偶然の再会
「何、ナニ、なにー! スゲー面白そうな話じゃん!」
この出来事を、ついうっかりとエイジに話すと、早速からかわれた。
ちなみにオレとエイジは、メールなどで連続するやり取りや、電話で長話するようなことはほぼ無い。
コンビ結成当初から、約束してから何処かで待ち合わせして会って話すのが基本だ。
「これでやーっと、ハゼに反撃できんぜー」
「なんだよ、その反撃ってーのは?」
「いやー。ずっと萌実とのことでからかわれてきたからなー。これでようやくハゼに反撃できんぜ!」
「だから、反撃もなにも、オレたちにはまだなにも」
「まだなにもってことはー、やっぱなんか期待してんじゃん!」
エイジの奴、痛いところを突いてくる。
「いや。期待は別に……」
これは期待していいのか? いや……あれはスーパーで買い物して偶然会っただけで、これ以上話の膨らましようがない。
「ハゼー。お前、今なんか想像しちゃってたんじゃねーのー」
このオレの頭の中を見透かしたかのように、エイジがいやらしい目でオレを見る。
「バ……馬鹿言ってんじゃないよ! そうゆう良からぬ妄想をするのはやめなさい!」
オレは無理やりこの会話を終わらすが、それでもエイジはいやらしい目をしたままだった。
♢
その彼女と再び偶然再会するのに、そんなに時間は掛からなかった。
あの偶然出会ったスーパーで、いつもの買い物をしていると、今度は彼女の方から声を掛けてくる。
「こんばんはー。お買い物ですか? ちなみに週にどれぐらい買い物してます?」
突然、なんの脈絡もなく聞かれる。
「いや……。週に2・3回ぐらいですが、そちらは?」
オウム返しで同じことを聞く。
「いやー……。わたしは……週に1・2回くらい……」
彼女は少し恥ずかしそうに答える。
「半分は外食で?」
「まぁ……そんなところです」
おそらくこの話し方から想像すると、彼女はあまり料理はしない人なのだろう。
オレは大学生時代のアルバイトでも料理はしてきたので、今でも比較的料理はするほうだ。
「あの……失礼ですが、お名前お伺いしてよろしいでしょうか?」
「何故?」
これは「良い方」にも「悪い方」にも捉えることができる。
「だ、だってアナタだけ、私の名前知ってるのは卑怯じゃないですか!?」
ま……まさかの「悪い方」なのか!?
オレは仕事着のスーツの内ポケットから名刺入れを取り出して、名刺を一枚彼女に渡した。
「ど…し、よういちさん」
やはり苗字の「土師」の読み方が難しかったようだ。
「あっ、ローマ字でフリガナ振ってます。土師洋一です」
「土師さん……。あぁー、土師さんっていうんですね」
何故か彼女は、オレの名前がわかったことに感動している。
「はい。職場の仲間や相方からは、ハゼって、カタカナ風に呼ばれてます」
そう言うと、彼女は落ち込んだような表情で、名刺を見つめる。
その彼女の表情を見て、たぶんこのことが引っかかったのだろうと思った。
「いや……。その相方っていうのは、漫才の相方のことですが」
「漫才!?」
彼女はそれを聞いて、完全に頭の理解が追いついていないようだ。
正直にオレは、もう一足の草鞋の話をする。
「実は6年ほど前から、漫才のコンビを結成してまして。お笑いコンビ『ソルティドッグ』のハゼ・ヨウイチです。相方の名前はクサカ・エイジ。もしよかったら、今度劇場とか舞台に遊びに来てください」




