叔父さんの結婚式
※暴力表現があります。
※苦手な人はここで引き返してください
年末年始は蒼空くんたちが帰ってきて、皆で年越しをした。
蒼空くんに渡したハンドマッサージのチケットはちゃんと使ってくれたけど、ついでにと莉久姉と咲久姉にもすると大好評でお土産のクッキーを少し多く貰った。
そして、お兄ちゃんと莉久姉の成人式が終わって約3週間が経った今日はお母さんの弟である綾瀬渚の結婚式と披露宴に出席する。
ちなみに、お母さんの13歳下なのでまだ30歳だ。
対面して会うの3ヶ月ぶりくらいだけど、ゲーム内ではしょっちゅう会うぐらい仲が良い。
まあ、お父さんと同じゲーム会社で働いてるからお父さんはほぼ毎日会ってるらしいけど。
結婚式場について親戚側の席に座った。
式が終わって披露宴会場に向かった。
スピーチやお話が終わって食事がスタートすると、新婦さんは友達とお喋りしに行って新郎である渚くんは私たちの席にやって来た。
「渚くん、結婚おめでとう!」
「おう。ありがとう!」
「ねえ、奥さんとどこで知り合ったの?」
「友達ん家遊びに行ったとき。俺の親友の妹なんだよ」
「そうなんだ~。何歳ぐらいのとき?」
「俺が21だったから、向こうが17か。4歳下だからな」
渚くんは、お兄ちゃんと颯と翔に質問責めに遭ってる。
私は心の底で少しホッとしていた。
気にしないって決めてたけどやっぱり年の差がまだ、自分の中では気にしていた。
けど、やっぱり大人になれば全然気にせずに済むんだって実感が沸いた。
「葵?急に黙ってどうした?」
「いや、」
「あれだろ?4歳差を気にする必要ねえんだなって思ったんだろ?」
私の言葉を遮って、渚くんの問いに答えたのは颯だ。
てか、あえて口に出してないんだから分かったからって口に出さないでくればいいのに。
「4歳差がどうしたんだ?」
「葵の彼氏が4歳年上の幼馴染みなんだよ」
「へ~、よく義兄さんが許したな」
「蒼空兄は信頼できるからな!」
「なんで翔が得意気なのよ」
許可貰ったのだって条件付きだし。まあ、颯と翔とお兄ちゃんは知らないだろうけど。
そういえばその条件蒼空くんから言ったって言ってたけど、どうせお父さんが煽ったんだろうな。
「私、おかわり取ってくる」
「あ、俺も行こうっと」
お兄ちゃんもお皿を持って立ち上がった。
ちなみに、6月生まれのお兄ちゃんはすでにお酒を飲んだことがある。
けれど、なぜかすごく弱い。お父さんもお母さんも結構飲むのに。
お父さん曰く、お祖父ちゃんがお酒にすごく弱かったからその遺伝かもなということだ。
激弱遺伝子を継いでしまい、すぐに酔って寝てしまうため、お兄ちゃんは外でお酒を飲むことを禁止されている。
料理をお皿によそっていると新婦さんがこっちにやって来た。
確か名前は、胡桃さんだ。
一重で鼻が低めでモテそうな美人って感じじゃないけど、ホワッとかフワッて感じの擬音が似合いそうな人だな。
「初めまして。綾瀬胡桃です」
「初めまして。綾瀬渚の甥の長谷川湊」
「妹の葵です」
それにしても、さっき渚くんが来たときに一緒に挨拶に来てくれればお母さんたちにも挨拶出来たのに。
「失礼ですが、何歳ですか?」
「俺は二十歳です」
「私は17歳の高校2年です」
「渚くんの言っていた通り姉弟くらいの年の差なんですね」
胡桃さんはじっとこっちを見てきた。
こんなこと、考えたくもないけどもしかしてお兄ちゃんの見た目が気に入ったのかな?
いや、でも、さすがに結婚式で他の人を好きになったりはしないよね?
