美形も辛い?
3学期はあっという間に過ぎて、今日から新学期だ。
蒼空くんは1月末にあった料理のコンテストで見事最優秀賞に選ばれて老舗1週間前からイタリアンレストランのシェフとして働き始めた。
3学期の間は蒼空くんが忙しくてあまり会えなかったけど、蒼空くんの誕生日は20歳と言うこともあって盛大にお祝いをした。
社会人になった蒼空くんは専門学生のときよりもさらに忙しそう。
会える日は今より減るかもしれないけど蒼空くんが仕事を頑張ってるし寂しがってる暇ないよね。
私も頑張らないと。
「葵、まだ行かねえの?」
「いま行く!」
颯と翔と学校に行ってすぐにクラス替えの発表を見た。
「「げっ」」
「「葵(翔)と同じクラスじゃん!」」
先生たち調整してくれなかったの!?
小学校で颯と1回同じクラスになったからもうないと思ってたのに。
私がため息をついていると颯が煽るような笑みで私と翔の肩に手を置いた。
「俺は特進受けて良かったわ。1年間クラスメート頑張れよ」
「弟のくせに威張んな」
「兄のくせに煽るな」
颯の手を振り払ってクラス表をもう一度見た。
真夏も一緒だ!あ、惺もまた同じクラスだ。
教室に向かって途中で颯と別れた。
席順は出席番号順だ。
もちろん隣は翔だった。
「葵ちゃんと翔くん、今年は同じクラスなんだね」
「「残念ながら」」
うわ、こいつまた。
「大好きなお姉ちゃんと同じクラスになれて嬉しいくせに何言ってんの?」
「は!?葵なんか好きになる奴いないだろ!」
「蒼空くんいます~!」
「蒼空兄変なだけだ!あっ、」
翔は思わず口から出たみたいな顔をした。
そしてすぐに顔が青ざめていった。
なんでだろ。私、笑顔なのに。
私はその顔のまま翔の腕を捻りあげた。
「翔~、次私の好きな人のこと変とか言ったら絶対許さないからね」
「ご、ごめんなさい」
「うん。今回は許してあげる」
パッと翔の手を離すとちょうど真夏がやって来た。
なんとなく状況を察したようで、何事もなかったように挨拶をして席に着いた。
体育館で始業式をして教室に戻った。
ホームルームを終えてスマホを見るとこれ以上ないくらい嬉しい連絡が着ていて、すぐに荷物を持って翔と一緒に颯のクラスに行った。
「颯!早く!」
「なんだよ」
「蒼空くんのお店、定休日だから帰ってくるって!」
「良かったな」
急いで家に帰ってご飯を食べてすぐに私服に着替えた。
蒼空くんの家に行ってチャイムを鳴らした。
ガチャリ、とドアが開いて蒼空くんが家から出てきた。
私は門を開けて蒼空くんに抱きついた。
「あ、そうだ!クラス替えでね、翔と同じクラスだったの」
「良かった」
「良くないよ!」
「翔がいたら葵に近付く奴から守ってくれそうだし俺は良かった」
まあ、それは確かにそうだけど。
蒼空くんは知らないだろうけどさ、私に告白してくる人の大半が顔目当てなんだよ?
