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新生活


 大学入試も無事に終えてとうとう卒業が近付いてきた。

蒼空(そら)くんも来年の夏から莉久姉(りくねえ)とレストランを始めるので開店準備を始めて最近は通話もあまりできていない。

寂しいけど、4月からは蒼空くんと一緒に住むし、全然平気。


放課後、(かける)真夏(まなつ)は2人で帰って(はやて)は用事があるらしく別で帰る。

だから、今日は私と(さとる)の2人で帰る。

惺と2人とかいつぶりだろ。


校舎を出ると少し寂しいと感じた。


(あおい)、中学のときみたいに卒業式でギャン泣きすんなよ」

「あれは、違うよ。後輩の寄せ書きが嬉しくて」

「葵、後輩の女子に人気あったもんな」


まあね。カッコいい!って言ってくれるのは嬉しかったけど、話し掛けたらキャー!って騒いで全然会話できなかったのはちょっと寂しかったな。

けど、高校の後輩はあんまり仲良くないと思う。

後輩の彼氏に告白されたし、私、絶対嫌われてる。


「あ、そういえばさ」

「なに?」

「俺、葵のこと好きだった」

「え、………マジ?」

「好きだったっていうか今も好き」


そういえば、蒼空くんが惺を見て葵のこと好きだろとか言ってたけど、蒼空くん鈍感だから気のせいだと思ってた。

てか、蒼空くんに分かってて私が分からなかったって蒼空くん、実は鈍感じゃなくなってたのかな?


「俺、葵のこと好きだけどさ、親友でもあるって思ってるんだよ」

「うん」

「颯と、翔と、真夏と、葵と、俺。5人でいるのが好きだった」

「私も」

「葵に恋愛感情は抱いてても、親友は親友。だから、葵がずっと片想いしてた蒼空さんと付き合って嫉妬したけど本当は嬉しかった」


そっか。

ちゃんと親友だと思ってくれてたんだ。

そっか~。全然気付けなかったな。


「俺、最初は幸せ壊したくないけど、葵のこと奪ってやろうって思ってたけど、葵がゾッコンすぎて即諦めた。だから、絶対別れるなよ」

「うん」

「そうじゃねえと、可愛い彼女できても自慢できねえから」

「うん」


惺に素敵な彼女ができて幸せになってる姿は容易に想像できる。

だって、惺は優しいし、誰にでも気遣えるから。

好きだったなんて言葉から始まる告白も、私が気まずくならないように気を遣ってくれたのだろう。

私の大切な親友は本当に優しいな。


「惺、ありがとう」

「おう」


惺に手を振って家に向かった。

家に入って自分の部屋に行ってビーズクッションにダイブした。


そして、いつの間にか寝落ちしていた。




それから、約1週間が経過してとうとう卒業式当日がやって来た。

学校にはいつもの5人で登校した。

こうやって登校するのも全部最後なんだ。


学校に着いて花飾りを胸ポケットにつけた。

クラスの中には特別仲が良かった人はあまりいないけどやっぱり少し寂しい。


そんな気持ちで卒業式を終えて教室に戻ってきた。

先生の最後の話を聞き終えて少し泣いてしまうと、隣の席に座っていた津川がふっと笑った。


「長谷川って意外と涙もろいんだな」

「そうかも」

「大学も頑張れよ」

「ありがとう」


それからグラウンドに行って真夏と姫花たちと写真を撮った。

そのあと、部活の後輩から色紙をもらってまた真夏を探していると颯と翔と一緒に笹倉先生がやって来た。


「長谷川姉弟の活躍、テレビ越しか会場でかは分からないけど見てるからな。辛いことがあったら連絡してこい。小鳥遊も時々連絡してくるけど、あいつは大体飯の誘いだ。それでもいい。連絡しなくてもいい。まあ、結婚の連絡は待ってる」

