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人生は上々だ -人生、山あり谷あり、舞台あり-  作者: 志村けんじ


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フリートークとは

 今回の「前説の件」で改めて思ったのは、フリートークというのは「芸人」にとっては非常に大事なことだということだ。


 常日頃から「笑い」を意識したフリートークをして、そのスキルは身につけていかないと本当に面白い即興のトークなど出来ないと感じた。


 互いに面白い「掛け合い」をするには、どうしたらいいのか。


「っていうのが、現在いまのオレの一番の悩みだな」


 珍しく、喫茶店でもない夜の公園でもない、真っ昼間の河川敷の刈られて間もない草むらに。エイジとふたり寝転んでその悩みのことを話してみる。


「えーっ! そんなの面倒くさいじゃん! 大体、ハゼがこれ以上面白くなる必要なんかあんのかよー!」


「いやいや。お前には負けるだろー」


「いや違うねー。オレのはフリートークじゃなく、ポジショントーク。だから隣で聞いててわかってるだろうけど、いつもオレに都合のいいことを思いつきで言ってるだけだろー」


 このエイジが言った「ポジショントーク」というのは、わかりやすく言えば、「自分の立場などを利用して、自分に都合のいいことを言うこと」だ。


 だからエイジは「自分の見た目の印象を最大限利用」していてる。


 男女共に普通だったらナルシストだと反感を買う可能性が高いのに、それがほとんどないというのは、エイジが常に人を笑わせたいということを優先して、そのカッコよさも笑いに変えようとしているからだ。


 但し、エイジが自分自身のことを「カッコイイ」と思っているのは疑いようのない事実ではある。


「それでも、それがトークとしてちゃんと成立してんだから、スゲーよな」


「だろー」


「調子乗んな」


「なっ、これで掛け合いのフリートーク。これもオレが言ったことに、ハゼがちゃんと合してくれてるから成立してんの。大体さー、ハゼは女っ気が無さ過ぎんだよ」


 エイジから予想もしていなかったワードが出る。


「は!? なんだよ、その女っ気っていうのは!? どーいうことだよ?」


 そのフリートークスキルのレベルアップに、「女っ気が必要」とはどういうことだ。


「あんさ。男の本能としてよ、オンナにモテたいってのは絶対にあるだろ?」


「そりゃ、オレだって少なからずな」


「だから、オンナの前で良いカッコしたいとが、笑わせたいっていうのが一つの原動力になるわけ。ハゼだって、思い当たることあるんじゃねーのー」


 確かに、エイジが言ったそのことについては、エイジと初めてあった頃に、確実に思い当たることがある。


 そう思ったことを誤魔化しつつ。


「ふーん。お前ー、そんなことをちゃんと考えてたんだな」


 そんなエイジに、なんだか妙に感心した。



 それで、そのエイジの原動力の行方はというと、山場を迎えていた。


 ある日、エイジと萌実は、ふたりで楽しく萌実の部屋で酒を飲んでいたのだが……。気がつくと……萌実が酒に飲まれて絡み酒になっていた。


 飲み始めて酔っ払ったはじめは「えっちゃん、楽しいねー」と穏やかだったのが、完全に酒に飲まれてしまうと「こらエイジー! もっと飲めー!」に変わっていた。


 そこから萌実は完全な絡み酒になり、エイジも困り果てていたわけだが、途中から萌実の様子が変わった。


 実のところ萌実は、これだけ仲良くなっているにも関わらず、いまだ男女の関係にならないでいたこの中途半端な関係に、内心ではずっと不満があったらしく。


「あたしってー、そんなに女としての魅力ないとー」


 と突然、目に涙を浮かべて泣き出す。


「いや。萌ちゃんは可愛い。すごく好き」


 ここでエイジの本音が飛び出す。


実はこれまでエイジは、髪型や洋服などを褒めるようなことはあっても、萌実自身を「可愛い」などと言ったことはなかった。


 もちろん口説くようなことも言ったことはない。 


「だったら、なんでわたしに全然手を出してこんとー!」


 それは前述のとおり、これまでの「付き合う前の楽しい関係が壊れる」のが怖かったからだ。


「ホントはわたしのこと、もうすぐ30歳(さんじゅう)のオバサンと思ってるんやない。だけん、なんもしてこんとねー」


 こうなると、ここまで高まった萌実の感情をエイジが抑えることはできない。ただ一つを除いては……。


 エイジはグッと萌実の両肩を押さえると、キスをして萌実の心をしずめた。


 こんなこと、もう30歳間近のふたりがなにやってるのかと思う人もいるだろうが、いつの頃も「恋というのは、好きな相手に触れたり、触れられたいと思うもの」ではないだろうか。


 そのあとのことについては、もう大人のふたりなので、そこはご想像にお任せするかぎりだ。

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