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次元の彼方に  作者: 近藤圭介
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第5話 見知らぬ惑星で重力魔法剣士になったのだが

 俺は盾の上に座り、盾に重力子レーザーをあてソリのようにしてサバンナを移動していた。

 この方法だと時速10kmくらいで移動できる。最初は18日かかった魔王までの移動時間も10日でたどりつくだろう。だが乗り心地は最悪だ。

 この速度で移動すると時間に余裕がでてくる。今までできるだけ戦闘は避けていたが、今回はできるだけモンスターと戦闘することにした。魔王戦に向けて便利アイテムをいろいろ取り揃えておきたい。


 重力銃は今まで戦闘で全く使ってこなかったが、魔王のように敵を強制的に引き付けて斬撃を食わせるという戦法はとても有効だ。剣道でもそうなのだが自分の間合いに敵を入れたりまたは距離をとったりするのは自分の足で行う。それは敵も同様だ。なので自分のタイミングで攻撃するために前後左右の動きを小刻みに行い敵と間合いのかけひきをする。剣道の試合ではこのかけひきがとても重要な要素だ。しかし重力銃があれば自分のタイミングで強制的に敵を引き付けることができる。なんで思いつかなかったんだろう?バカか俺は。


 『1km先にマッドパンサーがいます』 


 ヒョウみたいな肉食獣。体長150cm肩高80cmくらいで体重は俺よりありそうだ。肉弾戦において体重もまた重要な要素だ。ボクシングでは体重で階級を分けるほどに。また体重20kgのマッドジャッカルが俺を押し倒すことはできなくても、体重80kgのマッドパンサーは俺を押し倒すことができる。人間が肉食獣に押し倒されるとほぼ攻撃手段がなくなる。

 俺は盾から下り、盾を左手首に固定する。そして左手に重力銃を持ち右手で剣を抜いてマッドパンサーに近づいていく。マッドパンサーも俺に気づいて近寄る。距離が20mのところまで近づいたときに、俺は足を止める。マッドパンサーは俺を中心に円を描くように歩く。マッドジャッカルに比べると慎重だ。隙を見て襲い掛かろうとしているのだろうか。または俺が逃げだそうと背中を見せたら襲いかかるつもりなのか。


「ガアウウウルルルルル・・・」


 マッドパンサーが咆哮して俺を威嚇する。体重が自分と同じくらいの敵と向かい合うとさすがに威圧感がハンパ無い。だが俺にはもう時間があまり残されていない。次魔王に負けたら残されたチャンスは2,3回しかない。あと3回失敗するともう地球に帰れないかもしれないのだ。

 マッドパンサーは咆哮しながら地面を蹴って俺に襲い掛かる。鋭い鉤爪の前足を前にだし、口の牙で俺の首を狙って飛び掛る。俺は敵の攻撃を身をかがめてかわし、盾でマッドパンサーの後ろ足を跳ね上げた。空中で後ろ足を跳ね上げられたマッドパンサーはバランスを崩し着地に失敗する。今だ!俺は重力銃をマッドパンサーに向け引き金を絞る。マッドパンサーはバランスを崩したところにさらに横から重力を受け、立ち上がることもできずに俺の方に引き寄せられる。本能的に危険を察知して俺と距離を取ろうとしてるのか背中を俺に見せたまま。俺は剣を逆手に持ち、肋骨の間から剣の刃を通すために刃の角度を調整しながら、重力子レーザーを剣先から持ち手にかけて加速しつつ、マッドパンサーの胴に突き入れる。刃渡り60cmの剣が鍔まで深々と突き刺さる。マッドパンサーは苦悶の唸り声を上げる。俺は剣を抜き、バックステップで距離を取る。


 マッドパンサーはようやく立ち上がる。しかし重症だ。少なくとも内臓と動脈を何本か損傷したはずだ。背中の傷口と口から血があふれてくる。通常野生動物は怪我をしたらとにかく逃げる。マッドパンサーも背中を向けて逃げるそぶりを見せたが、数歩で力尽きて倒れる。


『まだ東北東200mにマッドパンサーが3頭います』


 澄子が警告する。3頭!あわてて東北東の方に目を向けると、そこには子供のマッドパンサーが3頭いた。1頭はこっちをじっと見ている。1頭はあくびをしている。1頭はあらぬ方向を見ている。子供達は背が低すぎてサバンナの草の陰に隠れてしまってたようで俺には見えてなかった。マッドパンサーが慎重だったのは子供達がいたからだ。未知の獲物に襲い掛かるべきか?それとも安全策を取って見逃すべきか?腹を減らした子供達がいたから俺を襲うことにしたのだろう。


「澄子、わかってて言ってるのか?あれは子供だ。そこに倒れているのが母親だ」

『戦闘を終了しますか?』

「ああ、もちろん」

『パンパカパーーーーン!新しいアイテムをゲットしました!』


 もう澄子に俺の心情を理解しろと言うつもりも、期待するのもやめた。しょせん次元が違う生命なのだ。3頭の子供は生き残ることはできずに屍をサバンナにさらすだろう。厳しい自然で母親を失うということはそういうことだ。俺は良心の呵責に胸を痛めつつもそれを思考の外へ追いやった。


「で、戦利品は何だ?」

『重力子レーザー制御のアップグレードです。これはソフトウェアなのですぐ利用できます。さらにさらに自分より強いモンスターを倒したので副賞として私のサービスショットがご覧になれま~す!』

「いらん。アップグレードの説明を」

『え~~~~~!』


 澄子は心外そうな声を上げる。こんな残酷な実験に連れ出した張本人のくせに俺が本気で喜ぶとでも思ってるのだろうか?

