3年生
3学期が終わってあっという間に4月、新学期になった。とうとう高校3年生だ。
ああ、クラス替えが嫌だな。
少し憂鬱な気分で真夏と颯と翔と惺と学校に向かった。
「クラス替え~、嫌~だな」
「その割には歌ってるじゃん」
「嫌な気分を吹き飛ばしてるの」
真夏の腕を組んで校門をくぐった。
ああ、嫌な気しかしない。
私って自分で言うけど結構勘がいい方なんだよね。特に嫌な勘は。
靴を持って、恐る恐る掲示板を見た。
私は3年3組だ。次に千崎を探した。けど、真夏の名字は無く、高岩と津川が順に並んでいた。
せめて、惺でもと思って大塚を探してみた。
あったと思ったら、違う大塚さんだ。
ちなみに、颯は特進なのでまた1組だけど、真夏、翔、惺は皆4組だ。
姫花たちもクラスはバラバラになってしまった。
「真夏~!離れ離れだね~」
「まあ、遊びに行くし。いうて隣だから合同とかあったら一緒になるし」
「そうだね。」
真夏は笑って私の腕を組んだ。
3年生か~。まだ実感湧かないな~。
教室に行って席を確認して荷物を置いた。
なんかめっちゃ見られてるのは気のせいってことにしておこう。
体育館シューズ出しといた方がいいよね?
あ~、暇。今日は本もなにも持ってきてないから話し相手いないのホント暇。
チャイムが鳴って笹倉先生が教室に入ってきた。
私は知ってる。こうして担任発表の前に教室に入ってくる先生は十中八九このクラスの担任じゃないことを。
入学式だけは担任の先生がいるけど。
「じゃあ、始業式始まるから出席番号順に並んで体育館に移動してください」
体育館シューズに履き替えて、体育館に移動した。
その時、後ろの子に靴を踏まれたけどわざとじゃないだろうから特に気にしないようにした。まあ、謝ってくれたら全く気にしなかったけど。気付いてないなら仕方ないよね。
体育館に全員並んで、始業式が始まった。
校長先生のお話を聞いて、担任発表を聞いて教室に戻った。
私たちの担任の先生は今年赴任してきたばかりの数学担当の若いイケメンの先生だ。岸野先生と言うらしい。
「軽く自己紹介をお願いします」
出席番号1番から順番に自己紹介を始めた。
次は私の番だ。みんな、名前と今年の目標を言っている。
「長谷川葵です。今年の目標はインターハイでシングルスとダブルスの両方で優勝することです。1年間よろしくお願いします」
シングルスではまだ優勝したことないから今年は絶対に優勝する。
それは私と颯の共通の目標でもある。
ホームルームが終わり、帰りの準備をしていると真夏がやって来た。
鞄を持って廊下に出ると颯と翔と惺もいた。
3人とも岸野先生を覗き見ていた。
「そういえば、真夏の担任って笹倉先生なんだよね?3年連続じゃん」
「そうなの。だったら葵と同じクラスにしてくれって感じだよね」
「うん。ホントそう」
颯たちを置いて真夏と2人で昇降口に向かった。
靴を履き替えていると3人が走ってやって来た。
好奇心旺盛な子供みたい。颯は翔と惺に掴まれてただけだけど。
5人で途中まで帰って、惺と真夏とはコンビニ付近の公園で分かれた。
家に帰って、お昼ごはんを食べてから庭で素振りをした。
今日は体育館使えないから自主練も出来ないんだよね。