「あ、引き留めてしまってごめんなさい。葵さん、披露宴のあと少しいいですか?」
「え、あ、はい」
胡桃さんはニコッと笑って友達の元に戻って行った。
あれ?お兄ちゃんじゃなくて私が気に入られた?
でもなんか、ちょっと嫌な予感がするな。
「気のせいかな」
席に戻ってまたお喋りをした。
披露宴が終わると、胡桃さんからの伝言で階段の裏に来てと言われた。
行ってみると人気が全くない。
そもそも入っていいのかも分からない。
昼なのに、光が遮られて少し暗い。
「胡桃さん?どこですか?」
キョロキョロと見渡しても胡桃さんが来る気配がない。
ここの階段の後ろじゃないのかな?
お父さんたちのところに戻ろうと思って階段の裏から出ると、スーツを着た男性が立っていた。
「あの、胡桃さん、新婦さん見てませんか?」
「胡桃?あ~、お前か。ちょうどサンドバッグ探してたんだよ」
「は………?」
男は笑って私の腕を掴んできた。
掴まれた方の腕をひねりあげる前に、壁に押し付けられた。
「やめて!」
男の頭に頭突きをすると怒らせてしまったのか胸ぐらを掴まれて睨み付けられた。
ヤバい、殴られる。
「やめて!助けて!蒼空くん!」
泣きながら叫ぶと、足音が聞こえてきた。
この男は酔っ払って聞こえていないのかお構いなしに拳を振りかざした。
誰か分からないけど早くここに来て!
そう願った瞬間足音が止まった。
同時に男が引き剥がされた。
目を開けると蒼空くんが男の腕を掴んで何かを叫んでいた。
私は、蒼空くんが来てくれて急にホッとしたのと、さっきまでが怖すぎたのとで腰が抜けて、その場で大泣きしてしまった。
蒼空くんは男のネクタイを取って両腕をネクタイで縛ってから私の方に来た。
「立てないのか?」
私が頷くと蒼空くんは少し私に近付いた。
「俺も、怖いよな?七菜波さん呼ぶか?」
私は首を横に振って蒼空くんの服の袖を掴んだ。
蒼空くんは怖くないし、蒼空くんと離れたくない。
蒼空くんはゆっくり私に近付いて抱きしめてくれた。
私は、蒼空くんを抱き返して声を殺して泣いた。
「とりあえず、移動しようか。ここにはいたくないだろ?」
蒼空くんはスマホで誰かに電話をして私に上着を掛けてを抱き抱えた。
しばらくすると、お父さんが走ってきたようだ。
蒼空くんの胸に顔を埋めて泣いていたから視界がはっきりしてないけどお父さんだから分かる。
「おい、何があったんだ?」
「渉くん、警察呼んで。あと、長野胡桃って人も」
「胡桃って渚の嫁の?」
「こいつが言ってた。長野胡桃に言われたって。今は酔っ払って寝てるけど」
お父さんはすぐに警察に電話をしてくれて転がっていた男に殴りかかりそうになっていたところを後から走ってきた渚くんとお兄ちゃんに止められていた。
それから、新婦の控え室にお母さんたちと胡桃さんと男と警察が集まった。
私は事情を聞かれたけど、震えているせいか上手く話せなくて、蒼空くんが私から聞き取った内容と見た内容を合わせて警察の人に話してくれた。
話しながら、蒼空くんがだんだん怒っていくのが分かった。
私を抱きしめる力がだんだん強くなっていった。
私はまだ震えが止まらなくて、蒼空くんはずっと右手を握ってくれている。
「葵、せっかく来てくれたのに、怖い思いさせてごめん」
「渚く、の、せいじゃ、」
「渚くん!私の前でその女と仲良くしないでよ!だから痛い目に合わせてやろうと思ってたのに、結局顔じゃん!私より可愛い子の近くにいかないでよ!」
胡桃さんが叫んだことで、周りが静まりかえった。
そして、その沈黙は蒼空くんが壊した。
「高校生を、まだ17歳の葵を怖がらせて面白いか!?怖くて外に出られなくなったり、普通に学校で過ごせなくなったらどう責任取るんだよ!お前のくだらねえ嫉妬に他人を巻き込むな!葵を怖がらせてんじゃねえよ!」
蒼空くんはそう叫ぶと、力強く私を抱きしめた。
やっと止まった涙がまた溢れてきた。
こんな状況なのに、怖いだけじゃなくて、蒼空くんが自分のために怒ってくれるのが嬉しいなんて思っていた。
私、案外タフだな。蒼空くんがすぐに駆けつけてくれたのもあるだろうけどこんなことを考えられる余裕があるなんて結構強いのかもしれない。
胡桃さんと男は警察に連れていかれた。
しばらくするともう、震えは止まった。蒼空くんはそれに気付くとさらにギュッと抱きしめてくれた。しかも泣いてる?
