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2学期突入


 2学期に入ってすぐに体育祭の練習が始まった。てか、誰もリレーに出たがらないってなんなの?一番盛り上がって面白いのに。ちなみに、クラス対抗リレーの女子は私と真夏だ。男子は翔と惺。多分、このメンバーの50m走の平均は全クラスの中で一番速いと思う。


「葵、応援団するの?」

「委員会で仕方なくだけどね」

「チアの衣装似合いそう」

「ううん。私、蒼空くん来ないから学ランにする」


応援団の衣装はチアと学ランを選べる。蒼空くんが来るなら可愛いって思ってほしいからチアの衣装選ぶけど、チアの衣装着て去年みたいにその他の男子にチヤホヤされるのはごめんだ。だから、あえて学ランを選んだ。まあ、私はなんでも似合うけど。


「葵の学ランか~。いいじゃん!似合いそう!」

「でしょ?やっぱ真夏は分かってるわ~」


笑って真夏にハイタッチをした。すると、隣の席に(さとる)が座って話に入ってきた。


「葵、学ラン着るのか?」

「まあね」

「チアは?」

「え、なに?私に着てほしいの?」


私が笑って言うと真夏もそうなの?と言ってお腹を抱えて笑った。惺は私と真夏にデコピンをして否定をした。


「あ、てか次体育じゃん。早く着替えに行こ」

「ヤバ!」


慌てて教室を出て更衣室に向かった。今日の体育から体育祭に向けての練習が始まる。私はリレーと借りもの競争と応援合戦に出る。応援合戦は放課後に練習で借りもの競争もぶっつけ本番なのでリレーの練習をひたすらする。ちなみに部活対抗リレーは出ない。



「あぢ~」

「まだ全然夏だね」

「そうなんだよ。残暑とかいうレベルじゃないっての」


もう9月だと言うのに今日の最高気温は31℃だそうだ。だから、木陰で休むのも仕方がないよね。練習頑張ったし。


体育の授業が終わって着替えて教室に戻るとお昼休みになった。宿題を提出してなかった真夏と翔と一緒にお弁当を持って笹倉先生を探しに職員室に行った。すると事務員の先生が談話室にいると教えてくれて談話室に向かった。


「宿題提出するの遅くなってすみませんでした」

「以下同文です」


真夏と翔が宿題のノートを提出すると先生の向かいに座っていたスーツを着た男の人が翔の以下同文にツボったようでお腹を抱えて笑っていた。私たちが目配せでこの人が誰か知っているか訊ねているとスーツの人は名札を私たちに見せた。


「初めまして。9月から桜川高校の1年3組で教育実習をしている山崎(やまざき)(とおる)です。今年大学3年で、この高校出身なので君たちの先輩です。よろしくお願いします」

「はい」


大学3年生ってことは、21歳だよね?しかもこの高校出身って。


「あの、山崎先生。質問いいですか?」

「いいよ。何?」

「蒼空くん、えっと、小鳥遊(たかなし)蒼空(そら)って知ってますか?」

「蒼空?知ってるよ。3年間同じクラスだったしこの前一緒に飲みに行ったばっかりだよ」

「そうな、」

「え!マジすか!?羨ましい~!な!葵!」


翔は興奮したように言った。翔、なんで私に重ねてくるかな。けど、この人なら蒼空くんの高校時代を先生よりも知ってるんだよね。


「一緒にお昼いいですか?」

「どうぞ」


翔と真夏と席に着いてお弁当を食べ始めた。山崎先生はバスケ部だったらしい。てことは、お兄ちゃんの先輩でもあるのか。


「山崎、この2人は長谷川の弟と妹だ」

「え!確かに似てる。双子?」

「「三つ子です」」

「長谷川翔です!高2です」

「葵です」

千崎(ちさき)真夏(まなつ)です」


蒼空くんの話を聞きたいけど、何から聞こうか考えているとあっという間にお弁当を食べ終わっていた。てか、蒼空くんの元同級生に質問するのはなんかちょっと恥ずかしいかも。先生は付き合ってるって知ってるからバンバン聞けるけどさ。


