第13話 沼地の魔女とサキュバスの愛
「マスターったら、なんて危ないことをなさるのっ!? 一歩間違えていたら、死んでしまっていたのですよっ!?」
「いやあ、つい我慢できなくてね。次からは気をつけるよ」
「絶対ウソです。マスター、前にもそんなことおっしゃっていましたもの」
「そうだったかな? ……でもさ、口ではそんなこと言ってアンジェラも気持ちよかったんでしょ? 君のここ……濡れ濡れだぜ?」
「や、いやぁ、そんなはしたないところをイジっては、ダメですわ……」
濡れた尻尾をイジると、身体をクネクネさせて、もっともっとお願いします♡ をしてくるアンジェラだった。そんな彼女を軽く焦らしながら、ギルバートは思考を巡らせていた。
グリンデローの魔の手から脱出して、アンジェラに見事キャッチされたギルバートは、安全なところまで移動して休憩を取った。
それから体感で一時間ほどは経過している。
チョコレートを摂取し、アンジェラからマナを逆供給されたことによって、消耗した体力やマナはだいぶ回復している。今日は呪文カードもまだほとんど消費していないので、探索を続けること自体は可能だ。
だが、とギルバートは前髪をかきあげて悩んだ。
今日はもう引き返すべきではないだろうか。
もともと長居するつもりはなかったが、やはり今日は様子がおかしい。あまりにもソウルの数が少なすぎる。
正確な経過時間はわからないが、ギルバートたちがこのフィールドに来てからすでに半日ほどは経過しているはずだ。その間、以前にも訪れたことのあるポイントをいくつか回ってはみたが、普段ならすぐに遭遇するはずの〈ウィル・オー・ザ・ウィスプ〉や〈沼地のインプ〉などのソウルが出てくる気配は一向になかった。
特に、〈沼地のインプ〉が出てこないのがキツかった。
やつらはレアドロップとしてカウンター呪文カードの〈打ち消し〉を落とす。〈打ち消し〉は市場価格で買えば高くつくが、〈沼地のインプ〉の出現率が高い〈ヌメドールの沼地〉では比較的安価なコストで手に入れることができる。
もともとギルバートがここに来たのは、それを狙ってのことだった。
〈打ち消し〉は〈雷火〉に次いで、ギルバートのデッキの中核を担うメインカードだ。
〈雷火〉は非常に需要が高いカードではあるが、タワーでの入手率が高く、需要と供給が安定していることからカードショップで比較的容易に購入できる。
その一方で、入手難易度が高く、玄人好みの〈打ち消し〉は、今のギルバートの資金力では継続して購入するのは難しいカードだった。
だが、頼みの〈沼地のインプ〉が出てこないせいで、次の試合までに最低限必要な〈打ち消し〉の枚数が足りていない。
これはいったいどうしたものだろうか。
進むべきか、戻るべきか。
結論はすぐに出た。
(やっぱり戻るべきなんだろうね)
感情で突き進むべきではない。理性が判断を下した。
次の試合まではまだ間があるはずだった。なにも急ぐ必要はない。また日を改めて再チャレンジすればいいだろう。
デッキから一枚のカードを取り出す。
〈道標〉――狙っているソウルや帰還地点への大まかな道のりを光の矢印で示してくれる呪文カードだ。
このあたりの地形は頭に叩き込んでいるが、念のために使っておこうと発動させる。
――だが。
「……」
本来ならば〈道標〉の光はギルバートの後方、小さめの沼を超えたその先を示すはずだった。ロンドンへと戻るための扉はそちらにあるのだ。
しかし、光の矢印はギルバートの前方、薄暗い木立の先を真っ直ぐに指し示していた。
どういうことだろうか。発動の瞬間、確かにギルバートの頭の中には出発地点にある扉のことが思い描かれていたのだが。
顎先に手を当てて考え込む。
と、そこでふと自分の下半身に目がいった。それで気づいた。
「……うふッ、そういうことか」
光の矢印が指し示す意味と下半身が向いている方向を察して、思わず笑いが漏れた。
