FMラジオ
ここから、オレの新しい恋の見ていただきたいのだが、もしオレが調子に乗ってしまい、少しお見苦しいところがあったら申し訳ない。
オレが彼女と出会った……。いや、彼女の声を初めて聞いたのは、インターネットラジオ番組からだった。
それは今後のフリートークの参考にでもと思ってきいていたわけだが、そのラジオ番組であってもある程度の台本なるものは存在する。
特にキー局と呼ばれる全国ネットのラジオなどがそうだが、お笑い芸人やアイドルがラジオパーソナリティーしているラジオ番組には、必ず放送作家がついているのが普通だ。もしそうでなければ最悪「不用意な発言」をして不祥事になり「放送事故」になる可能性がなくもないからだ。
なので、オレはなにか面白そうな番組はないかと、地方のコミュニティFMをアレコレ聴いていて、そこで偶然に彼女の声に出くわした。
特に何か面白い話をしていたわけではないし、特別いい声というわけでもなく、なにか詩を読んでいるようなゆったりとした声に惹かれた。
その番組は夜に聞いていたが、インターネットラジオなので内容としてはリアルタイムではなく昼の番組のようだ。
そこで只のスケ……ベ心。いや。興味が湧いて、ちょっとその彼女のことをパソコンで調べてみる。
ホームページにある写真を見ると、なかなかに可愛い。
「なんだよ……。顔もなかなか可愛いじゃん」
これが良くなかった。もちろん悪い意味でだ。
その彼女の顔は犬に例えれば、柴犬かポメラニアンのような感じで、この知らず知らずのうちに人の顔を動物に例えてしまっているのは、確実にネタやエイジの影響があるのだと思う。
その単なる偶然からというのは、本当に怖いものだ……。会社からの帰り道にアパートの近所のいつものスーパーマーケットで買い物をしていると、どこかで聞いたことのある声がした。
「何処なのよー!? もぉー、何処なのよー!?」
イライラしてなにかを探している若い女性の声がした。その彼女の声は確かに何処かで聞き覚えがある。
「すみませーん!」
結局その彼女は自分だけでは見つけられず、近くにいた店員を見つけて呼んだようだ。
オレはどうしても、そのどこかで聞いたことのある声の人物が気になって、その彼女のことを覗いてみる。
「あっ!?」オレはその女性の正体に驚いて、思わず声を出してしまった。
その驚いたオレの声に、彼女が反応する。
「今アナタ、「あっ!?」って言いましたよね? その、「あっ!?」って、なんですか?」
彼女はいきなりケンカ腰で、まるで自分の家の庭に入ってきた見ず知らずの人間に吠える犬のように文句を言ってくる。
「あっ、いやー……別にー……」
そう。惚ける。
「ウソ。アナタ確実にわたしの顔見て、「あっ!?」って言いましたよね? アナタ、なんですか!? 誰なんですか!?」
更に彼女が食らいついてくる。
「只の通りすがりですが……」
そう言ってみる。
「只の通りすがり? ふ~ん。なら行ってよろしい」
彼女は、オレの全身を舐めまわすように見てそう言った。
「はい……。ありがとうございます!」
何故自分が、こうしてあったばかりの見知らぬ彼女に、お礼を言って頭を下げているのかわからない。それでもコントの様に身体が反応した。
そしてこの感じの悪い女の正体はというと、オレがあのとき調べた、東京都内の西に位置する市にあるコミュニティFMのラジオパーソナリティーの立石鈴華である。
買い物を終えて、アパートへの帰り道を歩きながら、オレは彼女についてボヤく。
「ったく、なんだよー!? 実際に会ってみると、声と中身の性格が、全っ然違うじゃねーかよ!」
そのオレの前を、エコバッグを持って、誰かと電話しながら歩いている女性がいる。またしても、あの高石鈴華だ。
「うん。うん……。わかった」
電話をしながらゆっくりと歩いている彼女に、オレはあっさりと追いついてしまう。
そのまま彼女に気づかないふりをして、その横を抜いていくのだが。
「ちょっとー! なに無視してんですか!」
彼女がオレに声を掛ける。
オレはピタッと立ち止まって、ゆっくりと彼女の方を振り向く。
「はて、無視とは?」
「アナタ、アタシの後つけてきて、そのまま横を素通りしていきましたよね?」
これに関しては、完全な言い掛かりだ。
「素通りって!? ボクはあなたがゆっくりと歩いていたので、それを抜いたまでで。それに別にアナタの後をつけていませんけど!」
噓偽りのない本当のことだ。
「ウソつかないでください!? こんな偶然ってあります!?」
「そんな偶然って!? 同じスーパーで買い物してたんだからあり得ることでしょうよ! ホント偶然なんだからしょうがないじゃないですか!」
「じゃあ、その偶然を証明して見せてください」
「証明って!? あなたさっきからなんなんですか!? 可愛い犬みたいに、キャンキャンキャンって吠えてきて!」
「はぁー!? ワタシ犬じゃありませんけど、人間です!」
「そんなの見ればわかりますよ! 例えですよ! 例え! あなたラジオパーソナリティーなのに、そんなのもわからないんですか!?」
ここで熱くなってしまい、つい口を滑らせてしまった。
「あーーっ!? やっぱりアナタ、わたしのこと知ってたんですねー!? ストーカーですか!?」
立て続けの理不尽な理由で、彼女がオレを問い詰める。
いや……何も知らない彼女からしたら、そう理不尽な話でもないかもと思い直す。
「いや、すみませんでした。あなたのことはラジオを聴いて、あなたのこと、ちょっとだけ知ってました。調べて……、あぁ、可愛い人だとも思いました。すみませんでした。ただ……この道がオレの帰り道だということだけは間違いありません」
そうありのままのことを話して彼女に謝った。
彼女は、すごくキョトンとした顔をしている。
「あっ……あの……、わたしの方こそ勘違いしてどうもすみませんでした!」
今度は彼女が、何度もペコペコと頭を下げる。
「いや……もう結構ですから。では」
それでこの彼女と別れてアパートへ帰った。
これが、高石鈴華との出会いだ。