「葵、今日なんか大人しくない?」

「葵なら山崎先生に質問責めかと思った」

「確かに。俺には小鳥遊のこと散々聞いてくるのに。山崎の方が知ってると思うぞ」

「蒼空のこと知りたいの?」


山崎先生、そんなストレートに訊かれると頷くのが恥ずかしいんですけど。


「まあ、教えてくれるなら」

「とか言いながらホントはめちゃくちゃ知りたいくせに」

「うるさい、真夏」

「葵ちゃんは蒼空のことが好きなんだね」

「………好きですよ。めっちゃ」


両手で顔を覆うと真夏たちに笑われた。真夏も翔のこと聞いたらすぐ照れて顔隠すくせに。翔の前だから言えないし~。


「聞きたいことあったら質問していいよ。あ、けどもう昼休み終わるから放課後とか別の日になるけど」

「はい」


放課後になって部活がなかったから帰ろうと靴を履き替えて外に出ると中庭のベンチに1人で座っている山崎先生を見つけて駆けよった。

近付くと山崎先生はすごい疲れた顔をしてため息をついていた。

なんだろう。イケメンって色んな悩みがありそうで大変なんだろうな。


「大丈夫ですか?」

「あ~、葵ちゃん。」

「めっちゃ疲れた顔してますけど、大丈夫ですか?」

「聞いてくれる?」

「断っても話し始めそうなのでいいですよ」


山崎先生はバレてたかと言って笑った。

まあ、ぶっちゃけ蒼空くんの友達じゃなかったらアイス奢ってもらってたけど。


「今日、生徒に告白されたんだよね」

「はあ」

「教育実習に来て3回目」

「………はあ!?まだ2週間経ってないですよね!?」

「断ったらめっちゃ泣かれて応援してた友達にめっちゃ睨まれて。女性恐怖症になりそう」

「普通、私の前で言いますか?」


わざとらしくため息をついて泣くふりをすると山崎先生は慌ててハンカチを取り出して私に渡した。

この人、面白い人だ。


「ありがとうございます。けど、目が痒かっただけなので大丈夫です」

「ヤバいよ。今ので悪化したよ」

「すみませ~ん」


笑ってハンカチを返した。

この人、面白いけどからかったら面倒な人だ。

気を付けておこう。


「けど、私のこと怖くないなら大丈夫ですよ。私、よく怖がられるので」

「それ、堂々と言うこと?」

「山崎先生が笑顔になれるなら言いますよ。蒼空くんの友達なので特別です」


笑って頬をかくと山崎先生はゾッコンなんだなと笑って私の頭に手を置いて慌てたように手を離した。


「ごめん。妹いるから、つい」

「そんな慌てなくてもいいですよ。私もお兄ちゃんいて慣れてるので」

「忘れてた」


山崎先生に妹がいることになんの違和感も感じないのがすごい。むしろ、やっぱりって思っちゃうし。見た感じ下に兄弟いそうな感じだもん。てか、妹絶対可愛いんだろうな。

想像しているとスマホの通知音が鳴った。

あ、私のスマホか。

ロック画面には蒼空くんからメッセージが来ていた。

え!今日休みだったの!?と驚いてベンチから立ち上がると山崎先生も驚いたような顔をしていたからすみませんと謝ってベンチに座った。


「蒼空くんが迎えに来てくれるらしいので、来るまで話し相手になってくれますか?」

「蒼空、今日休みなの?」

「らしいです。来週のデートまで会えないと思ってたからめちゃくちゃ嬉しいです!」

「え、待って。葵ちゃんの片想いじゃなくて、蒼空と付き合ってたの?」

「はい。もう10ヶ月です」


すると、山崎先生は驚きを通り越して呆れた顔をしていた。

もしかして、私が蒼空くんに一途にずっと片想いしてると思ったのかな?

