スキップビート結成
「それじゃ、今まであんまり詳しくは聞いたことなかった、スキップビート結成の話を教えてくれない」
みどりさんはついでならと、そこからの話を全部聞いてみたくなったそうだ。
「えーっ、みどりさーん、それだどちょっと話変わってきませんかー?」
これにはエイジも軽く拒否したらしい。
「良いのいいの! 乗り掛かったなんとかじゃない! それにクサカ・エイジのファンとしても個人的に興味あるしね」
そこは完全な興味本位だ。
「だから、みどりさーん、それだとちょっと軽すぎませんかー」
ここに来て、エイジはそのことを話して、なにか困るようなことでもあったのだろうか。
「良いのいいのー。いいから話して」
みどりさんは、それでも強く押し切り、エイジもエイジも観念して『スキップビート』結成のときのことを話す。
「えーっとですねー。あの「ひげダンス」のあとに、漫才とかコントとか、クラスのみんなの前でやるようになったんですがー、初めはなーんも考えずにやってましたね。スキップビートってコンビ名も、その場の思いつきでオレが言いました」
その『スキップビート』誕生の瞬間がこれだ。
お昼休みに教室でみんなが弁当を食べている前で、エイジと相方のヒロシが揃ったスキップをして教壇の前に来ると、そこで漫才を始める。
「どぉーもぉー! スキップビートでーす!」
立ち位置は、向かって左側がエイジで、右側がヒロシで、エイジの立ち位置は『ソルティドッグ』とは逆だ。
エイジのそのときの思いつきのコンビ名が『スキップビート』なのは、クラスの誰かが掛けていたラジカセから流れていたラジオのリクエスト曲が『スキップビート』だったからだそうだ。
そこに後から、地元の神奈川県茅ヶ崎市出身の有名歌手という理由が加わる。
「いやさー。最近、暑ぃんだよねー!」エイジがフリの話を始める。
「そくなの夏なんだから、当たり前じゃねーの」とヒロシが返す。
「それにしても暑ぃんだよ! ちょっと暑すぎねー?」
エイジは開襟シャツの胸元を広げて、ノートで扇ぐ。
「そんなの夏なんだから、もぉー諦めろよー」
このときヒロシは、完全に棒読みだったそうだ。
「そんなこと言ったよー……って、眩し!」
突然エイジは、ヒロシの方に向けていた顔を左腕で遮る仕草をする。
「もぉー!? 暑ぃ暑ぃと思ってたら、こんな近くにもう一つ太陽があんじゃんよー! うわっ! 暑ぃし、眩しい!」
と、エイジは大げさに後ずさりする。
ここからはオチだ。
相方のヒロシはここでお坊さんがするようなポーズをとる。
これを見てまた大げさに驚いたエイジは、ヒロシに向かって手を合わせ。
「暑い暑いと思ってましたが、隣りにいたのは実は神様でしたか。お願いします! この暑さをなんとかしてください!」
と、エイジがさらにわざとらしく拝む。
「わかった。そなたの願い叶えて進ぜよう」
と、ヒロシはリモコンに見立てた手に持っていたペンケースを黒板の方に向けると、「ピッ」と言って。
「エアコンの風、涼っしーい!」
と、エイジは両手を広げてエアコンの風に当たる仕草を見せ。
「って、結局エアコンじゃねーか!? いい加減しろよ、このハゲ! みんなの前で眩しいのは、オレ一人で充分なんだよ!」
「じゃんじゃん」
とヒロシは、みんなの方に顔を向けて、悲しげに苦笑いをする。
「どうもー、ありがとうございましたー!」
それで教室にいたみんなの反応は。
「頼むー。本当に教室にエアコン付けてくれー。神様ーお願いしまーす」
教室にいたクラスメイトの1人が、わざと聞こえるように叫ぶ。
ふたりの漫才のときより、こっちの方が笑い声は大きい。
「もぉー。そっちでオイシイところ、全部持ってかないでくれよー!」
エイジはすかさず、ツッコミを入れる。
ここでまたひと笑い起こったそうだが、高校生の書くネタの「笑い」なんてのは、まぁ、こんなものだろう。




