第30話 運命の決闘
「方法は?」
ギルバートが落ち着いた声で訊くと、サイラスの口元がひくひくと痙攣したように動いた。
狂人めいた症状だったが、自分ではそれに気づいていないらしい。サイラスはよく日焼けした顔に、にやりとした笑みを浮かべた。
「おれたちはウィザードだ。だったら方法なんてひとつしかないだろう?」
サイラスはガンマンのようにゆっくりと太い腕を動かした。ラグビーでたくましく鍛え上げられた胸筋と背筋が盛り上がった。カードホルダーから一枚のカードが引き抜かれた。
ソーセージのように太い指でソウルカードを握りしめたサイラスは、暗く燃える炎を瞳に宿した。
「抜けよ、ギルバート・ヘインズ……お前のカードを」
「ああ」
もったいぶったりはしなかった。ギルバートは即座に一体のソウルを召喚した。
ギルバートのソウルが姿を現した瞬間、サイラスの暗い炎が燃え上がった。
「~~~ッッッ!」
なにを言おうとしたのか。言葉にならない怒りの叫びが〈クエシスの森〉に響き渡った。
――〈ベリゴールの下級インプ〉。
ギルバートが召喚したのは、戦闘用というよりは、偵察や通信、雑用業務に主に使われるソウルだった。
決闘に使われるようなソウルではない。それに、〈サキュバス狂い〉の由来となったメインのソウルカードでもなかった。
激怒したのだろう。極度の興奮のせいで、サイラスの口の端に泡ができていた。口元からは涎がこぼれ落ちていた。真っ赤に日焼けしているせいでそれまで気づかなかったが、サイラスの目の下には病人のように青黒い隈があった。その目は血走り、喉はひくひくと動いていた。
怒りの咆哮とともにサイラスのソウルが召喚された。
――〈サンロダンの下級聖騎士〉。
サイラスが最初の魔石召喚で引き当てたそのソウルは、白銀に光り輝く鎧を身に纏ったハイヒューマンだった。立派な体格の馬に跨って、手には馬上槍と分厚い盾を持っている。面頬に隠されたその顔には揺るぎない決意と覚悟が秘められているようだった。
堂々とした視線をこちらにしっかりと向けてくる聖騎士とは対照的な、サイラスの狂った叫び声が森に轟いた。
その声が号令となった。
〈サンロダンの下級聖騎士〉がギルバート目がけて一直線に疾駆してきた。
それを見たギルバートは、思った。
(レベルが低いな)
ため息まじりに、〈ベリゴールの下級インプ〉を動かした。
インプは螺旋の渦を描きながら、聖騎士の馬の脚のあいだをくぐり抜けた。
サイラスの目が見開かれた。馬が嘶きを上げて、後ろ足だけで立ち上がった。
〈サンロダンの下級聖騎士〉は派手な音を立てて落馬した。
「なにやってるんだあああああああッ! 立て、立てええええええッ!」
喉を枯らして叫ぶサイラスを見て思う。
(遅いんだよねえ)
ソウルを操る際にいちいち声に出して指示を飛ばしている時点で、サイラスのマスターとしてのレベルは底が知れていた。
ときに人の目では捉えきれないほどの速度で動くソウルの力を十全に引き出してやるためには、言葉ではなく、魔術回路で彼らを操ってやる必要がある。
〈ベリゴールの下級インプ〉は日常生活に便利なスキルをいくつか持っているので、雑務用に手に入れたソウルだ。このインプを使うのは手紙を出すときやその他の些細な場面だけに限られているため、ギルバートはこのソウルの扱いに関してはたいして習熟していない。
だがそれでも、どう動くべきか、いちいち言葉にせずに指示してやるだけのコントロールはできた。
一方、〈サンロダンの下級聖騎士〉は鎧が重くて立ち上がることができずにいた。もがき続ける聖騎士に、サイラスは首筋の筋肉を動かして声の限りに叫んでいた。
その光景を見て、ギルバートは呆れてしまった。
(馬鹿みたいだ。立たせずに、浮遊させればいいのに)
ソウルは系統や種族に関わらず、そのほとんどが空中を自在に飛び回ることができる。立て、というトンチンカンな指示をサイラスが口に出している限り、真面目な聖騎士は無理して地面に足をつけて立ち上がろうとするだろう。
