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人生は上々だ -人生、山あり谷あり、舞台あり-  作者: 志村けんじ


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彼女の違い 美苑

 ここまで過去をさかのぼってみると、実はエイジはとっても良いやつで、駄目なのはむしろオレの方だと思うことだろう。


 だが、ここにも落とし穴があった。


 ここまでの話、いまのオレが言える立場ではないとは思うが、エイジはごく普通の仕事をするのは基本的に嫌いで、元々は「かなりお金にはだらしない性格」である。


 いまは少し真面目なところを装ってはいるが、これが美苑みそのにバレる。


 ある日、美苑みそのがエイジの部屋を掃除に来てくれていたときのこと、美苑みそのが不揃いに並ぶマンガだらけの本棚から、ちょっとはみ出していた封筒を見つける。


 美苑みそのは、その封筒を引っ張り出すと、見なければよかったその封筒の中の紙を見てしまったのである。


「コレ、なーにぃー!? コレ! なんやのぉー!?」


 それを見て、美苑みそのは大声で叫んだ。


 封筒の中身は、これまで溜まっていた借金の督促状だったからである。


「エイジ。コレ、なに?」


 美苑みそのは、その督促状の紙を見つめながら尋問した。


 一緒に別のところを片づけていたエイジの身体からだが一瞬で固まる。


「さ……さ~て? なんのことでしょうか?」


 こういったときの「隠していたことがバレたとき」のよくあるテンプレートでエイジが返す。


「ほかには?」


 更に美苑みそのが追及する。


 エイジのこれまでの借金がこれだけではないはずだと、おそらくエイジの普段の生活を見ていて思ったのだろう。


 現に、エイジの借金はこれだけではない。足らない分を借金で賄い。また借金を返すための別の借金を繰り返してはいた。


 気がつけばエイジの借金は、この段階で簡単には返せない額にまで膨らんでいた。


 実際、あの箱根の団体旅行でみんなが立て替えた旅費も、そのままうやむやになっていた。


 エイジは、ズボンのポケットからはみ出すぐらいのデカい財布は持ってはいたが、その中身がカラなのはしょっちゅうのことだ。


 だから、そのことを知っている人間にとっては、もうどうってことはない普通の話だった。


 それでもそのエイジが、ある程度の生活ができていたのは、一番はじめの方で話した、「何故か他人がいつも助けてくれる世渡り上手」によるものだ。


 だから美苑みそのも、当然の如くそうなったのである。


 但し、美苑みそのの場合はちょっとだけ違っていた。


 美苑みそのは看護師といっても、まだ3年間の看護学校を卒業したばかりのまだ1年目の新人看護師である。


 だから特にエイジに貸せるだけの貯金があるかとかそういうわけではない。


 しかし、コスプレイヤーとしては、もう5年のキャリアがあり、前にも話したが、かなり人気のコスプレイヤーでもある。


 エイジとの出会いの場がそうであったように、大きなコスプレイベントでは、数多くのファンを集めている。


 だからそれを武器にして、芸能事務所や雑誌社に自分を売り込んだのだ。


 当然の如く、我が芸能事務オールージュにも、真っ先に売り込みがされた。


「ホンマ、ウチ、頑張りたいんですよー。なんとかなりません?」


 と美苑みそのは、チーフマネージャーの荒田さんに食らいついたそうだ。


「あっ、でもうちはまだコスプレイヤーの所属は無いしー……」


 この美苑みそのの強すぎる売り込みには荒田さんもタジタジだ。


「ほんなら、ウチが第一号でいいじゃないですか!」


 美苑みそのは、更に荒田さんに詰め寄る。


「あっ、いや……。でも、どうやって売り込めばいいか……」


 あの冷静沈着な荒田さんが、ここまで追い詰められることなど滅多にない。


「そんなん、いまたくさん、コスプレイヤーが雑誌の表紙に出ているじゃないですかー!」


