年の差の壁?そんなの私がぶち壊してやる
期末テストが終わって夏休みが近付いた。
今回のテストの結果は平均90点だった。
順位は8位まで上がった。
軽くカンニングを疑われるレベルだけど、私の周りは勉強が苦手な人が集まってたからか疑われることはなかった。
放課後、部活が終わって靴を履き替えていると惺と翔と颯が後ろからやって来た。
「やっぱ葵って頭いいんだな」
「学年4位の惺に言われてもあんまり嬉しくないかな」
「いやいや、ここには学年1位もいるんだぞ。颯に言われるよりはマシだろ?」
「まあね」
グラウンドに出ると強い日差しが当たった。
もう7月だもんな。
蒼空くんとプールとか海行きたいな。
あ、夏祭りも行きたいな。
夏はしたいことがいっぱいだから蒼空くんの予定も聞いて遊び計画立てないと。
「颯と翔と惺、明日水着買いに行くんだよね?」
「まあな」
「去年、プールとか海行ってないからな」
「じゃあさ、私も行っていい?水着買いに行こうと思って真夏誘ったらもう買ったって言ってたし」
1人で行ったらうっとうしいナンパされがちだから嫌なんだよね。
だからって男子と2人はさすがにダメだし。
「いいけど」
「惺は男子目線でコメントしてよ。翔と颯は棒読みの“似合ってる”しか言わないし」
「彼氏に聞けよ」
「蒼空くんにはデートで初めて見てほしいの。1回見たら特別感が薄れるし、一番似合ってるのを見てほしいから」
「まあ、いいけど」
学校の門を通ると他校の制服を着た女子生徒がいた。
てか、身長小さいのに胸おっき!
顔も可愛いし小さい。
いかにもモテそうな感じの子だな。
隣を通り過ぎようとするとその子は惺の腕を掴んだ。
「惺!待ってよ!」
「え、惺の彼女?」
「違う。元カノ」
あ~、ぽい。惺の彼女っぽいわ~。
話あるみたいだし先に帰ろうと思って颯と翔の背中を押してその場を去ろうとするとバッグを掴まれた。
「えっと、何ですか?」
「惺!こいつ、私より胸小さいじゃん!」
何この子!可愛い顔してるくせに!
初対面でこんなこと言う?普通。
でも、ここで黙ってるのが大人だよね。うん。
「あのさ!言っとくけど、私はどっちかというと大きい方だから!あんたがデカすぎるだけ!」
私は仁王立ちで女の子を見下ろした。
私は大人じゃないからね。
我慢して黙ったりするわけない。
女の子は私の顔を見上げて惺の方を見た。
「惺!こいつの何がいいの!?」
「葵は彼女じゃねえよ」
「嘘だ!」
あれ?もしかして私、惺の彼女だと思われてる?
だから初対面で見下してきたんだ。
けど、私に地味なんて言えないからパッと見で勝ってるのが分かる胸で勝負してきたんだ。
私はスマホのロック画面を見せた。
「誰?これ」
「私の幼馴染みで彼氏。翔と颯は私の三つ子の弟なんだけど、この2人も彼氏のこと知ってるから嘘じゃないよ。それに、惺とも面識あるし」
「それ、ホント?」
「まあ。文化祭のときと、クリスマスのときに」
女の子は申し訳なさそうに頭を下げた。
まあ、普通に許すけど。
「葵ちゃんだっけ?」
「うん」
「私、浜野みみ。良かったら連絡先教えてくれない?」
「いいよ」
「おい、浜野!葵に何するつもりだ!」
惺が声を荒げると浜野さんは少し怯えたように私の後ろに隠れた。
惺、どうしたの?普段女の子に怒鳴ったりしないのに。
「元カノだからって怖がらせたらダメでしょ」
「いや、怖がってな」
「急に怒鳴らないでよ。私が悪かったから」
浜野さんは泣き出してしまった。
ハンカチを渡して背中をさすった。
まあ、自分よりもめっちゃ身長高い人に怒鳴られたら誰だって怖いよね。
「浜野さん、惺も怖がらせたかったわけじゃないから」
「うん。分かってる」
「惺、なんで急に怒ったの?連絡先交換しようとしただけだよ」
「クズだから。そいつ、死ぬほど面食いで、卒アルに載ってる葵の写真見て紹介しろってしつこかったから別れたんだよ」
えっと……?待って。
なんで紹介しろってしつこかったら別れるの?