周りは何があったのかと私たちの方を見てるけど、蒼空くんは全然気にしていないようだ。
「葵、おでこ赤くなってる。殴られたのか?」
「あ、これは、私が頭突きしたから」
石頭でよかった。
たんこぶは出来てない。
蒼空くんは罪悪感たっぷりの顔で私を見つめていた。
「あ、髪の毛ボサボサで恥ずかしいな。蒼空くんの前ではずっと可愛くいるって決めてたんだけどな」
「ボサボサでも、可愛いよ。葵は世界一可愛い。だからってあいつら、」
蒼空くんはそこまで言うとあっと口を手で塞いですごく申し訳なさそうに謝った。
私は蒼空くんのことを抱きしめて首を横に振った。
「大丈夫だからそんな顔しないでよ」
「強がるな」
「あはは、バレた?」
私が笑うと、蒼空くんはすごく痛そうな顔をした。
私は蒼空くんの胸にコツンッと額を当てた。
「………怖かった。今も怖い。けど、蒼空くんに抱きしめられてたとき、すごく安心した。これは本当。」
「そうか」
「あと、胸ぐら掴んできたのはウザいからトイレに顔突っ込んでやりたい。」
あ、ヤバ。本音が。
引かれたかもと思って慌てて蒼空くんの顔を見ると笑っていた。
「そうだな。毎朝小指を机の足でぶつけてほしい」
「怪我って言うには地味だけど痛いよね。なんでここに机あるの!?って思う」
「分かる。この前司がぶつけて発狂してた」
「この時期は特に痛いから仕方ないよ」
蒼空くんはさっきの痛々しい表情が消えて楽しそうに笑っていた。
私、蒼空くんの笑った顔が大好きなんだよね。
だから、今の蒼空くんは本当に大好き。
「あ、そういえばなんで蒼空くんいるの?」
「仕事。来月に披露宴で作る料理の打ち合わせに来てて早く終わったから葵まだいるかなって思って探してたら叫び声が聞こえて、」
余計なこと訊いちゃった。
何か他の話題ないかな?
蒼空くんがまた痛そうな顔してる!
話題を頭の中で探していると颯がすかさずフォローしてくれた。
「蒼空兄、明日も仕事?」
「いや、明日は休みだけど」
「じゃあさ、家泊まってゲームしようぜ!」
「いいな!賛成!」
「リビングで雑魚寝する?」
お兄ちゃんまで。
てか、蒼空くんは蒼空くんの予定があるのに。
まあ、蒼空くんが泊まってくれるの嬉しいけど。
だからって、蒼空くんに家に泊まってってお願いしたら困らせるかもしれないから言えないけど。
「葵」
蒼空くんは私の目をじっと見つめた。
ずっと見られるのが恥ずかしくて目を逸らした。
「なんか顔についてる?」
「いや、ついてない」
「じゃあ恥ずかしいからあんまり見ないでよ。」
髪を結んでいたゴムをほどいて軽く手ぐしで髪をといて結び直した。
見られてるのにボサボサのまんまはちょっと嫌だし。
「泊まろうかな」
「ホント?」
「七菜波さん、急だけど泊まってもいい?」
「いいよ」
ということで、蒼空くんとお泊まり会をすることになった!