 美苑みそのはよくある具体例を挙げる。


「いや。いきなり表紙っていうのは、ちょっと……。それに雑誌っていうのは、最初ちょっと載るときはギャラは出ないのが普通だよ……」


 荒田さんは、美苑みそのにその事実を伝えて逃げようとしのたが。


「ほんなら、雑誌に出て、いつからギャラが貰えるんですか!?」


 それでも美苑みそのは諦めなかった。


「だから……」


 あまりの美苑みそのの熱意に、荒田さんはそこから逃げ場を失った。


 結局、荒田さんは、業界の伝手つてを使って、そのジャンルが得意なモデル事務所に美苑みそのを紹介した。


 ここから美苑みそのの快進撃……と、そう簡単に上手くいったわけではない。


 それでも美苑みそののコスプレイヤータレントとしての人気は徐々に上がっていき、1年が過ぎた頃には、雑誌のグラビアだけでなく、インターネットで大手が制作しているテレビ番組などにも出るくらいになっていた。


 お気づきだろうか? すでにオレたち「ソルティドッグ」は、とうに美苑みそのに抜かされていたということを。


 この間に、オレたちが特になにをしていたかというと、そんなことはなく。


 現状維持といえば聞こえはいいが惰性での生活が続いていた。


 オレは淡々とサラリーマンとしての仕事をこなし、空いている時間にエイジと共に「お笑いの舞台」に上がる。 


 だがそれは、流れ作業のような右からの左、左から右への単純なものであり、エイジは美苑みそのに尻を叩かれながら、それなりにアルバイトも頑張り、同じように淡々と舞台に上がっていた。


 芽衣めいとの関係も、少し冷めたところはあったが、そのまま続いていた。


 そんなある日。久しぶりに、オレ、エイジ、美苑みその芽衣めいの4人で顔を合わせるときがある。


 この4人が揃ってが顔を会わせるのも、「出禁」になったあの日以来、もう1年以上ぶりの話だ。


 何事もなく、事が過ぎようとしていたとき、テーブルの上の芽衣めいのスマートフォンが光り、芽衣めいはテーブル席から立ち上がって会話が聞こえない離れたところに電話しに行くと、5分ほど電話してから、さっきとは違く満面の笑みで席に戻ってくる。


 美苑みそのはその芽衣めいを見て、はっきりと嫌な顔をしている。


「なんか、良いことあった?」


 オレは聞いた。


「ん。ちょっと」


 芽衣めいはそう答えをはぐらかす。


 美苑みそのは、その芽衣めいにストレートに切り込んだ。


「アンタ。新しいオトコやろ? 今度はどんな芸人や? もうずいぶんと前から知ってんで、アンタがまだ売れてない芸人と寝るのが趣味のオンナっていうこと」


 一瞬で、他3人の表情かおが固まる。


「なに、馬鹿なこと言って」


 芽衣めいはやんわりと否定する。


「ホンマに嘘やったら、もっと強く否定するんやない? アンタ、実際に有名やんか。そういう趣味のオンナって」


 そう言われて芽衣めいは床を蹴とばすように立ち上がり、オレがついこの前に誕生日プレゼントであげたバッグを掴んで、そのまま店を出ていった。


「ごめん。悪かったわ……。こんなことを今さら言うてもうて……。ホンマ、ごめん!」


 たぶん美苑みそののこの「ごめん」の言葉に噓はない。


 その後、芽衣めいがオレたちの前に顔を現すことはなかった。


 美苑の言った、芽衣めいの「趣味」というのは、どうやら本当のことらしい。


 今までは隠し通せてはいたようだが、どうやらオレとの関係があからさまになったことから目立つようになり、そこからぼろが出たようだ。


 オレ以外にも、オレと同じように芽衣めいの色仕掛けに負けた、「まだ売れてはいない芸人」はそれなりの数居たとのことだ。


 くわばらくわばら……。もう悪いオンナには引っ掛かりませんように。


 しかし、今更ながら、2人続けて「浮気」されるようとは……。オレもまたずいぶんと情けない男だ。

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