颯と翔もそれぞれで自主練をしていた。
なんとなく2人より早く練習を終わりたくなくてジョギングに行こうと思うと颯が先にランニングシューズに履き替えていた。
私と翔も急いで靴を履き替えて、家の鍵を閉めてジョギングに向かった。
しばらく走って、階段ダッシュをしたところにある公園で休憩をした。
「ヤバい、喉渇いた~!」
「私も~!スマホカバーに50円玉だけある」
「俺ポケットに40円入ってる。颯は?」
「60円」
てことで、自販機で130円のスポーツドリンクを買った。
10円多く出したのはじゃんけんで負けた私だ。
だから1番最初に飲んで次に翔に渡した。
「あ”~!生き返る~!」
「翔、ビール飲むときのお父さんみたい」
「やめろ。44歳のおじさんと一緒にすんな」
「誕生日来てないからまだ43だろ?」
「変わんねえし」
翔が一気飲みをする前にスポーツドリンクの入ったペットボトルを取り上げて颯に渡した。
颯は残りを飲み干して自販機の隣のゴミ箱に捨てた。
「帰るか」
「一番早かった人が先にシャワー浴びるってことで」
「絶対勝つ」
階段は2列しかないから階段をおりたとこからスタートにした。
もちろん、私の圧勝で1番にシャワーを浴びた。
去年までは夕方にはお兄ちゃんが帰ってきて一緒にゲームしたりしてたけど、お兄ちゃんは短期大学を卒業してお祖父ちゃんの経営しているスポーツ施設の会社で働き始めて、彼女である莉久姉と同棲を始めた。
翌日は入学式で次に学校に行ったのはその翌日だ。
今日は真夏と待ち合わせて2人で学校に行く。
「おはよ!あ、あと冬真も入学したんでしょ?姉弟で登校しなくていいの?」
「嫌だよ。弟と一緒に学校行くより葵と行く方がいいし」
「ありがと」
学校に行ってそれぞれ教室に行った。
去年みたいにおはようと言って教室に入ってみたけど誰も返してくれなかった。
少し寂しいなと思いつつ、中1の頃を思い出して少し懐かしくなった。
席について鞄から教科書を取り出してロッカーに片付けた。
これからまた中1に逆戻りか~。あ、けどみんな中1と同じ思考回路じゃないだろうからそんな子供っぽいことはないか。
嫌がらせについての心配がないならまだ少しはマシかな。
そう思っていた。3限目のホームルームまでは。
ホームルームではみんなが嫌がる委員会決めが始まった。
そして、最初は学級委員から決める。
みんなが嫌々言って私はそれを防寒していた。
そんな中、1人の女子生徒が手を挙げた。さっきまで嫌々言ってたのに気が変わったのかな?なんて思っているとそんなことはなかった。
「長谷川さんを推薦します。やっぱクラスは大きい目標を持った自信のある人に任せたいですから」
え~、めんどくさ。
てか、あんたの方が自信あるでしょ。私がクラスの女王様って顔に書いてあるし。
まあ、断ると思って言ってるんだろうな。みんなが嫌がるのを私が代わりにしてあげるとでも思ってんのかな?
「………先生、学級委員やります」
「本当にいいんですか?」
「はい。」
「では、他にやりたい人がいないようなので女子は長谷川さんに任せます。では次は男子の学級委員を、」
先生がそこまで言うと隣の席に座っていた男子が手を挙げた。
結構人気があるらしいけど、なんて名前だっけ?
