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次元の彼方に  作者: 近藤圭介
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第7話 魔王に再戦!の前に準備をしてみたんだが

「バイク用ヘルメット・・・ありかもしれん。いや、ありだな」


 俺は頷いた。表面は滑らかな曲面だ。芯を外したら攻撃を逸らしてくれる。それに防御力もある。衝撃を吸収することもできる。脳震盪を回避できるだろう。何より時速100km以上で走行するバイクを前提に作られた頭を守る道具だ。高速飛行しながら戦闘する俺にはぴったりだ。


 「安心の日本製だろうな?」

 『モチノロンですよ!ただし再構築に1時間かかるのでお待ちください』


 待ってる間に倒したマッドレックスを観察することにする。息絶えたマッドレックスに近づく。本当にこれを倒したのか?そんな感慨を持たざるをえない。とにかくでかい。槍を引き抜く。

 そういえば古生物学者を志している友人がいたな。彼ならば狂喜乱舞して目の前の標本に抱きつくだろう。何しろさっきまで生きてた恐竜が横たわっているのだ。だが俺は知っている。ヤツは単に恐竜マニアなだけで、趣味が高じて古生物学者になりたいと言ってるにすぎない。物理オタクの俺が物理学者になりたいと言ってるのと同じで夢は実現しないだろう。

 そんなネガティブなことばかり考えてしまうのは、今の状況は決して望んだわけじゃないからだな。心がすさんでいるな。まあしょうがない。


 『できました!』


 サバンナに転がっているバイク用フルフェイスヘルメット。全体が黒で塗装されており、額のあたりに「i」で終わるロゴが描かれてある。間違いなく日本製だ。さっそくかぶってみる。はじめてかぶるので最初はなかなか入らなかったがコツを掴むとすっぽりと入った。

 視界が狭くなる。これは仕方が無い。その代わり今まで時速50kmに制限していたが時速100kmで飛べるだろう。時速100kmに生身の体が堪えられるか不安もあるが、たしかスピードスキーの世界記録は時速200kmくらいじゃなかったかな。たぶん大丈夫だろう。


 ふと自分の姿を振り返る。今の俺のいでたちは、上下のジャージにウォーキングシューズ、レザーアーマーの皮製チョッキ。頭はバイク用ヘルメットに背中にT字の金属棒を背負っている。手には槍。

 はっきりいってない。ないわ。こんな姿を妹に見せられない。しかも20日以上風呂に入っていない。体臭もすごいことになっているに違いない。違いないというのは自分の体臭を気にしてる余裕なんぞないからだ。いや、意識して気にしないようにしている。気にしたらまた気が滅入るからだ。


『あ、そうそう。視界の端に速度計と加速度計を表示することができますが、どうしますか?』

「それはいいな。でもピトー管もないのにどうやってるんだ?」

『あなたの位置は常に高次元から把握してますので』

「なるほど。視界の端よりもヘルメットをかぶることで死角になった眉間の上あたりに表示するようにできるか?視線の移動は最小限に抑えたい」

『お安い御用です』


 視界の上のほうに数字が表示される。「0m/s 0m/s2」と。地上に立っているから当然だ。

 飛行訓練をすることにする。新たにヘルメットと速度計をゲットした。これに慣れる必要がある。それにヘルメットをかぶることで速度制限を時速50kmから100kmへ、加速度制限を20m/s2から30m/s2へ緩和する。今まで体感だったが厳密にわかるようになった。それにこの速度と加速度にも慣れる必要がある。


 時速100kmで高度100mくらいのところを飛行する。加速、減速、右旋回、左旋回。やがて高度計が欲しくなってくる。何が怖いって空中を自由自在に飛べるのはいいが、たまに上下がわからなくなることがある。そうなると気づかないまま時速100kmで地面に衝突して即死することが予想できる。後で知ったがそのような状態を空間識失調と言って航空事故の原因になるらしい。


