桜川高校文化祭
つい2週間前、幼馴染みの蒼空くんと付き合い始めた。とは言っても口にキス以上のことをしたらダメだと言われてしまった。まあ、蒼空くんが彼氏ってだけで幸せだけどね。
けど、今日の文化祭には蒼空くんを呼んでいない。そもそも、今日が文化祭だと言うことを蒼空くんには教えていない。
私のクラスはトップバッターでステージで発表なんだけど、私、アイドルの曲でダンスするんだよね。小学校入る頃から中学卒業まで習ってたから頼まれたんだよね。
まあ、それだけなら全然いいんだけど、ダンスの衣装がリボンとかレースがたくさんついたいかにもアイドルって感じの衣装だから蒼空くんに着てるとこ見られるのは恥ずかしい。私のキャラじゃないし。
だから、蒼空くんは呼ばなかった。どっちみち、バイトとかしてて忙しいと思うけど。
「葵ちゃん、そろそろ本番だよ」
「うん」
衣装のリボンがちゃんと結べているか確認をしてステージに出た。
曲が流れて、ダンスを始める。センターを踊るからには誰よりも楽しんで踊らないと。
~~~~~
音楽とダンスが同時に終わって観客席に向かってお礼をした。そして、顔を上げた瞬間、呼んでいない筈の蒼空くんと目が合った。え、なんでいるの?てか、こんな可愛い衣装似合わないから見られたくなかったのに。
気付いたときには走ってステージから降りていた。
やっば~。てか、なんでいるの?しかも、最前列って。
「最悪~」
「葵ちゃん、どうしたの?お腹痛い?」
「ごめん、来てほしくない人がいて」
あははと笑って顔の前で手を合わせると控え室のテントが開いて、翔と蒼空くんが並んで立っていた。私が蒼空くんの横を走って通りすぎようとすると、蒼空くんに腕を掴まれた。
「来てほしくない人って俺?」
「そうだよ」
「なんで?」
「だってこんな可愛すぎる服着たって似合わないの分かってるし、蒼空くんに見られて変って思われたくないじゃん」
蒼空くんから顔を背けた。てか、今実際思われてたらやなんだけど。せめて、濃い紫とかが良かった。よりにもよって空色とかそんな可愛い色のリボンとかレースって絶対変。私、もっとカッコいい系の色が似合うキャラの筈なのに。
「変なんて思わないのに。翔が教えてくれて良かった。似合ってる」
「……翔、今回はナイス。お姉様がツーショット撮ってあげる」
「要らねえよ!俺じゃなくて蒼空兄と撮れば?」
「えー……蒼空くん、一緒にツーショット撮ってくれる?」
「ああ」
「やった!」
私は急いで鞄からスマホを取り出した。すると、控え室に担任の笹倉先生が入ってきた。私は特に思わないけどこの先生はイケメンと言われていて人気がある。まあ、既婚者だから誰もキャーキャー言ったりしないけどね。
「小鳥遊、久しぶりだな!」
「げ、」
「げ、ってなんだ!3年間も担任したやつにげ、って。失礼な奴だな~!お前の妹は卒業しきに長谷川(兄)と花束くれて『姉弟共々お世話になりました』って言いに来たっていうのに!」
「元気にしてましたか?って訊こうとして噛んだだけです。元気そうで何よりです」
蒼空くん、感情込もって無さすぎでしょ。うわ~、めんどくせ~って顔してるし。てか、先生蒼空くんの担任してたんだ。じゃあ、学校での蒼空くんの様子とか色々知ってるのかな?今度訊いてみよ。
あ、そういえば写真。どうしよう。蒼空くん、先生の前とか撮りたがらないだろうし。
スマホを持って蒼空くんの顔を見上げると、蒼空くんは私の髪を優しく撫でて微笑んだ。
「笹倉先生、写真撮ってもらえますか?」
「いいぞ。はい、チーズ」
写真を撮ってもらって蒼空くんにスマホで送ってもらった。ヤバい。蒼空くんだけ切り取って待ち受けにしよ。
「あんま人の顔アップにして見るなよ。普通に恥ずかしい」
「ごめんごめん」
「おいそこ、教師の前でイチャつくんじゃねえよ」
「教師って言っても先生だし。」
「そうだな」
「お前ら、そんなに俺に心を許し、」
「「違います」」
~~~~~
茶番を終えて私は更衣室に行って制服に着替えた。
その間、蒼空くんには先生と一緒に休憩所で待ってもらうことになった。
衣装を教室に置きに行って休憩所にいる蒼空くんのところに向かう途中で柳に会った。柳はなぜか休憩所に行くまで私ついてきた。
「この前会った人と付き合ったんだろ?」
「柳にそんなこと言ったっけ?」
「女子から聞いた。葵の彼氏が来たって」
「最悪。蒼空くんイケメンだから絶対目立つじゃん」
蒼空くんのいる場所を探そうと見回す必要はなかった。分かりやすく人が集まっていたお陰だ。てか、女子だけじゃなくてなんで男子もいるの?そこまで蒼空くんがイケメンってこと?イケメンだけど。
てか、騒がしすぎて呼んでも気付かないだろうな。
メッセージを送ると、蒼空くんはすぐにこっちに歩いてきた。
「お待たせ。ちょっと遅くなったかも」
「先生と話してたから気にするな。」
「蒼空くん、あの、」
手を繋ぎたいってこんな大勢の前で言うのは恥ずかしいな。
蒼空くんから目線を逸らした。
蒼空くんは私の手を握って歩き出した。
ヤバ、彼氏の蒼空くんカッコよすぎ!