普通、漫画だとここで恋が生まれるんだろうけど、昨日の自己紹介をまともに聞いてない上に素敵すぎる彼氏持ちの私はヒロインの立ち位置にはならない。
私は蒼空くんの前でだけヒロインだからね。
「長谷川さん、津川くん。ここから、司会進行をよろしくお願いします」
「「はい」」
そうだった。津川くんだ。真夏と入れ替わってほしいなって思ってた人だ。
なのに忘れてたとか申し訳ないなと思いつつ、教卓の前に立った。
「体育委員やってくれる人いませんか?」
私が訊いてみたら案の定、大半の女子が不満気な顔をした。
内心ショックを受けてる自分に驚いた。
嫌われてる、もしくは好かれていない。そんなの知ってたし慣れてたはずなのに。
「あ!俺!体育委員やる!」
1年のときに翔と同じクラスだった藤宮が立ち上がって手を挙げた。
あまりにも勢い良く立ち上がったせいで椅子が倒れて思わず笑ってしまった。
「あ、ごめん。そんなに体育委員したいって人見たことないから。」
私が笑いを堪えてチョークを持つと、代わりに津川くんが話をまとめてくれた。
「じゃあ、他に誰もいないみたいなので男子は藤宮で決定でいいですか?」
「「異議なし」」
黒板に藤宮の名前を書いて次に決まった女子の名前を書いた。
委員会を決め終えて次の授業が始まった。
それからしばらくして4月の後半になった。
クラスの人に無視されるのは少し慣れてきて普通に過ごせるようになってきた。
お昼休みに学級委員の集まりに行ったときに、後輩の子達が話してるのが聞こえてきた。
『長谷川先輩と津川先輩ってお似合いだよね』
『確かに。美男美女だし』
『付き合ってるんじゃない?』
『絶対そうだよね』
お昼休みが終わって津川と一緒に教室に戻った。
「津川、変な噂流れてるけど否定しなくていいの?」
「長谷川こそ」
「誰になんて言われようと、私は蒼空くん一筋だから」
「蒼空くんって長谷川の好きな人?」
「うん。イタリアンレストランの料理人で幼馴染み。だから、普段なら噂流れるくらい全然いいんだけど」
今回は、ちょーっとまずいかも。
津川って思ってたより人気あるみたいだし、女子からの嫉妬で嫌がらせが起こらないか心配だな。
でも勘違いだって言ったら言ったで嘘だ!って逆ギレされたこともあったし、何が正解か分からない。
「俺と勘違いされるのが嫌ってことか?」
「誰が相手だろうとコソコソ言われるのは嫌だよ」
「それもそうだな」
まあ、危害加えられたらそのとき考えよう。
しばらくは大丈夫だろうなんて思ってたら全然違った。
それは翌朝から始まった。
靴箱に手紙が置かれていた。手紙を読むと『放課後、体育館裏に来てください。話があります』と書かれていてゴミ箱に捨ててから教室に行った。
体育館裏か。
薄暗いから1人で行くのはちょっと怖いんだよね。蒼空くんとか誰かがいたら別だけど。
だからといって、無視したら後々面倒だろうし。
色々考えていると放課後になった。
とりあえず、颯のクラスに行った。
「颯、ちょっと呼ばれてるんだけど場所が場所だから待機しててくれない?」
「翔に頼めよ」
「あ~、それは無理。翔はまだ薄暗いところに1人で行くのが怖いって蒼空くんにチクりそうだから」
「はぁ。ま、それもそうだな」
正直、蒼空くんがいれば平気だし、蒼空くんにこれ以上心配を掛けたくないから言ってない。
言う必要がないと思ったから。トラウマってほどでもない。
本当にお化け屋敷に行くのと同じ感覚くらい。
家なら部屋を真っ暗にして寝るのだって平気。
ただ、わざわざお化け屋敷に行きたくないから颯に来てもらうだけだ。
「じゃあ、その辺で待ってて。何があっても出てこなくていいから」
「ああ」
体育館裏に来ると、すでに女子生徒数名がいた。
私が怖いのはあくまでも場所であって、女子に責められるのを颯に止めてほしいわけじゃない。
むしろ、男子が入ったらややこしくなるだけだ。
「話ってなに?」
「あの、長谷川先輩と津川先輩って付き合ってるんですか?」
「付き合ってない」
「けど、仲良すぎないですか?」
「2週間前に初めて話したんだよ。仲良いわけないじゃん」
「じゃあ、好きじゃないんですか?」
「うん。私は蒼空くん一筋だから。話は終わり?」
女子生徒たちは顔を見合わせて頷いた。
よかった。あっさり済んで。
女子生徒たちに背を向けて颯のいるところに戻った。
これで解決したと思ってたのに、次の日の朝、上靴の上にGのおもちゃが乗っていた。
真面目な私はちゃんと落としものとして先生に届けた。
もちろん、虫が苦手じゃないと知っている先生に。
「こんな物、どこにあったの?」
「なんか、普通に落ちてました」
「そっか。ありがとう。葵ちゃん」
そう言って優しく微笑んだのは天宮亮介先生だ。
私の幼馴染みのゆずねえの旦那さんである亮介くんはうちの高校の教師で双子の兄妹のお父さんだ。
度々、私たち三つ子の両親であるお父さんとお母さんに子育てのアドバイスをもらいに来ている。
それからしばらく地味な嫌がらせが続いてついに女子たちが私のクラスにやって来て私と蒼空くんが釣り合わないから近付くなと言われた。
なんで蒼空くんを知っているのか分からないけどムカついたから言い返してしまった。
「釣り合わないのなんて知ってる。それでも好き同士で付き合ってんだからいいでしょ?文句ある?」
「………」
女子たちは無言で帰っていった。
そういえば、なんで蒼空くんのこと知ってたんだろ?
