復帰
すごく時間が進むのが速いです
SNSで、妊娠報告と出産報告をしたとき、それぞれ批判のコメントが大量に届いた。
まあ、出産報告の方は全く読んでないからお母さんたちの様子を察しただけだけど。
そのときに、颯と翔にも迷惑を掛けてしまったことに対して少し罪悪感がある。
当の本人たちは全く気にしてないようで、つい最近1歳のになった息子の光葵と遊んでいる。
今は11月。私は先月誕生日を迎えて25歳になった。夫である蒼空くんは28歳だ。
今日は三つ子の弟の颯と翔が遊びに来ている。
ちなみに、私は活動休止中ではあるものの練習を再開している。
颯と翔も同じスポーツ施設で、今日はその施設の点検で練習がオフだから光葵も保育園を休んで家にいる。
「葵、復帰しねえの?」
「したいけど、また迷惑掛けると思うし」
「皆気にしねえよ」
「そう?まあ、どっちにしろまだ調整期間だから復帰はもう少し後かな」
「ま、無理すんなよ。葵が復帰しやすい環境にしてやるし」
「うん。ありがと」
颯も翔も頷いて、また光葵と遊んでいた。
てか、復帰しやすい環境って?優勝して、やっぱ3人で揃いたいな的なこと言うとか?
はは、ないね。
それから蒼空くんが帰ってきて颯と翔も一緒にたこ焼きを食べることになった。
「颯はまだ分かるけど、翔はいいの?真夏が待ってるんじゃない?」
「真夏、今出張行ってるから。」
「へ~」
真夏と翔は真夏が大学を卒業してから同棲を始めた。
そして、真夏は広告代理店に勤めている。
大学2年のときに、すごい目に留まる広告があって就活のときにその会社を受けたら奇跡的に受かったって行ってた。
けど、奇跡じゃなくて真夏の頑張りだよね?
「颯は来年から幸ちゃんと一緒に住み始めるんだっけ?」
「一応な。けどなくなるかも」
「なんで?」
「今喧嘩中だから」
「え!」
颯の彼女である幸ちゃんは、3歳年下の大学4年生で見るからに颯が好きって分かる子だ。
まあ、時々素直すぎて言わなくていいことまで言うときはあるけど今時あんな純粋な子いるんだってくらいまっすぐ。
それに、悪いなと思ったらすぐに謝れる子だし。
だから喧嘩とか考えられない。
「なんで喧嘩したんだ?」
蒼空くんが訊くと颯は少し気まずそうに視線を逸らした。
「………先週、迎えに行ったときに、幸が大学の同級生に言い寄られてて、ムカついたからそいつの前でキスしたら怒られた」
「はあ?」
「いや、分かってる。俺が悪いのは分かってるけど、謝ろうとしても連絡無視されるから」
「仕方ないな~」
私は幸ちゃんに電話をかけた。
颯からの連絡を無視しながらも、罪悪感か寂しさかその両方があるからか、電話に出た幸ちゃんは少し元気が無さそうだった。
『もしもし、葵ちゃん?』
「うん。」
『ねえ、葵ちゃん。颯くんに嫌われちゃったかも』
「え、なんで?」
『だって、いっぱい連絡くるけど、別れ話するための連絡だろうし』
「そんなことないよ。今いるから本人に確認してみなよ」
『え、え!いるの!?』
颯にスマホを渡して、私と蒼空くんと翔はたこ焼きの生地を流した。
たこ焼きが焼けてくると、無事に仲直りしたのか颯が戻ってきてスマホを私に返した。
『もしもし、葵ちゃん?』
「うん」
『ありがとう!葵ちゃん、大好き』
「ありがと、幸ちゃん」
可愛い。こんな妹いたら最高だな。
颯と結婚してくれないかな?