だが、そんな敵の隙を黙って見逃すほど、ギルバートは善人ではなかった。
四年前のあのときとは逆に、今度はこちらがインプを仕掛ける番だった。
戦闘用ではない下級インプでも、大の大人を瞬殺するくらいの力は十分に持っている。
ギルバートは慎重に、そして素早く、インプを動かした。
子犬ぐらいの大きさをしたインプが弾丸のような体当たりをサイラスの足に食らわせた。
うっと呻いて、サイラスは倒れた。地面に転がったサイラスに素早くインプが襲いかかった。
相手の目ン玉に、インプは鉤爪を突きつけた。サイラスの血走った瞳に恐怖と怒りの涙が滲んでくるのが、インプとの魔術回路を通して見えた。
(こんなものか)
あっけないほどの幕切れだった。時間にすれば十秒も経っていないだろう。
ソウルを使って戦うのはこれが初めてのことではない。イートンの授業では軍事学の初期過程は必修科目とされており、そこではソウルを使って敵国のウィザードから自分の身を守るための――言い換えれば、殺される前に殺すための訓練が行われていた。
そこでの訓練は実戦さながらに激しいものだったが、それでもギルバートを含め、生徒たちの心の奥底のどこかに、これは訓練なのだという気持ちがあったのは否めなかった。
そのため、本気の憎悪を見せるサイラスに対して、ギルバートは多少の恐怖とわずかながらの好奇心を抱いていたのだが、決闘の決着はいささか拍子抜けするものだった。
ギルバートはインプをサイラスの顔にカエルのように張り付かせたまま、口を開いた。
「さあ、サイラス。もう終わりだよ。負けを認めるんだ」
サイラスの喉奥から獣のような唸り声が漏れた。
「ク……ッ」
「……」
「ク……ククッ」
「……?」
「クククククッ! はっ、はっはっはっはっ!」
サイラスのその笑い声を聞いた瞬間――ギルバートの背筋に悪寒が走った。
走馬灯のようにいくつもの思考が同時に脳髄を駆け抜けた。
朝早くから夜遅くまで毎日練習を続けていたサイラスの姿。
彼の軍事学での優秀な成績。〈竜使い〉や〈赤毛〉には及ばないながらも、周囲からは高い評価を受けていたサイラスのマスタースキル。
そして、いかにも素人くさくモタついていた、さっきまでの彼のソウルの動き。
その違和感にはっとしたとき、ギルバートは自分の周りに身を守るべき盾がなにひとつ存在しないことに気づいた。
そのときになって初めて、ギルバートは自分の頭に血が昇っており、そのせいでサイラスの演技に騙されていたことに気づかされた。
「かかったな、アホが!」
そうサイラスが叫んだ瞬間にはもう遅かった。
それまで泥臭くもがいていた聖騎士が突然、風のように疾走していた。
あっ、と思う暇もなかった。ましてや、インプを操作してどうこうする暇など、微塵もなかった。
一瞬だった。
一瞬で、聖騎士の槍が目前に迫っていた。
死――それが見えた瞬間だった。
銀色の光がきらめいた。
「マスター! しっかりしてください!」
「アンジェラ……ッ!」
風に波打つ銀色の長髪。きらめく白い肌。魅惑的に動く黒い尻尾。
ギルバートのパートナーが目の前に出現し、敵の聖騎士の槍をその足技で蹴り飛ばしていた。
「……やるじゃあねえか、ギルバート」
プツンと魔術回路が切れた感触があった。なにかと思えば、サイラスが二体目のソウルを召喚し、〈ベリゴールの下級インプ〉を破壊していた。
そのソウルはサイラスのそばに佇み、黒い剣の先に下級インプを突き刺して、狂ったような歓喜の声を上げていた。
その様子を見て、ギルバートは背筋に冷たいものが流れ落ちるような感覚を覚えた。
「そのソウルはいったい……?」
「初めて見るか? 無理もない。こいつは最近引いたソウルだが、人前では出さないようにしていたからな。自分で言うのもなんだが……おれがこんなソウルを魔石召喚で引き当てたなんて知られたら、外聞が悪いだろう?」