「〈道標〉は何度も使っているけれど、こんなことは初めてだよ……なるほどなるほど、〈道標〉に嘘はつけないっていうことかな」
「あらあら、マスターの魔術回路、またおっきしてしまいましたか?」
アンジェラがこちらの背中に柔らかな双丘をぎゅっと押し付けて、後ろから抱きついてきた。
首に絡み付けられた細腕にそっと指を這わせて、答える。
「そうだね……どうやら〈道標〉は頭ではなくて身体が求めるものを指し示すカードだったみたいだ」
背中で大きなふたつの果実の感触を感じながら、光の矢印が指し示すほうを下半身で示してみせる。アンジェラがこちらの肩に顎先を乗せてそちらの方向を見た。
葦が伸びすぎた髭のように鬱蒼と茂る中に、枯れたような痩せた木がまばらに生えている。小さな沼があちらこちらに点在していた。底の知れない闇のような沼だ。
光の矢印が指し示す方向には、その沼が具現化したようなマナの気配が渦巻いていた。今まで出会ったソウルとは比較にならないほど濃厚なマナだ。
その危険な気配に生き物としての生存本能が警報を上げていた。背筋で酷く冷たいものが這いずりまわる。
(今までに出会ったことがないほど危険なやつだ)
こめかみに一筋の汗が流れる。血管を流れる血液は氷のように凍っていた。
光が指し示す方向をアンジェラとともにじっと注視する。
すると、それは黒い霧とともに姿を現した。
それはどこまでも黒い女だった。ドス黒いマナが全身から噴出している。漆黒の衣を身にまとい、闇のようなベールで顔を覆っている。
身にまとうもの、放つ雰囲気、そのすべてが底なし沼のように黒い女だった。
「お、おおお、おおおぉぉぉぉぉぉぉ――」
「……ッ」
嗚咽とも怨嗟ともとれぬその叫びに、ギルバートの足がいきなりガクガクと震え出した。恐怖だ。明確に叩きつけられた相手の敵意にギルバートははっきりとした恐怖を覚えていた。
――それなのに。
(……どうしてこんなに熱いんだろう)
熱を持った下腹部にそっと手を這わせて吐息を漏らす。
同じように、耳元でアンジェラが小さく喘ぐ声が聞こえた。銀色の髪先がさわさわと首筋を擦った。
ぞくりと背筋に震えが走った。
危険と興奮。スリルと快感。極限状態におけるフェティシズム。
目前に現れた脅威に対して、ギルバートは欲情していた。
「いいねえ……すごくいい……ッ」
腰に片手を添えてズンッと下半身を前方に突き出す。もう片方の手でオールバックをぐっとかき上げ、唇をペロリと舐める。
「君が〈沼地の魔女〉か。噂には聞いていたけれど、素敵なソウルじゃあないか」
〈ヌメドールの沼地〉最上級ソウル――〈沼地の魔女〉。
サブリナ・バーンズが警告し、案内人に危険だと躊躇させた恐るべき魔女。
それが今――目の前に出現していた。
――そして。
戦いは、唐突に始まった。
(アンジェラッ!)
(――ッ!)
魔術回路を通じて届いた彼の叫びに身を翻す。
一瞬前までいた場所を黒いマナの塊が通過していった。背後で爆発音が聞こえた。危ない。彼の操作のおかげで今のところは一発も直撃していないが、相手の〈魔弾〉は恐るべき威力を持っている。まともに食らってしまえば、脆弱なタフネスしか持たない自分は一撃で破壊されるだろう。
――破壊。
破壊される、というのはどういうことだろうか。それは人間の死とはどう違うのだろうか。
(いいえ、きっとなにも違わない)
敵の攻撃をさらに回避しながら思う。
破壊されれば消えてしまう。彼と過ごした記憶、彼に愛された証、彼が与えてくれたなにもかも。それらがすべて破壊されて、自分はあの荒涼とした世界に戻されてしまう。
(それはイヤですわね……)
彼と出会う前のことで覚えていることはほとんどない。
わずかに覚えているのは、嵐が吹きすさぶ果てのない荒野を彷徨い続けていた、悪夢のような記憶だけだった。
いったいどれくらいのあいだ、彷徨っていたのだろうか。数年? 数百年? それとも永遠で一瞬?