「「はい、」」


卒業式っぽい話をされたせいで、その場で号泣してしまった。

笹倉先生も時々ちゃんと先生なんだ。

いつも、教師って言う割には距離近くて友だちっていうには遠い距離感でなんでも相談しやすい感じの先生だったけど、今日は誰よりも信頼できる先生に見える。


泣いていると、不意に後ろから肩を叩かれた。

驚いて振り返ると、ピンクのガーベラを一輪持った蒼空くんが立っていた。

蒼空くんは私の頬に伝った涙を指で拭った。


「大人っぽくなったけど、泣き顔は昔と変わらないな」

「子供っぽいってこと?」

「可愛いってこと」

「なら、いいよ」


蒼空くんは笑ってガーベラをくれた。

花束じゃなくて一輪なのが嬉しい。

花瓶なんてないけど一輪ならコップに水を張ればいいし。

蒼空くんの気遣いが嬉しい。


「卒業おめでとう」

「ありがとう」


それから、お母さんたちのところに行くと真夏のお母さんと真夏も一緒にいた。

翔は真夏のお母さんにお辞儀をして真夏の隣に立った。


「真夏さんとお付き合いさせてもらってます」

「翔!?なんでこのタイミング!?」

「いや、ちょうどいいと思って」


真夏は耳が赤くなっていて、恥ずかしかったのか顔を両手で覆った。

すると、真夏のお母さんが微笑んで頷いた。


「翔くんなら、真夏のこと任せられる。」


すると、お母さんも微笑んだ。


「私は颯と葵に聞いて知ってたんだけどね。言ってくれてありがとう」


翔と真夏はお母さんの言葉を聞いてすぐ私と颯の方を見た。

私は、蒼空くんの後ろに隠れた。

だって、翔のことだからもう自分で言ったと思ってたし。


「真夏、ごめん」

「いいよ~。どうせうちも冬真がお母さんに言ってただろうし」

「確かに」



それから卒業式を終えて、翔と颯と真夏と惺と一緒にご飯を食べに行った。




卒業式から数週間後。

とうとう引っ越しが始まる。

部屋は、隣町にある蒼空くんの叔父さんが所有している2LDKのマンションだ。

空きがあったし、家賃が安く済むからすぐにそこに決めた。


私の部屋からはほとんどの物を捨てるか段ボールに入れるかして、残っているのはもうベッドと少女漫画がたくさん入った本棚だけた。

これは、週に一度帰ってくるときに使うから運ばず置いておく。


「あとは運ぶだけか。葵、車まで自分で運べるのは運べよ」

「うん」


重いものはお父さんと翔と颯に任せて、服が入ってるのやバドの用具などは自分で運んで車にのせた。

うちの車、8人乗りだから結構荷物がのる。

段ボールを全部のせて助手席に座った。


「じゃあ、行くか」

「うん」


お父さんに運転してもらって新居に向かった。

けど、珍しくお父さんが地図を見間違えたのか新居に行くには遠回りな道に行った。


「お父さん、道間違えてる」

「ドライブしてからでもいいだろ?」

「ドライブとか久しぶりじゃん。急にどうしたの?」

「いや、葵が家でるのかって思ったら寂しくて」

「週に一回帰るってば」

「それでも寂しいもんは寂しいんだよ」


お父さんは前だけを見て笑った。

お兄ちゃんが、莉久姉と同棲始めたときは私も結構寂しかったな。

それに、月に一回帰ってくるか帰ってこないのどっちかだし。

ちょっと、お父さんの気持ちが分かるかも。

けど、新居は莉久姉とお兄ちゃんの家はそんなに離れていない。

まあ、莉久姉と蒼空くんの開店準備中のお店の近くなだけだけど。


「それにしても、お父さんが寂しいなんて言うの珍しいね」

「昨日、葵たちが産まれた時の夢を見たんだ」

「産まれたとき?」



 ~~~~~



葵たちが産まれた日、3人とも無事に産まれたことに喜んだ反面、新生児の集中治療室に入っていった葵たちを見て泣いてる七菜波を見るのが辛かった。


「3人とも、ごめん。もっと、大きく産んであげられなくてごめん」

「七菜波、頑張ってくれてありがとうな。安心しろ。滅多に風邪引かない俺の息子と娘だ。小さく産まれたところでどうせ七菜波の身長なんてすぐに抜かすから。」

「分かんないじゃん」

「分かるよ。俺は4人の子供の父親だからな」


七菜波は部屋に帰ってから、身長を伸ばす方法を調べていた。

今さらもう伸びねえよ。と思いながらも一緒に調べた。


それから1ヶ月もしないうちに、3人とも集中治療室から出てきた。

病院の先生にも成長が早いし健康体だと驚かれた。

しかも、退院する頃には3人とも平均身長、体重共に超えていた。


「さすが渉の子供たち。ホントに身長抜かされそうだな」

「そうだな」

「それにしても、湊もだけどなんで全員渉似なの?」

「まあ、大きくなれば七菜波にも似てくるだろ」