まあ、納得して帰ってくれたならそれでいっか。
翌日から、ゴールデンウィークに入った。
蒼空くんはゴールデンウィーク中はお仕事で終わってから2日間の連休で実家に帰ってくるらしい。
ゴールデンウィーク中はずっと部活で久しぶりに学校に行った。
そして、事件が起こった。
ゴールデンウィーク開け初めての登校日の休み時間。
後輩であろう男子が教室に入ってきて、私の席の前に立って胸ぐらを掴んだ。
「長谷川先輩、俺の彼女って言いふらすのやめてもらえません?」
誰?この人。誰か分からないけど、怖い。
1月の出来事を思い出して、体が強ばった。
騒ぎを聞きつけたのか隣のクラスから翔がやって来た。
そして、先生と一緒に颯もやって来た。
私は男子生徒の手を振りほどいて椅子から滑り落ちるように屈んだ。
小刻みに震える手で鞄からスマホを取り出して蒼空くんに電話を掛けた。
『葵?どうしたんだ?今、学校だろ?』
「………あ、え、ごめん。間違えた」
『声震えてる。なんで?』
「震えてない。ホントに間違えただけだから」
私が電話を切ろうとすると颯がスマホを奪い取って津川に聴きながら蒼空くんに事情を話した。
そして、電話が切れて荷物を(翔が)持って生徒指導室に行った。
しばらくすると、お母さんと一緒に蒼空くんがやって来た。
「迷惑掛けたくなかった。ごめん。電話掛けたりして」
「迷惑じゃねえよ」
蒼空くんの胸にコツンと頭を当てた。
こうしてればすぐに震えが止まるのはなんでだろう。
怖くない。むしろ、最強になれた気がする。
「もう、大丈夫か?」
「うん」
蒼空くんは首を傾げて私の耳元に口を近付けた。
『キスしなくていいのか?』
「は、なに言って」
「先に言ったの葵だろ?」
「そうだけど違う!今はいい!」
私が首を横に振ると、蒼空くんは今は、か。と言って私の顔を見下ろした。
熱くなった顔を背けてその場に座り込んだ。
それと同時に私の鞄が倒れて、嫌がらせでもらった手紙や虫やへびのおもちゃが出てきた。
今日は多かったから駅のゴミ箱に捨てようと思ってたんだけど、運が悪かったな。
「葵、ずっと嫌がらせされてたのか?」
「………なんのことだか」
「もう隠せないだろ。誰にされた?」
「さあ?」
「蒼空兄、俺何人かは分かるぞ」
颯がスマホを取り出して動画を再生した。
蒼空くんと一緒にスマホを覗き込むと、クラスに乗り込んできた女子たちが私に蒼空くんと釣り合わないから近付くな!と言っているところがバッチリ撮られていた。
「なんでこの子達が蒼空くんのこと知ってるんだろ?とは思ったけどムカついて訊くの忘れてたんだよね。違うそらくんだったとは」
「それで、あいつが胸ぐら掴んでキレてきたのか?」
蒼空くんは男子生徒の方を思いっきり睨み付けた。
男子生徒は怯えたような表情をすると、蒼空くんが男子生徒の方に行こうとした。
これ以上揉め事を起こすのはダメだと思って、蒼空くんの手を握った。
それでもまだ男子生徒の方を睨み付けていた。
すると、颯が別の動画を蒼空くんに見せていた。
津川のファンに呼び出されたときの動画だった。
『私は蒼空くん一筋だから』
そう聞こえた瞬間、先生もその男子生徒もお母さんも蒼空くんも皆私の方を見た。