ただ覚えているのは、あの世界はひたすら乾いていて、自分はとにかく一歩も動けないほど疲れ切っていて、それでも歩き続けねばならない罪と罰を背負っていたことだけだった。
乾いていた。お腹が空いて、喉がカラカラで、なにも考えることができないほど擦り切れていて――
そして、飢えていた。
寂しかった。苦しかった。孤独な世界に閉じ込められて、愛というものに飢えていた。
それが、彼に出会って救われた。
そう、自分はあの日、確かに彼に救われたのだ。
今でもはっきりと覚えている。
果てしなく続く荒涼とした大地に、突然現れた光の柱。もうどうにでもなれと思って飛び込んだ先で出会った彼のこと。
――君が……僕のパートナーなのかな。
たぶん、彼と出会ったあの日に自分は生まれ変わったのだと思う。
家族や友人はおらず、それどころか記憶すら持たない存在だった。どこまでも続く荒野を歩く苦行に摩耗して、あと少しで消えて失くなってしまっていた存在だった。
だが、彼は与えてくれた。
自分の名前すら覚えていないこの矮小な存在に、アンジェラという名を。
孤独だということに気づかないほど孤独だった自分に、愛を与えてくれたのだ。
だから、彼があえて苦難の道を選んだときにも、なにも言わなかった。彼が自分を求めてくれるのならばそれでよかった。
たとえそれが、苦難と困難、そして堕落に満ちた道だったとしても、自分はどこまでも彼についていくと、そう決めたのだ。
今も魔術回路を通して与えられる彼のマナに思う。
過去の記憶に安らぎはない。
将来の展望はなにもない。
今あるのはこの一瞬だけ――彼とともにあるこの瞬間だけだった。
〈愛欲のサキュバス〉アンジェラは、魔術回路を通して伝わってくるマスターの喘ぎ声に、うふッ、と笑う。
(今が気持ちよければ、それでいいですわよねッ!)
敵の攻撃を回避して、送り込まれたマスターのマナを自分の尻尾に一気に集中させる。濡れたように黒いこの尻尾はアンジェラの敏感なところで、そして一番強力な武器だ。
黒く艶めかしい尻尾に一気に血液が送り込まれたようだった。
ビキビキと音を立てて、長く、太く、そして大きくなったソレは、凶暴に剛直しつつも、しなやかな鞭のようにうねっていた。ハート型の先端は、すべてを搾り尽くす悪魔の注射器のようだった。
アンジェラは自らの黒い剛直をズプリと口に含んだ。数回ズポズポと口の中で上下に動かしてから、頬をすぼめてジュポリと吐き出す。
糸を引きながら出てきた黒い剛直は唾液でヌルヌルに濡れていた。
敵に挿入するにはちょうどいい具合だった。
(それでは、イきますわよ♡)
くるりと身を翻して敵の頭上を舞う。
正面から抱きついて〈沼地の魔女〉を押し倒した。
暴れて逃れようとする女に、ズブリと一気に剛直を突き刺した。
「お、おお、おおおぉぉぉぉぉぉぉッッッ!?」
「気持ちいい? 気持ちいいのかしら? うふッ、暴れではダメでしょう? 大人しくしてればもっと気持ちよくしてさしあげますわ♡」
黒い〈魔弾〉をめちゃくちゃに撃ち出して逃れようとする〈沼地の魔女〉を組み敷いて、真っ黒な剛直をズプズプと前後に動かす。
――ビクンッ、ビクンッ、と。
血管をバキバキに浮き上がらせたアンジェラの黒い剛直が脈打っている。
植物が地面から水を吸い上げるように、黒い剛直は魔女のソウルからその魂のエネルギーを吸い上げていた。新鮮なマナだ。熱くてドロドロしてヌルヌルしてて――濃厚なミルクのように素敵で美味しいマナだ。
〈愛欲のサキュバス〉アンジェラの固有スキル――〈聖なる饗宴〉。
それは、サキュバスのソウルの中でアンジェラしか持たない固有の能力にして、先日のジョン・アーヴィングのソウルを屠った決め手の一撃だ。
マナの受け渡しを司る器官であるアンジェラの尻尾を突き刺し、対象のソウルからアンジェラ、そしてギルバートへと強制的に魔術回路を接続することによって、敵のソウルのマナを一方的に吸い取るスキルだ。
だが、それだけではない。
――感じる。
相手のマナが敏感な尻尾を通じて汲み上げられてくる。それとともに、相手の想いが流れてくる。
(これって……あなたの記憶?)
