第8話 調教
ガラス棚の中には、ブロンズ、シルバー、ゴールドといった各ランクの様々なカードが並べられていた。
現在の資金力と実力的にギルバートが扱えるのはブロンズカードがメインだったが、Bランクに上がればより高い実力を持つ相手とも戦えるし、ファイトマネーも一気に増えるので、シルバーやゴールドのカードを扱うことも不可能ではない。
というよりも、Bランクに上がったら呪文カードは別として、ソウルはシルバーカード以上をメインにデッキを構築しないとまともに太刀打ちできなくなる。
ブロンズランクとシルバーランクでは、ソウルの能力値はまったく別次元となってしまうのだ。
ギルバートは懐にあるブロンズカードの中ですやすやと眠っているアンジェラのことをちらりと思った。
(今日はこのあとタワーに行って、彼女をレベルアップさせなくちゃな)
ソウルは様々な相手と戦うことで経験値を重ね、自身の能力を強化していくことができる。そのレベルアップが一定に達すると、ブロンズカードからシルバーカード、シルバーカードからゴールドカードへのランクアップが可能となるのだ。
さらに美しく、強く、そして気持ちよくなったアンジェラの近い将来の姿に、うふッと興奮しながら、ギルバートはガラス棚の中に並んだソウルカードを見ていく。
(えーと、これは〈巨大なるハーフリング〉か……大きいのか小さいのかわからないな。こっちは……〈オークの賢者〉? なんだか弱そうだ。そして、えーとこれは……)
「あら、そちらの〈囚われの女騎士〉にご興味がおありかしら、ヘインズさん?」
背後からの声にふりかえってみれば、サブリナがコルセットで無理やり形を整えた垂れ乳を腕組みでみっともなく強調しながら、こちらに微笑んでいた。
「え、ええ、まあ……」
どう反応していいものやら、曖昧にうなずき返すと、サブリナはさらに胸を強調しながら微笑みを深めた。
「でしたら、試しに使ってみませんこと?」
「えっ、いいんですか」
「構いませんことよ。今、ギルバートさんはアンジェラさんしか使ってらっしゃらないでしょう。Cランクのうちはそれでもよろしいでしょうけど、Bランクに上がったら様々な相手と戦うことになりますわ。それに備えて今のうちにいろんなソウルカードを使う経験を増やしておきませんと……わたくしと戦う前に潰れてしまっても困りますし」
残念な胸を自らの腕で残念に押し潰しながら、意味深な笑みを浮かべるサブリナは、ガラス棚の鍵を開けて〈囚われの女騎士〉をこちらに向かって差し出してくれた。
「ふうん……」
少し迷ったが、ギルバートはサブリナの申し出をありがたく受け取ることにした。
確かに現在ギルバートが使っているソウルカードはアンジェラの一枚のみだ。それにはアンジェラを愛しているからという理由の他に、他のソウルカードに手を伸ばしているリソースがないという実際的な理由も存在している。ソウルカードを一定のレベルにまで使いこなすにはある程度の練習を必要とするのだ。
だが今のギルバートは、アンジェラにマナを供給して使いこなすのでいっぱいいっぱいの状況だ。これに別のカードが加わってアンジェラと同時に使役するだなんて、保有マナ量的にもマスタースキル的にも無理だ。そしてなにより新たなソウルカードを購入したり、タワーで別のソウルを引いて練習するための資金的・時間的リソースがない。仮にそんな余裕があったとしても、そのリソースをアンジェラに注ぎ込んだほうがよっぽど強くなれるはずだ。
とはいえ、だ。
今のうちから将来を見越しておく必要はあるだろう。なにも今度ずっとアンジェラ一本でやっていくつもりはない。ギルバートがトーナメントで戦う理由はアンジェラとともに絶頂に達することにあるが、そこに至るまでの道筋はなにもひとつだけではない。この点に関しては若干難色は示されたものの、アンジェラともすでに同意が得られている。
――そうですわね……マスターのマナを他のソウルに取られてしまうのは正直イヤですけれど、上に登っていくには必要なことですし……それにわたくしも他のソウルと一緒にマスターの魔術回路を楽しむことに興味がないわけでは、コホンコホン……。
つまり結論からいえば、多人数プレイもオーケー、というのがアンジェラとギルバートの総意だった。
(将来的には、ビンビンになった魔術回路をアンジェラに挿入しながら、他のソウルにも挿入しちゃうのか……ちょっと背徳的だな)
ゾクゾクとした興奮に背筋を震わせながら、サブリナが差し出してくれたブロンズカードを受け取る。
と、そのときだった。
急にギルバートの頭の中に女の声が聞こえてきた。まだ魔術回路は繋いでいないのだが、これは……〈囚われの女騎士〉の声だろうか。
(くッ、殺せ……ッ!)
