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第26話 勝算

ちょっと外出する用があったので、ギルバートが共同住宅の狭い階段を降りて通りに出てみると、そこには一台の馬車が停まっていた。


「お待ちしてましたぜ、旦那。今日はどちらにお出かけで?」


「えーと、君は確か――」


「ジョンソンですよ、ジョンソン」


口髭を生い茂らせて汚い身なりをしたその御者は、顔の中心に走る傷跡を歪めた。凶暴そうな顔に、案外人懐っこいような笑みが浮かんだ。


ジョンソンは先日、ギルバートがタワーに向かう際に世話になった流しの御者だった。タワーの周辺は薄気味悪い気配が漂っていることで有名なのだが、そんな中でジョンソンはこちらがタワーから戻ってくるのを健気に待ち続け、家まで送り届けてくれた割と気のいい男だった。


だが、ジョンソンに行き先を告げて彼の馬車に乗りこんだギルバートは首を傾げた。


「ジョンソン君はどうしてわざわざ僕の家の前で待っていたんだい?」


流しの馬車はとにかく客を捕まえて距離を走らなければ商売にならない。なのに、ジョンソンは外出するかどうかもわからないギルバートをずっと待ち続けていたようだった。


いったいなんのために?


それを訊くと、ジョンソンはへへっと鼻の下をこすって答えた。


「いやあ、なに。ちょいと旦那に訊きてえことがあってね……ねえ旦那、〈赤毛〉のアイルランド人との試合は再来週だね」


「ん、そうだね。ダンとの試合は二週間後だ。僕のところにもおととい手紙が来たよ」


「昨日のデイリー・マジックにも載ってましたぜ。〈赤毛〉対〈サキュバス狂い〉、世紀の一戦! ってね。デイリー・マジックだけじゃねえ、ザ・ムーン、デイリー・ロンドン、トーナメント・マガジンにも載っていやがった。もう昨日からおれっちの周りもノミ屋もすげえ騒ぎでねえ。おれも長えことトーナメントを観ちゃいるが、Cランクの試合でこんなに盛り上がるなんてのは初めてのことですぜ。で、旦那……どうなんですか?」


「どうって……なにが?」


意味がよくわからなかったので問い返すと、ジョンソンは手綱をピシャリと振って叫んだ。


「言わなくたってわかるでしょうが! ったく、このあいだもそうだったけど、ヘインズの旦那ときたらどっか頭のネジが外れてやがるんだからなあ! あのねえ! おれっちが訊きてえのは旦那の勝算ですよ! 旦那があのアイルランド人に勝てる見込みはどれくらいあるんですかい?」


「ああ、そういうことか」


そういえばこのジョンソンは賭け狂いだった。だからこちらの様子が気になってこうして会いに来たというわけか。


なるほどねえ、と納得して頷くと、ジョンソンは馬をセント・ジェームズ・ストリートのほうへ走らせながら、額をピシャリと叩いて嘆いた。


「……ダメだ、こりゃあ。まったく覇気が感じられねえ。これじゃあ、七対三っていうオッズも案外妥当だな。おれっちも馬を乗り換えようかねえ」


ぼやくようにジョンソンがつぶやいて、馬車が角を曲がってスピードを落としたときだった。


通りをぼんやりと眺めていたギルバートは、コーヒーとサンドイッチをモグモグとやりながら足早に歩いている、一人の若いウィザードと目が合った。


「ん?」


「……あっ!」


どこか見覚えのある顔だった。


若いウィザードもこちらに気づいたらしい。大声を上げて、急に馬車の前に飛び出してきた。


「おーい、ちょっと停まってくれ!」


「うおっ、と。なんだなんだ、危ねえな、おい」


ジョンソンが馬をゆっくりと停めると、若いウィザードは興奮した様子でギルバートのほうに走り寄ってきた。


「ヘインズ! 君は〈サキュバス狂い〉のギルバート・ヘインズじゃないですか!」


「そういう君は……ベッドフォードか!」


「ああ、そのとおりです! 驚きましたよ、君にこんなところで会うなんて! 元気でしたか?」


若いウィザードは再会の喜びを満面に浮かべていた。


ベッドフォードはイートンの同級生だった男だ。


彼とは当時は授業や寮で顔を合わせたら挨拶する程度の仲でしかなかったのだが、それでも十三歳の頃から六年間、同じ学び舎で過ごした仲というのには特別なものがあるものだ。


