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私の彼氏


 4月上旬。お兄ちゃんと莉久姉(りくねえ)が結婚式を挙げた。その1ヶ月半後、莉久姉が妊娠。その2ヶ月後、咲久姉(さくねえ)真白兄(ましろにい)の息子が産まれた。

たった半年でこんなにも出来事があったからか、すごく長く感じる。


日本大会で一位になって日本代表に選ばれたお陰で私も颯もスポンサーがついてコーチを紹介してもらった。

そのコーチがなんと、蒼空(そら)くんのお母さんである美久(みく)ちゃんの知り合いだった。

私と颯がバドミントンを始めたのは美久ちゃんが高校生の頃のインターハイの映像を見たからだ。

そして、私のコーチは美久ちゃんと同じ高校出身で私のお母さんとお父さんとも面識があった。

すごいよね。世界って案外狭いのかもしれない。


コーチがついたことでこれまでより練習の質が確実に上がったのが分かる。基礎トレから試合形式の練習まで全部の練習が楽しい。しんどい練習なのにもっと練習したいって思えるようになった。


「葵、今日は特に楽しそうだな。」

「コーチ!」

「何かいいことあったのか?」

「分かります?」

「まあ、今日はいつもより動きが軽々としてるからな」



別の日。



「葵、今日は笑わないな」

「あ、コーチ」

「何かあったんだろ?」

「なんで分かるんですか?」

「今日はいつもより、スマッシュに力が篭ってるからな」


って感じでコーチとの仲は良好。

アスリートの恋愛を快く受け入れてくれたコーチには感謝しかない。

まあ、私が蒼空くんとの仲が良くて浮かれてても、仲が拗れて落ち込んでてもパフォーマンスはむしろ良くなるという変わった特性を持っているかららしいけど。

コーチから見ると、浮かれてるときは楽しくラケットを振ってて、落ち込んでるときは怒りを溜め込んでスマッシュにぶつけるようにラケットを振っているらしい。



それから、しばらく経ってついに世界大会がやって来た。

私と颯はバドミントン日本代表の最年少メンバーとして出場することになった。

試合が始まる少し前、蒼空くんに通話を繋いだ。

日本時間ではもう深夜なのに、蒼空くんは通話に応じてくれた。

何を話すわけでもないけど、通話を繋いだままアップをとった。


「じゃあ、勝ってくるね」

『ああ。画面越しで応援してる』

「うん」


スマホを置いて、試合会場に向かった。


 ~~~~~


混合ダブルス、優勝。シングルスは私が3位で銅メダル、(はやて)が2位で銀メダルを獲得した。


帰国してすぐに、テレビの出演が決まってインタビューを除いて初のテレビ出演を果たした。

そのテレビのVTRの中でお父さんとお母さんや笹倉(ささくら)先生からのコメントがあった。


笹倉先生がガチガチ過ぎて笑った。お父さんとお母さんは驚くぐらい自然体だったけど。

共演者の人たちはお父さんとお母さんを見て驚いていた。

まあ、2人とも結構若く見えるから私がどっちかと一緒に歩いてるとよく年の離れた兄妹って間違われるくらいだからね。

けど、横に年齢書いてあったから分かっただろうに。


収録が終わって近くのホテルに泊まって翌朝、新幹線で地元に帰ってきた。

実家に帰ると翔やお兄ちゃんや莉久姉、蒼空くん、咲久姉、真白兄、紫輝兄(しきにい)真夏(まなつ)

(さとる)と幼馴染みの面々と親友が揃っていた。


「「葵!颯!優勝おめでとう!」」

「「ありがとう!」」


それから皆でご飯を食べて咲久姉と真白兄は子供が小さいし、莉久姉は妊娠してるから体に障らないようにお兄ちゃんと早めに帰った。夜になると真夏と惺も帰っていった。

そのあと、蒼空くんと翔と颯と紫輝兄とトランプをして最下位だった私が罰ゲームでコンビニにアイスを買いに行く事になった。

もう暗いし1人だと危ないからと、最下位から2番目の紫輝兄も一緒に行くことになった。


「蒼空、役目取ってごめんね。」

「紫輝なら別にいいけど」

「僕、蒼空に信用されてる?」

「紫輝じゃなくて葵を信用してんだよ」

「ちぇー」