そんな人無視に決まってるのに。
「蒼空くん、今から私の家でゲームしない?颯と翔いるから」
「する」
翌日は入学式で学校は休みだった。
さらに翌日、朝練のため少し早く家を出た。
学校に着くと、他校の制服を着た男子生徒が1人掲示板の隣に立っていた。
なんだか挙動不審だな。
私が不思議に思っていると、颯と翔がその生徒に話しかけにいった。
「迷子?」
「迷子です。転校してきたんですけど職員室の場所が分からなくて。どこですか?」
「俺らが案内するよ。てか、何年生?」
「3年1組です」
「え、先輩じゃん。すみません!」
「いいよ。俺なんか尊敬されるようなところ何一つないし。むしろタメ口の方が親近感沸いて嬉しいから」
この人、身長高いな~。
蒼空くんよりもちょっと高いかも。
てかまつ毛なっが!眼鏡に当たってるし。
よく見るとめっちゃイケメンじゃん。
私が先輩の顔を見ていると気まずそうに笑った。
「俺の顔に何かついてる?」
「すみません。イケメンだなって思って」
「……そう。ありがとう」
先輩はあまり嬉しくなさそうにしていた。
初対面でイケメンって失礼だったよね。
思ったことをすぐに口から出るくせ直さないとって思ってはいるんだけどなかなか直らないんだよね。
「職員室ここです」
「ありがとう。名前聞いてもいい?」
「2年1組の長谷川颯です」
「2年2組で颯の弟の翔です」
「翔と颯の姉の葵です。クラスは翔と一緒です」
「年子?」
「「三つ子です」」
先輩は珍しいね、案内してくれてありがとうと言って職員室に入っていった。
それにしてもあの先輩、
「「どこかで見覚えあるような」」
「やっぱり、颯と翔も思った?」
「ああ。初対面だけど見覚えある」
「だよな。なんでだろ」
不思議に思いながらも時間がなかったので朝練をしている体育館に向かった。
1週間が経った。
今、クラス内はある話題で持ちきりだった。
それは、元有名子役が1つ上の学年に転校してきたという内容だった。
私は颯と翔真相を確かめるために3年1組にやって来た。
3年1組はすごい人だかりで先輩がいるかどうかさえ分からない。
結局そのときは諦めて教室に戻った。
お昼休み、真夏は部活の友達と食べるらしいので私は1人でお弁当を食べようと屋上に行くと先輩が寝転がっていた。
「あ、先輩だ」
「葵、ちゃん」
「そういえば、先輩ってなんて名前なんですか?」
「えっと、神埼晴」
「先輩って子役やってたんですか?」
「そうだよ」
やっぱり。見覚えあるのはそのせいだったんだ。
とりあえず聞きたいことは聞けたのでお弁当を食べ始めた。
蒼空くんもそろそろお昼休憩かなと思ってこの前蒼空くんと撮った写真を見ていると先輩は驚いたように私の顔を見てきた。
「え、なんですか?」
「葵ちゃんは、なんでやめたのか聞かないの?」
「聞いてほしかったですか?」
「えっと、いや、……じゃあ話してもいい?」
「どうぞ」
~~~~~~
僕は、昔から演技が大好きだった。
僕の母親は俳優で、僕も母のような俳優になるのが夢だった。
家族は皆応援してくれて、5歳で劇団に入った。
入ってからはひたすら演技の練習をした。
僕は劇団に入って1ヶ月でドラマ出演が決まった。
母の息子であると公言していなかったのに。
理由は“顔がいい”からだった。
けど、そのころは役をもらえただけで良かった。
それから小学5年生になる頃には“美少年すぎる子役”と売り出されていた。
僕は、自分の演技を見てもらえてないいないような気がして、周りからも顔がいいから売れるんだって言われて、僕は子役をやめた。
それと同時に自分の顔が嫌いになった。
~~~~~
「そうでしたか。じゃあ私、初対面で失礼なこと言いましたよね?すみません」
イケメンとか先輩には1番言っちゃダメなやつだったじゃん。
私、最低だ。思ったことすぐに口に出るとか子供じゃん。
蒼空くんに子供扱いしないでとか言ってるけど実際子供なんだよね。
「葵ちゃん、泣いてるの?」
「……泣いてませんよ。てか、泣きません。泣き顔変なので」
「そっか。」
先輩は小さく呟いた。
私は顔をあげてお弁当を食べ続けた。
お弁当を食べ終えて帰ろうと思って立ち上がると先輩もちょうど帰ろうとしていたらしく途中まで一緒に帰ることになった。
無言が気まずかったのか階段を下りながら先輩が話しかけてきた。
「葵ちゃん、いつも屋上で食べてるの?」
「まさか。日焼けしたくないから普段は教室で食べますよ。今日は友達が部活の子と食べるから気分転換に来てみただけです」
「そっか」
「じゃあ、また」
先輩に頭を下げて教室に戻った。
てか、5限体育じゃん。
ちょうど真夏も帰ってきて一緒に体操服を持って更衣室に行った。
着替えてグラウンドに出ると他のクラスの人もいた。
「何年生だろ」
「3年だよ。先輩いるし」
「先輩ってあの元子役の?」
「神埼先輩ね。」
まだお昼休みが終わるまで少し時間があったので花壇の近くに座ってお花を見た。
うちの高校、園芸部とか環境委員会とかないのに一年中お花が咲いてるんだよね。
誰が植えてるんだろう。
「葵って花好きだよね」
「好きだよ。名前は全然知らないけどね。でも、咲いてるとつい見ちゃう」
「私は桜以外は全然見ないかも」
「確かに。真夏っていつも走って帰るもんね」
私と真夏が話していると後ろから大きなため息が聴こえた。
振り返ると神埼先輩が座っていた。
さっき、「じゃあ、また」とか言ったのにこんなにすぐに会うとちょっと気まずいな。
「あ!噂の先輩だ。どうしたんですか?」
「え、あ、葵ちゃんの友達?」
「千崎真夏です!」
「神埼く~ん!」
女子生徒が数人、遠くから手を振っていた。
先輩の表情は笑顔に変わって手を振り返していた。
めっちゃキャーキャー言われてる。
「先輩、大変そうですね」
「あはは……」
これ、話題変えた方がいい感じだよね?
