三連覇
そこから更に調子に乗ったエイジとヒロシは、次々に漫才やコントをみんなの前でしていくわけだが、正直いって、ネタを書く方からしてみれば、たまったものじゃない。
よくこのヒロシは平気だったもんだと感心する。
これが高校生の遊びの内なら別になんでもないのかもしれないが、これからこのふたりはプロとしての舞台に上がったわけだから、それを思えばこのヒロシに少し同情する。
ネタを考えて作り出すのは、そんなに簡単なことではない。
それでも学校内での『スキップビート』の快進撃は止まらなかった。
エイジの話を聞く限り、ヒロシは漫才よりもコントのネタを書く方が得意としていたようだ。
コントのネタは、基本的にエイジ一人での登場から始まり、そこにヒロシがやってくるというシチュエーションが多かったようだ。
そうしてそのままの勢いで、高校1年生のときの秋の文化祭で行われた「お笑いコンテスト」に出場すると、そこでYouTubeで見たドリフの「ひげダンス」のネタを少しアレンジしたものを披露して優勝。
その次の年の高校2年のときの文化祭では「本屋でのシチュエーション」のコントを披露した。
「コント! 本屋!」エイジのしゃがれた甲高い声でコントが始まる。
本屋の店主役のエイジは、バラエティーショップで買ってきたバーコード頭のハゲヅラを被り、太い黒ぶちの眼鏡を掛けて、叩きを持ってセットの本棚を掃除している。
そこに自分の高校のブレザーの制服ではなく、詰襟の黒の学生服を着たヒロシがやってくる。
「はい。いらっしゃい」
ヒロシは店内を歩いて、本棚にある本を立ち読みしていく。
その様子を怪しんで、横目で見ているエイジ。
ヒロシが場所を変えて本を立ち読みしていくたびに、エイジのヒロシへの監視は大胆になっていく。
エイジは、ヒロシの真後ろに立って、ヒロシが立ち読みしている本を覗き込む。
「なんですかー!? さっきから! なんかようですか!?」
「いやぁ~。その本、面白い?」
いやらしい口調でエイジが聞く。
「はい……おもしろいです」
「じゃ、買ってよー。面白いんでしょ」
困惑して答えるヒロシに、エイジがまたいやらしい口調で催促する。
「いや……」
「ねぇ、買ってよー! 買って! 買ってー!」
エイジはまるで駄々をこねる幼い子どもの様に両腕をバタバタとさせる。
「買って! 買ってー!」
エイジは床に寝転んで、両手両足をバタバタとさせる。
「わかりましたよー! 買いますよー! 買います!」
そうヒロシが諦めて言うと、エイジは真顔になって立ち上がり。
「いやー。良かったよー。危うくお兄ちゃんのこと、万引きで通報するとこだったよ。良かったねー、お兄ちゃん」
エイジがそう笑って答えると、ヒロシは怒り。
「はぁ!? だったら、この本買うのやめます」
と、持っていた本を突き返す。
エイジはニヤニヤ笑って。
「ホントにそれでいいのーお兄ちゃん? もうすぐパトカーが目の前を通る時間だよー」
と、体育館にいる観客たちに向けて、いやらしく笑ったところでコントは終了。
最後のところは少々ブラックユーモアだが、エイジのことをよく活かしているネタだと、現在の相方としても思う。
♢
ともかく、この頃からエイジたち『スキップビート』は、近隣の高校生たちのSNSの間で、度々話題に上がっていた。
ここからエイジの女遊びが加速していくわけだが、一切悪びれることのないエイジには、近寄ってきて関係を持った女子からも本命ではなく単なる遊びと割り切られていることがほとんどだったようで、
単にただ一緒に遊んだり食事をしたり、ときにはそれ以上のことをしたりと、特に女子から恨まれることもなかったそうだが、
そのこのことを聞いた男子たちからは、羨望の眼差し半分、嫉妬による恨み半分と、その反応がニブンしていたというのが、やつらしくて笑える。
おそらく羨望の眼差しで見ていた男子たちからは、それを上回るような人望があったのだろうとは思う。
そして高校3年生のときの文化祭での「お笑いコンテスト」では、2年連続のディフェンディングチャンピオンとして、なんと去年の倍近い観客を集めたというから驚きだ。
重複するようだが、エイジからどこか盛ったような自慢話を聞かされたときと、みどリさんがエイジから真面目に聞いた話では、なんというか話のニュアンスが違うように感じる。