家に着いてからお母さんたちは買い物と言って外に出掛けていった。
さっき電話が掛かってきてたからきっと警察に事情を聞きに行っているのだろう。
私に気を遣って買い物を口実にしたんだと思う。
「風呂、葵から入るか?」
「あ、うん」
1人で入るのはちょっと怖いんだけど。
まあ、男子しかいないから我慢するしかないよね。
急いで入ろう。
着替えを持ってお風呂に向かった。
シャワーを浴びて湯船に浸かっていると、意味もなく涙が溢れてきた。
蒼空くんがすごい安心感があるから、逆に蒼空くんから離れたら不安になる。
ダメだな。
お風呂をあがって急いで着替えて髪を乾かしてリビングに戻ると、4人でゲームをしていた。
「次いいよ」
「じゃあ蒼空兄と兄貴行って」
「颯たち先に入れよ」
「え~、俺はシャワーでいいから蒼空兄先に入りなよ」
「それにお客さんだし」
私の弟2人はゲームから離れたくないようで、お客さんである蒼空くんにお風呂を押し付けていた。
てか、この時期に湯船に浸からないとか寒。
洗面所の暖房つけたとしても絶対寒い。
まあ、颯はいつもそうか。
蒼空くんたちがお風呂に行くと颯と翔は何かを企んでいたらしく、雑魚寝用の布団を引き始めた。
私は自分の部屋に行ってぬいぐるみに囲まれて寝ることにした。
しばらくして、目が覚めるとすぅーっと涙が頬を伝った。
それと同時に部屋のドアをノックされて慌てて涙を拭いてドアを開けると、蒼空くんが立っていた。
思わず蒼空くんに抱きついた。
「ちょっとだけ、このままでいて」
「分かった」
蒼空くんは優しく抱き返してくれて、それがあまりにも温かくて涙が溢れてきた。
「ありがとう。もう大丈夫」
「そうか。よかった」
蒼空くんは頷いて私の髪を撫でた。
前までは照れてる蒼空くんが可愛いなって思ってたのに、今の蒼空くんはカッコよく見えるんだけど。
安心どころか、ドキドキする。
「リビング行くか」
「そうだね」
リビングに行くと、お母さんが帰ってきていて颯と一緒にご飯の準備をしていた。
蒼空くんもキッチンに行って手伝い始めた。
って、え~!お母さんは蒼空くんと颯に任せてお風呂に行くの!?
普通、客人に任せる?いや、まあ、蒼空くんはその道のプロだけどさ。
「葵、代わって。俺やることあるんだけど」
「なに?やることって」
「後で分かるって。まあ、楽しみにしとけよ」
「嫌な予感しかしないんだけど」
手を洗って颯とバトンタッチをした。
副菜はもうほとんど出来ていて、私は蒼空くんに頼まれてサラダ用のレタスを千切って、味噌汁のお味噌をといた。
小さいお皿に味噌汁を少し入れて味見をした。
「蒼空くんも味見してみて」
お皿を蒼空くんに渡すと、蒼空くんは味噌汁を飲んで頷いた。
あれ?なんか、
「新婚みたいだな」
「だね、」
蒼空くんもそう思ったことに少し驚きつつ味噌汁の火を止めた。
蒼空くんはハンバーグの生地をこねてオーブンの鉄板に並べた。
ちなみに、私たちは家族の人数が多いからハンバーグはフライパンじゃなくてオーブンレンジで焼く。
お母さんは私が嫌なことあるといつもハンバーグ作ってくれるんだよね。今日は蒼空くんが作ってくれてるけど。
「お母さんにも心配掛けちゃったな」
「親なんだから心配して当然だろ。葵と俺が付き合うのも心配してたんだし」
「そっか。そうだね」
お母さんがお風呂からあがってきてちょうどハンバーグが焼けた。
なんか向こうでゴソゴソしてる颯と翔とお兄ちゃんとお父さんを呼んでそれぞれ給食当番みたいにお皿に取り分けた。
「「いただきます」」
「ヤバ、美味!」
「チーズ入ってる!」
「美味しい!」
やっぱり、ハンバーグ最高!
