「あくび指南」
ここで現実問題として、どう考えてもお笑いの瞬発力ではエイジには勝てない。
オレはどちらかというと、その場での思いつきよりも「知恵と経験」を活かすタイプだ。
だからエイジと対等にやっていくためには、例え予定調和となったとしても、自分自身の笑いのスタイルを身につけるほかない。だからまた原点に戻ることにした。
オレが一番最初に「古典落語」をコントの題材にしたのは、落語家という存在が、笑いの文化の中で「普遍」のものだと思ったから。だから「古典落語」を取り入れた。
昔からあるものなのに、変わらずに面白いもの。
以前役所の手続きで区役所に行ったとき、テレビで流れていた落語家たち数人での掛け合いの番組を見ていた、まだ小学1年生ぐらいの女の子がそれを見て笑っていたので、本当にそう思ったことがある。
最初のときは「古典落語」をただなぞって、コントのようなアレンジを加えてみたが、今度はそこに「講談師」の要素を入れてみることにした。
これには、オレ自身の「表現力と演技力」も必要だ。
上手くいけば、これにエイジの瞬発力のある軽妙な笑いを足していきたとも考えている。
今回の「古典落語」のネタは「あくび指南」である。では、始めてみるとしよう。
「では、話は熊五郎が、八五郎の家にやってくるところから始まります」
この男が、主人公です。容姿はそうですねー。熊五郎だけに、クマみたいな男にしておきましょうか。
「やぁ、八つぁん」
熊五郎は、八五郎の家に真っすぐに行くと、すぐに声を掛けます。
注意・文章上は、ト書きですが、ここは講談師風なので「 」の中以外もここではすべてセリフとなります。
「おぉ、熊かどうした?」八五郎は、突然やってきた熊五郎に、少し驚きますが、快く迎えます。
しかし、突然もなにも、この江戸の時代に家に電話や持ち歩けるスマホがあるわけではないので、この頃はその前に約束でもしてない限りは、当然すべて突然です。
「いま暇かい?」
八五郎は何もしていなかったので、どう見ても暇なのはわかりますが、これも社交辞令として一応聞いておきます。
これがコントでの掛け合いなら。
「やぁ、八つぁん」
熊五郎役が声を掛けると。
「おぉ、熊かどうした? バカヤロー、来るんなら来るって、その前に電話してから来いよー! ってか、その前にこの時代に電話なんかねーじゃねーか」
こんな風に、ボケツッコミから始まるでしょう。
「ちょっとオレに付き合ってくれないか?」
だから、その答えを聞く前に、すぐに本題を言います。
「まぁ、いいが、何処に行くんだよ?」
こういうのもお約束です。
「あぁ。あくびの稽古に行こうと思ってよ」
「あくび!?」
ここは大げさに驚いて見せます。
「なんで、そんなもんをわざわざ習いに行くんだよ?」とこちらも、大げさに驚いて見せます。
「この間道を歩いてたら、あくび指南って書いてあった家があってな、気になったから行ってみたいんだけど、なんか一人じゃ心細くってよ」
ここで熊五郎は同情を誘うように弱々しく言います。
「お前ねー。どんだけ暇なんだよ!?」
「八つぁん、頼むよ! 付いて来てくれるだけでいいから!」と熊五郎は八五郎に手を合わせます。
「仕方ねーなぁー」
こうして熊五郎と八五郎は、あくびの稽古場を訪れます。
「ごめんください」熊五郎は家の中に呼び掛けます。
「はいはい」
家の中から、少し甲高い声のあくびの師匠らしき品の良さそうな男性が出てきます。
熊五郎は「あの、あくびの稽古をしていただきたいのですが」と頼みます。
「そうですか、そうですか。さぁさぁ、中へどうぞ。稽古をするのはお二人ですな?」
「いえ。こっちの奴は、今日は見学なんで」
熊五郎は、あくびの稽古をしてもらいたいのは自分一人だと断りを入れます。
「わかりました。それではあちらでご覧になっててください」
「へぇ。失礼します」