 ~~~~~



今年の誕生日はお母さんに感謝を言う日にしよう。

産んでくれてありがとうって。もちろん、お父さんも育ててくれてありがとうって言うつもり。


「それにしても、大きくなったけど、私まだお父さん似って言われるんだけど」

「4人とも笑った顔は七菜波に似て可愛いぞ」

「お兄ちゃんも颯も翔も、別に可愛くない」

「俺にとっては4人とも可愛いんだよ。まあ、七菜波が一番だけど」


お父さんの可愛いはどこか外れてる。

お母さんは娘の私から見ても美人だし、近所でも有名だ。

だけど、寝起きで目が半開きでもお父さんはお母さんを可愛いって言う。

それはちょっと分からない。


それから、マンションに着いてお母さんの車で先回りしていた颯と翔にも手伝ってもらって荷物を運んだ。

蒼空くんは明日、従兄弟さんに手伝ってもらうらしい。


それから2日後、朝からマンションに行って荷解きを始めた。その前に、トイレとお風呂以外のすべての窓にカーテンを着けた。

蒼空くんも一緒に荷解きをした。

颯と翔と真夏と惺も参戦して手伝ってくれた。

自分の部屋は正直面倒だから、とりあえずリビングから片付けることにした。


お昼はお父さんとお母さんがコンビニでおにぎりを買ってきてくれて皆で一緒に食べて午後も荷解きを頑張った。

まあまあ片付いたと思う。とりあえず寝るところだけ確保して颯たちは帰っていった。


「葵、夜ご飯どうする?」

「鉄板焼き」

「じゃあ、ついでに銭湯も行くか」

「うん!」


着替えを持って駐車場に向かった。

鉄板焼きのお店に向かってお好み焼きととん平焼きを食べて近くの銭湯に行ってマンションに戻った。


部屋着に着替えてリビングに行った。

私の部屋のベッドはまだマットレスを敷いてないからリビングに置いてある私の部屋から持ってきたビーズクッションで寝ようと思っていると、蒼空くんもやって来た。


「寝ないのか?」

「マットレス敷いてないから」

「じゃあ、俺の部屋で寝るか?」

「………私、蒼空くんと一緒に寝て何もしない自信ないよ」

「普通逆だろ。まあ、いいから寝るぞ」


蒼空くんは笑ってリビングのドアを開けた。

蒼空くんのあとを追ってリビングの電気を消して蒼空くんの部屋に行った。

ベッド以外も結構片付いていて私の部屋よりも段ボールが少なかった。


「電気、消すか?スタンドライトつけとくか?」

「消してもいいよ。私、蒼空くんと一緒なら暗いの平気だよ」

「そうか」


蒼空くんはベッドに入ってスタンドライトを消した。

てか、蒼空くんのベッドが無駄に広いお陰で隣に寝てもまだ距離がある。

私は手を伸ばして蒼空くんの手を握った。


「おやすみ、蒼空くん」

「………ああ。おやすみ、葵」


手を握ったまま目を閉じた。

ああ、幸せだな。


翌朝、目を覚ますとベッドの横に座ってこっちを見ている蒼空くんと目が合った。

驚いて飛び起きると、蒼空くんは可笑しそうに笑っていた。

そして、おはようと笑って私の額にキスをした。

え、何これ。同棲最高すぎるんだけど。


「朝ごはん、買ってきたけど何がいい?」

「ツナサンドある?」

「うん。葵はこれだろうなって思った」

「さすが蒼空くん!ありがとう」


着替えて朝ごはんを食べてまた荷解きを始めた。


1ヶ月後、私は大学に入学してバド部に入った。

そして颯とダブルスを組んでいる。

翔と真夏も同じ大学で惺は法学部のある大学に進んだ。

