第4話:呼び声の届く声
生後ちょうど一年──幼年期に差し掛かったレオンは、まだ小さな足取りながらも自らの意思で歩き始めていた。王都近郊の小さな庭園に設置された古びた魔導クリスタルの前で、その掌をそっと伸ばす。
「……んっ」
幼い指先が触れた瞬間、クリスタルは青緑色の光を帯び、軋むように柔らかく震えた。まるで呼び声に応えるように、庭園を見守っていた母セリア、ミレイナ、そして遠くから様子を見に来ていた錬金術科見習いのリサ、剣術科見習いのカミラ、召喚科見習いのエリーの顔色が一斉に変わる。
「ミレイナ、見て! クリスタルが……!」
リサが驚き、カミラは剣の柄を握り直し、エリーは思わず宝珠を抱きしめた。
次の瞬間、光はさらに強まり、クリスタルの周囲に小さな魔導陣の紋様を浮かび上がらせる。レオンの胸中に、ごく僅かながらもかつての配達員としての使命感が蘇る。
――「僕は、この手で何かを届けるんだ」
内なる声に導かれるように、彼の身体から溢れた魔力が華麗な光の輪を描いた。そのあまりの眩しさに、一同は思わず視線をそらし、目を細める。
光が静かに収まると、レオンは満足げに微笑んでいた。クリスタルの輝きは元の鈍い青へと戻り、しかし確かにその中には、新たな可能性の種が宿ったままだ。
母もミレイナも、そして見守る少女たちも、胸の奥で深い期待を抱きながら、小さな少年の新たなる成長を確信したのだった。