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人生は上々だ -人生、山あり谷あり、舞台あり-  作者: 志村けんじ


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再会

 ここまでコンビ結成から、もうすぐ6年になり、良くも悪くもいろんなことがあった。


 エイジは自分のトラウマを必死に克服しようとしているが、オレはそのことにかまけてなにもしていない。


 自分自身の問題は、やはり自分自身で解決するしかない。


 もうこの問題をひとりだけで解決することは無理だと判断したオレは、一度マネージャーのみどりさんに相談することにした。



「やっと来たねー。意地っ張りー」


 待ち合わせの喫茶店に行くと、みどりさんはそう言って笑った。


「そんな、意地なんて張ってませんよー」


「だったらこの1年の間、なにしてたのー。なんの連絡もしてくれないし。もしかして、これから会社員だけしていくつもりだったー、なーんてことないわよね?」


「はい……いや、芸人を休んで……いや、サボってました」


「そこは正直……なのかなー。エイジくんのこと、聞きたいよね」


 ここでオレはみどりさんに、エイジの幼稚園のときから、現在いまに至るまでの、エイジが話したすべてを聞いた。


「ということなのよねー。それで今もエイジくんは、絶賛リハビリ中ってわけ」


「……」


 オレはなんと答えればいいのかわからなかった。


「でも嬉しいでしょ。ハゼ・ヨウイチというひとりの芸人として、クサカ・エイジという芸人にそこまで見染められて」


「そんな見染められてって!? そんな気持ち悪い言い方しないでくださいよー!」


 そうは言ったが、内心では、ほくそ笑むほど嬉しかった。


「それで、オレはどうしたらいいと思います?」


 改めて、本題の相談を聞いてみる。


「それねー。でもハゼくんの悩み事は、アタシじゃ解決出来ないんじゃないかなー、ってことで、一番の相談相手を読んでおいた。それじゃ、あとはおふたりでよろしく!」


 そう言ったみどりさんの視線の先をみると、そこにエイジが立っていた。


「よぉー。久しぶりー」


 それが一年ぶりに会った、エイジの第一声だった。


 黒髪に染めていたと聞いていた頭は、元の茶髪に戻り、オレが知っているエイジそのままだった。


「それじゃ、ここの会計は経費で落としておくから、あとはふたりで相談してね」


 そう言ってみどりさんは、注文のレシートを持っていく。


 こんなに久しぶりに会うと、なんだか緊張する。


「久しぶりだな。元気だったか?」


 オレは久しぶりに会う伯父が、甥っ子にいうように言った。


「なんだよ! お前まさか緊張してんのー?」


 明らかに緊張した様子のエイジを、わざとからかう。


「緊張? そんなオレが緊張するわけ……。噓……今スゲー緊張してんよー」


「なら、しばらく待ってやるよ」


 実のところ、オレもエイジの顔を見たときは、たぶんやつと同じぐらい緊張している。


 アイスコーヒーの中の氷が解けて、コップのまわりの水滴がコースターをたっぷりと濡らす。


「もう出るか。どんだけ緊張してんだよ、お前は」


 と、エイジに声を掛けた。


 徐々に暗くなっていた外は、喫茶店を出るころには、もう夜になっていた。


「お前さー。らしくねーんだよ! 緊張するなんて! ノリと勢いがお前の信条なんだからよー! しっかりしてくれないと、オレも困るぞ!」


 相談しに来たオレが、相談に乗るために呼ばれて来たエイジにカツを入れるなんて、なんだか、おかしな話だ。


「悪ぃ……」


 エイジは申し訳なさそうに小さく謝る。


「お前、ひとりで舞台の前に立つのは緊張するけど、ふたりで舞台に立つんなら緊張はしないんだろ。それに此処は、舞台の上じゃなく、ただの路上だ」


「悪ぃ……」


 またエイジは申し訳なさそうに小さく謝る。


「お前ねー。そんな弱気なところを見せてたら、寄ってきた女のコたちも、なんにもないままそのまま逃げられちゃうよー」


 そんな風に冗談でからかってみた。


「そんなこと……そんなこと、言わないでくれよー! オレは、お前じゃなきゃ駄目なんだよー!」


「な!? お前、なに気持ち悪いこと言ってんだよ!? オレは男だぞー!? 気持ち悪ぃーな!」


「オレの漫才の相方は、絶対にお前じゃなきゃダメなんだよー!」


 そうエイジが大声で叫ぶ。


 最初のエイジが叫んだ「お前じゃなきゃ駄目なんだよー」を聞いたまわりの人たちも、どうやら同性のカップルだと勘違いしていたみたいだが、そのまますぐに「漫才の相方」と聞いて、すぐに誤解はなくなったようである。


 同じように勘違いしたオレも「漫才の相方」と聞いて、すぐに冷静になった。


「どうもすみませーん。お騒がせしまして」


 これを見ていたまったく関係のないまわりの通行人にぺこぺこと頭を下げて、エイジを他所に連れていく。


「ほら、行くぞ! 相方」


 またまた運良く近くにあった小さな児童公園にエイジを連れていく。


「また公園かよ。なんか青春してんなー、オレたち」


 初めは冗談ぽく言っておかないと、絶対にあとから照れる。


「お前の言ってることは、大体わかる。お前と会う前にみどりさんに全部聞いたからな」


「んじゃ、みどりさんには、頭上がんねーなー」


「ホント、そうだな……。で、どうよ。司会の方は? ひとりでも緊張せずに上手くなったか? そこは司会を始めた最初の頃のことしか聞いてねーぞ」


「さすがに慣れた」


「自信は?」


「ある……」


「だったらもっと堂々とオレと会えばよかったじゃねーかよ」


「お笑いのことをなんもしてなかったハゼに、このまま捨てられるんじゃないかと思ったからさ」


「お前はまたそんな気持ち悪い言い方を……」


 エイジの「なんもしてなかったハゼに」に関してはなにも言い返せすことできない。


「オレが捨てんのはな……。自分の中にある、余計なプライドだ」


 そう、エイジと自分自身に答えた。


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