未来
あっという間に秋になって、蒼空くんと莉久姉はレストランをオープンした。早速人気のようだ。
そして、私たちの誕生日が終わってすぐ2ヶ月くらい前から相談を受けていたお兄ちゃんと莉久姉が婚約をした。
結婚とか、まだまだだと思ってたから、ちょっと驚きながらも心の底からお祝いした。
そして、私の新人大会も終わった。シングルスでは1位、ダブルスでは2位だった。
私が大きなミスをしてしまった。敗因はそれだけじゃないけど、それもある。
混合ダブルスで負けたのは初めてでめっちゃくちゃ悔しくて咲久姉に電話をかけて相談をした。
『気分転換?』
「うん。悔しさを引きずりすぎて、監督に気分転換してこいって怒られた」
『あ、じゃあ、いいところ教えるよ。蒼空と行ってきな』
「ありがと~」
というわけで、私と蒼空くんの実家のある桜川市にやって来た。
咲久姉に紹介されたカフェ・スリールに向かった。
夏休みに免許を取りに行って自主練の時間が少なかったのも負けた原因かもしれない。
お店に着いて駐車場に車を停めた。蒼空くんの車を借りてるからすごく慎重に停めた。
「可愛いお店」
「こんなところあったんだな」
「ね。早く入ろう」
蒼空くんの手を引いてお店に入ると、なぜか颯も来ていてカウンター席に座っていた。
颯は監督に何も言われてなかったのにどうしたんだろ?
てか、私たちに気付いてないな。
後ろからゆっくり近づいてワ!と声をかけると颯はビクッと肩を揺らして恐る恐る振り返った。
「何やってんの?」
「ここの店、知り合いの兄妹の店だから新メニュー食べに来た」
「へ~。私たちはね、咲久姉に聞いてきたんだ」
「俺も咲久姉に教えてもらった。4年前だけど」
え~、いいな。
常連さんって憧れるな。
私もここの常連になろうかな。お店の雰囲気好きだし。
お客さんみんな笑顔が溢れててこの空間にいるだけで幸せになる。
颯の隣に座ると店員さんがカウンターに戻ってきた。
「いらっしゃいませ。こちら、メニュー表です。ご注文がお決まりでしたらお伺いしますので声をかけてください」
「はい」
メニュー表も可愛いな。
木の木目のデザインで自然の中に入ってきたみたい。
私はルイボスティーとリンゴのパウンドケーキ、蒼空くんはコーヒーとカボチャのスフレを頼んだ。
蒼空くんと話しているとすぐに届いて写真を撮ってパウンドケーキを口に運んだ。
「美味しい~!」
「美味いな。」
「一口交換しよ」
「ああ」
蒼空くんとお皿を交換してカボチャのスフレも1口もらった。
やっぱこっちも美味しい!
莉久姉の作るスイーツも美味しいけど、このカフェのスイーツも美味しい。
どっちも食べてて幸せになるのは一緒だ。
食べ終わってルイボスティーをお代わりした。
お代わり3回まで無料とか最高すぎじゃん。
「よく、俺の前でイチャつけるな」
「うるさいな。嫉妬?」
「んなわけあるか、バカ」
「ひど」
しばらくして、お会計をして蒼空くんが車を取りに行ってくれている間にお店の前で待っていると秋っぽい柄のワンピースを着た美少女が立っていた。
その美少女は少し緊張した様子でこっちにやって来た。
「あの、颯くんの、知り合いですか?」
「………誰?そっちこそ颯の知り合い?」
「私、このカフェの店員の妹です」
「あ~、それで」
この子、もしかして。
「颯のこと好きなの?」
「え!?」
「やっぱそうなんだ!」
颯、こんな可愛い子にも好かれてんだ。
いいじゃん。こんな可愛い妹なら大歓迎だよ。
けど、大人っぽいけど話し方とかから、少し子供っぽさを感じるな。多分、年下だろうな。
「私、長谷川葵。颯の三つ子の姉だよ。」
「桐ヶ谷幸です。高校1年です」
「3歳差か。私も彼氏と3歳差だよ。高校の頃は結構気にしてたけど、今は全然年の差とか気にならないから安心して!」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、頑張ってね」
手を振ってお店の前に停めてあった蒼空くんの車に乗った。
幸ちゃん、私と話したこと、颯との会話の話題になってたらいいな。多分、私の悪口ばっか話して颯の素がみれるだろうし。それでも好きでいてくれたらいいな。
「葵、さっきの子は?」
「颯を好きな子。いい子そうだった」
「良かったな」
「だね」
今日はそのまま実家に泊まる日だったので、実家に帰った。
蒼空くんは家に帰っちゃったけど。
実家には翔とお母さんとお父さんがいた。
さっき颯と会ったよと言うとすごく驚いていた。
ラケットを持って庭に出て素振りをしていると、颯が帰ってきて隣で素振りを始めた。
「幸と会ったらしいな」
「うん。いい子だね」
「いい子かは分かんねえけど、面白いぞ」
「へ~。好きなの?」
「好きだぞ。妹ができたみたいで嬉しい」
颯、自分のことになると鈍感になるタイプ?