あけっぴろげに偶然の再会を喜ぶベッドフォードに、ギルバートも思わず笑ってしまった。


「久しぶりだね、ベッドフォード。僕のほうは元気でやってるよ。君も調子が良さそうでなによりだ」


ベッドフォードの羽振りが良いのはひと目見ただけですぐにわかった。


パリッとしたシャツとスラックスに、上質な生地を使ったジャケット。靴は鏡面仕上げに磨き上げられ、ウィザードであることを示すローブは、ギルバートの目が間違っていなければ、サヴィル・ロウの一流テーラーで仕立てられたオーダーメイド品だ。


一分の隙もない着こなしをしたベッドフォードは、こちらの手を取ってにこにこと笑った。


「君の活躍は聞いてますよ、ヘインズ。まさか君が〈イートンの女王様〉を倒すとは! おかげでジョージとジョンを破産させることができました。卒業式の賭けであの二人は〈竜使い〉に賭けていたのでね。ですが、ヘインズ。君は次の〈赤毛〉との試合では負けなければいけませんよ。なんてたって僕は、あの粗暴なアイルランド人にソブリン金貨十五枚と十六シリングを賭けているんだからね!」


なぜかこちらの手をスリスリと擦ってくるベッドフォードだった。


薄気味悪いその愛撫から逃れつつ、ギルバートは尋ねた。


「卒業式の賭け?」


「ああ、いや。こちらの話です。個人的にはダンだけでなく、きれいな顔をしている君のことも気に入っていたのでぜひ賭けたかったのですが……ゴホンゴホン、まあとにかく、僕としては複雑な気持ちですよ。ひとつ屋根の下で暮らしたイートンの仲間としてはどちらにも勝ってほしいというのが正直な気持ちです」


ベッドフォードはそこで言葉を切って時計を見ると、おっ、というわざとらしい表情を見せた。


「もうこんな時間か! もっと話していたかったんですが……失礼、これからシティに行かなければならないんです。ああ、僕は今、ロイズ保険組合でアンダーライターの支援業務をやっていましてね。フェアリーの未来予知スキルを使って保険のリスク評価をしているんですよ。君もなにかあればいつでも来てください。君ならいつでも大歓迎ですよ」


ベッドフォードはバチッと派手なウィンクをすると、上質な紙に印刷された名刺を手渡してきた。その際になぜかまた手を撫でられた。


「っと、そういえば、大事なことを聞き忘れていました」


慌ただしい様子で去ろうとするベッドフォードだったが、しかし、彼は去り際に振り返った。


「ヘインズ――君があのダン・ギャラガーに勝つ可能性はどれくらいあるんですか?」


その質問に対して、ギルバートは曖昧に笑うことでしか答えを返せなかった。


ベッドフォードと別れたギルバートは、ジョンソンにバーンズ・カードショップの前まで送ってもらった。


「それじゃあ旦那、おれっちはここで待ってるんで」


パイプに火をつけてプカプカやりだしたジョンソンを置いて、ギルバートは店の中へと入った。


「あらまあ、ヘインズさん! いらっしゃい! ふふッ、やっぱりあの気狂いユダヤ人の店では満足できなくなったのかしら? やっぱり当店の品揃えのほうが素晴らしくて、看板娘も素敵ということかしら?」


こちらを出迎えるサブリナ・バーンズは今日も絶好調だった。相変わらず頭がおかしい。看板娘なんてこの店にはどこにもいないはずなのだが。三十路の行き遅れともなると、想像上のお友達でも作ってしまうのだろうか。