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蒼空くんと結婚して昨日で3年が経った。
ホントにあっという間だなって感じがする。
練習を終えて帰ってくると光葵と蒼空くんが絵本を読んでいた。
そっか。今日は定休日か。昨日は朝のうちにお祝いしたからね。
構図が可愛すぎない?うちの旦那も息子もそっくりな顔でおんなじような格好してるんだよ?可愛いわ。
「ただいま」
「おかえり」
光葵は私の声に気付くと走ってこっちにやって来た。
私に抱きつく直前、躓いて慌てて抱き上げた。
絶対、抱っこしてなかったから顔面から打ってた。
この前も転んで頭打ってたんこぶ出来てたし。
「てか、パジャマってことはもうお風呂入った?蒼空くん入れてくれたの?」
「公園で遊んだから」
「ありがとう。じゃあ、私もお風呂入ってくるね」
「ああ。晩ごはんの準備しておく」
それからお風呂に入って、夜ご飯を食べて絵本を読んでいると光葵は昼間にたくさん遊んで疲れたのか寝てしまった。
蒼空くんが光葵をベッドまで運んでくれて私にスマホを見せた。
「何?これ。ニュースの切り抜き?」
蒼空くんはSNSで拾ったニュースの切り抜き動画を再生して私に見せた。
そのニュースには最近大会で優勝した颯が映っていてインタビューを受けていた。
颯は今回、シングルスだけでリポーターの「ダブルスはもうせずにシングルスに絞るんですか?」って質問を聞いてカメラに目線を向けた。
「俺の隣に立って闘うのは葵だけです。だから葵、早く戻ってこい!」
そう言ってガッツポーズをしてカメラに突き出した。
それが自分で思っていたよりも嬉しかったみたいで泣いてしまった。
蒼空くんは落ち着くまで私を抱きしめてくれた。
そして、その切り抜き動画のコメント欄を見せてくれた。
『姉弟ペア、優勝再び!?』『また夢を見せてくれ!』『葵選手!戻ってきてくれるの!?』『この日を待ち望んでたよ!』
とか、さらに泣かせるようなことばかり書かれていた。
調整期間はもうとっくに終わってたけど、私は弱いから誰かが蒼空くんまで傷付けるのが怖くて復帰しますってずっと言えなかった。
けど、もう大丈夫。
てか、颯の言ってた復帰しやすい環境ってこの事か。
「蒼空くん、私、復帰したい。もう一回、世界で戦いたい」
「じゃあ、葵が次に世界で戦うときは俺と光葵で応援に行く」
「何それ。蒼空くん、それ最高!」
それから約1ヶ月後。
記者会見を開いて活動再開を発表した。
今年の世界大会には出られないけど、2年後の世界大会と4年後の世界大会に出場することが目標。
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復帰から1年後。私は27歳、蒼空くんは30歳、光葵は3歳になる年の日本大会。
シングルスで優勝、ダブルスも颯とコンビを組んで優勝した。
そして、来年の世界大会の日本代表に選ばれた。
私も颯も22のときの世界大会で優勝したときよりも喜んでたかも。
インタビュー中も嬉しすぎて顔が何度も緩みそうになった。
「葵選手、完全復活ですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
翌日、家に帰って蒼空くんと光葵に抱きついた。
「蒼空くん!こうくん!海外旅行できるよ!」
「ママ、痛いの?」
「光葵、ママは嬉しくて泣いてるんだ。」
「ママ、嬉しい?」
「うん」
涙を拭いて光葵の頭を撫でて笑った。
光葵がもう少し大きくなったら色んなスポーツに触れさせてあげよう。
バドだけじゃなくて、サッカーとかバスケとかバレーとか弓道とかダンスとか。あと、合気道も。他にも色々。
その中で自分の楽しみを見つけてくれたらいいな。
スポーツだけじゃなくても絵とか音楽とか他にも色んなものに触れてほしいな。
それで、好きなものがあるってどんなにいいことか知ってくれたらいいな。
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さらに1年後。私が28歳、蒼空くんが31歳、光葵が4歳。ついこの前、翔と真夏が結婚した、
そしてバドミントンの世界大会が開かれた。
今回は蒼空くんと光葵も現地に応援に来てくれた。
シングルスでは準優勝だったけど、混合ダブルスで颯と組んで優勝した。
