私の親友
文化祭も終わって期末テストも終わってもう12月になった。
テストが返されて今日は部活もないので放課後に真夏と何人かの女子生徒と話していた。
「そういえばさ、葵ちゃんと真夏ってめっちゃ仲良いよね?喧嘩とかしたことあんの?」
「あるよ。ね、」
「1回だけね」
真夏と顔を合わせて笑った。
真夏と喧嘩をしたのは中学1年生のちょうど今の時期だった。
* * *
私と真夏が仲良くなったのは中1の夏に、真夏が話しかけてくれたからだった。
もともと同じクラスだったけど、私は同じ小学校出身だった子といることが多くてあんまり話したことはなかった。
ある日の放課後、友達の好きな人に告白されてそれを見られて絶交されてしまった。
次の日から私に近付くと好きな人が取られるという噂が流れた。
まあ、別に慣れてるからいいけどさ。
友達だった子達は朝からずっと私を無視してる。
移動教室の時間になって教科書を持って席を立つと心配してくれたのか、告白してきた男子とは別の友達の好きな人が友達と一緒に私の席に来て私の肩を組んだ。
「長谷川、一緒に行こうぜ」
「やめて。あと、1人で行く」
「ぼっちのくせに強がんなよ」
「強がってない。むしろ、あんたといるとホントにぼっちになるから」
「なにそれ。女子こえ~」
その男子は笑って友達と先に教室を出た。
笑い事じゃないわ。
ため息をついて教室の鍵を閉めて別教室に向かった。
昼休みになるとさらに1人は目立つ。
そんな中、話しかけてくれたのが真夏だった。
「長谷川さん、可愛すぎてまた嫉妬されてるじゃん」
「千崎さん」
確か、翔と同じ陸上部だった気がする。
「真夏でいいよ。こうして話すのは初めてだね」
「うん。私のことも葵でいいよ。翔と颯といたら誰呼んでるか分かんないし」
「そうだね」
真夏は本当に名前通りの性格だなと思った。いい意味でも悪い意味でも。
真夏は何でもストレートで明るい性格だけど、嘘がつけなくて思ったことを何でも言ってしまう。
けど、一緒にいて楽しいし優しいのは分かるからすぐに仲良くなった。
それからしばらくして、ずっと気になってたことを思いきって訊いてみた。
「真夏はさ、私に好きな人取られてもいいの?」
「う~ん、なんていうか、私、翔が好きなんだよね」
「え、翔?」
「そう。正直始めは、葵に興味があったわけじゃない」
「は、なにそれ」
席を立ってそのまま家に帰った。
真夏、翔の姉だから私に話しかけたんだ。
私のことは別に好きじゃないんだ。
結局、誰も私に興味持ってくれない。
私、顔以外いいとこないのかな?
天井がにじんだ。
いつの間にか寝ていて、目が覚めると夜になっていた。
スマホで、時間を見ると19時と表記されていた。
小さくため息をつくと急に部屋のドアが開いておぼんを持った翔と颯が入ってきた。
「葵~、晩飯~」
「葵、今日早退して給食食べてないんだろ?」
「母さん、葵の好きなハンバーグ作ってくれたけど食べねえの?」
「……食べる」
颯が部屋の電気をつけてローテーブルにおぼんを置いた。
てか、ハンバーグのお皿3つあるし、スープとご飯も。
2人もここで食べる気?まあ、1人で食べるよりはいいけど。
「「いただきます」」
「うっま!」
「あっつ!」
2人は同時に叫んで部屋にあった私の水筒の水を勝手に飲んだ。
「少なっ」
「勝手に飲んだくせに文句言うな」
「悪い悪い」
「あ、そういえば千崎さんが帰りの会のあと俺のクラス来てノート貸してくれたぞ」
「……」
颯からノートを受け取って開いた。
すると、手紙折りをされた紙がノートの隙間から落ちてきた。
なんの手紙だろう。これからはもう話しかけないとかかな?
「読まねえの?」
「読まない」
「真夏さ、今日の部活で珍しくハードルでつまずいてたぞ。足ひねっただけで済んだみてえだけど」
「……へ~」
ご飯をかきこんでスープを飲むと颯も翔もニヤニヤしながらこっちを見てきた。
私は無視して2人のお皿からハンバーグと一緒に盛っていたポテトを1つずつ取った。
「美味し~」
「おい!」
「俺のポテト!」
「ふ~ん」
「可愛い子ぶんじゃねえよ!」
「マジで最低!」
人の部屋に勝手に入ってきてご飯食べ始めるやつらには言われたくないんだけど。
ご飯を食べ終えて食器を持って颯と翔とリビングに行った。
すると、ちょうどお母さんがアイスクリームを冷凍庫から出しているところだった。
「葵たちも食べる?」
「うん!」
「食う!」
「食べる!」
ソファに座ってアイスを食べながらテレビを見た。
お風呂に入って部屋に戻ってノートを写した。
一応、手紙も読もうかな。せっかく書いてくれたわけだし。
~~~~~~
『 葵へ
ごめん。
私、中学に入ってすぐに翔を好きになって、葵と仲良くなれば翔のこともっと知れるって思った。
だから、葵に話しかけた。
このことを、ずっと言わなかったのは恥ずかしいからとかじゃなくて葵に嫌われたくなかったから。
言い訳になっちゃうけど、私、今は葵のこと大好きだし、世界一の親友だと思ってる。
だから、葵と仲直りしたい。葵もそう思ってくれてるなら嬉しい』
~~~~~
少し腫れてしまった目を隠すようにキャップを被って登校した。
靴箱付近で真夏に会った。
「おはよ、真夏」
「おはよ、葵」
「……」
「……」
真夏と無言で顔を見合わせて思わず吹き出してしまった。
笑って教室に行って席に着いた。
「真夏、ノートありがとね。」
「うん」
「てか、世界一の親友って」
「ちょっ、笑わないでよ!」
「嬉しかったよ。ありがと」
「どういたしまして!」
* * *
「懐かしい」
「懐かしいね」
「けどさ、未だに翔のこと好きとか親友の見る目疑うわ~」
「うるさいな~。葵は同じお腹から生まれたから良さが分からないだけだよ」
真夏は頬を膨らませて私の顔を見た。
私も同じ顔をして真夏の方を見ると、周りの生徒が笑った。
「ホント仲良いね」
「まあね」
私と真夏ほどの親友そうそういないよ。
けどもし、真夏が翔と結婚したら私と真夏姉妹になるじゃん!
今度は世界一の姉妹になれるよ。