「ねえ、蒼空くん。行きたいとこあるんだけどいい?」
「ああ」
フォトスタジオをしているクラスに行った。
桜川の制服を着て写真撮れるらしいから蒼空くんに着てほしいんだよね。
フォトスタジオで桜川高校の男子の制服を蒼空くんに渡して着替えてもらった。
2年ぶりに見る蒼空くんの制服姿、ヤバい。
なんか、ちょっと年の差が縮まったみたいで嬉しいな。
「蒼空、同い年みたいだね」
蒼空くんは呼び捨てで呼ばれたことに気付いて驚いた顔をして固まった。
蒼空くんはみるみるうちに真っ赤になって顔を隠した。
「蒼空、顔赤いよ」
「葵の呼び捨てはなんかダメだ。照れる」
蒼空くんは真っ赤になった顔を背けた。
こんな少しの呼び方の変化で照れてくれるくらい、私のこと好きなんだ。
ちょっと自意識過剰だけど、蒼空くんに好きだって言ってもらえるんだもん。仕方ないよね。
「蒼空くん、一緒に写真撮ろ」
「そうだな」
フォトスタジオを出て翔のクラスに向かった。
ちなみに、さっき撮った写真はスマホのロック画面の待ち受けにした。
翔のクラスに向かう途中、クラスメートの男子に話しかけられた。
「よ~、長谷川。あ、その人長谷川の彼氏?」
「そ、彼氏」
「へ~、」
「なに?」
「いや、別に。じゃあな」
そいつは手を振ってどこかに行った。
なんなの?急に話しかけてきて彼氏?とか訊いてきたくせに微妙な反応して。
蒼空くんと釣り合わないってことだったら嫌だな。
ため息をつくと、蒼空くんは私の顔を覗き込んだ。
顔近いっ。てか、今絶対顔赤くなってる。
「蒼空くん、」
「危な。今、キスしそうになった」
「私はいいのに蒼空くんが変な条件つけるから」
「18なんてあっという間だろ」
「あと2年だよ。めっちゃ先」
キスしたいって思うならしてくれたらいいのに。
てか、思ったんだけどこのルールって蒼空くんが勝手に作ったんだよね?
しかも、手を出さないってことは私からはいいってことじゃないのかな?
まあ、蒼空くんにガードされちゃうから出来ないけど。
「蒼空くんのばーか。こっちの2年は長いのに。それに、高3になったら受験だし」
「じゃあ受験終わったらだな」
「期間伸ばさないでよ!」
手を繋いでいる方の腕を上下に動かした。
蒼空くんって真面目だから18って言ったらそれより早くすることないだろうし、ちゃんと守るだろう。
だから嫌だ。皆、好きな人とキスしたり愛情表現してるのに、私は蒼空くんに大好きを言葉でしか伝えられない。そんなの寂しいじゃん。
ため息をついて翔のクラスのドアを開けた。
確か、翔のクラスはスタンプラリーだった気がする。
教室内を見回していると、翔とよく一緒にいる岬がいた。
「おー葵。翔から聞いてるぞ。隣の人が蒼空兄?」
「そうだよ。てか、スタンプラリーしたいんだけどどうしたらいい?」
「じゃあ向こうで紙とマップ貰ってきて」
「分かった」
紙とマップを貰って廊下に出た。
10箇所もあるじゃん。まあ、お昼まで時間あるしいっか。
蒼空くんと一緒に校内中あちこちまわった。けど、蒼空くんがイケメンなせいでめっちゃ目立つ!
