、ごめんなさい。
ともあれ、オレと鈴華はお互いの気持ちを確かめ合うことができたのである。
♢
「いやぁー。良かった、良かった。これでよーやくオレの肩の荷も落ちたもんだぜー!」
エイジは顔を上に向けて、鼻高々だ。
「なーにが、肩の荷が落ちただよ。余計なことしやがって」
そうは言ったが、エイジには感謝しかない。
「じゃあ、その余計なことしない方が良かった?」
「いえ。その節は、大変お世話になりました。ありがとうございます」
オレと鈴華の関係が上手くいったきっかけを作ってくれたのは、確実にエイジのイタズラ心のおかげだ。
「でも、ハゼ。すげー良くなった。最近漫才にキレがある」
エイジが言うように、最近は伸び伸びと振り切って漫才がやれている。
前にエイジが言っていた、「芸人は自分が面白いと思うことを真剣にやっているからこそ面白くみえる」というのを、まさに実践している。
「そんな褒めてくれたってなぁー、なーんにも出ねーからなー」
「そんなこと言ってー、そろそろまた新しいネタ書いてくれんだろ?」
「いやいやいや。そこは、もーちょっと楽しみに待っててくれよー」
これまでの過去ネタについては見直しをして改良を加えていたが、新しいネタについてはまだ保留したままにしていた。
それを従来の「予定調和スタイル」でいくのか、新しい「フリートーク風のスタイル」でいくのか、まだちょっと考え中だ。