幸ちゃん、可哀想。
これは相当手強いよ。それでも、応援してるよ。
「あ、そうだ。次の大会は絶対優勝だからね」
「当たり前だろ」
「次って、世界だよ?ホントに分かってる?」
「分かってるわ、バカ」
「バカじゃないし!」
冬にある、全日本大会で勝たないと世界には出られない。
だから、絶対に勝って世界に行く。
世界っていうワードだけで少しの不安を書き消すくらいの興奮がある。
それから1ヶ月後。
今度は真白兄と咲久姉が婚約をした。
しかも、直後に咲久姉の妊娠が分かっておめでたいこと続きだ。
2人は結婚式は挙げないみたいで、すぐに婚姻届を提出していた。
真白兄と咲久姉の子供ならきっと優しい子なんだろうな。
そんなこんなですぐに世界大会の前にある日本大会がやって来た。
数日前から会場近くのホテルに宿泊している。
明日から大会が始まる。緊張するけど、勝てば世界に行けるんだと思うとワクワクして仕方がない。
翌日、試合が始まる直前。
高2のクリスマスに蒼空くんから貰った青いバラを持った手のひらサイズのぬいぐるみを見た。
青いバラの花言葉は“夢を叶える”らしい。
今日、夢に1歩近付くよ。
ぬいぐるみをバッグに戻していよいよ試合が始まった。
~~~~~
「優勝おめでとうございます!シングルス、ダブルス共に日本一の姉弟になりましたが、最初に優勝したことを伝えたのは誰ですか?」
「そ、」
「両親です。葵と一緒にビデオ通話を繋いで伝えました」
危ない。蒼空くんって言いそうになった。
颯が遮ってくれて良かった。
私はお母さんとお父さんとビデオ通話を繋ぐ直前に蒼空くんに言ったけど、ほとんど変わんないからいいよね?
「葵選手といえば、青いバラを持ったクマのぬいぐるみが話題になっていましたね」
「はい。スカイっていって、いつも勇気をもらってます」
「スカイって、」
颯は蒼空くんから名前を取ったことが分かったのか笑っていた。
別に蒼空くんから貰ったんだからスカイでもいいじゃん。
この記者さんに颯の性格悪いって書かれても知らないんだから。
「スカイっていう名前の由来はなにかあるんですか?」
「パッて思いついたからつけただけで由来はないです」
「なんでスカイがパッて思いついたんだ?」
「颯は記者じゃないでしょ。てか、思いついたのに理由とかないし」
取材が終わると、テレビのインタビューを受けた。
インタビューを終えてホテルに帰った。
あ~、疲れた~。
シャワーを浴びて、ベッドに横になるとさっきまでシャワーを浴びていた颯が戻ってきた。
「なに?」
「暇じゃね?土産買いにいこうぜ」
「そうだね」
颯と売店に行ってお土産を見た。
お菓子とインスタントのラーメンを買って、自分用にはここ限定のアイスを買って売店の近くにあるベンチに座って食べた。颯もアイスを勝っていた。
「ホントに世界行けるなんてな」
「うん。てか、スカイって名前つけたって言っただけでツボりすぎ。」
「葵が蒼空兄の名前出しそうになったところを庇ってやったんだから感謝するところだろ」
「それは、そうだけど」
アイスを食べ終えて部屋に戻った。
明日にはチェックアウトをして新幹線で帰る。
私と颯はコーチがいないし大学の全員で来てるわけじゃないから自分たちでチェックアウトをして帰らないといけない。
軽くストレッチをしてから蒼空くんにビデオ通話をかけた。
今日はお店が休みだって知ってる。
「もしもし」
『葵、どうした?』
「ビュッフェまで時間あるから。」
「あと、30分だぞ」
「いいの」
颯も画面に映り込んできた。
蒼空くんは私たちの実家にいるようだ。
背景が実家の家具だし。
「今日のインタビューされたんだ。テレビからも」
『さっき見てた。葵たちは見てないのか?』
「うん。売店でアイス食べてたから。お土産買ったから楽しみにしててね」
『ああ』
蒼空くんが頷くと、お父さんと翔が画面に入ってきた。
すると、颯も私のスマホを覗いてきた。