まるで牢獄の中で手枷をはめられて、恥辱に身を震わせているような声だった。
(……ちょっぴり興奮しちゃうな)
思わず、うふッ、と笑ってしまう。
カードの中に封じ込められたソウルは、ウィザードに魔術回路を接続されてマナを注入されることによって、この世界に召喚される。
そのため、ソウルたちは基本的にマスターの言うことには逆らえない。ソウルたちの肉体の神経や魔術回路はマスターの手にすべて握られているからだ。
たまに反抗的なソウルが無理やりこちらからマナを奪おうとすることもあるが、そこをどうやってうまく躱して調教してやるかが、ウィザードにとっての腕の見せどころともいえた。
ウィザードたちは魔術回路の励起とマナの注入について、それぞれ異なるイメージを持っている。それらのイメージはウィザードの個性や才能、生まれ育った環境によって異なり、それによって扱いやすいソウルというものも変わってくる。
たとえば乗馬に慣れ親しんだ者ならば、手綱をつけて操るイメージでソウルを使役する。
たとえば自身もボクシングやレスリングなどの格闘経験があるウィザードならば、異形の魔物より、格闘を得意とした人型のソウルのほうが使役しやすいだろう。
逆に、乱暴な性格をしたウィザードならば、同じように凶暴な魔物系統のソウルのほうが扱いやすいかもしれない。
――ちなみに。
ギルバートはイートンの頃より、自我を持った人型、それも特に女性タイプのソウルを使役することを得意としていた。そういうタイプのソウルとはなぜか非常に相性が良いのだ。
現に今も、ギルバートの魔術回路は頭の中で響いてきた声に少し励起していた。
「それじゃあ少し使わさせてもらいますよ」
「ええ、どうぞ。ああ、でもお手柔らかにお願いいたしますわ。変な癖をつけられても困りますので」
「ええ、もちろん」
マナを与えて〈囚われの女騎士〉を召喚すべく、ギルバートは励起した自身の魔術回路を挿入した。
(ん……結構キツイね)
使われるのは初めてなのだろうか。暴れて抵抗する女騎士のさらに奥深くへと魔術回路を突き入れていく。ギチギチに閉じた女騎士の中を無理やりこじ開けていくと、頭の中で泣き叫ぶ声が響いた。
(や、やめろッ! そ、そんな大きいの入らないからあッ!)
(なにを言ってるのかな)
今のギルバートはアンジェラとするときの十分の一くらいの大きさだ。これだからまだ誰も使っていない処女カードというのは面倒だ。
(やれやれ、しょうがない。次に使う人のためにも少し開発してやることにするかな)
(な、なにをす……りゅうううううううッッッ!?)
それまでは手加減してやっていたが、ギルバートは女騎士の最深部にまで一気に挿入した。
(い、いやあああッ、無理ッ、無理いいいいいッ! やめて、抜いてええええええええッ!)