唐揚げも好きだけどハンバーグが一番。
ご飯を食べ終えて、お皿を片付けた。とは言っても食洗機に入れただけだけど。
それからはゲームをして12時を過ぎて颯たちが布団を敷き始めた。
さっきまで畳んで端に寄せていた布団を敷くと変な花びらが散ってるわ、2人分だけぴっちり布団ひっつけてあるわで颯が言ってたやることとはこのことなんだと分かった。
「これは、颯と翔が寝るところでOK?」
「はあ!?んなわけないだろ!」
「キモすぎだろ!」
「あと私、自分の部屋で寝るから」
「え、」
え、じゃないし。布団持って下りてきてないから気付くでしょ。普通。
蒼空くんがお客さん用の布団使うから私は持って下りてこなきゃだけどめんどくさかったんだよね。
それに、お父さんが混ざってた時点で絶対蒼空くんのことからかおうとしてたって分かったし。
「男子4人で仲良く雑魚寝してればいいじゃん」
どうせ遅くまでゲームするだろうし。
私は肌荒れしたくないから早く寝たいんだよね。もう早くないけど。
「葵」
「え、蒼空くん一緒に寝たかった?だったら布団持ってくるけど」
「そうじゃなくて。いや、まあ、違うわけじゃないけど。ちょっといいか?」
「うん」
蒼空くんがリビングでは話しにずらそうだったので私の部屋で話すことにした。
蒼空くんは少し気まずそうにしつつ、座布団の上に座った。
「………颯たちみんな、葵が夜に1人で泣かないようにって雑魚寝を提案したみたいで。俺といたら安心するって言ってただろ?」
「うん」
「けど、さすがに俺と2人ってわけにはいかないからじゃあ自分達もいればって思ったと思う。」
「布団のセッティングは?何か意味あるの?」
「いや、あれは俺をからかってるだけだと思う」
だよね。
でもそっか。私のためもあるんだ。
多分、半分は蒼空くんと話したいっていう理由だと思うけど。
まあ、それなら断らない方がいいかな。
「もし、1人で大丈夫なら別にここで寝てもいいけど。大丈夫なら、だからな」
「………てくれたら大丈夫」
「ん?ごめん、聞こえなかった。」
「蒼空くんが、キスしてくれたら大丈夫って言ったの。記憶が上書きされて、蒼空くんのことしか考えられなくなると思うから」
蒼空くんは固まって少し気まずそうに目を逸らした。
一度結んだ約束を破りたくないのは分かってる。
「やっぱ今の無し」
「………悪い」
「ううん。気にしないで」
「違う。そうじゃない。渉くんと七菜波さんに覚悟するって言ってたのにずっと覚悟決まらなかった。けど、もう決まったから。キスして、葵が怖くなくなるなら何回でもする」
蒼空くんはゆっくり顔を近付けてキスをした。
そして、もう一度キスをして私の額に額を当てた。
「もう、怖くないか?」
「………うん。」
「心臓の音ヤバい」
「私も。てか、覚悟ってなんの覚悟?」
蒼空くんは一瞬迷ったような顔をしてから、私の左手の薬指に触れた。
しばらく、私の思考は停止して蒼空くんに声を掛けられるまで頭が真っ白になっていた。
「え、結婚ってこと?」
「まあ、もともと別れるつもりはないから、葵にフラれない限りそうなるだろうし」
「もっと早く言ってくれれば私からキスしたのに」
「そうならないように黙っとけって渉くんに言われた」
蒼空くんは笑ってもう一度私にキスをした。
なんか、蒼空くんが思ってたより肉食系というか、積極的なんだけど。
蒼空くんは私が照れてるのを見てイタズラっぽく笑った。
ホント心臓がヤバい。
