プール
とうとう夏休みに入った。今週末、蒼空くんと一緒にプールに行く予定だ。新しい水着も買ってストレスを発散してしっかり寝て肌も綺麗になったはず。あ、そういえば最近咲久姉と遊んでないな。久しぶりに一緒に遊びたいな。
蒼空くんにも確認をしてから咲久姉にメッセージを送るとすぐに電話が掛かってきた。
『もしもし、葵?』
「うん」
『私、その日休みだから一緒に行ってもいい?』
「うん!楽しみ!」
すると、電話の向こうから咲久姉と同棲中の真白兄の声が聴こえてきた。
『葵ちゃん、俺も行っていい?』
「うん!当たり前じゃん!蒼空くんも男子1人じゃ寂しいだろうし」
『そうだね。あ、蒼空には俺が行くことは秘密ね』
「分かった!じゃあね、咲久姉、真白兄」
通話を切ってカレンダーに書いていたデートの前にダブルと書き足した。
ウキウキでリビングにおりると翔がソファでぐったりしていた。恐る恐る近付くとすごい汗をかいていた。急いでタオルを渡してお兄ちゃんの部屋に行った。
「お兄ちゃん、翔熱出してる」
「え!マジで!?」
お兄ちゃんは慌ててリビングにおりてきて翔の額に手を当てた。熱を測らせて39℃を超えていたからお兄ちゃんが車で病院まで連れていった。診断結果は夏風邪らしく頓服薬を飲んで熱を下げて今は部屋で寝ている。
「葵、早く教えてくれてありがとうな。俺、ずっとゲームしてたから葵が翔の様子に気付いてくれて助かった」
「別に。たまたまリビングにおりてただけ」
「そっか」
お兄ちゃんはお粥を作りながら私の頭を撫でて笑った。
翌々日には、翔はすごく元気になっていた。大切なことだからもう一度言う。翔は。私は朝から頭痛が酷くて寝込んでしまった。約束のダブルデートは今日だって言うのに、翔から風邪をもらってしまったようだ。
翔はドアを開けて部屋に入ってきた。
「ごめん、葵。俺が手洗いうがいしないから」
「ホントだよ。久しぶりに蒼空くんに会えるはずだったのに。蒼空くん会いたい」
「だよな。ごめん」
「まあ、私の日頃の行いが………良すぎるけど、愚痴とか言っちゃうからその罰があたったってことにしておくよ。その代わり、アイス買ってきといて」
翔は頷いて部屋を出ていった。それから数時間ほど寝ていたらしくドアが開く音で目が覚めた。ドアの方を見ると蒼空くんが立っていた。驚いてベッドから起き上がると頭痛がヤバくて頭を枕に乗せた。
「葵!大丈夫か!?」
「うん。平気。それよりなんでいるの?」
「翔がうちに来て今すぐ家に来てほしいって言われたから」
「なんかごめん。私が蒼空くんに会いたいって言ったからかも」
「だったら仕方ないな」
蒼空くんは少し照れくさそうに笑って私の額に触れた。夏だと言うのに蒼空くんの手は冷たくて熱が少しマシになった気がした。
「なんでこんな手が冷たいの?」
「いや、翔の慌てようがすごくて葵に何かあったのかと思って不安だったから」
「ご心配お掛けしました。まあ、見ての通り頭痛に襲われてます」
「じゃあ、喋るのも辛いよな。気付かなくて悪い」
「ううん。蒼空くんと喋ってたら気が紛れるから。あ、けど移ると困るから電話越しで話した方がいいかも」
蒼空くんは少し頭を抱えて小さく頷いた。蒼空くんって行動とか表情がホント可愛いんだよね。蒼空くんは手を振って部屋から出ていくと玄関のドアが開く音がした。自分で言ったのに少し寂しいとかわがままだな、私って。
すぐに蒼空くんから電話がかかってきて顔の横にスマホを置いた。しばらく話していると眠くなってしまっていつの間にか電話も切れて寝ていた。
夜に咲久姉と真白兄に謝罪のメッセージとスタンプを送ると2人とも私の体調を心配してくれた。そして、また今度一緒に遊ぼうと言ってくれた。