せっかくの文化祭デートなのに注目されすぎてるせいで気が散る!
「葵、どれだけ人気あるんだよ。どこ行っても見られてる」
「蒼空くんが見られてるんだよ」
「ただの専門学生見ても面白くないだろ」
蒼空くんは苦笑いを浮かべた。
ただのって言ってるけど、蒼空くんレベルのイケメンそうそういないよ!テレビに出てるイケメン俳優とかアイドルと並んでも見劣りしないし、なんなら蒼空くんが絶対一番カッコいい。アイドルよりも、私のこと笑顔にしてくれるし。
蒼空くんの顔を見つめていると蒼空くんは少し照れたように顔を背けた。
それが可愛くてさらに見つめていると向こうから、親友の真夏が走ってきた。
「葵~!やっと見つけた~!」
「真夏!あ、蒼空くん。この子真夏。秋生まれだけど」
「初めまして!葵の親友の千崎真夏です!蒼空兄さんですよね!?」
「蒼空兄さんって?」
「翔と颯がそう呼んでるんで勝手にそう呼んでます!」
「まあ、いいけど。さんはいらない」
蒼空くんに言われなくても真夏、普段は勝手に蒼空兄って呼んでるけどね。
中学の頃から真夏には色々相談のってもらってて、付き合ったのを報告したらすごい喜んでくれてお祝いにコンビニでケーキまで買ってくれたんだよね。
ステージを蒼空くんに見られたのはちょっと恥ずかしかったけど、真夏に蒼空くん紹介できて良かった。
「蒼空兄、葵モテるから今日中に牽制しておいた方がいいよ。じゃあね、葵。明日いっぱい話聞くから今日は思う存分楽しんで」
「ありがとう、真夏」
真夏に手を振って最終ポイントに向かった。
最終ポイントでスタンプを押して翔のクラスに戻った。
ゴールして、景品のストラップを貰った。
蒼空くんとお揃いだ。カップルっぽくて嬉しいな。
「颯のクラス行くか?」
「うん」
颯の翔のクラスの隣の隣だ。
なにやってるんだっけ?翔は家で宣伝してたから知ってたけど。
颯のクラスの前にはお化け屋敷と書かれた看板があった。
まあ、高校生レベルのお化け屋敷なんて絶対怖くないし?
受付をしようと教室の中に入ると、中から叫び声が聞こえてきた。
「葵、お化け屋敷とか苦手だろ?別のところ行こう」
「いや、なんか、颯たちに負けるみたいで嫌」
「じゃあ入るか?」
「うん」
受付をしてお化け屋敷に入った。
あれ?何も出てこないじゃん。
変な提灯光ってたり、井戸の絵があるだけだから全く怖くない。
やっぱ、所詮高校生レベルじゃん。
「……ドコ?……アノヨ?……ヒトリハサビシイ。ダレカ、イッショニ」
「蒼空くん、変な声聴こえた!」
「確かに。スピーカーとかないのにな。」
「てか、おかしいよ!高校なのに子供の声だった!」
早足で移動しようにも狭くて走れない。
すると、後ろからハサミのジョキンッジョキンッとした音が聴こえてきた。
「やっぱお化け屋敷無理。蒼空くん、目閉じて耳塞いで歩くから外まで連れていって」
「分かった」
え、急に体浮いたんだけど。
もしかして今、お姫様抱っこされてる!?
どうしよう。重くないかな?朝ごはんいっぱい食べちゃったのに!
