旧友との再会
それからオレたちはコンビ活動を再開しながらも、それぞれ別の活動も続けていた。
普通はここでふたり仲良く協力してというのが一般的だとは思うが、オレたちはそれとは別の選択をした。
元々「コンビ結成」の成り立ちが、他のお笑い芸人たちとは大きく違う。
普通に考えたら、「あり得なかった話」だ。
エイジとコンビを組むまで、オレの人生はごく普通のありふれれたものだったはずだし、エイジと知り合ったことでオレの人生は大きくかわった。
これまでエイジやみどリさん経由から聞いた話以外にも、オレが知らなかったお笑い芸人クサカ・エイジにも強く興味を持った。
なのでデビュー当初からクサカ・エイジのファンでもあるみどリさんから、『スキップビート』時代の映像を貸してもらって見た。
だいぶ前に『スキップビート』のネタを一つだけ映像で見たことがあるが、そのとき見たのがコンビ解散の2ヵ月ぐらい前のものだったからか、正直あまり面白いものではなかった。
だからオレがみどリさんから借りたのは、スキップビートがプロになって、最初の頃の舞台だ。
♢
「もぉー、この坊主頭がたまんねーんすよー」
エイジは相方のヒロシに軽くヘッドロックを掛けて、ヒロシの坊主頭を撫まわす。
ヒロシは照れながらも嬉しそうに目を細めて笑っている。
「ちょっとー、やめてください! これはこれでお手入れが大変なんですよー! 最低でも、一週間に一回は五厘に刈ってるんですから!」
ヒロシはヘッドロックを掛けているエイジの腕を振りほどくのだが。
「またまたー。ジョーダンばっかり言ってー」
エイジはクネクネして女のコみたいな可愛らしいポーズで、そのヒロシの頭を指さす。
「なんでですか! 寝ぐせ直すために、毎朝朝シャンしてるんですよー」
ヒロシはその坊主頭を、グッとエイジに突き出す。
「まった又ー。ジョーダンばっかりー」
エイジは凄く楽しそうに舞台で自由に遊んでいる。
こんな風にオレたちも演技の中だけじゃなく、自由に舞台の上で遊びたいものだと思った。
目指しているものは沢山あるが、これも一つの目標だ。
♢
その頃エイジは、みどりさんと共に、あるテレビ局内で働いていた古い友人と会っていた。
6年前にコンビを解散した元相方の玉田祐。今は放送作家の玉田ヒロシだ。
ヒロシはあのころとは違い坊主頭はやめて、今は普通の髪型だ。
「お前さー。なんでオレのとこに来るわけ? それもマネージャーまで連れてよ」
スタジオ収録の合間に廊下に出てきてくれたヒロシが、面倒くさそうに顔を出して言った。
「だってよー。オレ一人だと、絶対入構証出してくんねーもん」
そこはセキュリティーの関係上しょうがない。
「まっ、そりゃ、そーなんだけど……。で、なに?」
ヒロシは面倒くさそうに要件を先に聞く。
「ちょっと、待ってまって!? ヒロシくーん。随分と偉くなったものねー? でも、そういう言い方はないんじゃない? あなたがまだオールージュの所属の放送作家ってこと忘れてない?」
このヒロシのあまりにも横柄な態度を見て、ブチギレる寸前だったみどりさんが割って入る。
この放送作家やシナリオライターは、個人事業主としてやっている者も多いのだが、同じように芸能事務所や専門の会社に所属している者も多い。
ヒロシは『スキップビート』解散後も、芸能事務所『オールージュ』に所属したまま、事務所所属の先輩放送作家の下で放送作家としての修行をしていたので、問題ある行動などがあればこのような注意を受ける場合があるのである。
このみどりさんの含みを持たせた、完全に圧力を掛けた言い方は、調子に乗って伸びきっていたヒロシの鼻を簡単に縮めさせた。
「いや……はい……。どうも、すみませんでした。それで今日は、なんの御用でしょうか」
ヒロシは棒読みでその用件を聞く。
「あんさ。なんか、どっかの局の仕事もらえねーかな? なんでもいい」
なにも隠すことなくエイジが聞く。
「はぁー!? おい、そんなのは別に今更オレじゃなくてもいいじゃねーかよ!? 大体オレの仕事でもねーし!」
「ウッ、ウン」
みどりさんが咳払いをする。
「そうはいっても、オレにそんなキャスティングの権限あるわけないじゃないですかー」
「でも、全然じゃないでしょ? お願い。編成会議の中で名前出してくれるたけでもいーの」
みどりさんは両手を合わせてヒロシに頭を下げる。
「そりゃ、名前出すぐらいなら、出来なくはないですけど……。でも、実力が足りないんじゃ……」
「そう……かもしれない……。そう……だとも思う。でも、もし」
ここからエイジに代わって、みどりさんが全部話してくれる。
「それに現在は、テレビだけじゃなく、ネットとか他の媒体も色々とあるじゃないですか。だからそこで実力を見せられれば」
そうヒロシは提案する。
「そうね……。確かにうちの事務所でも芸人を集めたYouTubeの専門チャンネルもやってるし、そこで名前を売っていくってのもありかもしれない」
「でもエイジくんたちふたりは、ずっと観客たちの前での笑いを考えてやってきたから、それもあってまだそのチャンネルには出してない」
「でも、それだと今まで通り、また仲間内では面白いで終わっちゃう気がするの。わたしたちはね。メジャーの世界に行きたいのよ!」
現にお笑い芸人がYouTubeで自分のチャンネルを持って、そこで自分たちの「笑い」をアピールしている者は多い。
ただそれでもチャンネル再生数が多いのは、もうテレビに出ているメジャーな芸人に限られていることは間違いない。
「でも、そんなのただの我儘だし、自分勝手じゃないですか!?」
ヒロシはみどりさんに、そう言い返す。
「大体、こんなオレのところに頼みに来るなんて、エイジらしくねーよ! お前にはさ、プライドがねーのかよ!? 適当にやってヘラヘラ笑って、それでも最後にはお前を助けてくれる人がいるっていうのが、お前じゃねーのかよ!」
これが元相方ヒロシが知っているエイジの姿だ。
「そこは、そうかもしんなかったけどさ……。そんなプライドは、もういらねーよ。だから捨てた」
熱く捲し立てて言ってくるヒロシに対して、エイジは冷静な口調でそう言う。
「わかった……。でも期待すんなよな……」
ヒロシはそう言って腕時計で時間を確認すると、スタジオの中に戻っていった。




