第6話 見知らぬ惑星で空を飛べるようになったのだが
マッドライオン3頭を倒して「飛行セット」をゲットした。空を飛べるようになるらしい。その形状はT字の金属棒で大きさは縦1.2m、横0.7mくらい。端の3箇所に直径15cmくらいの金属球がついている。
『この飛行セットは、重力子レーザーを追加でさらに3個出せます。ただし有効距離は15cmです』
「全部で6個か。15cmってやたら短いな」
『それで十分なのです。T字の金属棒に付いてるベルトで固定してください。両肩、腰、両股の5箇所で』
「固定しろっつったて、このT字の金属棒はめちゃくちゃ重いぞ」
『160kgあります』
「そんなに重くてどうやって飛行できるんだ?」
『端の3個の金属球に重力子レーザーを当てれば飛行できます。だから有効距離15cmでいいのです』
T字の先端の3個の金属球の直径は15cm、重さがそれぞれ50kg。そこに50m/s2の重力子レーザーを当てれば2500Nの力が発生する。3個あわせれば7500N。俺の重量がT字の金属棒と装備込みで250kgだとすると30m/s2で加速移動できる。重力加速度9.8m/s2を超えているため空も飛べるというわけだ。うわすげーなこれ。
「しかし、なんで金属球を3個に分割してるんだ?1個にまとめればいいのに」
『姿勢制御するためです』
後で知ったが空中に浮かぶ物体が姿勢制御するためには少なくとも3方向で調整する必要があるらしい。例えば人工衛星は3軸姿勢制御をしてるし、飛行機はヨーイング・ピッチング・ローリングで調整をしている。
「うーん、しかし戦闘でこの飛行セットを使うには微妙な重力制御が必要だな・・・使えるかな?」
『そこは大丈夫。あなたはこう動きたいという要望を脳内装置に伝えるだけでいいんです。あとは自律制御で重力子レーザーを強弱や方向を含めて自動照射されます。あなたは考えるだけで加速・減速・転換・反転などあらゆる飛行ができます』
そりゃ便利だ。ちょとやってみるか。俺はこのT字の金属棒をTバーと呼ぶことにした。Tバーよ空中1mに浮け、と命じると金属球に重力子レーザーが照射されたのか確かに空中にふわりと浮かんだ。背中にTバーをベルトで固定する。
そして飛ぶ。最初は地面すれすれを水平にゆっくりと時速20kmくらいで。自転車程度の速度であろうか。右へ左へ方向転換、加速と減速。うん反応がいい。少しずつ速度を上げていく。
速い。何がって・・・加速が。惑星の重力加速度があるので真上方向に20.2m/s2、水平方向に28.4m/s2で加速できる。水平方向だと1秒で秒速28.4m=時速102kmに達する。
だが問題もいろいろ見つかる。フル加速すると胃の中がひっくり返りそうになって吐き気を催す。また体を固定しているベルトがきつく締まってけっこう痛い。真上にフル加速すると立ちくらみに似ためまいを感じる。さらに時速50kmを超えたあたりで空気抵抗のため目が痛くて開けてられない。もっと速度を上げると呼吸もしにくくなるだろう。最も大きい問題は、両肩から両股まで背中をTバーにベルトで固定しているため剣が振れないことだ。剣は手だけで振るもんじゃない。腹筋と背筋を使って体をねじったり屈ませたりして振るものだ。そうしないと斬撃のダメージが出せない。
空を飛べるのは移動が早くなる上に、戦闘でも圧倒的に有利になるはずだ。しかし剣を思いっきり振れないのは困る。剣を振れないなら槍にするか。槍ならば突くだけだ。背中が固定されてても問題ないような気がする。まあやってみるしかない。
加速は当面20m/s2程度に制限するか。上限速度も時速50km程度に制限しよう。そういえば自転車競技の選手は俺とほぼ同じ生身なのに時速50km以上で平気で走っているな。ゴーグルがあるからか。
「槍を出してくれ。それと自転車用ゴーグルはあるか?」
『槍を再構築しますので1時間待機してください。ゴーグルは次の中ボス戦の戦利品に出しましょう。丁度北東2kmのところにいます』
戦利品確定かよ。ま、それもいい。空を飛べるのだ。中ボスには負ける気はしない。
2分半ほど飛んで移動するといたのは恐竜ティラノサウルスもどきだった。高度50mに空中停止しながら観察する。体長15m、大きな口に鋭い牙が並んでる、小さな前足、鋭い爪が伸びだ長くて太い後ろ足。強大な尻尾。その表皮も硬そうな鱗に覆われている。地球のティラノサウルスは羽毛恐竜の可能性があるらしいが、今眼下にいるのは全身鱗に覆われている。
『マッドレックスです。噛む力は5万N、時速30kmで走れます。普通の人間には倒せません。と言いますか逃げることもできずに食べられます』
澄子の情報は何のアドバイスにもなっていない。だが重力子レーザーを使えばなんてことない。重さ1トンの岩をぶつけるもよし、マッドレックス自体を持ち上げて高さ100mから落とすもよし。だがそれでは芸がない。何かいい方法はないものか?
