チャンス到来?
そんな中、オレたちにチャンスが訪れる。
テレビのバラエティー番組での前説の仕事だ。
このテレビのバラエティー番組での前説というのは、スタジオ収録に参加した観覧者たちを自分たちのお笑いのネタを見せて笑わせる仕事ではない。
観覧者たちに対して、収録番組の収録の流れとか、こういう処で笑ってくださいといった説明をしながら、収録前の観覧者たちの気分を温めておくのが仕事だ。
なので、今回の前説の仕事には、事前の台本のようなものは無い。つまりは、もうある程度に場馴れしたエイジよりも、寧ろオレのアドリブ力が試されるのことになる。
オレたちは予定の入り時間の1時間以上前に局に入って、チーフADから収録番組の台本をもらって説明を受ける。
これほど熱心に人の説明を聞いたのは、本当にいつぶりだろうか。隣でエイジも真剣な顔で話を聞いている。
このバラエティー番組での前説というのは、なにも必ずしもお笑い芸人がやらなければならない仕事ではなく、下のADもやってる仕事になる。
そこをプロのお笑い芸人に任せられるのだから、その違いは確実に見せなければならない。
チーフADからの説明を聞いたあと、局の廊下で台本を見ながら一人悩んでいると。
「ハゼー。そんな緊張するなってー、もっと気楽にいこうぜ」
とエイジが声を掛けてくれる。
「そーんなこと言ったってよー、お前。この前説ってのは、台本無しのフリートークになるんだぞ! そんな気楽になんかなれねぇーよ」
そうオレがビビっていると。
「なんだよー! そんなのハゼらしくねーなぁー。なにお前! ここまで来てまだビビってんのー!」
と、オレのいまの心を見透かしたように煽ってくる。
いままでだったら、このエイジの挑発に簡単に乗って、また要らぬやる気を出しているところだろうが、さすがにこれには引っ掛からない。
そこへ、さっきのチーフADと一緒に、オレは映像でだけ見たことがある、エイジの元相方の玉田ヒロシが、そのチーフADと談笑しながら歩いてくる。
オレは思わず、そのヒロシの顔を凝視してしまう。そのまま通り過ぎてしまうかと思ったヒロシが、突然足を止めた。
そうして片足を軸にしてオレたちの方を向くと、三文芝居の悪役のような笑いを浮かべ。
「これはこれは、ソルティドッグのおふたり。頼まれてた「約束」は果たしましたからね」
と、嫌味たっぷりにそう言った。
すぐには状況が把握できなかったが、「約束」という言葉からすると、おそらくエイジがヒロシになにかを頼んだのだろう。
エイジの顔を確認みると。
「どうも、ありがとう」と、エイジがヒロシに深々と頭を下げる。
「では、ふたりのお手並み拝見……」
そうヒロシは薄ら笑いを浮かべながらまた嫌味を言うと、去り際にオレたちを馬鹿にするように一瞥して、またチーフADと談笑しながら廊下の先のスタジオに消えていった。
不本意ではあるが、またこんなカタチでやる気を出すなんて、闘志が沸いた。こんなところで負けるわけにはいけない。