紫輝兄は唇を尖らせてパーカーを羽織った。

蒼空くんは自分の着ていたカーディガンを私の肩にかけた。


「ありがとう」

「どういたしまして」


蒼空くんは優しく微笑んだ。

私、蒼空くんのこういう大人っぽい表情好き!


それから靴を履いてコンビニに向かった。


「葵はいいね。蒼空とラブラブで」

「紫輝兄も彼女いるじゃん」


紫輝兄は競泳選手で、専属のコーチの娘であり、ファッションモデルでもあるソフィアと今年の3月辺りから付き合い始めた。

隠してるつもりはないみたいだけど、公にはしていない。


「そうだけど。ソフィアは、僕のことをただの友達の延長線って捉えてるかもしれない」

「そんなことないよ。ソフィアから時々電話かかってきて『シキとデートしたの!すっごく楽しかった!』とか言ってるもん」

「そうなの?僕に言ってくれたらいいのに」


紫輝兄、嬉しそう。

ソフィアももっと素直になればいいのに。

コンビニに入ってスマホのメモを見ながらアイスをカゴに入れた。

お金はもちろんお父さんから貰ったので払った。


「紫輝兄はさ、ソフィアと付き合ってること公表するつもりないの?」

「ないかな。ソフィアの人気に関わるし。だからと言って全力で隠すつもりもないけど。」


そっか。ソフィアはファッションモデルだから気にしないとなんだ。


「私、世界一になったら公表するって思ってたけど別に公表する必要ないかなって思ってきたんだよね」

「言及されたくないなら公表する必要ないよ。だから僕らも公表してないし」


紫輝兄みたいに有名で人気ってわけじゃないから言及されるかも分かんないけど。

まあ、私よりも蒼空くんが言及される方が有り得るし蒼空くんに迷惑掛けたくないから言わなくてもいいかな。


風が吹いて蒼空くんに借りたカーディガンがなびいた。

すると、フワッといい香りがした。

柔軟剤の匂いは一緒の筈なのに、蒼空くんのこのカーディガンは落ち着くいい匂いをしている。

ハグしたときもこの匂いがするんだよね。

なんか、蒼空くんに抱きしめられたときのこと思い出してちょっとドキドキするかも。


「ねえ、紫輝兄」

「どうしたの?」

「私、自分で思ってるよりも蒼空くんを好きみたい」

「僕から見たら葵は蒼空を大好きに見えるけど」

「紫輝兄から見えてるよりもってこと」

「それは相当だね」



アイスが溶けないうちに急いで家に帰って皆でアイスを食べた。

紫輝兄はアイスを食べて一緒にゲームをしてから帰ってしまった。

蒼空くんは明日夜から仕事があるけど一緒に実家に泊まっていくことになった。


ちなみに、開店して大人気のお店だけど今は莉久姉が妊娠中でお店を開けられないため予約を取っていなくて、蒼空くんはフリーランスでパーティーや結婚披露宴で料理を提供している。



「蒼空くん、どうする?一緒に寝る?」


私はベッドに座って隣のスペースを叩いた。

蒼空くんは隣に座ってこっちを見た。


「颯の部屋で寝るって言っただろ」

「え~!久しぶりの再会なのにおかえりのキスもないんだ」

「したことないだろ」


蒼空くんはいつもと変わらない声色で私を抱き寄せた。

キスはしないけどハグはするんだ。

まあ、いつも帰ってきたらどっちかからハグしに行くからね。

9割は私からだけど、合宿帰りとか実家に泊まった次の日とかは蒼空くんからハグしてくれるんだよね。

なんだかんだ愛されてるのを感じられて嬉しいけど少し恥ずかしくて笑ってしまった。


「なんだよ」

「いや、蒼空くんは可愛いなって」

「その言葉そのまま返すわ」


蒼空くんは私の額にキスをして立ち上がった。

驚いたけど、状況を理解した途端顔に熱がのぼった。


「疲れてるだろ?早く寝ろよ。おやすみ、葵」

「う、うん」


部屋から出ていく蒼空くんの背中を見送って倒れるようにベッドに横になった。

あれ、今の夢かな?蒼空くんが、なんか、少女漫画のヒーローみたいになってる。

私が知らない間に蒼空くん伝授したの誰?蒼空くん、サラッと言ってたけど耳真っ赤で照れてた!めちゃくちゃ可愛いんだけど!真白兄?咲久姉?どっちでもいいけどありがとう!疲れとか一瞬で吹き飛んだ!