翌朝はまだ少し微熱と頭痛があったけど昨日よりは元気になった。今日は部活だけど休むことにした。皆、仕事や部活やバイトに行っていて家には1人だ。昨日寝たきりだったから体が鈍ってるんだよね。ジャージに着替えて庭に出て素振りをしていると、家のチャイムが鳴った。
庭から直接玄関に回ると蒼空くんが驚いた顔をして立っていた。
「おはよう、蒼空くん」
「おはよう。って、葵まだ熱あるから様子見に行ってほしいって頼まれたんだけど」
「微熱だし大丈夫だって」
「練習は完治してからだ」
「いいじゃん。素振りくらい」
唇を尖らせると蒼空くんはフッと笑って私の頬を両手で挟んだ。
「可愛い顔してもダメなものはダメだ」
「っ!………分かった」
「ほら、熱上がってきたんじゃないのか?顔赤いぞ」
「う、ん。」
蒼空くんは額に手を当てた。本当は微熱くらいしかないけど、顔が赤いのは蒼空くんのせいだよ。てか、なんでなんだろう。可愛いなんて言われなれてるのに蒼空くんから言われると照れるんだよね。
「昼ごはんは?」
「お母さんがお弁当作って置いてくれてる」
家に入って冷蔵庫を開けると私のお弁当箱がなくて颯の字で『翔は母さんに言ってなかったから弁当ないのに俺のやつ持ってったから俺は葵のやつ持ってく。蒼空兄呼んどくから許せ』と書かれていた。
「蒼空くん、ホントごめん。バカ弟2人が」
「いいよ。俺も心配だったし、2連休だから。葵に会える口実くらいに思ってたし」
「蒼空くん………!よし、じゃあ何する?」
「寝てろ」
「昨日寝すぎて寝れない!ゲームする!」
「寝なさい」
「蒼空くんが添い寝してくれるなら、いいよ」
蒼空くんの顔を見ると真っ赤になってすぐに顔を背けられた。ホントからかい甲斐があるな。冗談だよ、と笑おうとすると蒼空くんは私を抱き抱えてソファに連れていった。そして、膝枕をしてくれた。
「添い寝は無理だけど、膝枕でいいなら」
真っ赤になって照れてる蒼空くんを見てるとなんだかこっちまで恥ずかしくなってきて両手で顔を覆った。けど、案外心地よかったのか気付いたら寝てしまっていた。目が覚めると蒼空くんも寝ていた。ソファからおりて熱を測ると下がっていて、頭痛もひいていた。すご。蒼空くんパワーだ。
「寝顔子供みたいで可愛い~」
蒼空くんの寝顔の写真をこっそり撮って、蒼空くんの肩に寄りかかると蒼空くんも少し寄りかかってくれた。まあ、寝てるからちょっとこっちに体重が乗っかっただけだろうけど。
「あ、蒼空くん。おはよう」
「今何時?」
「12時になったところ。あと、熱も下がったし頭痛もひいたから元気!」
「じゃあうどんでも食べに行くか?」
「うん!」
颯、マジでナイス。蒼空くんとデートできる!しかもうどん屋さん行ける!うどん食べたかったんだよね~。昨日は卵のお粥を朝、昼、晩で食べてたからさ飽きてたんだよね。
「すぐ着替えてくるから待ってて」
「分かった。車のエンジンかけてクーラーつけとく」
「うん!ありがと!」
急いで階段を駆け上がってワンピースに着替えて家を出た。あ、ちゃんと鍵は閉めたよ。蒼空くんが家の前に車を停めて待っていた。
「お待たせ」
「じゃあ行くか」
「うん」
いつものうどん屋さんに行って、私は梅しそうどんを頼んで蒼空くんは素うどんに天ぷらを乗せて天ぷらうどんにしていた。蒼空くんって身長高いからか意外とよく食べるんだよね。おにぎりも2個買ってたし、うどんも特盛にしてた。
「美味しい」
「そうだな」
「あ、そうだ。昨日行くはずだったプール、絶対どこかで取り返そうね。水着買ったのにまだ使ってないし」
「そうだな。休み決まったら送る」
「あ、けど私お盆開けからインハイだから練習重なるかも。空いてる日って言ったら8月の末くらいかも」
「分かった」
てか、冬に温水プールとかもあるしそっち行ってもいいよね?
