強い決意
同時期、オレは「サラリーマンの方の会社」の営業部から、なんとも断りずらいお願いをされていた。
オレが「お笑い芸人」だということで、取引先から「オレたちと食事会」をしたいというのだ。
わかりやすく言えば、要は「接待」である。
これには「億単位」の契約の可能性もあるらしく、仕方なくエイジにも話して、その「食事会」を受けることにした。
食事会の当日、いわゆる高級店なるところでそれが行われたわけだが、オレもエイジも受けなければ良かったと後悔した。
食事会の参加人数は、こちら側が営業部の担当を入れた5人。あちら側が営業の担当を入れての5人である。
このあちら側の「営業部の担当を入れて」というのは、その中に「会社の者ではない関係者が二人」入っていたからである。
それは……。その関係者の女性の一人が、やたらと興奮している。
「きゃー、きゃー、きゃー! あのソルティドッグのお二人ですよねー? 前に一度劇場で見たことありますー!」
この「前に」ということは、活動休止期間を考えれば、おそらく「ずいぶん前の舞台」のことだろう。
だったら、何故今更こんな話が出てきたのだろうか。その答えは実に簡単だった。
「あのー。それでー。実はお願いがあるんですけどー」
と、その関係者の女性の一人がオレたちに詰め寄る。
「あの、トゥランド・フォーエバーの二人を紹介してください!」
なるほど。どうやらこの女性は、オレたちのファンというわけではなく、本当のファンである別のお笑い芸人を紹介して欲しいということか。
これは悩みどころだ。単に「接待」であれば、オレたちが場を盛り上げればいいことだが、他のお笑い芸人を紹介して欲しいとなると話は変わる。
実際、単に「紹介するだけ」なら簡単だが、そこから「話が上手くいく」かといったら「別問題」である。これは困った。
「奈津子ぉー、やっぱり、幾らなんでも失礼だよ」
もう一人の関係者の女性が、その身勝手な女性を窘めてくれる。
「大丈夫、大丈夫! この二人まだテレビには出られてないんだから、これぐらいしてもらわないと!」
このオレたちを馬鹿にした失礼極まりない言葉に、いわゆる「カッチーン」と怒りが湧いたとき。
「あのー、すみません。加藤さんですか。お疲れ様ですエイジです。実は急いだお願いがありまして……今日これからお時間ありますか」
と、エイジが電話で先輩芸人の『トゥランド・フォーエバー』の二人をこの接待の場に呼んでくれた。
その『トゥランド・フォーエバー』の二人の到着を待つ間も、「繋ぎ」としてオレたちが場を盛り上げる。
エイジはこの間に、その二人に電話して「詳しく根回し」をしてくれていた。
二人が到着してからは、アシスタントに徹して場を盛り上げる。
どうやら、このまま「商談」まで上手くはいきそうだ。
エイジはだいぶ酒を飲んで、完全に出来上がってしまっていて、帰るころには自分一人では歩くことも出来なかったので、オレはエイジの肩を支えて店を出た。
営業部の担当者からお礼を言われて、『トゥランド・フォーエバー』の二人に深々と頭を下げてお礼をして、オレはエイジを支えて歩き出す。
気がつくとオレに支えられていたはずのエイジが、しっかりと自分の足で歩き出していた。
「なぁ、ハゼ」
そうオレの名前を呼んだエイジの言葉はしっかりとしている。
「オレたちこれから、テレビに出ていってやんぞ!」
そう言ったエイジの目は、暗がり目の前を見つめていた。