「高度を表示することはできるか?」

『できません』

「なぜ?俺の位置は常に把握しているんじゃなかったか?」

『把握してますよ。あなたの言う高度とは地面との距離です。地面の位置までは常に把握してません』


 使えんメイドだ。


「せめてこの惑星の重力方向を知りたいんだが」


 重力方向さえわかれば、その方向に向かうときに注意すればよい。地面との衝突を避けられるはずだ。


『さて、3次元ベクトルをどう表示しましょうかね?』

「ふむ」


 しばし考える。


「円錐の投影図を表示するのはどうだ。円錐の頂点を惑星重力方向にして」

『うーん、それでいいでしょう。プログラムを作ります。それと表示にディレイが発生します。複雑な軌道を描いて飛んでいるときに頭だけを急に上に向けてもすぐに円錐は反応できません』

「ディレイ時間はどれくらいと予想する?」

『0.3秒ですね』

「十分だ。それで頼む」


 プログラムができるまで飛行訓練を継続する。バイク用ヘルメットは目が痛くならないのは予想通りで加えて風切り音でうるさくないのも良い。頭が守られているという安心感もある。過信は禁物だが。

 ちなみに時速100km=秒速27.8mで飛行中に30m/s2の加速で旋回すると、旋回半径は25.8mになる。かなり大回りだ。速度が速いので仕方が無いが。


 『できました』


 重力方向が表示されるようになり安心感が増す。よし、魔王再戦だ。


 魔王の場所に行く。あいも変わらずサバンナに似つかわしくない丸テーブルが鎮座している。そして押しボタンを・・・


 『作戦はあるのですか?」

 「ない」

 『また負けますよ』


 耳に痛い。なぜか喉と腹も痛い。初戦で魔王に切り裂かれたところだ。

 俺は座り込む。


 「初戦の映像はあるか?」

 『もちろんです。見ますか』

 「ああ」

 『では第三者視点で流しますね』


 勝負は一瞬だったな。たった一太刀で負けた。映像もその通りに映し出される。

 俺が倒れてから、魔王はあれ?動きを止めてる。やがて俺の髪を掴んで・・・

 わかった。魔王は激痛に苦しみもだえる俺を早く終わらせるために喉を裂いたのだ。武士の情けというやつだ。

 なぜわかったかというと俺も逆の立場なら同じことをしただろうから。魔王はやっぱり俺だった。


 「もう一度、最初から」


 同じ映像が映し出される。


 「停めろ」


 魔王が砂の間欠泉から出てきたとき、俺を憎々しげに睨んでるところで映像を停めた。

 魔王が現れたとき、俺は驚きすぎて何も行動できなかったが、魔王は驚く様子はなく憎しみに満ちた目で俺を見てる。最初から俺が来ることを知ってた?


 「なぜだ?なぜ魔王はまるで親の敵のような目で俺を見るんだ?そしてなぜ俺が来ることを知ってた?」


 澄子は答えない。何か秘密がありそうだ。

 おそらく魔王は俺自身だ。俺のクローンかコピーかはわからないが。想定できるのは、魔王は澄子に何か偽の情報を記憶に刷り込まれたのだろう。そういえば腹が減った肉食獣でないと戦闘が始まらないと言ってたな。つまり魔王が俺と戦闘を始めるための動機を刷り込まれたのだ。それが何かはわからないがおそらく俺に憎悪をかきたてるものなのだろう。


 初戦は最初から俺が不利だったのだ。持ってる情報に差があった。これも実験の一環なのか?


 「続きを流せ」


 映像が流れはじめる。


 「停めろ」


 映像は魔王が俺に重力銃を向けたところだ。魔王は躊躇なく引き金を引いた。何の躊躇もなく。冷静になって考える。俺は重力銃の有効な使い道を見つけられなかった。しかし魔王は見つけた。同じ俺なのにその差はどこから来るのだろう?これも澄子が入れ知恵なのかもしれない。

 むぅ。次回2戦目も戦略的に魔王が有利な立ち位置にいるかもしれない。それは困るな。また負けてしまう。


 俺は大の字になって寝転がった。そして考える。どうすれば勝てるのかを。

 同じ装備で戦略的に上の魔王に戦ってもまた負ける。必ず負ける。きっと俺の思いつかない手段で上回ってくる。

 こう何か誰も思いつかないような必殺技はないだろうか?もしくは裏をかいただまし討ち。


 もう一度映像を見る。そこで気づいた。俺の顔は日焼けして真っ黒だ。そりゃサバンナを18日間も歩いたのだから。対して魔王の顔は白かった。


 「ああ、そういうことか」


 俺は勝利の糸口を手繰り寄せた。


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