白銀に光り輝く〈サンロダンの下級聖騎士〉とは対照的に、そのハイヒューマンのソウルは黒く、禍々しい霧に包まれていた。
「こいつの名前は〈狂った聖騎士、イグヴァルト〉……ククッ、こいつを引いたときはなんの冗談かと思ったが……今ではこいつはよく馴染む。こいつは〈サンロダンの下級聖騎士〉以上に、おれに合ったソウルだッ!」
「サイラス……」
狂ったような……いや、間違いなく、狂ってしまった哄笑を上げるサイラスに、ギルバートは言葉を失った。
サイラスが狂っていたから、〈狂った聖騎士、イグヴァルト〉を引いてしまったのか。
〈狂った聖騎士、イグヴァルト〉を引いてしまったから、サイラスが狂ってしまったのか。
卵が先か、鶏が先か式のその問題は、今はさして重要なことではなかった。
重要なのは、今、その組み合わせが確かな危険として、ギルバートの目の前に存在しているという、その事実だけだった。
ピクピクと痙攣するように動いていた〈ベリゴールの下級インプ〉だったが、〈狂った聖騎士、イグヴァルト〉がその黒い剣を振り下ろすと、下級インプの身体は淡い燐光とともに砕けて消えた。
それとともに、ギルバートの手札にあった〈ベリゴールの下級インプ〉のカードも粉々に砕け散った。
インプとのあいだにあった魔術回路が消えていく感覚に、ギルバートの下半身がほんの少しだけうずいたが、今はそれどころではなかった。
サイラスが場に出しているソウルは二体。
白銀に光り輝く〈サンロダンの下級聖騎士〉。
黒い霧に包まれた〈狂った聖騎士、イグヴァルト〉。
対して、こちらが出しているのは〈愛欲のサキュバス〉一体のみだった。
にたりとした笑みがサイラスの顔いっぱいに広がった。それとともに、〈狂った聖騎士、イグヴァルト〉の面頬の奥からくぐもった笑い声が響いてきた。
「楽しいなあ、ギルバート……おい、楽しいだろう? ソウルでソウルをぶち殺すって楽しいんだよなあ……ああ、クソッ……おれも魔術省の官僚なんかじゃなくて、軍人とかトーナメント・プレイヤーになれればよかったんだ。そうすりゃ、この楽しみをいつだって味わえたのに……クソックソックソッ……父さんめ、母さんめ……クソッ、てめえらもイグヴァルトでぶち殺してやろうか……クソッ」
毛虫が這いずり回るような声でサイラスがぶつぶつと呟く。
「おい、笑えよ、ギルバート。いつもみたいに気持ち悪く、うふッって笑えよ……じゃないと、張り合いがないじゃないか、おい。おれが今までなんのために努力してきたと思ってるんだ……お前がうふッって笑わないと、父さんと母さんが喜んでくれないじゃないかよ、おい」
「……」
「おい、おい……おいいいいぃぃぃぃぃぃぃッ! なんで笑わねえんだよ、クソがックソがッ!」
「……」
「ああ、ちくしょう……イライラする……なんでだよ、なんでお前を見てると、イライラしてくるんだよ……」
サイラスは天を仰いでいた。その双眸からは涙が数粒こぼれ落ちていた。
「いつもいつもお高くとまった顔しやがってよぉ……周りになにがあろうが自分には関係ないみたいな、すました顔しやがって……むかつくんだよぉ……なんでお前のほうが成績がいいんだよぉ……なんで父さんはおれのことを褒めてくれないんだよぉ……」
滂沱の涙を流しつつ、普段の優等生めいた表情からは想像もできないほど悲惨な表情で、サイラスはこちらを向いた。
「……もういいや。死ねよ、ギルバート」
涙を拭って下された宣言は、静かに、そして膨大な時間を費やして研ぎ澄まされたマスタースキルとともに振り下ろされた。
「……ッ!」
すべてがスローモーションに見えた。死を目前にした人はこういう光景を見るのかと思った。
正面から迫る白銀の槍。
右から襲いかかる黒い剣。
二体のソウルによる死をもたらす一撃がギルバートに襲いかかろうとしていた。
(マスター……ッ!)