一応片想いは中2のときに終わってるけど一途なのは合ってるよ。


しばらくして、蒼空くんから連絡が来て校門の前に行くと蒼空くんの車があった。

車の運転席のドアが開いて蒼空くんが降りてきた。

手を振ると蒼空くんがこっちに歩いてきた。


「透?なんで?」

「桜川で教育実習してるんだよ」

「あ~、言ってたな。けど、なんで葵といるんだ?」

「相談乗ってもらってた」

「そうか。まあ、大変だろうけど頑張れよ」

「うん。ありがとう。じゃあね、蒼空、葵ちゃん」

「さよなら」


ヒラヒラと手を振って山崎先生は校舎に戻っていった。

蒼空くん、山崎先生に会ってちょっと嬉しそう。

本当に仲良かったんだな。やっぱり、羨ましいな。

蒼空くんと学生時代を一緒に過ごして色々思い出があるって、私にはないものだから。


「葵、大丈夫か?」

「ん?なにが?」

「いや、ボーッとしてたから」

「大丈夫だよ」


笑って蒼空くんの車に乗った。

ちなみに、この車は私の夏休み中に蒼空くんが買った新車だ。

ボディの色は蒼空くんの好きな紺色だ。紺色って蒼空くんにぴったりだよね。


家まで送ってもらってインハイ優勝のお祝いにタオルをプレゼントしてくれた。

まあ、颯とお揃いなのはおいといてめちゃくちゃ嬉しかった。


「大切に使うね。ありがとう、蒼空くん」

「どういたしまして」

「じゃあね」

「ああ」




~2週間後 体育祭当日~


 あっという間に本番がやって来た。

山崎先生の教育実習期間は終わったけど体育祭のみボランティアとして来ているらしい。


そして、私と翔は颯に宣戦布告をした。


「俺、リレー出ないけど。てか、競技重ならないだろ」

「だから総合力で勝負なの!」

「そうだ!そうだ!」

「あっそ」


開会式が終わって今は障害物競争だ。真夏、ぶっちぎりの1位なんだよね。皆大体はネットのところで引っ掛かるけど、真夏はヤバいくらい早く通り抜けて平均台の上をダッシュするくらいだから誰も追い付けない。


そして、次は私の出場種目の借りもの競争だ。物か者か分からないのが嫌なんだよね。点が入るならどっちか統一しろ!って思うけどね。


スタートの合図と同時に走ってお題の書かれたカードを見た。めっちゃ具体的な借りものだけど、これはあの人しかいないじゃん!

私は3組のテントの方へ走って1年生の女子に囲まれていた山崎先生の腕を掴んでそのままゴールテープを切った。


「やった!1位だ!」

「お題、なんだったの?」

「なんだと思いますか?」

「変なお題じゃないよね?」

「それは安心してください」


『それでは、いよいよお題発表です!まずは、1位の長谷川さんが連れてきたのは教育実習生の山崎先生!引いたお題は“知り合いの知り合い”!なんかちょっと遠い~!』


放送部の人がツッコミをいれると会場は笑いが起こった。普段なら滑ってただろうなと思いつつそのツッコミは控えた。


『山崎先生は誰の知り合いですか?』

「私の兄の部活の先輩です」

『合格です!』


テンション高いな~。けど、マイク持ったまま耳元で叫ばれるのはしんどいですよ、先輩。


「蒼空の友人っていう紹介じゃないんだね」

「全校生徒の前で彼氏の友人ですって言うのはちょっと恥ずいんで」

「確かにそうだね」

「山崎先生の知ってる蒼空くんってどんな高校生でしたか?」

「全然笑わない学生だった。それが良かったのか顔が良かったのかその両方か、結構モテてた。会長、じゃなくて仁科先輩の次くらいにモテてたと思う。」


真白兄と蒼空くんじゃ真白兄の方がモテて当然だよね。真白兄はもう、本物の王子様みたいだもん。咲久姉をお姫様扱いだったもん。今はただ咲久姉を溺愛してるだけだけど。


「あ、モテてたけど全部断ってたと思うよ」

「大丈夫です。その心配はしてないので」


苦笑いを浮かべてそのまま退場した。

退場門には(りゅう)が歩いてきた。あれ?なんで退場門にいるんだろ。借りもの競争に出場してたっけ?