(大丈夫だよ、すぐに気持ちよくなるから)
うふッ、と笑うと、ギルバートはアンジェラで培ったテクニックを駆使して女騎士を責め始めた。
それから二分後――
「んほおおおおおおおおおッ、しゅごいのおおおおお! マスターの気持ちよすぎて、頭おかしくなりゅのおおおおおおッ」
バーンズの店のカウンターの上には、大股を広げて白眼を剥きながらビクビクと痙攣する女騎士の姿があった。
カードの中から召喚されたときにはすでにこの姿だった女騎士に冷たい視線を送りながら、サブリナが静かな声で言った。
「……いったいどんな召喚をすればこんなふうになるのかしら」
「えっ、別に普通の手順ですよ。魔術回路を励起して、カードに挿入して、マナを中に注ぎ込んでやるだけです」
「ヘインズさんの召喚イメージがどんなものなのか、とっても気になるのですけれど」
なんてことを訊くんだろう、これだから行き遅れの恥知らずは、と思ったギルバートは、逆に尋ねてみた。
「ちなみにサブリナさんは?」
「えっ、別にいたって普通だと思いますけれど。そうですわねえ、言葉にするなら、こう、触手のようなものでソウルを縛っていくようなイメージかしら。まあ仮にわたしがこの女騎士を調教したとしたら、おそらく十秒もかからないと思いますけれど」
残念な胸をそらして妙なことを張り合ってくるなあ、とは思ったが、一応紳士であるべく気をつけているギルバートはなにも言わなかった。
「それにしてもちょっとやりすぎちゃったかな。もしかしたら、少し変な癖をつけちゃったかもしれません」
いろんな液体を垂れ流してカウンターを汚しながら、もっとマスターのが欲しいの欲しいの、と懇願する女騎士を見ながら言うと、サブリナは首を横に振った。
「こちらからお勧めしたのですもの。買い取りなんて野暮なことは申しませんから、ご安心ください。それに、これはこれでなかなか遊びがいがありですし……あ、そうだわ。ねえ、ヘインズさん。とっておきのブロンズカードがあるんですけれど、ちょっと開発してみませんこと?」
「とっておき?」
「ええ、ええ! ボンボン貴族に金貨を積まれても売らなかったとっておきですのよ! えーと、確かこちらに……ありましたわ、こちらです。その名も〈女エルフの冒険者〉!」
「ブロンズカードのエルフですか?」
そのカードを見たギルバートは驚いた。
エルフ種のソウルは知能が高く、あらゆる能力に秀でており、ファイター、アーチャー、ソーサラー、バッファー、デバッファーといった様々な役割をこなすことができる万能種族だ。
そのかわりにプライドが高いせいで使役が難しく、マナコストも高いという難点はあるが、その性能と美貌を愛好するウィザードは数多い。
だがエルフはその能力の高さから、シルバーカードからゴールドカードのランクで出回ることがほとんどで、ランクの低いブロンズカードでは滅多にお目にかかることができない種族でもある。
「好事家なら相当な値段をつけそうなカードですね。本当に使ってみていいのかな。彼女が処女でも責任は取れそうにないんですが」
サザビーズ・オークションにでもかければ、家柄とコネでブクブクに太ったウィザードが喜んで競り落としそうな代物だ。その希少度に思わず躊躇してしまったが、〈蒐集家〉サブリナ・バーンズは素人を嘲笑うかのような笑みを見せた。
「ご心配なさらないで、ヘインズさん。あなたはイートンをご卒業なされたばかりでまだご存知ではないのかもしれないけれど、この世界は奥が深いの。下手な処女よりも、プロに使い込まれたソウルをお好みになる殿方はたくさんいらっしゃいますわ。それが最近噂の〈サキュバス狂い〉ともなれば、なおさらですわ」
「はあ……まあ、そういうことなら遠慮なく」
サブリナの言うことはいまいちわからなかったが、使い捨てても問題ないということはわかった。
それならちょっと遊んでやろうかとギルバートがサブリナの手から〈女エルフの冒険者〉を受け取った瞬間だった。
頭の中に声が響いてきた。
(くッ、殺せ……ッ! わたしは下等なヒューマンなんかに屈したりはしないッ!)
(姉妹かな?)