お構いなく、というギルバートの言葉を無視して、サブリナは奥に行ってわざわざ紅茶を淹れてきた。


「これは昨日ハロッズで買ってきた、とってもいい紅茶ですのよ。砂糖とミルクは入れないほうが本来の味を楽しめると思いますわ」


「お構いなく、って言ったのに」


「まあまあ、ヘインズさんったら! ご遠慮なさることないのに!」


遠慮などではない。


サブリナが淹れる紅茶は不味いのだ。温度管理も蒸らす時間もめちゃくちゃで、本来の味を完膚なきまでに殺すのがサブリナの淹れ方なのだ。


ゴールドマン・カードショップで味わった素晴らしいブランデーと葉巻のことを思ってため息をつくと、ギルバートは息を止めて紅茶をぐっと飲んだ。


「あらあら、ヘインズさんったら! そんなに喉が渇いてらしたのね。おかわりはいかが?」


「いえ、結構」


「それではスコーンはどうかしら? わたくしが昨日作ったものなんですけれど」


「いえ、結構」


「ではジャム・クッキーは――」


「それより、サブリナさん。訊きたいことがあるんだけれど……ダン・ギャラガーのデッキについて」


その単語を出した瞬間、サブリナの目の色が変わった。


その口がものすごい早さで動き出し、言葉が嵐のような勢いで飛び出てきた。


「ダン・ギャラガー! あの〈赤毛〉の彼のことですわね! ええ、ええ! 彼のことならばわたくしも注目していますわ! なにしろヘインズさんの次の対戦相手にして、世紀の一戦なんですもの! これで勝ち上がったほうがトーナメント史上に名を残すプレイヤーとして、Bランクに上がることになるんですものねえ。それにここだけの話、ギャラガーさんは当店にも何度かいらっしゃったことがございます。つまり、当店バーンズ・カードショップからすれば、ヘインズさんもギャラガーさんも大切なお客様というわけですわ。それで……ああ、ギャラガーさんのデッキの話でしたわね。そうですわねえ。ダン・ギャラガーさんのデッキレシピについてですけれど、あれは典型的なゴブリン・ウィニーデッキですわね。当店にいらっしゃった際、あの方は〈ゴブリンの戦士〉、〈ゴブリン特攻兵〉、〈ゴブリンの暗殺者〉、〈ゴブリンの賢者〉のソウルカードを。呪文カードのほうは〈ゴブリン式交渉術〉、〈ゴブリン式暗殺術〉、〈ゴブリン式錬金術〉――どれもゴブリンを生贄にして自爆させる攻撃呪文カードですわね、それをお買い求めになられましたわ。ソウルカードも呪文カードも安くて簡単に手に入れることのできるカードですわね。その点から見れば、ギャラガーさんの〈十二匹の怒れるゴブリン〉デッキは、作ろうと思えば誰にでも作れて使用できる、簡単な初心者向けデッキと言えないこともないですわ」


そこまでを一呼吸のうちに言ってのけると、サブリナは自分が淹れた紅茶で美味しそうに喉を潤して、また一気に喋りだした。


「ですが、それだけにゴブリン・ウィニーは対抗策が取られやすいデッキでもあります。確かに場にゴブリンを大量に展開されてしまえば厄介ですが、ゴブリンはタフネスが低いソウルです。ゴブリンなんて、〈ノルドランの大嵐〉や〈連鎖衝撃〉のような全体除去のカード一枚で簡単に破壊することができますわ。ですが、ギャラガーさんはそれでも現在、歴史的なBへのランクアップに王手をかけていらっしゃる状況にいます。これはあの方のマスタースキルが破格であることの証明のように、わたくし、思いますわ。そもそも、これはわたくしの個人的な意見なのですけれど、簡単なように見えるああいうデッキこそ、扱いが難しいものです。世の中には、トーナメントの試合など、大金で強いカードをたくさん集めて、あとは大量のマナでそれらをぶっ放していれば必ず勝てるなんて豪語される殿方もいらっしゃいますけれど、ふふッ、愚かですわねえ。こういう意見には呆れてものも言えませんわ。マスタースキルとはもっと優雅かつ繊細なものですわ。たとえばギャラガーさんの〈十二匹の怒れるゴブリン〉デッキには、ゴブリンのビートダウンで殴り勝つか、それともゴブリン式の呪文カードで相手を焼き殺すか、その微妙な判断が常に求められます。それに加えて、敵に全体除去を打たせないように常に先手を打っていかなければ、ゴブリン・ウィニーを使いこなすことなど到底できませんわ」


「ああ、そうだね。僕もそう思います」


サブリナの長広舌にふむふむと相槌をうなずく振りをしながら、ギルバートは自分の紅茶をこっそりティーポットの中に戻していた。


(カードマニアはこれだからなあ)


ちょっとダン・ギャラガーが使うデッキについて尋ねてみただけで、これだ。カードマニアに語らせる機会を与えると、ろくなことがない。ちょっと感心してみせただけなのに、こちらがすでに知っている知識をさも得意気に話してくる。