不思議に思っていると柳は私の腕を掴んだ。


「葵」

「柳じゃん!どうしたの?」

「颯が、呼んでたから」

「ああ。うん。けどなんで腕」

「なんとなく」

「そ、じゃあ可愛くない弟のところに行ってあげますか~」


山崎先生に頭を下げて柳についていった。

颯は少しキレ気味で待っていた。理由を訊くと本当につまんないことで怒っていた。

なんか、蒼空くんにもらったタオルを持って行ったと思ってたら私のタオルと間違えてたらしい。


「そんなんで怒らないでよ」

「蒼空兄から貰ったやつ、使ってないよな?」

「まだ使ってないよ。今から使うとこだったけど」

「その前に返せ」

「ホント、颯も翔も私の彼氏だって言うのに蒼空くんのこと好きすぎでしょ。」


ため息混じりにタオルを渡した。

颯はタオルを受け取って私のタオルを返してくれた。

まあ、私も蒼空くんがくれたものを颯とか翔が勝手に使ってたら嫌だけどね。


「用事終わったみたいだし帰るね」

「ああ」


それから午前の部が終わってお昼を食べて、私は学ランに着替えた。

2組の応援団の登場は派手に堂々とだ。私は学ランを着て一番前に立って歩いた。

そして、演舞が終わって退場門に向かった。


「葵~!カッコいいよ!写真撮ろ!」

「真夏!ありがとう~!あ、写真撮ったら送って。蒼空くんにも見せたいから」

「りょーかい」


真夏はイェーイと言って自撮りツーショットを撮って親指を立てて笑った。

真夏と更衣室に向かっていると同じ学年の男子生徒が数人こっちに歩いてきた。あ、颯と同じクラスの人だ。


「颯のお姉さん、颯の弱点ってなんですか?」

「熱いもの。あと、お母さんと私」

「え、どういうこと?」

「まんまの意味だよ。颯、猫舌だから。あと私って、怒ることはよくあるんだけどガチギレした顔がお母さんに似て恐いらしいから」


本気でキレるときは私もお母さんも笑顔なんだけどな。

颯も翔もお父さんもお兄ちゃんも、なんで美人と美少女が笑顔なのに恐いのか分からないな。

しかも、お母さんに至っては満面の笑みなのに。

まあ、怒ったときのオーラはすごく恐いけど。


「それ以外の弱点見つけたら教えてよ。私が17年かかって見つけられないのが君らに見つけられるとは思わないけど。じゃあ、行こ。真夏」

「そうだね」



それから着替えて最後の種目。クラス対抗リレーがやって来た。午前の部の予選で私たちのクラスは決勝に進んだ。決勝に進むのは6チームだ。そして、今からその6チームの中の1番を決める戦いが始まる。


第1走者の私はバトンを持ってスタートラインに立った。

ピストルの音でスタートして第2走者の惺までバトンを繋ぐ。

今は1位だ。このままいけば勝てる!すると、後ろから追い上げてきていた人がレーンを越さないギリギリまで近付いてきて私の足を踏んで抜かした。しかもそのとき足首捻ったし。

なんとかそれ以上は抜かされずに、2位で惺にバトンを繋いだ。


走り終わって列に座ると私の足を踏んだ人はアンカーの男子と喋っていた。

もしかしてわざとじゃないのかな?集中してて気付かなかっただけなら、わざわざ咎めるのもな。


今は応援に集中しよう。


「惺!いけ~!」


惺はすぐに1位の人を抜かして1位になった。

そのまま真夏なバトンを渡して真夏は2位とどんどん差をつけていく。


「真夏!最高!カッコいい!」


真夏は翔にバトンを渡すと私の後ろに座った。


「翔!1位だからって油断すんなよ!」


翔は半周差でゴールテープを切った。

やった~!って喜んで立ち上がろうとした瞬間、踏まれた足に体重がかかって痛くて顔をしかめてしまった。

すると隣に座ってた足を踏んだ人が小さく笑った。

あ、こいつ絶対わざとだ。

文句を言おうとそいつの方を見ると惺に腕を引かれた。


「葵」

「なに?」

「保健室行くぞ。教育実習の山崎先生に許可もらったから」

「いや、別に大丈夫だし」

「無理すんなって」


惺は私の方に背を向けて屈んだ。ここに乗れと?羞恥を晒せと?