魔王戦を想定する。魔王も空を飛んでくるだろう。1戦目で俺と全く同じ装備だった。きっとそういう設定なのだろう。空中戦で何が勝負を決めるかというと、正確な飛行制御じゃないだろうか?お互い時速100km以上で空を飛べるのだ。ここに飛んで攻撃したいと思っても着いた頃には魔王はもうそこにはいない。魔王の飛行先を予測し、そこに先回りして攻撃するしかない。
「よし、空中を飛び回りながらヒットアンドアウェイだ」
マッドレックスには悪いが飛行制御の練習相手になってもらおう。槍を持つ。盾は装備しない。板状の盾が空気抵抗になって飛行軌道が安定しないからだ。なので装備から外した。それに空を飛べるようになったため、ソリの代用としても意味がない。
ここで槍攻撃のリスクに気づく。近くを高速ですれちがいざまに突き刺したときに槍が抜けなかったらどうするか?槍を捨てるしかないのだろうか?そうすると武器を失うことになる。
もう一つ、もし鱗が硬すぎて槍が刺さらなかったら、俺の手首が折れたりしないか?こっちは時速50kmで敵に接近して突き刺そうというのだ。鱗が岩のように硬かったらダメージがそっくりそのままこっちに返ってくる。
槍を持ったまま考え込む。槍投げのように槍を重力子レーザーで加速させてぶつけてみるのはどうだろうか?初速が秒速13.9m=時速50kmで10mの距離を50m/s2で加速すると、秒速34.4m=時速123.8kmで槍を投げられる。時速123.8kmの槍ってけっこうな攻撃力になるだろう。しかし外れたら拾いに行かねばならない。当たっても引き抜きに行かねばならない。槍を複数持てればいいのだが。
「澄子、槍を5,6本出せるか?」
『ダメです。武器は一種一本だけです』
断られた。複製するだけでいいはずなんだけど、何か条件があるのかな。まあ仕方ない。
槍を引き抜くために近づくのはまた危険だ。貫通させればいいのか。マッドレックスの最も柔らかく、貫通できそうなところというと喉しか見当たらない。よし作戦を定めた。横から近づき、斜め上に喉を狙って槍を射出する。当たって貫通すれば、槍を拾ってまた同じように攻撃する。当たって貫通しなければ、しょうがない槍を抜くために近づく。外れれば遠くに飛んでいった槍を拾いに行く。
作戦実行する。マッドレックスの右側から地上すれすれを飛行して近づき、10mに近づくと急上昇しながら槍を投げると同時に重力子レーザーで加速する。外れる!およ?俺はそのままマッドレックスの頭上に上昇する。
外れた原因は単純で槍を投げたときに、思った方向に飛ばなかったからだ。うーむ、さすがに槍投げの経験はない。コントロールが定まらないのは当たり前だ。
次は槍を投げたりしないで、手放すように射出する。槍は狙いあやまたずマッドレックスの喉に当たり、槍の半分まで突きささり止まる。貫通できなかったか・・・と少し残念に思うが、マッドレックスは悲鳴を上げることすらできずに暴れ周りはじめる。そりゃ喉に槍が突き刺さったままだ。痛いし苦しいし、呼吸もできないだろう。無理に引き抜こうとして傷口が広がったのか頚動脈を傷ついたようで出血もひどくなってきた。とにかく滅茶苦茶暴れ回って苦しむので、近づいて槍を抜くことすらできない。が、そうこうしているうちにマッドレックスは動かなくなった。
『マッドレックスを倒しました!戦利品はオートバイ用フルフェイスヘルメットです!』
澄子が叫ぶ。あれ?なんか違うんだけど。
第6話まで勢いで書きました。ここでいったん読み直して調整します。澄子のキャラ設計が難しいんですよね。高次元知性体なだけに。