颯はシングルス、ダブルス共に優勝ということもありインタビューが集中している。
それを横目で見ながら蒼空くんと光葵が来るのを待った。
「葵!」
「お母さん!」
蒼空くんと光葵がやって来て私に抱きついた。
私は2人を抱きしめながら思わず泣いてしまった。
私は、自分で思ってたよりも準優勝っていう結果を悔しがっていたみたいだ。
蒼空くんも光葵も驚いてて私は慌てて涙を拭いた。
「お母さん?」
「せっかく、蒼空くんとこうくんが揃って応援に来てくれたのに、優勝逃しちゃった」
「お母さん、お父さんも泣いてるよ」
「え、」
蒼空くんの顔を見ると私よりも悔しがりながら泣いていた。
光葵はなんで泣いてるの?と首を傾げていたけど、私は笑って蒼空くんの涙を拭いた。
「蒼空くん、2年待ってて。世界一になるから。喜ぶ準備しててね」
「ああ。待ってる」
「こうくんも待ってる!」
「うん。ありがとう」
インタビューを終えて、メダルとトロフィーを持って、颯と2人で写真を撮った後、蒼空くんと光葵と私の3人で颯に写真を撮ってもらった。
「ありがとう」
「俺の台詞」
「え?なんで?」
「戻ってきてくれて。俺、葵が隣で戦ってるときが一番楽しいし最強になるから」
「急に何?頭打った」
わざとらしく震えると颯は笑って蒼空くんの肩に手を置いた。
「蒼空兄、知ってるか?葵って、中学のときに蒼空兄への想いを綴ったポエム書いてたんだぞ」
「は、なんで知って。ってか、なんで言うの!?」
「葵、可愛い」
「「可愛くない!」」
私と颯が叫ぶと光葵がちょんちょんと私と颯の服の裾を引っ張った。
「お母さん、颯くん、外で喧嘩はダメだよ。ごめんなさいして」
「「………ごめん」」
息子に怒られてしまった恥ずかしさと、すごく成長したなっていう嬉しさでなんとも言えない複雑な感情になった。
てか、なんで颯が知ってたんだろ。
私、ポエム書いてたのほんの一時期だしすぐに捨てたのに。
てか、マジで最悪。颯の日頃の言動が悪いのに。
蒼空くんに黒歴史バラされるとかなんの罰ゲーム?
颯の黒歴史思い出したら絶対に幸ちゃんに言ってやる。
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さらに2年後。私は30歳になった。
颯は去年、幸ちゃんと結婚した。幸ちゃんが挨拶に来たときに颯の黒歴史を暴露してやった。
そして、今年は日本が世界大会の会場で私と颯はバドミントン、翔は陸上の1500m、紫輝兄は競泳の個人メドレーとフリーの200で出場した。
紫輝兄は個人メドレー、フリー共に優勝。翔も1500で1位。颯はシングルス、混合ダブルス共に優勝。つまり、私は混合ダブルスで優勝したことになる。
そして、
「葵選手!シングルス優勝おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「葵選手はこの大会を機に引退宣言をされてましたが、世間からはもう少し活躍を見たかったとの意見がございますが活動を続けるつもりはありますか?」
「ありません。そういった意見は嬉しいですが、私はこの大会が引退試合で後悔はないし、30歳という節目の年なので引退する意向は変わっていません」
インタビューを終えて関係者のカードを首からさげた蒼空くんと光葵の元に歩いていった。
光葵は笑って私に拳を向けた。私も光葵の拳に握った拳を当ててグータッチをした。
そして、蒼空くんに向き直ると蒼空くんは涙を堪えていた。
「約束、叶えたよ」
「葵、おめでとう。それと、お疲れ様」
「ありがとう」
蒼空くんはコップに水を注ぎすぎたときみたいに涙が溢れだした。
私もそれにつられて泣いてしまった。
お疲れ様に籠っていた言葉で表せきれない気持ちが伝わってきたから、笑顔を保つのもできなかった。
やっと泣き止むと、蒼空くんが私の手を握った。
「葵、渉くんと七菜波さんも来てるからそっち行こうか」
「お母さん、じいじとばあばもお母さんとお父さんみたいに泣いてたよ」
「そうなの?」
光葵はコクコク頷いて、私と蒼空くんの手を引いた。
それから颯と蒼空くんと光葵と一緒にお父さんたちに会いに行った。
引退前、最後の試合を見に来てくれたこととこれまで応援してきてくれたことへの感謝を伝えた。
私の選手人生に終止符を打つことになる。
やっぱ、寂しいな。