敵の攻撃が振り下ろされた瞬間、頭の中でアンジェラの声が響いた。
マナがぎゅっと搾り取られる感覚がした。
アンジェラの真っ白な足が風を切って跳ねた。
黒い剣と白銀の槍が跳ね返された。
(……ッ!)
アンジェラが蹴り技によって敵の攻撃を防いだことにギルバートは瞠目した。
(アンジェラ、君、戦えたのか!?)
(どうやらそうみたいですわね……記憶はないのですけれど、なんというか、身体が覚えているというか……)
自信なさそうに答えるアンジェラだったが、敵の動きに目を配るその姿は明らかに戦闘慣れした様子だった。それはギルバートが初めて見る彼女の姿だった。
ギルバートはこれまで一度も彼女を戦闘に使ったことがなかった。アンジェラはギルバートに初めてできた友達で、恋人で、家族だった。アンジェラを戦わせることなど思いも寄らないことだった。
だから、軍事学の授業では〈ベリゴールの下級インプ〉や、学校から貸し出された〈ふわふわワ―ラビット〉などを使って、戦闘訓練を受けていたのだが、今のギルバートにそれらの手札はなかった。
アンジェラだけが、この窮地を救ってくれる唯一の手札だった。
サイラスはギルバートのことを殺すつもりなのだろう。タワーでの殺人や犯罪は証拠が見つけにくい。目撃者さえいなければ、魔物に襲われたとかなんとかいって、事件の隠滅を図ることは容易いことだった。
殺意の光を双眸に宿したサイラスは、二体のソウルをジリジリとこちらに向かって進ませながら、ゆっくりと口を開いた。
「お前がそのサキュバスを使うところは初めて見るな……」
「……」
「おれのソウルたちの攻撃を防ぐとはな……それが〈サキュバス狂い〉の真の実力ってわけか、えっ? 軍事学の授業じゃ、他のソウルを使って手を抜いていたってわけなのか?」
サイラスはなにかを勘違いしているようだったが、それを指摘する余裕は今のギルバートにはなかった。
心臓が破裂しそうなほどに音を立てていた。こめかみから汗が一滴こぼれ落ちた。
魔術回路で繋がったアンジェラの視界を通じて、敵を観察する。
白銀の〈サンロダンの下級聖騎士〉。
黒い〈狂った聖騎士、イグヴァルト〉。
そして、それを操るサイラスの身体から立ち昇る、黒い炎のようなマナ。
そのマナの黒さに、ギルバートは覚悟を決めた。この死地を脱するためにはアンジェラを使うしかなかった。
(……やるしか、ないか)
(ええ、マスター。マナを回してください。わたくしがあなたを守りますわ……たとえここで死ぬことがあったとしても)
(いや……それは違うよ)
ギルバートは自身の魔術回路に意識を集中させた。それはこの四年間で何万回も繰り返してきたことだった。アンジェラとぴったり身体が繋がったような一体感が急速に高まりつつあった。
アンジェラの身体感覚が自分のもののように感じられる。隅々にまで神経が行き届いている。アンジェラの優美な手足を自分のものとして、いや、それ以上に繊細に動かすことができる。
アンジェラと一体になったギルバートは微笑んだ。
(死ぬときは一緒だ、アンジェラ。君が死ねば、僕の魂は死んでしまうんだからね)
(マスター……)
(さあ、僕らの初めての共同作業だ。ヤろうか、アンジェラ)
(はい……っ!)