なんか話題ないかな~?
「そういえば先輩たちも体育なんですよね?何するんですか?」
「サッカーだよ。葵ちゃんたちは?」
「走り高跳びです」
「そうなんだ。葵ちゃんも千崎さんも運動得意そうでいいね」
「先輩も得意そうですけど」
先輩は恥ずかしそうに笑って頬をかいた。
これは、作り笑顔じゃなくて先輩が心の底からの笑顔なのかな?
こんな付き合いの浅い私が分かるわけないけど、何度か見た笑顔とは少し違う気がするのは気のせいかな。
「サッカー、頑張ってください」
「まあ、出来る限り頑張るよ。千崎さんと葵ちゃんも怪我しないように頑張って」
「はい」
「頑張ります!」
先輩に手を振って、皆の集まっているところに行った。
それから授業が始まって、高跳びのバーとマットを運んだ。
このバー、ちょっと重いんだよね。
私がバーを運んでいると、惺が私からバーを取った。
「運べるんですけど」
「俺が運んだ方が早い」
「そんなことない。返して」
「いいって。俺が運ぶ」
「いやいいって」
取り合っていると、翔がバーを持って走って行ってしまった。
しかも、すれ違い際に「喧嘩すんな。邪魔」って言われたし。
まあ、仕方ないけどさ!
「あ、惺。てんとう虫」
「うわ!」
「あはは!ビビりすぎ!」
「ちょっ、取って!」
「もう飛んでったよ」
「良かった。」
昔から虫苦手すぎでしょ。
小学校の頃とか私、ナメクジとかでも触れたのに惺は蝶々も触れなかったもんな。
そのせいでクラスの男子に虫持って追いかけ回されたりもしてたな。
「葵って昔から虫触れるよな」
「まあね。翔がよく虫捕まえてたから慣れたのかも。好んで触りはしないけど」
「彼氏は?」
「は?」
「葵の彼氏も虫触れんの?」
蒼空くん?どうだろう。
特に虫が苦手ってわけではないと思うけど。
………いや、触れるね。
昔、蒼空くん家にG(黒いやつ)がでたときも普通に掴んで外に逃がしてたし。
「蒼空くんはGを素手で触って逃がしてた」
「……マジで?」
「うん」
「触れた方がカッコいいよな?」
「別にそれでカッコ良さは決まらないよ。私基準のはね」
まあ、虫が苦手でも私なら自分で外に追い出せるから助けなんて求めないけど。
てか、うちの家族は全員虫触れるような。
怖いものまで遺伝するのかな?