「葵、怪我してるの?」

「まあ、足をちょっと」

「私がおんぶで保健室まで運ぶよ」

「いや、真夏じゃ重くて無理だろ?」

「私そんなに重くないし!」

「惺、もう少しデリカシーを身に付けた方がいいよ」


私と真夏はべーと舌を出してその場を離れた。

保健室で靴下を脱ぐと養護の先生が足首を触った。


「あー!痛い!」

「捻挫ね。少し熱いわ。病院行きなさい」


先生は氷のうを足に当てた。

ノックの音が聞こえて先生が返事をするとガラッと保健室のドアが開いて私の荷物を持った山崎先生が入ってきた。


「失礼します」

「あら、山崎先生も怪我ですか?」

「いえ。笹倉先生に長谷川さんの様子を見に行ってほしいと頼まれたので。葵ちゃん、どう?」

「めっちゃ痛いです」

「捻挫ですか?」

「捻挫です」


真夏は閉会式があるからと帰された。

養護の先生も用事があると言って保健室から出ていった。

だから今は山崎先生と私の2人だ。ん~、なんか気まずい。話題がないし、そんな話してる余裕もないし。


「葵ちゃん、選択肢2つあるんだけど。まず1つ目ね。ご両親に連絡して笹倉先生の車で病院に行く。2つ目、ご両親に連絡して今日休みで俺と夕方から会う予定で桜川市にいるはずの蒼空に来てもらう。どっちにする?」

「うっ、」


笹倉先生と一緒に病院行くのはなんか色々言われそうだから嫌だ。けど、せっかくお休みの蒼空くんをわざわざ呼ぶのもやだ。お兄ちゃんは今日大学だし。


「っ、笹倉、先生で、」

「嫌そうに言うね。まあ、分かった。伝えておくね」

「はい………。あ、あの、蒼空くんにはくれぐれも秘密でお願いします。心配かけたくないので」

「分かった」


しばらくして笹倉先生が保健室にやって来て荷物を持って車まで行った。

助手席に座って仁科総合病院の整形外科に行った。


診断結果は軽い捻挫で、全治2週間だそうだ。

2週間松葉杖生活か~。昔は松葉杖してみたかったけどめちゃくちゃ邪魔じゃん。

湿布と痛み止め薬を待っていると向こうから見覚えのある人影が近付いてきた。


「蒼空くん!?」


驚いて、思わず立ち上がると足に激痛が流れて座り込んでしまった。

蒼空くんは心配そうに駆け寄って私の顔を覗いた。


「なんでいるの?」

「颯と翔から、葵が怪我して病院行ったって聞いたから」

「あ、」


翔と颯に口止めするの忘れてた~。

いや、けど、今日蒼空くんが休みだって知らないと思ってたから連絡しないだろうって。

あ、でも、颯と翔って私以上に蒼空くんと連絡取ってるから知ってても普通か。


「長谷川さん」

「あ、はい」


笹倉先生が慌てて薬と湿布を受け取りに行った。

その薬と湿布を受け取って、帰りは蒼空くんの車で帰ることにした。


「長谷川、ご両親が頑張って早めに帰るって言ってたから無理するなよ。まあ、小鳥遊がいるなら安心だけど、くれぐれも松葉杖を使って弟2人と喧嘩しないよう伝言預かってるからな」

「しませんよ。てか、先生なら“長谷川は弟想いの優しい生徒なので心配いりませんよ”とか言ってくださいよ」

「そんな思ってもないこと言えない。じゃあお大事に。小鳥遊、あとは頼んだ」

「はい」


蒼空くんは頭を下げて車のエンジンをかけた。

神様、ありがとう!

足怪我したけど、今めちゃくちゃ幸せ!

あ、けど、しばらく部活出来ないんだ。最悪なんだけど。

座ったまま素振りするくらいなら全然問題ないよね?


「葵、誕生日どうする?その足だったらどっか行くより家の方がいいよな?」

「あ、………うん」


今は10月4日だ。

私たちの誕生日は10月14日。つまり10日後。

そして、私の足が治るのは2週間後。

予定では遊園地に行くつもりだったけどこんな足で行けるわけがない。


「蒼空くんと、2人がよかった」


家だと、颯と翔いるだろうしお兄ちゃんもいると思う。休日だからお父さんとお母さんもいるかも。


「怪我人をあんまり遠出させたくはないけど、ドライブでも行くか?」

「ドライブは、蒼空くんが疲れちゃうかもよ」

「運転するの好きだから大丈夫。」

「まあ、それなら」

「決まりだな。あ、そういえば今年のケーキは」

「颯。もう泣かないから大丈夫だよ」


笑って答えると蒼空くんは疑うような目を私に向けた。

この人、私のこと何歳だと思ってるんだろ。

さすがに8歳と同じ思考はしてないって。


「じゃあ、カップケーキ作る予定だったけどやめよう」

「え!いる!蒼空くんのカップケーキなかったら泣く!」

「泣くのかよ」


蒼空くんは可笑しそうに笑った。

けど、蒼空くんが作ってくれるカップケーキが1番のプレゼントだし。


家に帰ってリビングに入った。リビングは静かで誰もいなかった。

颯と翔は部屋で寝てるのかな?