とはいえ、知りたい情報の裏付けはこれで取ることができた。


事前に得ていたダンのデッキレシピの情報とサブリナが語った内容には差異がなかった。


(しかし、それにしても)


顧客の売買情報を勝手に話すとは、この女はいったいどういう了見なのだろうか。


数日前、ゴールドマン・カードショップで同じ質問をしたときには、店主のグレアムは、眉をひそめてはっきりと言い切っていた。


「わたしたちのビジネスは銀行と同じく、信用◆第一です。お客様の個人情報を話すなどありえません」


グレアムにはサブリナと同じ種類の狂気を感じていたのだが、同じカードマニアでもそこだけは違ったらしい。


目の前でダンの個人情報についてまだペラペラと話し続けるサブリナを眺めて、ギルバートは思った。


(やっぱりバーンズって最低だな)


以前からこの店はまともに商売する気などないのだろうな、と思っていたが、それ以前に人としてどうかしている。


この分では僕の情報もすっかり世間に出回っているんだろうなあと思いつつ、ギルバートはいつまで経っても終わらないサブリナの演説を聞き流していた。


「――ですからこの観点から考えますと、やはりギャラガーさんは、わたくしやヘインズさんのような感覚派のプレイヤーと違って、理論派なのですわ。どこであのような戦い方を学ばれたのかは存じ上げませんけれど、すべての動きが意味を持って繋がっていくあの戦い方には、どこか正統な趣を感じさせます。そう、たとえるならあれは、研ぎ澄まされた一本の剣のようなもの。実用性本位で鍛え込まれたはずなのに、その刃がまるで芸術品のような輝きを帯びているように、ギャラガーさんの戦術は――」


「ああ、そうだね。僕もそう思います」


「――もちろん、どちらがどちらということもなくて、感覚派のプレイヤーの中には理論に則ったうえでそうする方もいらっしゃいますし、その逆もございます。要するにどちらが良いとかそういう話ではないのですけれど、中にはそれを勘違いする殿方もいらっしゃって、そう……あの強欲気狂いユダヤ人なんかは特にそうですわね。まったく、あのユダヤ人ときたら! ああ、そうだわ。ねえ、この話、わたくし以前にお話したことがあって?」


「ああ、そうだね。僕もそう思います」


「――トーナメントの話からは少し逸れてしまいますけれど、以前、ちょっとした用事であのユダヤ人の店を訪れたことがございますの。そうしたらユダヤ人は留守で他に誰もいなくて、わたくしお店の中で待たせてもらうことにしたんですけれど……そうしたら、なんと! ガラス棚の中にあの〈ヴァレンシーノの暴虐者、ゲルテウス〉がありましたの! ねえ、信じられるかしら? あの〈ヴァレンシーノの暴虐者、ゲルテウス〉が、ユダヤ人のガラス棚なんかにありましたのよ! ああもう、それを見たときのわたくしの気持ちときたら! まったく目の前の光景が信じられませんでしたわ! わたくしがもしあれを手に入れていたら、肌身離さず持ち歩いて、入浴するときもベッドの中でも一緒にいますのに! ……だからというわけでもありませんけれど。ええ、まったく悪気はなかったのですけれど。ただ気づいたら体が動いていたというか。どうやってかはわかりませんけれど、気づくとわたくし、ガラス棚の鍵を開けて、〈ヴァレンシーノの暴虐者、ゲルテウス〉を手に取っていましたの。ええ、もちろん、盗むとかそういう気持ちはまったくございませんでしたわ。ただそう……あれだけの価値を持つ貴重なソウルカードなんですもの。あるべきものを正当な場所に移したいという思いがあったことは否めませんわ。ねえ、そうでしょう? あんな希少なゴールドカードはあの強欲ユダヤ人にはふさわしくないと思いますでしょう?」


「ああ、そうだね。僕もそう思います」


「でしょう!? ですから、わたくし、カードを愛する者の一人として、〈ヴァレンシーノの暴虐者、ゲルテウス〉をハンドバッグに入れましたの。そうしたらそのタイミングを見計らっていたかのように、あのユダヤ人が現れまして……もちろん、わたくし謝罪しましたわ。理由はどうあれ、最低なことをしたのは事実なんですもの。わたくし、涙をこぼして、お詫びの印に自分の要らないコレクションを少しだけ差し上げるとまで申しましたわ! そうしたら、あのユダヤ人はなんと言ったと思いますか? 『そうか、そうか、つまり君はそういうやつなんだな』って、軽蔑したように言いましたのよ!」