「葵~!早く並ばないと怒られるよ」
「あ、ヤバ」
慌てて列に並んだ。
準備体操をして、それぞれ好きな高さで練習する。
しばらく飛び続けていたら、流石にしんどくなってジャージを起きに木陰に行った。
水を少し飲んで、真夏と休憩していると向こうで先輩たちがサッカーをしていた。
あれ?思ってたよりキャーキャー言われてないな。
試合中なのに。
不思議に思って先輩を探すと、頑張ってボールに食い付く先輩がいた。
サッカー、苦手だったんだ。
「葵、あれ先輩だよね?」
「うん。めっちゃ一生懸命だね。私は苦手な種目はサボっちゃうかも」
「分かる~!」
「「フォークダンスとか」」
「あれ無理だよね?めっちゃ足踏んじゃう」
「私は蒼空くん以外と手繋ぎたくない。男子側にまわって真夏と踊る」
あははと笑っていると向こうからも笑い声が聴こえてきた。
見ると、先輩が大きくゴールを外したようだった。
私と真夏は顔を見合わせて同時に叫んだ。
「「せーの、」」
「「神埼先輩!頑張れ!負けるな!」」
すると、向こうから笑い声が消えて翔がこっちにやって来て私と真夏の肩を組んだ。
「先輩!足速いんだからもっとゴール近くまで走った方がいいですよ!ディフェンス誰も着いて来れないと思うんで!」
先輩は翔の指示通りゴール前まで走っていって先輩のチームメイトは先輩に向かってロングパスを出した。
先輩はディフェンスが誰もいない状態でパスを受け取って少し余裕を持ってシュートを決めた。
私も真夏も翔も顔を見合わせて同時に叫んだ。
「「ナイッシュー!(ナイスシュートの略)」」
同時に歓声が上がった。
すご。体育の授業でこんなライブみたいな歓声あがることもあるんだ。
「長谷川姉弟、千崎。休憩が終わったらとっとと列に戻れ!サボるな!」
「「すみませ~ん!」」
慌てて列に戻って、走り高跳びの練習を再開した。
体育の授業が終わって更衣室に向かっていると先輩の同級生に話しかけられた。
「長谷川さんの声聴こえたよ」
「体育教師にめっちゃ怒られてたね」
「すみません。どなたですか?次も移動教室なので急がないといけないので失礼します」
頭を下げて急いで更衣室に戻った。
私、音楽の授業取ってるから移動なんだよね。
しかも音楽室って南館の3階にあるからちょっと離れてるし。
放課後、神埼先輩がうちのクラスにやって来た。
「先輩、大活躍でしたね」
「翔くんと葵ちゃんと千崎さんのお陰だよ。ありがとう」
「いえいえ」
「翔くんに、今日一緒に帰らないかって誘われたんだけど」
「私と真夏もいいですか?」
「うん」
先輩が転校してきて1ヶ月が経った。
桜川高校にも慣れてきたようで、それに関係ないと思うけどなんかめちゃくちゃモテ始めた。
休み時間、図書室の近くを通ると話し声が聴こえてきた。
しかも、話し声は神埼先輩と委員会の後輩だ。
「神埼先輩、私の彼氏になってください」
「ごめんなさい。僕は付き合うことはできません」
「……あ~あ。あの噂ホントだったんだ」
「噂?」
「葵先輩と付き合ってるって噂ですよ。知らないんですか?」
え~、そんな噂流れてるの?
去年の文化祭で蒼空くんが有名になったと思ってたけど、後輩の子達は知らないもんね。
「葵ちゃんは友達だよ。向こうは友達とすら思ってないかもしれないけど」
「付き合ってないなら私と付き合ってくださいよ。先輩イケメンなんで、自慢できるし。ホント友達が自慢ばっかしてくるから対抗するの大変で」
そんな理由で告白するの?
そんな理由で付き合って楽しいの?