力強く応えたアンジェラに、ギルバートはマナを供給した。
(……うふッ)
こんな危険な状況にも関わらず、アンジェラの中にドピュドピュと白濁したマナを放出するのはいつもと変わらず気持ちよかった。ギルバートがその快楽にうっとりと身を委ねていると、慎重な様子でこちらにソウルを進めていたサイラスの動きがピタリと止まった。
「……クソッたれ」
「……?」
「なんでだよぉ……なんで、お前はいっつもそうやって笑ってられるんだよ、ヘインズぅ……」
サイラスは子供みたいな泣き声を出していた。
「ソウルを使うのはキツくて苦しいことのはずだろ……ソウルにマナを食われて、頭がガンガンして、身体がフラフラになって、何度もゲロ吐いて……それでも上手くなってみんなに褒められるためには、血反吐吐くまで練習しなきゃいけないはずだろ……なのに、なんでだよぉ……なんでお前はいっつも気持ちよさそうに笑ってやがるんだよぉ!」
子供のようなその絶叫に、ギルバートは少し得心がいった。
サイラスの嫉妬、憎悪、殺意。
理不尽なそれらを真っ向から浴びせられても、どこか彼を憎む気になれなかったその理由が今、わかった。
似ている。彼はあの女性とほんの少しだけ、似ている。
――あなた、わたしにはあの子が理解できません。あの子は気持ち悪いのよ。いつも薄気味悪い笑みを浮かべていて……。
そう父に訴えかけていた義母の姿が脳裏に浮かんだ。今、ギルバートの目の前で、理解できないと絶叫するサイラスの姿は、彼女と少し重なって見えた。
自分の存在が義母の弱い心に負担をかけていたことは幼い頃からずっと知っていた。夫の愛人の子供を、自分の子として育てていかなければならないことは、自尊心と嫉妬心の強い義母にとっては耐えられないことだっただろう。それにも関わらず、自分がヘインズ家の一員として立派な教育を受けることができたのは、義母の忍耐があってからこそだった。彼女の献身がなければ、ギルバートはかのオリバー・ツイストと同じように、身寄りのない孤児として劣悪な環境の施設に送られていたに違いなかった。彼女に対して憎悪や絶望を抱いたこともあったが、それよりは申し訳ないという気持ちのほうがいつも強かった。
だからだろう。こちらのことを理解できないというサイラスに対して、恨む気持ちがあまり湧いてこないのは。それは彼の姿がどこか義母を彷彿とさせるからに違いなかった。
(でもね、サイラス……君が僕のことを本気で殺そうというのなら、話は別だよ)
ギルバートは心中で、自分を憎み、殺そうとしてくる相手に向かって、語りかけた。
愛されることを知った。愛することを知った。そして人生の素晴らしさを知った。
それは食事の美味しさを味わうことだった。自然の美しさに気づくことだった。音楽の楽しさに触れることだった。そして愛する者と一体になって、自分が生まれてきた意味を知ることだった。
――僕の魂は彼女のもの。彼女の魂は僕のものだ。
ギルバートはうふッと笑った。
「……歓喜と歓楽と愉悦と享楽のあるところ。愛の願望の満足せしめられるところ。かしこに、われを不死ならしめよ」
「ああぁ?」
ギルバートがそっと呟くと、サイラスは口元をピクピクと痙攣させて唸り声を上げた。
ギルバートは笑みを浮かべながら、前髪をかき上げた。
「いいよ、サイラス……すごく、いい……」
「……」
「へえ、そうか……なるほどなるほど。今までも訓練で戦ったことはあるけれど……お互いの魂を賭けて本気で戦うっていうのはこういうことなのか」
ギルバートはある種の天啓に打たれたかのような気持ちを抱いていてた。
死線――そこに立つことによって、見えてくるものがあるのだということを、今この瞬間、ギルバートはまざまざと感じ取っていた。
ギルバートはアンジェラに自身の全身全霊を注ぎ込んだ。
そして、このとき全身を貫いた、真っ白な稲妻のごとき快感こそが――
ギルバートとアンジェラのその後の道を決定づけたのだった。
◆フレーバーテキスト
〈ベリゴールの下級インプ〉
魔王陛下の威を借りるインプは、しかし、使い走りの能力にだけは優れている。
〈サンロダンの下級聖騎士〉
聖都の騎士は誓いを立てる。ひとつ、神への奉仕。ふたつ、主人への忠誠。みっつ、婦人への礼節。これらの遵守が彼らの名誉。
〈狂った聖騎士、イグヴァルト〉
名誉を求めて戦場へと出た彼が見たものは、神への冒涜。卑劣な裏切り。残虐なる陵辱。これらの乱行が彼の狂気の源。
〈ふわふわワ―ラビット〉
あなたがワ―ラビットとともに戦うのならば、覚えておかなければならないことが三つある。ひとつ、彼女たちは臆病である。ふたつ、彼女たちは性欲が強い。みっつ、以上のことを承知している者は優れたワ―ラビット使いになれる。