哀しい。苦しい。憎い。そして、愛してる――真っ黒なマナとともに痛いほどの気持ちが伝わってくる。
それは〈沼地の魔女〉の記憶だった。
――男に、出会った。
生まれたときから国の英雄であるべく定められた男だった。けれども、彼は弱いひとだった。
そんな人間らしい彼を自分は愛した。愛してしまった。
彼のためならばなんでもやった。自らの手を血に染めることも、他の男と寝ることでさえも、なんでもやった。
その献身の果てに、彼は英雄となり――血と裏切りに塗れたこの身を切り捨てた。
――今後一切、わたしに近寄るな。この穢れた魔女め。
彼の最後の言葉を聞いたその瞬間から、終わりなき憎しみと苦悩が始まった。
国を追われ、放浪の果てにたどり着いたこの沼地。誰からも見放されたこの土地に自分は縛りつけられ――国が滅んでも、世界が滅んでもなお、この土地に魂を縛りつけられている。
憎い。あの男が憎い。
……だが、それでもなお、この魂は彼を愛して求め続けている。
そんな自分が憎くて、情けなくて、哀しくて……そのために、彼女は嗚咽とも怨嗟ともとれぬ叫びをあげて、この土地を訪れた者を襲い続けている。
尻尾を通じて伝わってきた〈沼地の魔女〉の記憶と想いに、アンジェラは共感の念を抱いた。
(そう……あなたもそうなのですね)
人型のソウルに特にあることだが、生前の悔恨や果たしきれなかった望みに囚われて、自身のあるべき姿を見失ってしまっているソウルは多い。このソウルもそうなのだろう。詳しいことはわからないし、きっと彼女も覚えていないのだろうが、その魂が抱えた苦しみは尻尾を通して痛いほどに伝わってくる。
騎乗位でまたがった背中から感じられるその苦悩に、アンジェラはこのソウルの痛みを取り除いてやりたいと思った。
(よくってよ、そんなに苦しまなくて)
彼女の頬にそっと手を当てる。氷のように冷え切った肌に温もりを与えてやるべく、心の中でつぶやく。
(わたくしたちはソウルですから。生きていた頃のことはもうはっきりと思い出せない、魂だけの存在ですから。ですが、それでもいいですわよね。今この瞬間に幸せを感じることができれば、それでいいですわよね)
自身のマスターのことを思う。ただ世界を彷徨い続けていた、この矮小な魂をすくい上げてくれた、大切なひとのことを思う。
――うふッ、と。
思わず笑みがこぼれた。
臀部から伸びる黒い尻尾が、〈沼地の魔女〉の中でバキバキになっていた。
アンジェラは自身の剛直を相手のさらに奥深くに挿入した。
「昔のことなんかどうでもいいですわよね! そんなことよりわたくしたちと一緒に気持ちよくなりましょうっ! ねっ!?」
「お、おおぉッ、おおぉぉぉぉぉッッッ!?」
「あらあら、どうしたのかしら? ここがいいのかしら? あらあら、まあまあ♡」
「おぉッ、おおぉぉぉッ!? あ、あッ、あッ、ああッ、ああんッッ!」
「あらあら、〈沼地の魔女〉ちゃんったら、もしかして気持ちよくなってきちゃったんでちゅかぁ~? さっきまであんなに反抗期だったのにそんなに可愛らしい声あげちゃってどうちたんでちゅかあ~?」
「あ、あッ、あッ、ああッ、ああんッッ!」
「女の子同士でも気持ちいいですわよねえぇ? 気持ちいいですわよねえぇッ!? 顔も覚えてない男のことなんてどうでもいいですわよねえええッッッ!?」
「んぁ、ああんッ、あッ、ああッ、ああんッッ! や、いや、やめて……」