やっぱ、蒼空くんって癒されるなぁ。



それからしばらくして、蒼空くんと莉久姉はお店を再開した。

やっぱり3ヶ月先まで予約が埋まっているようだ。

蒼空くんたちのお店はいつも夕方からの営業で蒼空くんは午前中は新しいレシピの考案か体力作りの一環として運動をしているらしい。

莉久姉は午前中は息子(私と蒼空くんの甥っ子)の面倒を見ているか蒼空くん同様新しいレシピの考案をしているみたい。


そんなある日、家に帰ると蒼空くんの様子が少し変だった。

ソワソワしているというか、落ち着きがないというか。

普段の蒼空くんと真逆の様子だった。


「蒼空くん、どうしたの?」

「あのさ」

「うん」

「弓道、また始めようかなって思ってて」

「ホント!?いいじゃん!見に行っていい!?ダメって言っても行くけど!」


蒼空くんの手を握ってブンブンと上下に振った。

蒼空くんは驚いた様子で固まっていたけど、我を取り戻したように話を続けた。


「休日が被ってもどっか出掛けたりするのが減るんだぞ。家事も手抜きになると思うし」

「手抜き?いいに決まってんじゃん!蒼空くんはいつも完璧すぎるんだよ。もっと気楽でいいんだよ。私のことも頼って」


蒼空くんって頑張りすぎるんだよね。

元々器用だからそんなに頑張らなくても人並み以上なのに完璧にするために頑張ってる。

完璧にする必要なんてないのに。ご飯だって、蒼空くんが20分かかるかかからないかくらいで作ったのでもめちゃくちゃ美味しいし、掃除だったら私も参戦できるし。


「けど、出掛けたりは」

「デートより弓道してる蒼空くんを見たい。私、蒼空くんの弓道してるとこ3回しか見たことないんだよ?休みの日は蒼空くんの練習見に行くね」




それから約3週間後。

練習が休みの日に近くの総合体育館の施設内にある弓道場にやって来た。

蒼空くんは道着に着替えてくると言って更衣室に向かった。

私は弓道場の側にあるベンチに座って蒼空くんが来るのを待っていると、少し年上くらいの道着を着た男性4人組が更衣室から出て来た。

あれ?なんか見たことある気がする。けど、覚えてない。

記憶をなんとか辿っていると道着に着替えた蒼空くんも更衣室から出てきた。


「蒼空くん、道着似合いすぎ。カッコいい。」

「あ、ありがとう」

「写真撮っていい?」

「2人?」

「蒼空くん1人に決まってるじゃん!私が一緒に写ったら価値が下がるよ~」

「じゃあ、嫌だ」


蒼空くんは少し不満気な顔をして道場に入っていこうとしたので慌てて腕を掴んだ。

せめて1枚でもいいから蒼空くんの道着姿の写真が欲しい。

私も一緒に撮って私の部分だけ切り取ればいっか。

ちょっと離れて撮れば切り取ってもあんまり不自然にならない筈だよね。


「私も写るから、1枚でいいからお願い」

「………分かった」


私はスマホのカメラアプリを開いて、蒼空くんの側にいた男性に写真を撮ってもらうように頼んだ。

男性たちは少し驚いたような顔をしたけど頷いて写真を撮ってくれることになった。

蒼空くんから少し離れて写ろうとすると、腕を引かれて抱き寄せられた。

そしてそのタイミングで写真を撮られ、撮ってもらってスマホを受け取った。


最悪。蒼空くんの全身写ってる写真が欲しかったのに私で隠れてる。

私が邪魔すぎて蒼空くんの道着ほとんど写ってない。

スマホの画面を見ながらはぁ、とため息をつくと蒼空くんが私のスマホを奪って自撮りで写真を撮って返してくれた。


「ありがとう!」


蒼空くんは恥ずかしかったのか急いで道場に入っていった。

すると、男性4人組が驚いた様子で私の前にやって来た。


「蒼空が写真撮るとか。君、何者?」

「そもそも誰かと一緒でも写真嫌がるのに」

「てか、さっきの何?蒼空が誰かにハグとかするの初めて見た」

「女の子に優しい蒼空とか初めて見た。大体塩対応だし」


蒼空くんのことを結構知ってるってことはこの3週間で会った人じゃないんだろうな。

てか、ホントどこで見たんだろう。会ったって言えるくらい関わってたら覚えてると思うし。