「ああ、そうだね。僕もそう思います」


「でしょう!? よりにもよって、あんな強欲気狂いユダヤ人に軽蔑されるなんて……不愉快極まりない事件でしたわ。あれ以来、わたくし、あのユダヤ人とは距離を置くことに決めましたの。幸い、あちらも同じことを思ったみたいですけれど」


「ああ、そうだね。僕もそう思います」


「それで――あら、なんのお話だったかしら……? ああ、そうそう。ダン・ギャラガーさんのお話でしたわね」


サブリナは紅茶を飲み干すと、そこでふと思い出したかのように、こちらに向かって問いかけてきた。


「そういえば……ヘインズさん。あの方に勝つ自信はどれくらいおありですの?」


バーンズ・カードショップを出たギルバートはジョンソンに多めの金を握らせて先に帰らせた。


少し一人で歩きたい気分だった。


多くの人で溢れている繁華街、ピカデリー・サーカスの通りを歩いていると、どこからか飛んできた新聞が足に絡みついた。グシャグシャになったその紙面には、〈ドラゴン犯しのサキュバス〉と〈十二匹の怒れるゴブリン〉、勝つのはどっち!? という文字が派手なフォントで印刷されていた。


(どうしてみんな同じことを訊くんだろうか)


足を振って新聞を剥がしながら、ギルバートは苦笑していた。


勝算は?


勝つ見込みは?


今日出会った人はみんな、ギルバートにそう尋ねてきた。


まあ、そういう質問をしてくるのは当然のことだろう。純粋な興味から、賭けのための情報収集として、あるいは会話の取っかかりとして。訊いてくるのはある意味、当然のことだ。


だが、ギルバートはその質問に対する主観的な答えを返すことができなかった。


(客観的に見れば、まあ四対六くらいかな)


マナ量でいえばこちらのほうが多いと思うが、マスタースキルはダンのほうが上をいっている。体力や集中力に関してはわからないが、真っ向から短期戦でぶつかればダンのほうが勝つ可能性は高かった。


だがそういった事実はともかくとして、ギルバートは今日質問してきた人に正直な答えを返すのを避けてきた。


実をいえば、アンジェラを失うかどうかについては悩んだことがあるが、試合の勝敗ということに関しては、これまでそれほど真剣に考えたことがなかったのだ。


だから、勝つ見込みは? と訊かれても、さあ、あんまり考えていませんでした、としか言いようがなかった。


(そういえば、あのときもそうだったな)


久しぶりにイートンの同級生に会ったせいだろうか。


ふと、昔の記憶が蘇った。


あれはそう――確か、アンジェラと出会う前後のときのことだった。

◆フレーバーテキスト


〈ゴブリン式錬金術〉

爆発薬(こいつ)は霊薬や賢者の石よりも価値がある。


〈ゴブリン特攻兵〉

ミルドランのハイヒューマンは多大なる予算と時間をかけて、敵を自動追尾して爆撃する魔法を発明した。一方、ゴブリンは仲間に爆弾をくくりつけた。


〈ゴブリンの暗殺者〉

暗殺=爆殺。


〈ゴブリンの賢者〉

ゴブリンの中でもっともうまく爆発できたものだけが、名誉あるこの称号を手に入れることができる。


〈ゴブリンの戦士〉

すべてのゴブリンが強力な戦士になりうる可能性を秘めている。どれが敵でどれが味方なのかを彼らに理解させられる者がいればの話だが。


〈ヴァレンシーノの暴虐者、ゲルテウス〉

「てめえみてえに自分の悪に無自覚な野郎は、悪党とはいわねえ。てめえみてえなのはゲロカス野郎っていうんだよ」

――ヴァレンシーノの盗賊団長。


〈ノルドランの大嵐〉

軟弱者は淘汰され、残ったのはノルドランの船乗りの中でも選りすぐりの屈強な者たちだけだった。


〈連鎖衝撃〉

一番のお気に入りの遊びは、鎖に繋いだ奴隷をピラミッド状に積み上げて、一番下の段にハンマーを食らわせるやつ。

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