コンビ解散?
そんなオレの気持ちとは裏腹に、エイジは自分自身に負けていた。
人の走りは人生というものは単純ではなく、早々に上手くはいかないものだ。
もう1年以上も続く、美苑が金銭面でもサポートしてくれていることに安心したのか、エイジは同じようにまだメジャーになれていないお笑い芸人たちと集まり、日々パチンコ、トランプ、麻雀とギャンブルに明け暮れていた。
それでも、ずっとエイジを見守って我慢していた美苑の堪忍袋の緒が切れる。
「アンタ、どうするん!? こんな、毎日毎日、賭け事ばっかり! 一体全体どういうつもりー! アンタの借金返すために、アタシは一生懸命頑張ってるんやで! それわかってんの!」
美苑は、エイジに反論する隙を一切与えず捲し立てる。どの道、エイジに反論できる余地はない。
ここまで美苑が頑張ってきたのは、全部エイジの為だ。
こうなってしまうと、男女の関係は凄く脆い。これまでの愛情が、ただの無関心に変わることなど、わかっていたはずのことだ。
美苑は、その後もコスプレイヤータレントとして、相変わらず雑誌、テレビなどと活躍はしていたが、もうエイジの為になにかをすることはなかった。
そのままエイジと美苑は、特になにかを話すわけでもなく別れた。
そうしてエイジは、まるで坂道を転がるように、更に堕落していく。
このときは自暴自棄で、もうどうにでもなれと思っていたのかもしれない。
あれから更に半年ほどが過ぎ、「ソルティドッグ」のコンビとしての活動も、ほとんど舞台に上がれないまま開店休業状態が続く。
そんなある日、エイジが講壇に上がっている素人落語の寄席にエイジがいることに気づいた。
ただそれだけの話なのに、オレはそれを見て動揺して、冷汗が額から流れる。
なに動揺してる。ただ、いつも通りにやればいい。エイジとの関係だって、出会ってもう5年以上だ……。なにを今さら緊張する必要がある……。
落語のセリフが飛ぶ……。
そのまま上手く立て直せることなく、講壇を降りた。
♢
寄席を出ると、照明の薄明りの中で、エイジがオレを待っている。
「なんだよ。来てたのかよ。先に言えよ」そう、誤魔化した。
「あんさ……。話、聞いてくれっかな」
エイジは神妙に言った。
「なんだよ。改まって。どんな話だ」
「……」
そう聞いても、エイジは答えずに無言だ。
「場所を変えるか」
オレたちは寄席の前から場所を変えて、人気のない近くの小さな公園に移った。
こういうときの公園は、ドラマや映画のワンシーンみたいで、なんだか雰囲気がある。
オレはベンチに腰を下ろして、途中に自販機で買ってきた、まだ温かい缶コーヒーを開けて一口飲んだ。
「なんだよ。お前も座れよ」
そう言っても、エイジは同じ缶コーヒーを握ったまま、黙って立っている。
「あんさ……」
ようやくエイジが口を開いた。
「あんさ……。一旦、解散してーんだわ」
それはオレも予想していなかった。
「解散? 一旦だったら、それをいうなら活動休止だろ。で、いつまで?」
「わかんね……。取りあえず、一旦」
「まぁ、今も活動休止してるようなもんちゃもんだからな。それで残ってる舞台はどうする?」
まだ少しだけだが、オレたちが立てる舞台が残っていた。
「もう。断んべ。このままやってても意味ないべ」
確かに、これといった向上もなく、ただやっているだけの舞台に意味はない。
オレが少し持ち直していた代わりに、エイジのモチベーションは上がらないでいる。
「そうだな……。このままじゃ、もうやれねーか。そっちが言い出しっぺなんだから、お前が事務所に話せよな」
心にもないことを口にする。
「……わかった。じゃ」
そう言葉を交わして別れた。
情けなくもあり、その場所に残されたオレは、どうしようもないやるせない怒りがこみ上げる。
「ふ……ふざけんなーー!」
もうとっくの前に、冷たくなっていた飲みかけの缶コーヒーを、オレは地面に叩きつけた。
その叩きつけられた缶コーヒーの音が、誰もいない静かな公園の中に響いた。