「あら、〈沼地の魔女〉ちゃんったら、ちゃんとお喋りができたのね♡ えらいえらい♡ それではわたくしに、どうして欲しいのかおっしゃってみて♡」
「いや、いや、やめて……ッ! わたしの体は、あのひとのものだから……ッ! 裏切られても蔑まれても、この魂はあのひとのものだからあぁぁ……ッ!」
「……」
「だ、だめ、やめて、それ以上、わたしの中で太くて大きいの動かさないのでええええぇぇぇッ!」
「……」
「わ、わかりました、わかりましたからああああぁぁぁッ! 顔も覚えてない男のことなんか忘れるからあああぁぁぁッ! あなたにすべてを捧げるからあああぁぁぁッ!」
「うふッ、よく言えまちたねぇ♡ それでは、えらいえらいな〈沼地の魔女〉ちゃんにご褒美あげちゃいましょうね♡」
「えっ、うッ、嘘ッ、ちょ、ちょっと待って……ッ! あ、ああッ! だ、ダメッ! あ、んあッ、ああああああぁぁぁぁぁッ!」
すべてのマナを搾り取られて〈沼地の魔女〉が果てるまでは、一瞬だった。
あッ……と、最後にひとつ喘ぎ声を漏らした〈沼地の魔女〉から、すべての漆黒のマナが消え去った。あとに残ったのは、清浄なる光を放つサレンダー・ソウルのみだった。
(――うふッ)
自身に屈服したソウルを前にして、アンジェラは真っ赤な唇に指を当てて思う。
どれだけ苦痛に満ちた過去があろうと、どれだけ悔やまれぬ記憶があろうと――そんなことはどうでもいいことだ。
大切なのは今このときだけ。今を生きるこの一瞬だけ。
(気持ちよければ、それでいいですわよね)
かくして、〈愛欲のサキュバス〉アンジェラは笑う。
うふッ、うふッ、と自身のもっとも大切な存在と同じ笑みをこぼしながら彼女は笑う。
(すごくいい、すごく気持ちいいですわッ……! ねえ、マスター、このまま……このままイケるとこまで、どこまでもイきましょう?)
その気持ちが魔術回路を通じてマスターに届いたのかどうか。
ビクンッと跳ねた魔術回路に確かな反応を得たアンジェラなのだった。
◆フレーバーテキスト
〈赤銅の衣〉
より良いものを身に着けなさい。それはあなたを守ってくれるから。
――老魔女の教え。
〈ジャック・フロッグ〉
「食べてよし、皮を剥いでよし。こいつは草原の羊みたいなもんさね。便利な家畜なんだわ」
――沼地の番人ババアの話。
〈カエルのヌルヌル油〉
「これはマナの流れを良くする特別な油なのです」
――アモーラの癒し手。
〈アモーラの癒し手〉
「あの、これ本当にマッサージなんですか……?」
――狙われた人妻魔女。
〈グリンデロー〉
溺死か、絞殺か、八つ裂きか。好きなものを選べ。グリンデローならばどれかひとつ、あるいはすべてを貴様に与えてくれる。
〈沼地のインプ〉
「こいつらと普通のインプにそれほど大きな違いはない。ただし、ムカつき度合いでは断然こいつらのほうが上だ」
――呪文を打ち消されたルックウッド。
〈ウィル・オー・ザ・ウィスプ〉
誰しもが覚えのある、暗くて怖い夜道の先に見える温かい我が家の光。
〈道標〉
心から伸びる一筋の光があなたを闇へと誘う。
〈魔弾〉
指先ひとつで、殺意は一瞬。ズドンと撃って、真っ赤な血の華。
〈沼地の魔女〉
ここは安らかなる死に満ちた静寂の沼地。わたしを迫害したあの男がいる残虐な世界とはまったく違った土地。
だが、それならばなぜ。
わたしは今もこうしてあの男を求めて彷徨っているのだろうか。
だれか救って。そして離さないでずっとそばに置いて。このみじめで情けない魂を、誰か。