紹介すればいいのに。
「私と友達になりたいってこと?」
「あはは、違うよ。葵ちゃんの彼女になるの」
「それはごめん。無理。私、蒼空くん以外は恋愛対象に入らないから」
「そっか。残念」
浜野さんは笑って手を振って帰っていった。
結局なんだったんだろう。
帰って蒼空くんに夏休み中に海かプールに行こうというメッセージを送った。
お風呂からあがって部屋に戻るとメッセージが届いていた。
『通話出来るか?』
『うん』
メッセージを送るとすぐに既読がついて通話がかかってきた。
『もしもし』
「蒼空くん。どうしたの?」
『声聴きたくて』
「え~、蒼空くんからそう言うの珍しいね」
『そうだな』
耳元で蒼空くんの笑い声が聴こえるからなんかドキドキする。
それにしても蒼空くんから通話って珍しいな。
今日、なにかあったのかな?
『葵、窓の方見てみて』
「どっちの窓?咲久姉の部屋側?」
『いや、道路側』
月とか星が綺麗なのかな?
ワクワクしながらカーテンを開けて窓を開けると下から声が聴こえてきた。
「葵」
「えっ!蒼空くん!?なんで!?」
「葵の顔見たくて来た」
「待ってて!」
窓を閉めて階段を掛け下りた。
リビングで翔と颯とお兄ちゃんがゲームをしていた。
髪をシュシュでまとめていると後ろから髪を引っ張られた。
「葵、どっか行くのか?」
「お父さん。帰ってたんだ」
「ああ」
「蒼空くんが来てるからちょっと家の前出てくる」
「ラブラブだな~」
お父さんは笑って手を振った。
私は靴を履いてすぐに玄関のドアを開けて外に出た。
お待たせ!と言おうとすると蒼空くんは私の腕を引いて抱きしめた。
心臓がヤバい。
「えっと、どうしたの?」
「今日、中学の頃の同級生と会って彼女いるのか訊かれたから葵と付き合ってるって言ったら“高校生に手出してるんだ。キモい”って言われて。……葵はなんか言われたりしてないよな!?」
「……蒼空くん」
やっぱり、この前蒼空くんの言ってた無理するなは何か悪口とか言われたら言えよって意味だったんだ。
蒼空くん、ずっと私に隠してたんだ。
「蒼空くん、高校生でごめんね。私が、蒼空くんより年下だから言われたんだよね。ごめん」
「いや、」
「けど!私、蒼空くんと別れるつもりはないから。私、バドで世界大会行くから。蒼空くんの彼女はめっちゃすごいって思われるようになるから。だからそれまで待ってろよ、蒼空くんにキモいなんて言ったクソ野郎」
蒼空くんにぎゅうっと抱きついて笑った。
どうせ皆蒼空くんに嫉妬してるだけだよ。
キモいなんて思えるわけない。
イケメンで、料理人で、美少女の高校生の彼女いるとか嫉妬して当たり前だもんね。
「これからなんか言われて嫌だったら電話掛けてきたりこうやって家に来てね。てか、むしろ私が蒼空くん家行くよ。場所大体しか知らないけど」
「……やっぱ葵はかっこいいな。というか、葵が世界大会行くなら俺も有名な料理人にならねえとだな」
「うん!お互い頑張ろうね」
「そうだな」
蒼空くんは笑って額にキスをした。
ヤバい、蒼空くんめっちゃ私のこと好きじゃん。
テンション上がってたのとムカついてたのが重なったせいで世界とか言っちゃったよ。
けど、言ったからには世界に行かないと。
「あ、そうだ。葵」
「ん?」
「海かプールって言ってたけど、水着買うなら露出はある程度控えろよ。ただでさえ見られるのに、変な目で見るやつ増えるぞ」
「え~、そんなんじゃ蒼空くん落とせないじゃん」
「もう落ちてるわ」
蒼空くんは私に背を向けて車に乗った。
耳真っ赤だ。照れてる蒼空くん、可愛いな。
窓を開けて蒼空くんは手を振って帰っていった。
リビングに戻るとお父さんたちがインターホンの前に集まっていた。
もしかして、これまでの会話ずっと盗み聞きしてたの?
お風呂から上がってきたお母さん以外をソファに座らせて仁王立ちで前に立った。
「盗み聞きしてた人手挙げて」
「「……」」
「ごめん、葵。俺聴いてた」
「お兄ちゃんはいいよ。許してあげる。お父さんと颯と翔は許さない。今すぐアイス買ってきて」
「「え~、今から?」」
「文句言わない!」
「「はい!ただいま!」」
3人に高いアイスを買ってきてもらって許すことにした。
翌日、颯と翔と惺とアウトレットに向かった。
3人はすぐに水着を決めて買っていた。
私はとりあえずいくつかピックアップしたけど、颯たちにも適当に選んでもらった。
「おい、バカ弟2人。なんで競泳用の水着持ってくんの?仮に彼女がその水着でデートに来たら可愛いって思えるの?」
「葵はガチ泳ぎするだろ?」
「蒼空くんの前でそんなことするわけないでしょ。惺は……何その全身タイツみたいな水着は!?そんなんじゃ蒼空くんに振られる!」
この人たち、選ぶの適当すぎるでしょ!