いや、ここは口を突っ込まない方がいいよね。
我慢だ我慢。
「先輩、頼りなさそうだけど顔はめっちゃ私のタイプなんで付き合ってくれたらキスぐらいまでならいいですよ」
上から目線すぎでしょ。
流石にムカついたので一言言うことにした。
「顔しか興味ないやつは帰れ」
「あ、葵先輩!」
「茉莉ちゃんさ、可愛いけどその自己中な性格はどうにかした方がいいよ。それと、先輩は頼りないかもだけど何もかも楽しようとしてる茉莉ちゃんと違って自分に自信を付けるための努力をしてるんだよ」
茉莉ちゃんはキッと私を睨んで手を腰に当てた。
「なんなんですか?葵先輩、神埼先輩のこと好きなんですか?」
「え、ないない。私、年上の彼氏いるから。あ、そうだ。この噂も広めといてよ。もしもどこかから噂が流れて蒼空くんの耳に入ったら嫌だし」
「は?ウザ。もういいです。」
茉莉ちゃんは上手な舌打ちをして帰って行った。
それにしてもあんな綺麗にチッて音鳴らすの難しそうだな。
私が舌打ちの練習をしていると神埼先輩が慌てた様子で謝ってきた。
ヤバ、先輩の存在完全に忘れてた。
「今のは、先輩にじゃないです。上手に舌打ちする練習してただけなんで!」
「そっか。良かった……?」
「あはは……」
「それにしても彼氏いたんだ」
「はい!あ、写真見ます?」
生徒手帳から去年の文化祭に制服を着た蒼空くんと撮った写真を取り出して見せた。
写真の中だけだけど、蒼空くんと同い年みたいで嬉しいな。
「葵ちゃんの彼氏って2歳上?」
「それは文化祭で制服借りてるだけなんで実際は3歳上です。4月1日生まれなんで4学年上で今はイタリアンレストランで料理人として働いてます」
「そうなんだ。お似合いだね」
「ありがとうございます」
お似合いって言われちゃった。
放課後になったら蒼空くんに自慢しよ~っと。
休み時間が終わって教室に戻った。
数日後に始まったゴールデンウィーク中は蒼空くんのお店は大忙しだったらしく、ゴールデンウィークが終わった次の週の週末に帰ってきた。
「蒼空くん!夕方になったらお散歩デートしようね」
「てっきりドライブ行きたがると思ってた。」
「ドライブは手を繋げないからお散歩。まあ、ドライブも好きだけど、今日は蒼空くんに甘えるデーだから」
「そんな日あるんだ」
「うん」
蒼空くん、お仕事で疲れてそうだし車出してもらうのは申し訳ないからね。
まあ、お散歩デートに憧れがあったのも、蒼空くんに甘えたいのも本音だけど。
夕方になってお散歩のため桜川中学まで歩いた。
懐かしいな。まあ、私は1年とちょっと前まで通ってたけど、蒼空くんはもう5年なんだよね。
同じ学校で同じ中学生をしてたのに蒼空くんと私の思い出が全く違うのはちょっと寂しいな。
せめて、2歳差なら1年分の思い出は作れたのにな。
「葵?どうした?疲れたか?」
「ううん。ちょっと物思いにふけてただけ」
「そうか」
「夕日ってさ、寂しく感じるよね。蒼空くんと一緒に見ても寂しい」
「……そうだな」
私は思わず蒼空くんに抱きついた。
蒼空くんはきっと、私が寂しいって言うのが好きじゃないから。
自分が寂しい思いをさせてるって思っちゃう優しい人だから。
けどね、私、寂しがり屋だけどね、休みの度に帰ってくる必要はないんだよ。
そりゃあね、蒼空くんに会えたらめちゃくちゃ嬉しいけど、蒼空くんは休日は本を読んだりゲームをしたりしてゆっくり休んでほしい。そのための休日なんだから。
「蒼空くん、無理しないでね」
「……ああ」
「蒼空くん、大好き」
「……俺も好きだよ。葵」
世間で見たら私は17歳の子供で蒼空くんは20歳の大人なんだろう。
子供と大人ってくくりになっちゃうから余計年の差を感じるけど、実際は3歳しか変わらないんだよね。
人の目を気にする必要はないかもだけど、やっぱ常識として染み付いてるから私も蒼空くんも気にしちゃうんだよね。
けど16歳で結婚できるからもういっそのこと結婚した方が周りの目を気にする必要ない?……なんてね。そんな簡単な話しでもないよね。結婚したらしたでどう見られるか分からないもんね。
「葵」
「なに?」
「葵も無理するなよ」
「……なんのこと?」
私が笑って首をかしげると蒼空くんは少し寂しそうに笑って私の頭を撫でた。
それから2週間後。
中間テストが終わってテストが返却された。
私は2年連続担任の笹倉先生に呼び出された。
なんだろう。赤点は全然取ってないのに。
「長谷川、テストで手を抜いたな」
「……あはは、まさか」
「小鳥遊から聞いたんだ。長谷川は中学で色々あってテストで手を抜くことが多いけど、実際は勉強は得意だって」
蒼空くんのこの前の無理するなはテストで無理して点数を下げるなって意味だったのかな?