 アップグレードの内容は今まで重力銃から重力子レーザーを一つしか出せなかったが、10m以内の任意の場所から任意の方向へ、重力子レーザーを同時に3つ出せるというものだ。頭の中でイメージしてコマンドするだけで重力子レーザーが照射されるので今までのように重力銃を構える必要がない。


『その重力銃は捨ててください。もう用済みです。どうせおもちゃだし』


 きっと突っ込んだら負けなんだろう。

 同時に3つの重力子レーザーを任意の場所に出せると戦略の幅も広がる。一つで敵を引き付けつつ、一つで片手剣の斬撃を加速させてダメージを増加させつつ、一つで別の敵をはじき飛ばすことができる。敵が複数いるときも対処できるようになるだろう。標的にした1体を引き寄せ、他の敵は引き離して1対1の状況を作り出せるようになるからだ。


 次の日、ライオンもどき3頭と遭遇する。


『1km先にマッドライオンが3頭います』

「なあ澄子、マッドなんとかってモンスターなんかじゃなく普通の肉食獣じゃないのか?」

『え?いまさら?』

「いまさらって・・・」

『場を盛り上げるための演出ですよ。それに肉食獣は満腹だと獲物を襲いません。空腹の肉食獣を探して警告してます。そうしないと戦闘が始まりませんので。私たちもいろいろ大変なんですよ!』


 澄子はちっとも大変ではなさそうに言う。


 マッドライオンは3頭ともたてがみがなかった。メス、ひょっとしたら子供がいるメスかもしれないと思うとうんざりする。だが地球のライオンも狩りは主にメスがやる。ということは戦闘機会はメスのほうが多い。気が進まないが闘うことにする。マッドパンサーよりも体がでかいし間違いなく強い。戦利品も期待できるだろう。


 近づいてみるとやっぱりでかい。体長2m、肩高1m、体重200kgくらいあるんじゃなかろうか。鋭い鉤爪の付いた前足で殴られると10mはぶっとびそうだ。血だらけになって。

マッドライオンは散開して俺を取り囲もうとする。これはまずい。後ろから襲われたらさすがにまずい。3頭とも視界に入れながら戦闘したい。ので走って右端のマッドライオンに近づく。


 (こぇー、マジで)


 何が悲しくて、いったいどういうわけで、剣と盾を持っただけで3頭のライオンに挑まなきゃならなくなった?天国の両親が笑顔でおいでおいでをしている幻覚が一瞬見える。だが戦闘は一方的だった。俺の圧勝だ。

 10m以上離れている左端のマッドライオンはとりあえず放置して、真ん中のマッドライオンの頭を50m/s2で下へ押さえつける。真ん中のマッドライオンは頭が急に6倍重くなったはずだ。その場で頭を地面に押し付けたまま動けなくなる。そして右端のマッドライオンは俺に襲い掛からんと肉迫してくるがこいつには背骨に沿って斜め上方向の重力をかけてやると、俺の上を飛び越える軌道で空中に浮き上がる。俺は剣を重力で加速しつつ斬るつける。剣先が喉を切り裂く。腕や胸だと太い骨が邪魔して切り裂けず、致命傷を与えられなかっただろう。まずは1頭。

 真ん中のマッドライオンはまだ動けずにいる。左端のマッドライオンが近づいてきて10mの射程圏内に入ったので、同じように背骨に沿って重力をかけると空中に浮かび上がってジタバタする。そりゃ急に空を飛ばされたらそうなるわな。そうこうしてると空中で半回転して背中が下になる。柔らかい喉か腹に斬りつけたいのだがこれじゃ攻撃できない。が、面白そうだからちょっと様子見することにする。ジタバタしているのが功を奏して直径15cmの重力場から逃れて地面に落ちそうになる。だがそうはさせじとまた背骨に沿って上向きの重力をかけるとマッドライオンは空中で直立した形で浮いた。あ、これはサンドバッグと同じだ。高さ2mくらいにあるマッドライオンの腹を斬る。2頭目。

 動けずにいた真ん中のマッドライオンはなんとか死に物狂いで寝返りを打って重力から逃れていたが、仲間が致命傷を負っているのを見て逃げ始める。俺は追わない。無益な殺生というものだ。


『1頭死亡、1頭戦闘不能、1頭逃走を確認。勝利と認定します!パンパカパーン!新しいアイテムをゲットしました。さらに副賞として・・・』

「副賞はいらんから」


 澄子はなぜいつもハイテンションなんだろう?これも何かの心理作戦か?などと考えてしまう俺だった。



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