うどんを食べ終えてお店を出て家に帰った。午後からは蒼空くん指導のもと宿題を進めてゲームをして翔たちが帰ってくる頃に蒼空くんには帰ってもらった。ホントはもっと蒼空くんと一緒にいたかったけど颯と主に翔がいると蒼空くんを占領されるんだよね。
それから約1ヶ月。私と颯はインターハイの混合ダブルスで優勝し、桜川市の市長から表彰された。
そして、今日は蒼空くんと………颯と翔とプールに行く。デートじゃなかったのか~と少しショックを受けつつも蒼空くんとプールに来るのを楽しみにしてたから昨日の夜からワクワクしている。
プールに到着して水着に着替えて日焼け止めを塗って更衣室からウォータースライダーの側にある自販機集合なので自販機に向かった。その途中で、肌を黒く焼いた金髪のサングラスのお兄さんが話しかけてきた。
「君1人?」
「彼氏と弟と待ち合わせ中場所に向かってるところです」
「彼氏じゃなくて俺と遊ばない?俺、結構モテるし稼いでるよ」
「そうですか。失礼します」
「待てよ」
腕を掴まれたと同時に捻ると、お兄さんは間抜けな声で痛い痛いと言った。その声が聴こえたのか向こうから蒼空くんたちが来たのでパッと手を離した。
「葵!大丈夫か!?」
「このお兄さんに急に腕を掴まれてびっくりしたけど大丈夫」
蒼空くんはお兄さん腕を引っ張ってどこかに歩いていった。颯と翔は苦笑いをしてお兄さんに哀れみの目線を送っていた。
「あ~、気持ち悪かった~」
「笑顔で言うなよ。こええよ」
「キモいけど蒼空くんのヤキモチ見れたのが嬉しくて」
「ナンパで葵を狙う意味が分かんねえ」
「そんなの顔が可愛くてスタイルがいいからに決まってんじゃん」
「自分で言うか?」
まあ、そうだけど。私が褒められるときっていつもそれだから。真夏とか蒼空くんとか私の見た目以外も好きでいてくれる人は別だけど。基本的にはワガママで口悪いのが私だから、他人は見た目以外褒めるところがないんだろうな。
「悪い。話してたら遅くなった」
「おかえり」
「蒼空兄もヤキモチとか妬くんだな。驚いた」
「うるさい」
蒼空くんは少し赤くなって翔を睨んでいた。否定しないの可愛いな。ちなみに、私はうすいブルーのワンピースタイプの水着だ。
「あ、そうだ。まだ訊いてなかった。似合ってる?」
「………似合ってるよ」
「ありがとう!じゃあ、ウォータースライダー行こ!」
蒼空くんの手を引いてウォータースライダーの階段を上った。颯と翔も後からついてきた。順番になって4人乗りの浮き輪に乗った。蒼空くんがすごく楽しそうに笑っていてそれが嬉しくて私もすごく楽しかった。
「楽しかった~」
「意外と面白かった」
「もう1回行こうぜ!」
「そうだな!」
それからお昼まで遊んで、着替えて食堂に行ってお昼ごはんを食べた。全員ハンバーグ定食にした。トッピングはそれぞれ変えてるけど。
お昼ごはんを食べて蒼空くんは家に帰った。
「蒼空くんといっぱい写真撮っちゃった」
「はいはい」
「よかったな」
蒼空くんって作り笑い苦手だけど弟2人がいたお陰で自然に笑ってる蒼空くんの写真を撮れた。こういうときはホント感謝しかない。
今日は楽しかったな~。もうすぐ2学期に入る。2学期は体育祭に文化祭、そして修学旅行が待っている。