長いかいだん
私にとっては冒険でした。
ボクは、今日、とっても長くて、怖い階段をのぼる。
パパは危ないから、一人じゃ登っちゃだめっていってた。
でも、もう、一人でものぼれるって教えたいの、そしたら、褒めてくれるとおもうから。
「おみずもある、タオルもある」
ちゃんと準備したの、ボクは、本気。
真っ赤な鳥居をくぐったら、ながーい階段が見える。
長い階段に、怖くなって、服のすそをギュッとつかむ。
「がんばるぞー!」
少年の決意の声に合わせて優しい風が吹く。木々が祝福するように、その葉と枝を鳴らす。
「ヨイショ、ヨイショ」
ここの階段は、危ないから、ころばないように、ちゃんと歩く。
パパは、危ないことを教えてくれる。それと、どうしたらいいかも教えてくれる。
ボクは、パパが教えてくれたこと、ちゃんと覚えてる。
「だから、だいじょうぶ」
半分くらい、階段をのぼった。
パパが人生は半分くらいがんばったら、休んでも良いって言ってた。
汗もすごいし、一回休み。
階段に座るのは、おぎょうぎ悪いから、やっちゃダメって言われてるけど、いまなら許してくれるかな。
階段にすわったら、階段の下の方が見えちゃった。
すっごく高くて、怖くて、危ない。
そう思ったら、足が動かなくなっちゃった。
本当だよ、足が動かないとき、どうすればいいかわからない。
ずっと、階段の途中で、動けなくなったらどうしよう、
このまま、夜になったらどうしよう。
パパが来てくれなかったら、どうしよう。
こわくて、わからなくて、泣きそうになる。
「グスンッ」
ほんとに、泣きそうになったとき。
「坊や、大丈夫かい」
ママみたいな声がしたの。
声のほうをみたら、キレイな人がいたの。
真っ白な、カミと、おめめ。
「おやおや、泣きそうじゃないか」
キレイな人が、階段を、おりながらこっちにくる。
あわてて泣きそうな、目をこする。
「汗もすごいし、一人で登っているのかい」
ボクは、はずかしくて、頭をたてにふる。
「そうかそうか、えらいなキミは」
ボクの近くにきたキレイな人は、ボクの頭を、やさしくなでる。
「こんなに小さい体で、よくここまできたね。上まで行きたいんだろう、手伝ってあげようか」
キレイな人が、にこっとわらって、とっても優しいことを、言ってくれた。
下をみたら、まだ階段は危なくて、こわかった。
でも上をみたら、危なくなくて、こわくなかった。
そしたら、足が動くようになった。
キレイな人を見て首をよこにふる。
「一人で登るのかい?」
ちょっとだけびっくりした顔で、キレイな人がいった。
ボクは、頭をぶんぶんとたてにふった。
「キミは、本当に偉い子だな、そうかそうか、ならキミを手伝うことはしないよ。ただ、ここでキミが登るのを見ててもいいかな」
ボクは、なんでそんなことをするのかわからなかったけど、うなずいた。
汗をふいて、お水をのんで、元気をだす。
「がんばるぞー!」
「がんばれー」
今度は風は吹かなかった、かわりに楽しそうなキレイな声が少年を送り出す。
「ンショ、ヨイショ」
キレイな人が応援してくれてから、一番上まですぐついたちゃった。
「ヤッター!ひとりでのぼれたー!」
そのまま、階段のとちゅうにいるキレイなひとにお礼を言おうとしたら。
いなくなってた。
「かえっちゃったのかなぁ、おれい、いいたかったのに……」
悲しくなってしまうが、まだ、声がきこえるかもしれないから、大きな声でお礼をいう。
「おねぇさーん!!ありがとーーう!!!」
少年の大きな声が響く。少しして、強い風が階段の下の方から吹き上がる。
強い風で少年が目を閉じ、風の音を聞く中に
「聞こえているよどういたしまして、でも偉いのはキミだ」
そんな声が聞こえた気がする。
ドタドタと遠くの方から音がする。目を擦りながら少年は、そちらを見つめる。
「パパー!かみさまのおてつだいおわったー?」
焦りながら駆け寄る父と冒険を終えた無邪気な少年は、お互いをギュッと抱きしめた。
きっと怒られるだろうけど、すごいよ