自分のスマホ使えよ、と思いながらも蒼空くんの前では少し可愛い子ぶるのが私だ。
ビュッフェが始まる少し前まで話してビュッフェ会場に向かった。
まあ、ビュッフェとかいいながらスポーツ選手としては好きなものばっか食べられないんだけど美味しいから別にいっか。
翌朝、朝食をとって荷物をまとめてホテルをチェックアウトした。
駅まで徒歩5分くらいだったから歩いていって新幹線のあるホームに行った。
結構時間ぴったりくらいでホームについて少ししたら新幹線が到着した。
窓側の席はじゃんけんで勝ったから私だ。
チケット買う前にじゃんけんしてたんだよね。
「なんか、試合のときよりも帰る方が緊張する」
「分からなくはない」
「だよね」
翔たちからきいたけど、駅で中学と高校のときのメンバーと近所の人たちで待ってるとか言ってたし。
堂々と蒼空くんに抱きつけないのが嫌だな。
2時間半ぐらいで目的の駅に着いて、そこから普通の電車に乗り換えて地元の駅に向かった。
駅に着いて電車を降りて改札を出ると一番に蒼空くんと目が合った。
「何ニヤニヤしてんだよ」
「蒼空くんがおかえりって」
「言ってないけど」
「目で言ってたんだよ」
颯には分かんないか。と付け足して蒼空くんの目を見て微笑んだ。ただいまって。
なぜか中学の頃に私を嫌ってた子達がおめでと~!と言って周りを囲んだ。そもそもなんでいるんだろう。
颯は友達に囲まれて嬉しそうだけど、私は中学の頃に嫌がらせをしてきたり、噂を流したりしてきた人に囲まれて素直に喜べない。
女子友達は真夏だけで良かったのに。そうじゃないと、帰ってきて早々疲れる。
「葵ちゃん、一緒に写真撮らない?」
「サインして!」
「喋るの久しぶりだね!」
「連絡先交換しない?」
何を、今さら。
まだ謝ってくれてたらいいけど、先生にバレそうになったときに被害者ヅラして私が自作自演してたって言ったりして全く反省してなかったくせに。
こんな前のことを掘り返すとか、私って結構心狭いんだろうな。
キレそうなのを我慢して笑顔を貼り付けた。
「電車で寝ちゃって今寝起きだから写真はごめん。サインもまだ考え中なんだよね。連絡先も、スマホの充電ないから颯から送ってもらって」
せめて、私にしたことと真夏まで巻き込んだことを全て反省して謝ってから言ってほしいな。そんなこともできない人とこれ以上関わるのはごめんだ。
女子の輪から抜けてお父さんとお母さんとお兄ちゃんと翔と真夏と惺と蒼空くんがいるところに行った。
「ただいま」
「「おかえり、葵」」
このやり取りを一番にしたかった。
帰ってきたって感じがする。
みんなの顔を見てニッと笑った。
すると、颯もやって来た。
「颯もおかえり」
「ただいま」
「早く家帰ろ~。眠い」
「葵は新幹線も電車もよだれ垂らして爆睡してただろ」
「寝てたけどよだれは垂らしてない!」
車に乗って実家に行ってソファに座った瞬間、完全にオフ状態になった。
目が覚めると、実家にある自分の部屋にいた。
隣を見ると、蒼空くんが椅子に座って本を読んでいた。
蒼空くんがここまで運んでくれたのかな?
「蒼空くん、おはよ」
「おはよう。って、もう夕方だけどな」
「だね。運んでくれたの蒼空くん?ありがとう」
「どういたしまして」
起き上がって蒼空くんに抱きついた。
蒼空くんは驚いていたけどゆっくり抱き返してくれた。
私、スポーツ選手の中ではメンタル弱い方なんだろうけど蒼空くんに抱きついたらなんでもすぐに立ち直れるからある意味鋼のメンタルなのかもしれない。
「蒼空、大好き」
「急に呼び捨てにするのなんなんだ?」
「だって、飽きられたくないじゃん」
「飽きないけど。2人でいるときだけにして。こんな顔、葵以外に見せられないから」
もう、ホントに蒼空くんは自分を好きにさせるプロなのかな?
こっちも蒼空くんのせいで人に見せれる顔じゃなくなったよ。
私が蒼空くんと結婚する未来はそう遠くないかもな。
その頃には、私はどれだけ落とされてるんだろう。