「シャワー浴びてくる」


温度をぬるめにしろって言われたから夜浴びたら寒そうだし、体育祭で汗かいたからな。


「大丈夫か?」

「うん。あ、けど着替えが2階にあるから取りに行かないと」

「俺が取って来ようか?」

「嬉しい、けど。その、下着とかもあるからちょっと恥ずかしいかな」


苦笑いを浮かべると蒼空くんは少し赤くなって悪いと言った。

結局、蒼空くんに2階まで運んでもらって、自分で着替えを取ってまたリビングまで運んでもらった。

それからシャワーを浴び終えて着替えていると、片足に体重をかけるのを忘れて怪我した方の足にも体重をかけて痛くて転んでしまった。

ガシャンッ!と、音を立ててしまったからか走ってくる音がしてお風呂場のドアがノックされた。


「葵!大丈夫か!?」

「大丈夫!ちょっと転んだだけ」


急いでTシャツと短パンを履いて扉を開けた。

蒼空くんは安心したような顔をして私を抱き抱えてリビングまで運んでくれた。


で、今は至福の時間!蒼空くんに髪を乾かしてもらってる!怪我のせいで部活と遊園地は無理になったけど、その分蒼空くんが甘やかしてくれる。

あ、けど蒼空くんに心配かけちゃってるのは嫌だな。


「蒼空くん、今日山崎先生と飲みに行くんでしょ?まだ行かなくていいの?」

「ああ。あれ、断った」


蒼空くんはドライヤーを止めてコンセントのプラグを抜いた。

私は慌てて振り返って蒼空くんの顔を見上げた。


「なんで!?私のせい?」

「違う。急に高校のときの女子が来ることになったから」

「いいじゃん!楽しそう!行ってきなよ!」


私も元同級生と会ったら嬉しいし!

蒼空くんの顔を見上げるとムスッと不機嫌そうな顔をしていた。

私、なんかヤバいこと言っちゃった?

内心焦っていると蒼空くんに頬を掴まれた。


「ヤキモチ妬かねえじゃん」

「え、ヤキモチ妬いてほしかったの?」

「いや、ちが、くもないけど。透が、葵がヤキモチ妬くかもだから女子のいる飲み会は避けた方がいいかもって」


蒼空くんは真っ赤になって私から目を逸らした。

ヤキモチ妬いてほしいとか蒼空くん可愛すぎるよ。

けど、まあそんなこと言わなくても私は颯と翔にヤキモチ妬きまくりだけどね。


「蒼空かわい~!」

「急に呼び捨てで呼ぶなよ。心臓止まるかと思った」

「ごめんごめん。蒼空くんが飲み会に行きたいなら行ってきなよ」

「ああ」

「けど、忘れないでね。飲み会に参加してる人の中で蒼空くんのこと好きな人がいても、私が1番蒼空くんのこと好きだよ」


笑って蒼空くんに額を合わせた。これだけは絶対に誰にも負けないって自信持って言える。

それに蒼空くんも付き合う前に思ってた以上に私のことを好きでいてくれるし。

だから、女子と2人きりじゃないなら別になんとも思わないんだけど。

嫉妬したら蒼空くんに嫌われるかもって前までは思ってたけど、蒼空くんはやっぱ鈍感だからちょっとした嫉妬に気付かないんだよね。

だから、私は我慢せず自分の気持ちを通せるの。

やっぱり私たちくらい相性のいいカップルそうそういないよね。




 * * *




居酒屋にやって来ると久しぶりに会う人が結構集まっていた。


「葵ちゃんに止められなかったの?」

「全然」


『飲み会に参加してる人の中で蒼空くんのこと好きな人がいても、私が1番蒼空くんのこと好きだよ』


「蒼空~、顔赤いよ~。葵ちゃんに何か言われた?」

「別になんでもない」


葵の言葉を思い出したせいで顔熱い。

これだったらどれだけ飲んでも全然葵のこと頭から離れないだろうな。

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