31話 落下
記憶にある皇帝とは違う声を聞いた時、その違和感から目の前の皇帝は、何らかの方法で作られた偽物か、魔法かなんかで操られた状態の皇帝だと推測した。
それはこんな騒ぎを起こしているのに、その目的を即答出来ないどころか、ずっと考え込んでいる状況が証明しているはずだ。
しかし、どっちかは見当がつかない。
コイツが倒して良い偽物なのか、助けなくちゃいけない皇帝なのかはね。
そしてそんな面倒なことをしている黒幕の考えも、まったく見当がつかないが、黒幕がいることはバレバレだから、とっとと出てきて欲しい。
時間がもったいないんだが……こんな面倒なことをしている時点で、出てくるような奴じゃないか。
ちょっと質問を変えてみよう。
このままでは埒が明かないし。
「よし、質問を変えよう。さっき『よく来た』と言っていたが、どうして帝都に入り口を作って中へと誘った? その目的は何だ?」
『ふふふ。そうだったわ。こんな問答をしてる場合じゃないわ』
ヨダレをたらしながら舌なめずりをする様子に、気色悪いとユノは大絶叫だが、それに気を取られている暇もない。
何の前触れもなく、部屋中に茂っていた枝がぐるりと俺の周りを囲み、一気に押し寄せてきたのだから。
◆◆◆
閉ざされた空間で、高速で迫って来る密集した枝を回避するのは、さすがにエルフの身体能力をもってしても不可能だ。
だから助かる方法は、唯一枝が迫って来ていない方向へ、リスクを承知で逃げるしかなかった……。
《ふぅ、やっぱり怖かったな》
《怖かったじゃないわよ! アンタ、無茶苦茶よ! 無事だったから良いけど、馬鹿じゃないの!》
超緊急回避を実行してから数秒後、狙いどおり逃げられたのに、ユノが五月蠅い。
まあ説明もなく、いきなり足元の床を最下層まで収納し、そこへ思い切り飛び込んだから無理もないか。
自由落下の速度を遥かに越えるスピードで、城の最上階から最下層へ向けて超高速落下をすれば、エルフでもビビるよな。
《でも落下の途中で、収納してあった馬用の干し草を大量に出して、無事着地出来るくらいまで減速したろ?》
《そうだけど、確かにそうだけど、一歩間違えたら死んだかもよ? 死ななかったとしても、私の身体が大変なことに!》
《怪我なら、俺の回復魔法でなんとかしたし》
《治せば良いって話じゃないのよ》
《まあ、良いじゃないか。捕まったら、もっと大変なことになってたかもしれないだろ? それに時間稼ぎも出来たんだから。収納した床も元通りにしたからな。奴は俺が何処へ逃げたか、直ぐには分からないはずだ》
《でも……でもね!》
《……ちょっと待て》
《何よ! まだ言い足りないんだけど!》
《いや、それより……アレを見てみろよ》
《何よ? 何が有るって言うのよ? ここ……ただの地下牢でしょ》
《そう、アイリさんが捕まっていて、俺が放り込まれた地下牢だ。そしてあの時は確かに無かった物が、今はソコにあるんだ。暗いからといって、あの時に絶対見落としたりしないモノがな》