「葵も一緒にリビングに戻るか?」
「いや、大丈夫。てか、リビング行ったら寝れる気がしない」
「それもそうだな。じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
* * *
葵の部屋の扉を閉めて階段を下りた。
ヤバい、心臓止まるかと思った。
マジで可愛すぎんだけど。
でも、約束破ったけど結果はよかったかもな。
もっと長く耐えてたら、その分一気に爆発したかもしれないし。
キスで葵が怖い思いをしなくて済むなら別にそれでいいか。
それにしても、絶対今日寝れない。
いや、もう日付け変わってるか。
リビングに戻ると湊たちが布団に集まって何かを話していた。
そして、俺に気付くとスマホのライトをこっちに向けた。
「葵いないから、怖い話大会してんだけど蒼空兄も入る?」
まあ、どうせ眠れないだろうし
「する」
「じゃあ、俺から話すな」
~~~~~
翌朝、話し疲れたせいか意外と短い時間でもしっかり眠れた。
湊たちも眠そうだけどクマは出来てないから結構しっかり眠れたんだろう。
葵も、顔色が悪くはなくて安心した。
「葵、おはよう」
「お、おはよう。い、いい天気、だね」
「そうか?雨降ってるけど」
「ほら、相合傘、できるし」
「じゃあ、いい天気だな」
笑って葵の頭を撫でると耳が赤くなっていた。
なんか、いつもは俺より恋愛経験が豊富そうだけど、こうやって些細なことで照れてるの見るとなんか安心するし可愛くて癒されるな。
「顔、洗ってくる」
「俺も行こうかな」
「顔洗ってるとこ見られるの恥ずかしいから来ないで」
葵は両手で頬を挟んで走っていってしまった。
そんな恥ずかしがることか?と思いつつ、葵の反応が可愛くて口には出さなかった。
てか、時間差で昨日のこと思い出すとか。
もっとしたいとか、思ってるって知られたら葵に引かれるよな。
「蒼空、何突っ立ってんだよ」
後ろから声がして振り返ると渉くんが壁に寄りかかって立っていた。
「あ、渉くん。おはよう。あのさ」
「わざわざ言わなくても見てれば分かる。さっき、七菜波が契約書もどきを破って捨ててたぞ。」
「え、」
「もう、必要ないんだと。蒼空のお陰で葵はトラウマもなさそうだし、ありがとうな。葵の彼氏が蒼空でよかった」
渉くんの目は少し赤くなっていた。
渉くんも心配してたんだな。
まあ、当たり前か。俺も昨日はずっと心配だったし。
途中からはキスのことしか頭に残ってなかったけど。
「そんな台詞、渉くんから聞けると思ってなかった。結婚式でまた言ってくれよ」
「気が早いわ。」
* * *
気まず~!え、そんな話廊下でする?
めちゃくちゃ出にくいんだけど。
てか、お父さんの言ってた契約書もどきがめちゃくちゃ気になるんだけど。
それにしても、お父さんにまで心配掛けてたんだ。
ちょっとは親孝行でもしてみようかな?って、私すでに親孝行だわ。
こんないい娘を心配するのは仕方ないか。
わざとらしく足音を立てて蒼空くんの後ろから抱きついた。
「っ!ビックリした。葵、どうしたんだ?」
「結婚する前に世界一になるからね」
「聞こえてたのか」
「うん。待たせないように頑張るね」
「ああ」
お昼からの部活も頑張れる。
私は蒼空くんから離れてお父さんをスルーしてリビングに戻った。
私、普通にできてたよね?
いつも通りだったよね!?
やっぱ、話すとなると昨日のこと思い出して緊張しちゃう。
慣れないとダメだな。