言っとくけど、後輩くん、あんたじゃないから。
「葵は本当に蒼空が好きね。家でもずっと蒼空の話ばっか、」
「お母さん、余計なこと言わないで」
「葵、なんでその場に颯がいたんだ?もしかして、まだ怖いのか?」
蒼空くんは心配そうな目で私の顔を見下ろした。
お母さんには薄暗いところは1人だとまだ苦手って伝えてるから驚いてないけど。よし、ここは一人芝居打とう。
「部活の荷物を預かってもらってただけだよ。ね?」
「ああ」
「嘘だな。まあ、いい。帰ってから聞く」
一瞬でバレた。なんで?
疑問に思いつつ、男子生徒の保護者が来て話し合いが始まった。
蒼空くんも関係者なので同席した。
そして、嫌がらせの件も颯の動画と捨て忘れたおもちゃ&手紙でバレてしまった。
そして、私が胸ぐらを掴まれたときの異常な怯えようの元になる1月の出来事を簡単に説明した。らしい。
その間、フラッシュバッグしないようにと、蒼空くんと私と颯と翔が教室から出された上に蒼空くんに耳を塞がれていて全く音が聞こえなかったから、らしいとしか言えない。
教室に戻ると、男子生徒とその保護者であるお兄さんに土下座をされた。
「この度は本当に申し訳ございません。二度としません」
「このような非礼を行ってしたのも兄である私が監督不行き届きだったため、私の責任です。本当に申し訳ございません。」
兄弟揃って土下座されるのはなんだかよくない気分だ。
男子生徒はまだしも、その保護者にまでさせてしまうのは気が引ける。
だって、高校生なんてもう自分で色々分かるじゃん。
「大丈夫なので、顔を上げてください。ぶっちゃけ生徒指導室ってあんまり綺麗じゃないですから服が汚れます」
2人は立ち上がってもう一度私に頭を下げた。
まあ、これだけ反省してれば男子生徒は大丈夫だろう。
さっき言ってた二度と同じことをしないっていうのは本当だろう。
「君、一度目が私で良かったね。私は、頼りない弟たちと、頼れるお母さんと彼氏がすぐ来てくれる恵まれた環境にいる。それに強いし」
「はい、」
「私ある程度の嫌がらせには慣れてるの。だから、自分と勘違いされたせいで酷い目に遭わされたって罪悪感は感じなくていいよ」
「はい。ありがとう、ございます」
まあ、あんなに罪悪感で溢れた顔され続けるのはこっちがキツいし。
せっかくのイケメンなんだからもったいないよね。
男子生徒はありがとうございますともう一度続けて、涙を流した。
根は本当にいい子なんだろうな。
ちょっと怒りやすいだけなんだろうな。
「そらくん」
「どうした?」
「あ、ごめん。蒼空くんじゃなくて、君。結局、名前聞いてないから」
「前田大空です。あだ名がそらです」
「そっか。じゃあね、大空」
私が荷物を持って帰ろうとドアを開けるお蒼空くんとお母さんに腕を掴まれた。
「せっかくいい感じの別れをしようとしたのに!邪魔しないでよ!」
「何帰ろうとしてるんだ」
「葵はまだ話が終わってないでしょ?」
「カッコつけたのに台無しじゃん!」
私が頬を膨らますと、大空は茶番を見てフッと吹き出した。
お兄さんも颯も翔もお母さんも先生も蒼空くんも皆笑いだしたのが可笑しくて私も笑ってしまった。
でも結局、大空たちだけが先に帰って話が続いた。