「あの、蒼空くんの知り合いなんですよね?」

「そうだよ~。全員桜川高校出身の元弓道部員」

「あ~!インターハイ!」

「インハイ出たね。懐かしいな」


インターハイで見たんだ。この人たちのこと。

1人は確か莉久姉の知り合いって言ってた気がする。

けど、やっと分かってスッキリした。


「私、蒼空くんの幼馴染みで彼女の長谷川葵です。今年21です」

「え!蒼空に彼女!?」

「従兄弟とか親戚かと思った」

「でもその割には仲良いなって思ってた。」

「俺も。いつから付き合ってんの?」

「付き合って5年目です」


蒼空くんの友達は皆同じような顔をして驚いていた。

そんなに蒼空くんに彼女がいるのが驚くことなのかな?


「あの、まだ行かなくていいんですか?」

「あ、やべ!」

「蒼空に怒られる!」


それから練習を見学してから蒼空くん私服にが着替えるのを待った。

それにしても、弓を引いてる蒼空くん、カッコよかったな。

また見に来ないとな。

蒼空くんたちが着替え終えて更衣室から出てきた。


「葵、スマホ鳴ってる」

「あ、ホントだ。………はぁ、またか」


連絡が着たのは大学の一個下の後輩で、先々週告白されたときに彼氏いるって言ったのに全然諦める気配がないんだよね。

普通なら無視するけど、無視したら真夏に絡むとか言い出すし。

こいつ、真夏と同じ陸上部だからな。翔も陸上部だけど真夏がウザい思いをするのは確実。


表示されたメッセージをタップしてアプリに飛んだ。

今度のお祭りに一緒に行きませんか?と着ていた。

『お断りします』

とだけメッセージを返すと、なぜか電話がかかってきた。

あ、けど、タイミングいいかも。いつもは蒼空くんがいないときだから即切るけど今日は蒼空くんいるから代わりに出てもらえばいいじゃん。


「蒼空くん、代わりに出てくれない?」

「え、なんで」

「ダメ?」

「いや、いいけど」


蒼空くんは渋々私のスマホを受け取った。

少し話して状況を理解したようで少し離れた場所に行って話していた。

私はすぐにキレちゃうけど、蒼空くんなら正論パンチ喰らわせてくれるから相手もそう簡単には起き上がれない。

それに、彼氏から注意されたらさすがに懲りるでしょ。


「蒼空先輩、すげえイライラしてません?」

「葵ちゃん、電話のお相手は?」

「先々週振った大学の後輩です。メッセージを返信してくれないなら私の友達にも同じことするとか言って脅してくるようなやつです」


4人は一斉に蒼空くんの方を見た。

蒼空くんが何を話しているかは分からないけど仕草は雰囲気で蒼空くんが結構怒っていることは分かる。


「あ、こっち来る」

「話ついたんじゃねえの?」

「そうかも」


蒼空くんは私の目の前まで歩いてきてスマホを私のポケットに入れたかと思うと、もたれかかるように抱きついた。

結構ストレス貯めさせちゃったかな?


「蒼空くん、ごめん。相手するの疲れたよね?」

「マジで疲れた。あいつ、葵が照れ隠しで彼氏いるって言ってるとか言ってたぞ?もっと早く相談しろよ」

「だって、家でまで思い出したくなかったし」


蒼空くんはため息をついて私の顔を見た。

迷惑かけたのはやっぱり申し訳ないな。

蒼空くんに謝ろうと頭を下げようとすると、蒼空くんが私の頬を両手で挟んで上に向けた。


「まだ絡んできそうなら直接話すから。千崎(ちさき)さんのことも大丈夫。もし何かあっても翔いるし」

「ありがとう、蒼空くん」

「どういたしまして」


蒼空くんは私の頭に手を置いて微笑んだ。

ホント、蒼空くんって王子様なのかな?

しかも私にしかしないって、少女漫画のヒーローじゃん。


微笑んでいる蒼空くんを見て4人が驚いていたのは言うまでもない。


その後、流れで元弓道部の4人と蒼空くんとご飯を食べに行くことになった。

近くのうどん屋さんでご飯を食べて別々で帰った。


さすが、蒼空くんの友達。

全員面白い。

また会ってみたいな。

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