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人生は上々だ -人生、山あり谷あり、舞台あり-  作者: 志村けんじ


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お笑い芸人の舞台裏

「ってか、なにを言ってんだお前はー!? 馬鹿じゃねぇーの!」


 オレのツッコミと共に、すぐ目の前に座っている観客たちから、溢れんばかりの大きな笑い声が聞こえる。


 ここは熱気であふれかえる、お笑いの舞台劇場だ。


 オレは現在いま、最高の相方と共に、最高のお笑いの舞台に立っている。


 最後には、そんな物語だ。そうなることを望んでいる。



 人生にいて「笑い」というのは、絶対に欠かせないものだ。しかしながら、それがお笑い芸人という職業にしてしまうと、楽しいだけでなく、辛く苦しいと思うときもある。


 昨今は、今までのテレビやラジオなどのメディアだけでなく、多数の動画配信サービスにより、誰もが自分のチャンネルを持ってネット配信での「笑い」を発信することも可能だ。


 それなので、もうほとんどテレビを見ないという人たちも増えているという人も増えているのが実情だ。


 そんな現代の世の中ではあるが、それでもオレたちは、子どもの頃から沢山の「笑い」を見せてくれていた、その原点ともいうべき一つのテレビに拘りたいと思う。


 オレ、土師洋一はぜよういちが、相方である日下英慈くさかえいじと『ソルティドッグ』というお笑いコンビを結成して、もうすぐ6年になる。


 オレはエイジの不用意な挑発やおだてにまんまと引っ掛かってしまい、エイジとコンビを組み「お笑い芸人」となってしまった。


 そこからそれなりの山あり谷ありを経験し、いまも「お笑い芸人」と「サラリーマン」の二足の草鞋を履き続けている。


 まわりからは面白いおもしろいと言われ続けてはいるのだが、今だ目標のテレビというメジャーの舞台には立てないままくすぶっているのが現状である。


 気がつけば、今年で28歳(にじゅうはち)になるのだが、もう親族で「お笑い芸人」を続けていることを応援してくれる人は誰一人としていない。


 もし、後悔があるとするならば、あのときエイジとの「賭けに勝って」、そのときに「お笑い芸人」をきっぱりと辞めていればと思うときもある。


 いや……もし「賭けに勝っていれば」、もっと「お笑い」が好きになって続けていたと思う。


 それほどに、なんだかんだと言っても「お笑い」が大好きだ。


 それでも人生に()いて、楽しみや喜びだけでなく、迷いながら辛く苦しいと思うときは必ずある。


 そんなオレたちの「舞台裏」の物語を、少しだけ見てほしいと思う。


 思い返せば6年前。ようやく就職活動が一段落して、ホッと一息ついていたとき、エイジ(あいつ)はオレの前に現れた。

 


 やつは当時からすでに一介のプロのお笑い芸人ではあったが、もちろんテレビで顔を見るような一握りの芸人などではなく、ひとりのお笑い芸人としても危機的状況であった。


 オレの知る限り順を追って話をすると、そのエイジの高校生からプロのお笑い芸人になるまでの栄光の自慢話がどこまで本当なのかはわからないが、エイジから聞いた話はこうだ。


 エイジは小さいときからお笑い番組が大好きで、ずっとお笑い芸人の世界に憧れ、気がつけばお笑い芸人なっていたそうだ。


 その気がつけばというのが、最初から計算しているのかしていないのかよくわからないなんともやつらしいところなのだが、お笑い芸人となったきっかけはというのはやっぱりある。


 それは高校1年のとき。小学生のときからずっと仲の良かった同じ高校のツレと、ノリで漫才コンビを結成したことに始まる。


 もちろん、誘ったのはエイジの方からだ。


 コンビの名は、地元の神奈川県茅ヶ崎市出身の有名歌手の名曲にあやかって、『スキップビート』。


 名づけたのはエイジだというが、これも疑わしい。何故なら、やつにはネーミングセンスというものが感じられない。


 このオレたちのコンビ名も、単純にオレが飲んでいた酒の名前から取っているからだ。


 ネタの書けないやつにあるのは、天性のノリと思いつきの直感。そして何故か周りの人間がいつも助けてくれるという、天性の世渡りに他ならない。


 特にエイジはどこかのアイドルグループに居そうなほど容姿に恵まれていたので、俗にいう「イケメンに限る」が適用され、女性の方から世話をされることも多い。


 ともあれ、コンビ結成のその年。秋の高校の文化祭で、『スキップビート』は華やかなデビューを飾ることとなる。


 文化祭の漫才コンテストでの華々しい優勝は、翌年他校の生徒からも知られることとなり、高校3年の文化祭で見事に3連覇を達成。


 更にその後に受けた大手芸能事務所のオーディションに合格して、お笑いコンビ『スキップビート』はプロの舞台に立つことが約束されたのである。


 ここまですべてが順風満帆だったと、やつはこのときまでのことを凄く自慢気に話していたが、大事なのはそのあとの話である。


 高校を卒業して正式に事務所に入って3ヵ月が過ぎ、やつはようやく現実の厳しさというものを、身をもって知ることとなる。


 何故なら、ここまではあくまで狭い範囲の中で、面白いと大きく騒がれた「イチ素人」が、厳しいプロの世界に足を踏み入れただけの話であり、ここからやつの、ノリと勢いだけではどうしようも出来ないお笑い芸人人生は始まっている。


 その鳴り物入りで事務所に入ったはずの『スキップビート』だったが、定期的に行われる事務所主宰のライブには出させてはもらえるものの、テレビに出るなどという華やかな話などはまったくなく、結果うだつの上がらないお笑い芸人生活が続く。


 そんな4年目ことである。ついにチャンスがやって来た。


 事務所の先輩芸人が緊急入院の為、その代わりにではあるが、テレビのバラエティ番組の「前説」の仕事が入ったのである。


 ここでテレビ局関係者に認められれば、今後のテレビ出演も夢ではないと思った。


 そう。これがやつにとっての人生の分かれ道になるとは知らずに。

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