翔は先生と主に蒼空くんに固く口止めをされて教室に戻されたけど颯は目撃者で情報提供者でもあるから話に残った。
「長谷川、なんで隠してたんだ?」
「大事にしたくなかったので。てか、なんで笹倉先生が訊くんですか?私の担任は岸野先生ですけど」
「お前、岸野先生に素直に話すのか?出会ったばっかの人に全く心を開かない性格なのは十分分かってる」
心の中で舌打ちをして顔を背けると蒼空くんと目が合った。
なんで言わないんだよとでも言いたげな顔をしていて逆を見ると笑顔で微笑んだお母さんがいた。けど、オーラは激おこだ。
「はい、話します。こうやって話すのがめんどくさいなって思ったから言わなかったんです」
「だろうなとは思った。けど、学校の問題になるんだ。長谷川が慣れてる慣れてないの問題じゃない」
「はい。これからは気を付けます」
「これからがある前提で話すのはやめてくれないか?」
「あ、すみません」
とりあえず、動画に映っていた人たちに手紙やおもちゃに心当たりがないか聞くことになった。
そして、やっと帰れることになった。
颯は一緒に帰る気満々でお母さんも今日くらいはと許した。
翔だけは通常通り授業を受けている。
「蒼空兄、帰ったらゲームしようぜ」
「その前に、葵と話があるから終わったら3人でするか」
「ああ」
忘れてたと思ってたのにな。覚えてたか~。
家に着くと、蒼空くんが私の部屋にやって来た。
まだちょっと薄暗いところが怖いって隠してたの怒られるのかな?
「悪い、映画誘ったりして。断りづらかったよな。葵の行きたいところに変えるからリクエストあるなら言って」
「映画は全然平気。まあ、1人だったら分かんないけど蒼空くんいたら平気だから黙ってたんだよ。」
「無理してないか?」
「してない」
蒼空くんはホッとしたように笑って私のことを抱きしめた。
私はそのまま背伸びをして蒼空くんにキスをした。
私から蒼空くんの口にキスをしたのはこれが初めてだ。
だから、こんなに照れてる蒼空くんを見るのも今日が初めて。
「颯待ってるし、リビング行こ」
「顔赤いの治ってる?」
「大丈夫」
「よかった」
それから、夕方までゲームをしたりトランプやジェンガをして遊んだ。
4時頃、ガチャッと玄関のドアが開く音がしてすぐにリビングのドアが開いた。
「俺も蒼空兄と遊ぶ!」
「好きにすれば?あ、蒼空くん、気を付けないと倒れるよ」
蒼空くんは難しい顔をしてそおっとジェンガの木を引いた。
なんとかバランスを崩さなかったけど、まだ置いてないから置いて崩れたら蒼空くんの負けだ。
私も颯も一敗ずつしてるからなんとしても蒼空くんを負かしたい。
私は上目遣いで蒼空くんの顔を見つめた。
蒼空くんは気にせず木を置こうとした。
「好きだよ」
そう言った途端、ジェンガが崩れた。
蒼空くんは驚いた様子で私の顔を見た。
「ジェンガが」
そう言うと、蒼空くんは少し拗ねた顔をしてジェンガを組み立て直した。
ジェンガの必勝法分かっちゃった。まあ、蒼空くんに対してだけだけど。
蒼空くんはなんだ、ジェンガかと呟いていた。
本当に可愛すぎるんだけど。
私は思わず小さく呟いてしまった。
「蒼空くんのことは大好きだよ」
そして、またジェンガが崩れるのは想像通りだった。




