40話 尻ピン
リーンの旦那発言で辺りは静まり返ったが、その数秒後には家臣さん達からキャーキャーと大歓声が上がった。
その凄まじい家臣さん達の興奮状態に、今この場でリーンの発言を否定なんて無理だと諦めるしかなく、挨拶の為に家臣さん達の方へと笑顔で進んでいく。
……ただし、隣のリーンに小声で話し掛けながら。
「さっき不要な設定が増えていたと思うんだけど? どういうことか、説明して欲しいな~」
「どうしてと言われましても……つい勢いで」
「つい? 勢い?」
「ですわ」
───ビシッ───
「痛…ですわっ!?」
「俺かユノレベルじゃないと見えないスピードで、デコピンをした。……いや、お尻にしたから尻ピンか。これだけの騒ぎを起こしたんだ。ちゃんと言わないと、また尻ピンだぞ?」
「うっ、だって……仕方なかったんですの」
「仕方ない? どういうことだ?」
「……」
「……」
───ビシッ───
「いたっーいです! ううっ、言いますわよ。エイジさんとユノさんが、ただならぬ雰囲気でしたので、つい……対抗してしまったんですわっ!」
対抗?
ユノと俺に?
どういうことだ?
名前の出たユノをチラと見ると、ユノは口パクを繰り返す。
え~と?
「や…き…も…ち…よ……ヤキモチよ?」
ヤキモチ……ヤキモチって、つまり?
以前ユノに、リーンからの力の供給量が断トツと、確か教えられたことはあるが、あれって感謝してるからってことじゃなく、そういうことなのか?
もう一度ユノを見ると、ユノはコクンと頷く。
「ほら、そういう雰囲気ですわ。ビンビン感じるユノさんの勝者感、それにその二人の以心伝心的な感じ。そんなの見せられたら、何かあったんじゃないかと勘ぐってしまい、つい対抗もしてしまいますわよ……」
◆◆◆
一日の間に褐色エロボディ美女だけじゃなく、金髪ドリル系お嬢様にまで告白されるという、漫画みたいな出来事に、これは夢じゃないかと自分に尻ピンしてみると、なんとクッソ痛かった。
つまりこの出来事は夢じゃないわけだが、何て答えれば良いんだろう?
この世界に転生する時には、ハーレム万歳とか思っていた。
可愛い女の子達とキャッキャウフフなんて、誰でも夢みるだろ?
でも、いざ複数人の女の子から、同時に好意を向けられまくると、尻込みしてしまうというか……。
「ん? ユノ? どうした?」
「あのね」
どうしようと歩いていると、後ろからポンポンッと肩を叩かれ、振り返るとユノが普通に話し掛けてきた。
ユノが告白してくれた時のことを考えると、ユノこそヤキモチを焼いてるんじゃないかと心配したが、本当に普通だ。
「私にリーンと話をさせて。その間にアナタは救助活動をお願い」
「何の話をするつもりだ?」
「ひ・み・つ。でも信用して」
◆◆◆
ユノに信用してと言われたら、信用するしかない。
だからリーンの事はユノに任せ、俺は言われた通り救助活動に全力を出すことにした。
しかし全力といっても、俺一人で帝都中の人を回復させることは不可能だ。
さすがに魔力が尽きて、ガス欠になってしまう。
だからチートな魔法の中から二つ……体力持続超回復と魔力持続超回復の魔法を、救助活動をしている人達に掛け、その活動をフォローする作戦でいこうと思う。
Vーマッスルの発動中にも掛けるこの魔法、超が付くその名前のとおり回復量が半端ないから、救助活動の助けになるはず。
まあそんな超回復でも、Vーマッスルの魔力と体力のとてつもない消費量は、カバー仕切れないんだけどね。
「あの、仙人様」
「ん? あっ、はい。何ですか?」
「私、モーデルと申します。サジタリウス家の元親衛騎士団長です」
うん、知ってる。
でもこの人には、知らない振りしないとね。
「はじめまして。でも俺のことは仙人じゃなく、エイジと呼んで下さい。田舎育ちで丁寧な言葉遣いが苦手なので、フレンドリーに呼んで接してくれると嬉しいかな」
「そんな! リーン様の旦那様を呼び捨てなど」
う~ん、やりにくい。
まあ、でも仕方ないか。
元の世界で例えるなら、フレンドリーに呼び捨てしてと、社長夫人が社員に言ったようなものだからな。
そりゃあ困惑するか。
とりあえず、俺だけでもフレンドリーに接しておくか。
そのうち皆も打ち解けてくれるだろう。
「そうですか。それでモーデルさん、何か用事が?」
「はい。城内の救助をしている者達が聞いた話なのですが、ご報告しておいた方がよろしいかと思いまして」
「城内の?」
「はい、皇帝のことなんですが」