スタンプラリーで消費しててほしい。
不意に、瞼の裏から光が差し込んだ。一息ついて手を避けると、すぐそこに蒼空くんの顔があった。
わ、近っ!さっきは目閉じてたし暗かったからこんな近いと思わなかった。
蒼空くんからおりて少し気まずい沈黙になってしまった。
「あ、蒼空くん。重くなかった?腕痛くない?」
「大丈夫だ。」
「えっと、そろそろお昼ごはん食べに行く?」
「そうだな。何食べたい?」
「ラーメン」
「じゃあグラウンドだな」
グラウンドにあるラーメンの屋台に行って塩ラーメンを買った。蒼空くんは味噌ラーメンにしていた。
ちなみに、このラーメンの屋台ともう1つのクレープの屋台はお店から来てくれている。
まあ、その分値段も少し高いけど。
飲食ブースでラーメンを食べてバド部に行った。
バド部は神チャレンジをしていて例えば、輪っかを通り抜けさせるとか、的に当てるとか。
ガラッと体育館のドアを開けると同じ小学校と中学校出身の大塚惺がこっちに向かって手を振った。
「葵じゃん!当番明日じゃなかったか?」
「そうだよ」
「え、てか、その人誰?葵、彼氏いたのか?」
「いたら悪い?」
「うん」
普通頷くところじゃないと思うんだけど。
体育館中に笑い声が響いた。
「彼女と別れたからって葵に嫉妬してんじゃねえよ!惺!」
他の同級生が笑って惺の肩をベシベシと叩いた。
てか惺、また彼女と別れたんだ。
惺って結構チャラいっていうかすぐ付き合って別れるんだよね。
友達としてはいい奴なんだけどな。彼氏としてはすぐに飽きられるみたい。
「部員同士で結構仲良いんだな。皆名前呼び」
「私はほら、颯いるから。他にも名字被ってる人が多いから基本的に名前呼びなんだよね」
「それでか」
蒼空くんは納得したように頷いた。
今日当番の子にラケットとシャトルをもらった。
「全部成功したらご褒美くれる?」
「いいけど、何欲しいんだ?」
「え~、ここで言うのは恥ずかしい」
「何もらう気なんだよ。」
「蒼空くんとペアルック」
恥ずかしい~!
けど、蒼空くんと2人だけでペアルックしてみたかったんだよね。
蒼空くんの顔を見上げると一瞬驚いたような顔をした後可笑しそうに笑った。
「何言うかと思ったら、ペアルックって」
「笑わないでよ」
「悪い。じゃあ、全部成功したら今度の休みに服買いに行くか」
「うん!」
よし、頑張ろう。
まず1つ目。これは紙で出来た的に当てるだけだ。
けど、その的の位置がコートの端で的は8cm×8cmというミニサイズ。
チャンスは3回。
ゆっくり深呼吸をしてサーブを打った。
シャトルは真っ直ぐ的の方に飛んで無事、的を倒すことが出来た。
「やった!1つ目クリア!」
「すごいな」
「ありがとう」
蒼空くんに褒められちゃった。
2つ目は18m先にある小さいフラフープにシャトルを通す。
一度、イメージトレーニングをしながら素振りをした。
大丈夫。絶対成功する。
シャトルを打つと綺麗な放物線を描いてフラフープを通った。
「やった!2つ目も成功!」
「すげえ。あと1つだな。頑張れ」
「うん」
最後の1つは12m先の紙コップにシャトルを入れなければならない。
けど、倒したらダメだ。
これ部員皆やって、成功したの颯だけなんだよね。
ふぅーと息を吐いてサーブを打った。
シャトルはそのまま紙コップに入った。と見せかけて勢いで紙コップを倒した。
「あ~!」
「葵、あと2回あるよ。頑張って!」
「真夏!いつの間に!」
「さっき来たとこ」
「そっか。応援ありがと」
2回目も外してしまった。
そして、運命の3回目。
大きく深呼吸をして集中して丁寧にサーブを打った。
シャトルはクルクルと回転しながら紙コップの中に入った。
「蒼空くん!見てた!?」
「ああ!すごいな!めちゃくちゃ綺麗に入った」
「私天才かも」
「そうだな」
蒼空くんは笑って私の頭を撫でた。
ヤバ、もうご褒美もらっちゃった。
熱くなった頬を手で冷やして蒼空くんの顔を見上げると蒼空くんは優しく微笑んでいた。
「人前でイチャつかないでくださ~い」
「惺だけには言われたくな~い」
「なんか、葵が他の奴とイチャついてんの見んの嫌なんだよ」
「まあ、確かに気まずいかも。蒼空くん、移動しよ」
「……そうだな」
どうしたんだろう。何か気になってるみたいだけど。
てか、惺にはずっと蒼空くんの話してたから会ったら喜んでくれると思ってたのに。
あ、もしかして付き合ったこと隠してたから拗ねちゃったのかな?
応援してくれてたし、付き合えたから今度お礼にアイスでも奢ってあげよ。
それから、あっという間に文化祭1日目が終わった。
私は前夜祭には出ずに、蒼空くんに家まで歩いて送ってもらった。
「今日1日で、葵がどれだけモテてるか実感した。千崎さんの言ってる意味分かった」
「真夏?なんか言ってた?」
「忘れてるならそれでいい」
蒼空くんは手を振って帰ってしまった。
真夏が言ってた意味?今度訊けばいっか。