もちろん、みどリさんが聞いた話の方が、より具体的で話もわかりやすい。
この状況にエイジもヒロシも緊張しないわけはない。
この体育館に集まった他校の生徒を含めた観客は、みんなエイジとヒロシの『スキップビート』のネタを見に来ているわけだ。
「おいおいおい、大丈夫かよ、オレたち!?」
観客が入って満員状態の体育館の様子を舞台袖で見たヒロシが、エイジに聞いた。
「だ、大丈夫だって。が、頑張ろうぜー」
さすがにこのときは、エイジもアレとは別に、舞台に立つ前に緊張したそうだ。
そしてエイジとヒロシの『スキップビート』の出番は、最後の最後の大トリだ。
生徒会の文化祭実行委員会も、しっかりとお膳立てをしてくれたらしい。
今回の『スキップビート』が披露するネタは、フリートークに見せた漫才になる。
これが良かった。コントのときと違って、エイジが一人で舞台に立って始まるネタではない。
これはエイジにとっては、万死に一生を得たといった感じか。
観客席から向かって舞台の右袖から小走りでヒロシがセンターマイクの前に立つと、ヒロシは観客席に向かって笑顔で手を振る。今回ヒロシは坊主頭ではない。
ここにきて見た目を気にして、ちょっとだけ髪の毛を伸ばした。
そのヒロシがセンターマイクの前に立つのを待って、向かって舞台の左袖からエイジが両手を振りながら、笑顔でゆっくりとセンターマイクの前に到着する。
エイジはセンターマイクの前に立つと。
「いやいやいや。みなさんお待たせしました!」
「お前、遅いって! そんなにゆっくりしてたら日が暮れちゃうよー」
このヒロシのスローなツッコミに。
「みなさん、すみませんねー。こんなアンパンみたいな顔を、長い時間見させちゃって」
とエイジが返す。
「そんなアンパンみたいな顔はねーだろ! こんな絶世の美男子を捕まえて!」
「美男子? はて? 何処にそんな美男子?」
「此処にいるじゃねーか、絶世の美男子が!」
「はて?」
エイジは、舞台と観客席を見渡す。
「いませんよねー、美男子。みなさんの中で、我こそはと思う方はこちらに上がってきてください」
とエイジは観客席に向かって呼びかける。
「いやいやいや。それはおかしいでしょー。こんなすぐそばに絶世の美男子がいるってーのに」
「はて? これが絶世の美男子ーっていうなら、此処にいるこのオレは?」
エイジはヒロシの顔を左手で指したあと、続けて自分の顔を指す。
「それは……」
ヒロシがゴモゴモと口ごもる。
「いやー。オレもカッコイイとは、昔からずいぶんと言われてきたけど、まさか此処で、自分で自分のことを、絶世の美男子っていう人にお会いできるとはー」
とエイジは、いやらしい目つきでヒロシの顔をを見る。
「よーし! それなら僕ではなく、君を絶世の美男子としよう! その方が丸く収まる!」
そう言ってヒロシは、話の矛先をエイジに向ける。
エイジは、それに対して。
「いやいやいや。もぉ、あなたには負けますよー。だってオレ自分を犠牲にして、みんなのこと救えないもん。では、一曲お願いします! 曲は、アンパ……マンのマーチ!」
エイジのその曲紹介と共に、ヒロシがノリノリで歌いだす。
「そおだ! アンパ……マン、やーさしい君は……愛と勇気だけがとーもだちさー」
その歌の一番を熱唱するヒロシ。ここで歌の二番をエイジに譲る。
「なぁーにがキミっのしあっわせー! なーにをしってーよろっこぶー!」
そう。これは演技ではない。エイジは本当に正真正銘の音痴なのだ。
その熱唱を終えたエイジをヒロシがいじる。いつもとは真逆だ。それを笑いに変える。
「みなさん、お聞きしましたか? どんなに見た目がちょっと良くっても、人間は必ず欠点はあるんですよー。だからー、みんな自信を持って!」
その真横ではエイジが頭をもたげて、地面の石ころを蹴るような仕草を見せて落ち込んでいる。
ヒロシは右手をエイジの肩に優しく置いて。
「大丈夫。人間、歌だけじゃないって」
このオチを聞いて、観客席の小さな笑い声が、沢山の大きな笑い声に変わる。
「どうもー! ありがとうございましたー」
と、ふたりで深々としたお辞儀をして、観客席のから見て舞台の左袖に向かって小走りで去っていく。
これで高校の文化祭での「お笑いコンテスト」の優勝は、3年連続で『スキップビート』に決定した。