両親が弁護士の惺は将来弁護士になっているのかもしれない。


バド部の練習を終えて家に帰ると、珍しく蒼空くんが私よりも先に帰ってきていた。

蒼空くんはソファに座ったまま寝ていたから、起こさないようにブランケットをかけて先にお風呂に入ることにした。

4月だけど夜はちょっと冷えるからね。


お風呂からあがってきても蒼空くんはまだ寝ていた。

疲れてるんだろうな。内装とかメニューとか色々考えることがあるんだろうし。

レストランの開業準備をしながらパーティーで臨時のお仕事したりしてるらしいし。


ベッドまで運んであげられたらいいんだけど、さすがに成人男性を運べるほどの力はないからな。蹴り飛ばす脚力ならあると思うけど。

しばらく考えていると、蒼空くんが瞼を開けた。


「あ、起きた」


蒼空くんは私を見るなり急に抱きしめた。

珍しく蒼空くんから甘えてきて驚いた。


「蒼空くん、なんかあったの?」

「まともなスタッフがいなかった」

「え、」

「俺のことが好きだとか言って喧嘩始めたり、莉久のこと口説いて準備手伝わなかったり。俺も莉久も相手がいるって言ったら全員でやめますって言い出したり」

「え、マジ?」


そんなこと、普通ある?

ワガママが集まりすぎでしょ。

勝手に好きになったからやめるとか、それで蒼空くんと莉久姉に迷惑かけてんの分かってないのかな?


「そんな人たちと一緒に仕事するより、莉久姉と2人の方が絶対いいよ」

「そうだよな、」

「うん。そうだよ」


蒼空くんは頷いて莉久姉に電話をかけていた。


一件落着したみたいで蒼空くんもお風呂に入って一緒にご飯を食べた。

食べ終わってソファに座って本を読んでいる蒼空くんの隣に座った。


「あのさ、」

「ん?」

「私、蒼空くんの役に立ってる?」

「なんだよ急に」


蒼空くんは驚いたように本に栞を挟んで閉じた。

私は気にせず続けて言った。


「だって、私家事とかなんも手伝えてないし」

「洗濯物片付けたり、買い物手伝ってくれるだろ?」

「蒼空くんはそれ以外もやってるじゃん」

「俺のは趣味っていうか癖みたいなものだから、葵が気にすることじゃない」


そんなこと言われてもずっと続けられると申し訳なくなる。

部屋の掃除とかは各自だから自分でするけど、そんなの蒼空くんの役に立ってるわけじゃないし。

私は蒼空くんと一緒に住めてるだけで幸せだし、その上美味しいご飯作ってくれたりして得しかないけど、蒼空くんからしたらなんも得ないじゃん。


「葵と一緒にいたいから一緒に住んでるんじゃダメなのか?」

「けど、役には立ってないじゃん」

「そんなことない。俺が素直に甘えられるのは葵だけだから、今日みたいなことがあっても葵が笑って隣にいるだけで気が楽になる」

「………まあ、それなら、いいんだけどさ、」


私は照れてすぐに顔を手で覆った。

蒼空くんはホッとしたのかテレビで音楽番組をつけた。


いつも、あとからめんどくさいこと訊いたなって後悔しちゃうんだよね。

なんでもっと早く気付けないんだろ。


「蒼空くん、変なこと訊いてごめん」


私が謝ると、蒼空くんは私の後ろにまわってソファに座ったままバックハグをした。

私を励ますにはこれが一番だって、蒼空くんは分かってるんだろうな。

全部、お見通しなんだろうな。

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