先程の女騎士に激しく通じる既視感にギルバートは首を傾げた。
それから一分後――
「んほおおおおおおおおおッ、しゅごいのおおおおお! マスターの気持ちよすぎて、頭おかしくなりゅのおおおおおおッ」
「やっぱり姉妹なんだね」
カウンターの上で女騎士と並んで絶叫する女エルフに、ギルバートは、うんうん、とうなずいていた。
「たった一分でエルフの調教を完了するとは……なかなかのタイムですわね。ですが次のカードはそう簡単にはいきませんわよ」
「いったいなんの話をしているのかな?」
唇を噛んで悔しがるサブリナに疑問符を浮かべるが、人の心に鈍感な行き遅れはこちらの様子には気づくこともなく、次のカードを差し出してきた。
「これは……」
「ふふっ、これぞバーンズ家、秘宝の逸品、〈ガチムチドワーフ〉ですわ。ブロンズカードとはいえど、今までこのカードを完璧に使いこなせた者は誰一人おりません。幾人ものウィザードを悪夢に陥れ、上位クラスのBランカーにすらおぞましいといわしめた、いわくつきの品物ですわ。ふふっ、ちょっとマニアに注目されているだけのCランカーにこのカードを使いこなすことができるかしら」
怪しい笑みを浮かべるサブリナからギルバートがそのカードを受け取って十秒後――
「んほおおおおおおおおおッ、しゅごいのおおおおお! マスターの気持ちよすぎて、頭おかしくなりゅのおおおおおおッ」
そこには他の二人と一緒に大股を広げて絶叫する〈ガチムチドワーフ〉の姿があった。
「なんだ、彼も姉妹だったんだね」
うんうん、とうなずくギルバートのそばで、サブリナはハンカチを噛み締めてワナワナと震えていた。
「ど、どうして……ッ!? わたくしにすら従わなかった〈ガチムチドワーフ〉がなぜッ!」
「さあ?」
理由はよくわからないが、〈ガチムチドワーフ〉は〈囚われの女騎士〉や〈女エルフの冒険者〉よりもガバガバというか、ゆるゆるというか、魔術回路を楽に挿入できた感覚があった。
「むしろ、僕には〈ガチムチドワーフ〉のほうが具合がよかったけれど。もし買うとしたら、〈ガチムチドワーフ〉を選びますね。他の二体は本気を出したら壊れてしまいそうだ」
実際には購入する金も練習して使い込んでやる時間もないのだが。今はアンジェラを使いこなすだけで精一杯だ。
「まあ、なかなか楽しめましたよ、サブリナさん。どうもありがとう。もし将来ソウルカードを購入することがあれば、こちらでお世話になることにしますよ。それで、今日の注文のほうはどんな具合だろう?」
サブリナはそこで初めて今日のギルバートの用向きを思い出したようだった。
「え、ええ……そういえばそうでしたわね。サキュバスだけではない、ヘインズさんのマスタースキルの高さに夢中になってうっかりしていましたわ……えーと、それでは本日のご注文の品はこちらになります」
〈雷火〉と、中身はなにも入っていないブランクカード。値段が書かれた紙片と一緒に、束でまとめて手渡される。
小切手に金額とサインを書き入れて渡すが、サブリナはこちらの記載を確認することなく、それをそのままカウンターの金庫に入れてしまった。こちらを信用しているからというわけでもないのだろう。小切手をぞんざいに扱うその手つきは、商売をする気がない、あるいは低ランクのブロンズカードなんかで動く程度の金額には興味がないといったようだった。
それでも労働者階級の五年分の年収くらいの金額はあったはずなのだが。
(さすがは上位Bランカーといったところかな)
彼らが使う最上位ランクのゴールドカードは、豪華な屋敷やダービー出場の血統馬以上の値段と価値を持つものも珍しくない。金銭感覚が多少狂ってしまうのもしかたのないことだろう。
なにしろカード・バトルには金がかかる。
ソウルカードや呪文カードは、ウィザード・トーナメントに限らず、行政・情報・交通・医療・研究の様々な分野で重宝されている。強力な呪文カードは現代ではまだ治療できない難病を癒やし、強大なソウルはときに地形や天候を一変させるほどの力を持つ。軍事においては戦艦を沈め、一個師団を壊滅させるほどの力だ。それほどの力を持つカードは滅多に見られないとはいうものの、シルバーやブロンズのカードにだって、軍事兵器並の力を持つものはざらにある。