八五郎は、部屋の端の方に腰を下ろします。
「それであなたは、どこかであくびを習ったことはおありかな?」
「いえ。今日が初めてです」
「ふむ。あくびというものは、春・夏・秋・冬の四つの種類に別れておりましてな。初めての方は、夏から始めるのがいいでしょう」
あくびの師匠は、あくびが大層なことであるかのように説明をします。
「そしたら、夏のあくびを教えてください」
「よろしい。まず、状況から説明しますと、夏の午後過ぎ。あなたは船に乗っています。その船は岸につながれていて、向こうでは船頭が暇そうにタバコを吸っています」
あくびの師匠は、その船頭の様子を演じてみせます。
「ほぉ」
それを見て感心する熊五郎。
「ここであくびをするには、まずは船に揺られている心持になって、こう体をゆっくりと揺らしましてな」
更にあくびの師匠は身振り手振りの演技を入れて、熊五郎に説明をします。
「それから船頭に向かって、おい船頭さん。そろそろ船を出しておくれ。これから山谷堀に上がって一杯やってな、吉原にでも行って、粋な遊びをしてこよう。と声を掛けるんです」
「ふむふむ」熊五郎は、このあくびの師匠の演技に感心します。
「それから船もいいが、一日乗ってると、退屈で退屈で。という具合にあくびをします」
最後に、あくびの師匠は大きなあくびをしてみせます。
「おおー! これは名人芸ですなー」熊五郎は、このあくびの師匠の演技にえらく感心しました。
「それではあなたもやってみてください。まずは船に揺られている心持になって、体を揺すります」
「こうですか?」
熊五郎もあくびの師匠に負けじと演じます。
「ええ。そんな感じです。それから船頭に声を掛けてください」
「おぉーう、船頭!」
熊五郎は上ずった大きな声で言います。
「そんな乱暴な言い方ではいけません。もっと退屈そうに。おい、船頭さん。と声を掛けるんです」
「お、おい、船頭さん」
「まぁ、いいでしょう。では、セリフを続けてください」
「そろそろ船を出してくれ。これから山谷堀に上がって一杯やってな、吉原にでも転がり込んで」
「そんな転がり込むだなんて品がありませんねー。吉原にでも行って。としてください」
そんな熊五郎の日ごろの言葉づかいを、あくびの師匠は注意します。
「えー、吉原にでも行って、するってぇと馴染みの女がいましてね。あら、あなた随分と御無沙汰じゃないの。どうせ他の女のところにでも通ってたんでしょ? そうやって私のこと妬かせるんだよ。憎い男だねー。ってオレの太ももあたりを、キュッとつねるんだよ」
熊五郎は、そんな花魁の真似を身振り手振りを入れて演じてみせます。
「余計なことをベラベラと話さなくてよろしい! 早くあくびのところをやってみてください!」
あくびの師匠は、ひょっとしてこの熊五郎の演技に嫉妬したのでしょうか。
「はいはい。えー、船もいいが、一日乗ってると、退屈で退屈で……。ヘクション!」
熊五郎は不意に鼻がムズムズして、大きなクシャミをしてしまいます。
「クシャミじゃなく、あくびをするんですよ、あくびを!」
「まったく、なにやってるんだい」
この様子をずっと見ていた八五郎が声を掛けます。
「あくびなんて教わる方も教わる方だが、教える方も教える方だよ……。演技を教わりたいなら、役者にでも教わったらどうだい?」
八五郎は、このよくわからない二人のやり取りに呆れ果て。
「こんな退屈なのを見せられて、オレは退屈で退屈で、ふわぁ~ぁ」
大きなあくびをします。
「おや。お連れさんの方が起用でらっしゃる」
見てるだけであくびを覚えた。
「お後がよろしいようで」
と、ここまででオチです。
ここからは通常の読み方にお戻りください。
この寄席でのウケは、まずまずの良い感触を覚えた。
これからいろいろと作りたいネタもあるが、これも一つの方向性として間違っていないはずだ。