いや、けど、そんな軽い言葉には聴こえなかったけどな。
「先生には、分からないですよ。女子の友情って恋愛が絡むとすぐになくなるんです」
「それとテストに何の関係があるんだ?」
「大有りです」
「じゃあ聞こう」
~~~~~
これは、私が中学1年の頃の話です。
私は初めての定期テストで480点を取りました。
3点差で颯に負けたので学年で2位です。
1学期の期末テストが近付くと、同じクラスで勉強が苦手だった男子数人が私と颯に勉強を教えてほしいと頼んできました。
まあ、特に断る理由もなかったのでうちで勉強を教えることになりました。
その甲斐があったのか皆点数が伸びていました。
テストが終わってすぐの休日に、勉強を教えたお礼と言って私と颯にアイスを奢ってくれました。
そして、夏休みに入る前、3人から同時に告白されました。
その頃には蒼空くんのこと好きだったのでもちろん断りましたけど。そしたら、私の友達にその3人をそれぞれ好きだったらしくてなんか勝手にキレられました。
「葵、私たちの好きな人口説いて皆振るとかマジで最低!」
「口説くって何?勉強教えただけだけど」
「嘘つくな!」
とまあ、喧嘩になって絶交されました。
翌日から私に近付くと、好きな人が取られるという噂が流れました。ちなみに、真夏と仲良くなったのもその頃です。
それから2学期の中間テストが近付いてくると、今度は真夏の友達の好きな人に勉強を教えてと頼まれました。
期末テストの二の舞になるのは嫌だったので断ると、『向こうは勇気出して誘ったのに断るなんて酷い!勉強教えるぐらいいいじゃん!私、人によって態度変える人嫌いだから葵ちゃんとは友達になれない!』ってキレられて絶交されました。
まあ、それ以降はそもそも勉強を教わりに来られないようにわざと間違えて点数を下げる努力を始めたんです。
~~~~~
「苦労してきたんだな」
「ホントそうですよ。私、どうするのが正解だったんですかね。」
「さあな」
「お陰で私、同い年の女子友達は真夏だけですよ?他の子達は学校で話すだけの友達で一緒に遊んだりしませんから」
連絡先も知ってるけど話さないし。
「まあ、テストの件はちゃんと受けるようにしますよ。蒼空くんに無理すんなって言われたんで」
「そうか」
「ところで、蒼空くんって高校生の頃モテてましたか?」
「まあ、モテてた方だとは思うぞ」
やっぱり先生から見ても分かるくらいにはモテてたんだ。
「じゃあモテエピソード聞かせてください」
「バレンタインはいつも遅刻してたな。前後でチョコ渡す人もいたけど皆断ってたな」
「それは知ってます。毎年チョコ渡してましたけど今年初めてもらったって言ってましたから」
先生は驚いたような顔をしてなんて?と聞き返した。
まあ、断ってたのは知らなかったけど。
「蒼空くんが中学生の頃に私がわがままで毎年一番に私が蒼空くんにチョコ渡したいって言ったら次の年からは朝一番にうちに来て目の前で作ったチョコ食べて感想言ってくれたので」
「マジで?」
「はい。しかも、私が登校班に遅れるから小学校まで送ってくれてたんです。蒼空くんって優しいですよね」
先生はまたもや驚いた顔をしていた。
この先生、表情豊かで面白いんだよね。
しかも、驚き方が手も動かすから笑いを堪えんの必死なんだよね。
「で、もう帰っていいですか?」
「……結婚式は呼べよ」
「はい?誰の?」
「長谷川と小鳥遊の。もうこのまま結婚しそうだから忘れないうちに」
「う~んと、……覚えてたら呼びますね」
失礼しました~と言って生徒指導室を出た。
まあ、結婚式とかまだまだ先だろうけど今のところ別れる予定も気配もないから覚えてたら先生のことも呼んであげよ。