そういったカードはときに国家間で取引されることもあるくらいだから、市場に出回るカードの価値がそれに連動して高くなってしまうのは当然といえば当然の話だった。
(でも、そんなカードを国力向上と軍事力強化を名目にして、湯水のように消費するというのもおかしな話だよね)
ウィザード・トーナメントには国中が熱狂しているが、冷静になって考えると、本当に国の力を強くしたいのならば、カードはすべて個人所有ではなく軍隊にでも持たせて、国のほうで管理すべきだろう。
(まあ、現実的にはうまくいきそうにない話だけど)
自分たちの縄張りを広げるために、カードの自由所持と権利の行使を主張する魔術省。
国債を大量に所持しているため政府への発言力も強く、自分たちで有能なウィザードと強力なカードを自由に使いたい財界人たち。
そしてなにより、軍隊を壊滅させるほどの力を恣意的に行使できるウィザードを縛るだけの力がこの世に存在しないこと。
それらの要素が複雑に絡み合ってこの社会が成り立っていることを、幼少の頃から父の近くで財界や社会の動きを見てきたギルバートはよく理解していた。
(まあ僕にはどうでもいいことだけれど)
アンジェラが眠るカードをデッキホルダーの上から愛撫しつつ、サブリナに声をかけた。
「それではサブリナさん、ごきげんよう」
サブリナは意外そうな顔になった。
「あら、もう行かれるのかしら。まだ使っていただきたいカードがあったのですけれど」
「せっかくのお誘いだけれど、このあとはタワーに行くんですよ」
「あら、今日はどちらのフィールドに?」
「〈ヌメドールの沼地〉にでも行こうかと」
「ああ、〈打ち消し〉が必要なんですのね。でもお気をつけて、最近あそこには強力な魔女のソウルが出るという話ですから。ねえ、ヘインズさん。お願いだから本当に気をつけてくださいね――」
カウンターの中から出てきたサブリナはゆっくりとこちらに近づいてきた。レースに縁取られた長いスカートをわずかに引きずりながら。長いまつげをそっと伏せるように。ギルバートの手をそっと取って、ためらいがちにこちらの耳元に唇を近づけてきたサブリナは愛の告白でもするかのように囁いてきた。
「わたくしと戦うまでにアンジェラさんが破壊されるようなことがあったら、わたくし……ヘインズさんのことを一生許せなくってよ?」
狂乱めいた炎を瞳に宿して一心不乱にこちらを見つめてくるサブリナだった。
ギルバートはそっけなくうなずいた。
「ええ、わかりました。肝に命じておきしょう」
「ぜひともお願いいたしますわ……早くアンジェラさんとともに強くなって、わたくしのいるところまで駆け上がってくださいね、ヘインズさん。そして戦いましょう――わたくしのコレクションと、今よりももっとはるかに美しく、強く、珍しくなったアンジェラさんを賭けて……ふふっ、ふふっ……」
サブリナは上気した頬に手を当てて我慢できないように悶えた。
それに対してできるだけ落ち着いた声で返す。
「いいでしょう。僕もあなたと戦えるのを楽しみにしていますよ、サブリナさん」
店を出るべく、ギルバートはドアに手をかけると、肩越しにとっておきの冷たい一瞥を投げかけた。
「そしてあなたには支払っていただきましょう……僕のアンジェラに手を出そうとした愚かな行為のツケを」
サブリナは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに父親そっくりのにやにや笑いを浮かべて、ふふっ、と笑った。
彼女がその顔を歪めて泣いて許しを請うところを想像して、ギルバートは、うふッ、と笑った。
かくして、バーンズ・カードショップの中に二人のトーナメント・プレイヤーの笑い声が空虚に響いたのだった。
◆フレーバーテキスト
〈巨大なるハーフリング〉
旅路の途中でエントに会った。その水飲んだらびっくり仰天。にょきにょきもりもり、背が伸びた。
――とあるハーフリング庄の童謡。
〈オークの賢者〉
「オークであって、オークではないもの、なあんだ?」
答え――自慢の棍棒を失ったオーク。
〈囚われの女騎士〉
「くッ、殺せ……ッ!」
〈女エルフの冒険者〉
「くッ、殺せ……ッ!」
〈ガチムチドワーフ〉
「くッ、殺せ……ッ!」