颯と翔には元々期待してなかったけど、ファッションセンスある惺がこんな水着選ぶとかホント信じらんない。
「もう、返してきていいよ」
ため息をついて自分で選んだ水着を持って試着室に行く途中、蒼空くんと美形で背が高いモデルみたいな男女2人がこっちに向かって歩いてきた。
「蒼空兄!」
「蒼空兄も来てたのか!?」
颯と翔は走って蒼空くんたちの方へ行った。
私と惺も水着を元の場所に戻して蒼空くんたちの方へ歩いていった。
蒼空くんに手を振ろうとしたら隣にいた男性が私の肩を掴んだ。
「君、もしかして蒼空の彼女!?」
「そうですけど。てか、なんで知ってるんですか?どこかで会いましたっけ?」
「蒼空が寝惚けてたときにめっちゃ自慢気に写真見せてたから覚えてただけ。初対面だよ。」
蒼空くん、友達に自慢してくれてるんだ。
まあ、私は蒼空くん以上に自慢してるけど。
主に笹倉先生と真夏にだけど。
「俺は、有馬司。蒼空の従兄弟で今ルームシェアしてる」
「……あ!従兄弟!?てことは、お姉さんも?」
「そうだよ。あたしは司の妹の蓮。」
「なんだ。良かった。私は長谷川葵です」
「知ってる。莉久と咲久から聞いてる。隣の2人が颯くんと翔くんだよね?」
「「はい」」
蓮さん、美人だし声綺麗だしスタイルいいし、話し方っていうか声色が落ち着いててなんかいかにも大人って感じ。
てか、蒼空くんと雰囲気似ててちょっと緊張する。
「葵ちゃん」
「は、はい!」
「水着一緒に選んでくれない?蒼空と司じゃ似合ってなくても似合ってるって言って早く終わらせようとするから」
「もちろんです!」
それぞれサイズを教えて水着を選び合った。
選び終わって広めの試着室で一緒に試着をしてみた。
え、待って。蓮さん美人すぎるんだけど!
「蓮さんって彼氏いますか?」
「うん。2歳上」
「私も蒼空くんと2歳差なら蒼空くんは何も言われないのかな」
「あ~、それね。あたしも、その時途中からだけど同じ場所に居合わせたんだよね。蒼空にその酷いこと言ったの女の子なんだよね。多分、蒼空のこと好きで彼女である葵ちゃんに嫉妬したんだと思うよ。だから気にする必要ないよ」
蓮さんは“それでも言っていいことと悪いことがあるけどね”と言って微笑んだ。
てか、そうだよね。
2歳差なら高校と中学で1年ずつだけど重なるし、3歳差ってそれにプラス1歳するだけだもんね。
けど、もしその人に会う機会があったら絶対そんなこと言ったこと後悔させてやる!
それぞれ私服に着替え直して水着を買った。
「この後どうする?」
「司、あたしの誕生日忘れてたよね?なんか奢ってよ」
「仕方ねえな~」
「颯くんたちも何か飲み物奢ってもらいなよ。こいつ、めっちゃ稼いでるから」
蓮さんは笑って私にウインクをした。
そっか。蒼空くんと2人にしようとしてくれてるんだ。
私は笑って口パクでありがとうございますと言って蒼空くんの手をひいてその場を離れた。
特にみたいお店があるわけじゃないからどこにも入らずに歩いていると蒼空くんがアクセサリーショップで足を止めた。
「どうしたの?」
「ちょっと待ってて」
「いいけど」
蒼空くんはお店に入ってすぐのところに売っていた物をを買ってお店から出てきた。
何買ったんだろう。
「葵、これ」
蒼空くんはステンレス製のバングルを私に渡した。
そして、蒼空くん自信も袋から取り出して腕につけた。
え、もしかしてペアバングル?
蒼空くんって自分からお揃いにしてくれるんだ。
「ありがとう!あ、何円だった?」
「俺がつけてほしくて渡しただけだから」
「けど、めっちゃ気に入ったから払うよ」
「気持ちだけもらっておく」
「まあ、そう言うよね。ありがとう、蒼空くん」
バングルをつけて蒼空くんと恋人繋ぎをした。
私は右手、蒼空くんは左手につけてるからなんか、手を繋ぐ方の手の印みたい。
「そろそろ颯たちと合流する?」
「葵と2人で帰りたい」
「それは、嬉しいけど。……蒼空くん、車で来たんじゃないの?」
「鍵は俺が持ってるけど、司と蓮も運転出来る……はず」
言いきらないんだ。てか、蓮さんの運転する姿とか絶対かっこいいじゃん!見てみたいな。
司さんも蒼空くんに似てるけどキャラがな~。
蓮さんは蒼空くんよお姉さんバージョンみたいな感じなんだよね。
「まあ、合流はしないとってことだね」
「そうだな」
「そういえば蒼空くんさ、蓮さんから聞いたけど酷いこと言ってきたの同級生の女の子なの?」
「え、まあ」
「蓮さんが来るまでその女の子と2人でいたの?」
あ~、何訊いてんの私!嫉妬心は出したくないから蒼空くんには訊かないでおこうと思ってたのに。
絶対めんどくさいって思われた~。
ホント、このワガママ体質どうにかしないと蒼空くんに嫌われるかも。
「……ごめん。今のは聞かなかったことにして。」
「なんで?」
「こんなことで嫉妬するとかめんどくさいって思ったでしょ?」
「葵、嫉妬してるのか?誰に?」
そうだった。蒼空くんって驚くぐらい鈍感なんだった。
蒼空くんからしたら私が質問したのは単に疑問に思ったからだと思ってるんだ。
やっぱ私って蒼空くん以外と一生付き合えなさそうだな。
普通めんどくさいって思われる嫉妬も蒼空くんは気付きもしないし。私と蒼空くんって絶対相性ピッタリだよね。
「同級生に会ったのは、蓮とカフェで待ち合わせしててそのカフェで働いてたから。まあ、客は少なかったけど数人いてスタッフもいたから2人じゃなかった」
「そうなんだ」
「それと、葵は何に嫉妬したか知らないけど俺の方が葵よりめんどくさいと思う。」
「まさか」
笑うと蒼空くんは通行の妨げになるのを気にしたのかベンチに座った。
私も蒼空くんの隣に座って蒼空くんの方を見た。
蒼空くんは手で顔を覆って隠した。
「俺、結構メンタル弱くて昨日は驚いただろ?」
「うん。けど、可愛いな、守りたいなって思った」
「引かれてなくて良かった。いつもはさ、姉貴とか真白に愚痴るけど、昨日は一番最初に顔が浮かんだのが葵で気付いたら葵ん家行ってた」
そっか。
蒼空くんってあんまり人を頼らないイメージだったし、実際に特定の人にしか弱いところを見せないから私もその中に入れてもらえたってことなのかな?
私、蒼空くんを好きになってしばらくして、蒼空くんの弱った姿見たことないなって気付いて、蒼空くんの高校の弓道のインターハイのときに咲久姉と真白兄の前で負けて泣いてる姿見て私にもそうやって頼ってほしいなって思った。
だから、蒼空くんが少しでも辛いって思ったときに一番に私の顔が浮かんで私を頼りに来てくれたのは本当に嬉しい。
だけど、こんなことを恥ずかしがり屋で気分屋の私が言えるはずもない。
「蒼空くん、耳まで真っ赤だよ」
「気のせいだ」
「へ~」
私はニヤッと笑って蒼空くんの肩に寄りかかった。
蒼空くん、私は咲久姉や真白兄みたいに気の利いた一言とかは言えないけど、蒼空くんへの愛の言葉ならいくらでも言えるから辛いなってときは私の顔見に来てね。
こうやって肩に寄りかかってくれていいんだよ。蒼空くんから甘えられるとか私にはご褒美だし。だからね、前にも言ったけど無理はしないでね。無理なんてしたら私をお嫁さんにする刑なんだから。
それから、蒼空くんは結局蓮さんたちと帰って私は颯と翔と惺と電車で帰った。
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家に帰ってお風呂に入って颯と翔とリビングでゲームをしているといつの間にか家族皆集まっていた。
途中でお兄ちゃんと交代して颯はお母さんと変わっていた。
「お父さん、お母さんと結婚して何年だっけ?」
「22で結婚したから21年だな。」
「いつ付き合ったの?」
「中学の卒業式からだったな」
「長く一緒にいたら恋じゃなくなるの?」
「まあ、それは人にもよると思うけど……」
お父さんは格闘ゲームをしながらコントローラーのボタンを強く連打しているお母さんを愛おしそうに見ていた。そして、お母さんが翔のキャラに1発いれて大きくガッツポーズをして喜んでる姿を見て可笑しそうに笑っていた。
「俺は七菜波に恋してるかもな。それに、こんな可愛い娘と息子を生んでくれた感謝もしてる」
お父さんは少し照れたように笑って私の髪をくしゃくしゃと撫でた。
「私の中のお父さんの好感度上がったかも」
「え!マジで!?どれくらい!?」
「今、2%」
「低っ!俺、今結構いいこと言ったよな!?」
「せっかくサラサラにした髪がボサボサになったからほとんどパーだよ。マイナス1%しか残らなかった」
「じゃあ元は3%かよ。下がったじゃねえか」
お父さんはお腹を抱えて笑った。まあ、100からマイナス2%って意味だけどね。